信じない人のための〈法華経〉講座 (文春新書 656)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (206ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166606566

感想・レビュー・書評

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  •  著者は編集者・翻訳家だが、宗教に造詣が深く、『信じない人のための〈宗教〉講義』という著書もある。「日ごろ『宗教』と『非宗教』の間をとりもとうと考えている」(本書「はじめに」)人なのだそうだ。
     
     本書は、『信じない人のための〈宗教〉講義』のいわば姉妹編。「諸経の王」とも呼ばれる法華経について、わかりやすい言葉で書かれた概説書である。
     ただし、すでに山ほどある「法華経入門」とは一線を画するものとなっている。「一般の宗教入門書に繰り返し書かれている平均的主張に対してあえて挑戦するようなことも書いて」(「はじめに」)あるからだ。

     何より、著者は法華経信者でもなければ(たぶん)他宗教の信徒でもなく、宗教学者でもないので、まったくニュートラルな視点から法華経をとらえて“面白がって”おり、だからこそ斬新な内容になっているのだ。

     つまり本書は、無宗教の教養人である著者が、純粋に知的興味から独学で法華経を研究し、「信じない人」の視点から法華経の全体像をとらえ直したものなのである。

     いわゆる「昭和軽薄体」を彷彿とさせるくだけた文体で書かれているあたりも、これまでの生真面目な法華経入門とは異質だ。たとえば、こんな具合――。

    《修行などしている資質もゆとりもない迷える一般市民に対しても、法華経は気前よくゴール達成(成仏のこと/引用者注)の保証を与えます。彼らにとっては有難い話だったでしょうが、大乗の菩薩であれ、小乗の声聞であれ、まじめに修行をしている人々は、「おいおい安売りしてくれるじゃねーか」と、それこそ目をむいて怒ったかもしれません(常不軽のように迫害されたとしても不思議はありませんね)。》

    《神話的大ボラ話がモロに出ているのは見宝塔品第十一です。そこではまず、巨大な宝塔が大地より涌出します。まるでSF映画の一シーンのようです。宝塔の高さは「五百由旬」(最低でも七千キロ以上とのこと)。例によってスケールが巨大ですから、会衆の驚愕ぶりはトレーシー邸のプールからサンダーバード一号が飛び出してきたときの驚きなんてもんじゃありません。太平洋からハワイ島が空中に飛び上がったようなものかな?》

     「信じない人のための」とタイトルにあるのは、読者に対するハードルを下げる配慮だろうか。しかし実際には、法華経信者が読んでも面白い内容である。
     むしろ、法華経および仏教全般に関するある程度の基礎知識がないと、著者が随所に仕掛けたユーモアが理解できないと思う。

     ただし、書きぶりにいささかおちゃらけがすぎるところもあり、真面目な法華経信者は「ふざけるな!」と怒り出すかもしれない。

  • 法華経の全体像がよくわかる本です。まだまだ知らないことが沢山あるので色んな本を読みたいです。信仰の方へ一歩踏み進んだ本を読む前に手に取って、とてもよかった本だと思いました。

  • 法華経の概観が良く分かる。法華信仰から一歩離れたところで法華経を見ているのですっきりと全体像を見ることができた。

  • 最初の50頁あたりまでは、やや軽薄にも見える文章に信頼がおけなかったが、読み進めるうちに、実はしっかりと考えた上で書かれた文章であるという思いを強くした。法華経という経典が、いかにおもしろいテキストであるかを、多くの人に伝えたいという著者の意気込みを感じる。法華経をイメージ豊かにとらえられる良書だと思う。

  • 宗教の解説本で大爆笑するのは初めてでした。。。


    <帯>
    抹香臭さが苦手な人から、朝夕ポクポク唱えてきた人まで。
    お寺じゃ教えてくれないホトケの本音

    <目次>
    ◆はじめに

    ◆第一章 法華経へのイントロダクション
    マジカル・パワー/お父さんとお母さん/歴史の概観/系譜の出発点/大乗勃興/自己救済と他者への奉仕/人間のようなカミサマのような菩薩

    ◆第二章 法華経のレトリック
    三つのポイント/全二十八章の構成/イントロダクション/お釈迦様の重大発表/賢いお父さんと駄目息子たち/寓話について/スペースオペラ/「法華経」を語る法華経/救済領域の拡大/池涌の菩薩と久遠のお釈迦様/法華経を託されたのはあなた/功徳とハッピーエンド/六大付録

    ◆第三章 油断ならない法華経
    消えない緊張―法華経に「内容」はあるのか?/依存と主体性/成仏って何?/信じられない約束/小乗vs大乗/根無し草の時代

    ◆第四章 法華経のゆくえ
    レトリックの種子/東へ、東へ/私たちの問い/エピローグ―どこまでも行ける切符

  • [ 内容 ]
    法華経信者はなぜ折伏に励むのか?法華経を見たことがない人も、朝夕ポクポク唱えてきた人も納得。
    日蓮系諸宗派の手垢を落とした、「法華経」の魅力と可能性、限界が一冊でわかる。

    [ 目次 ]
    第1章 法華経へのイントロダクション(マジカル・パワー;お父さんとお母さん ほか)
    第2章 法華経のレトリック(三つのポイント;全二十八章の構成 ほか)
    第3章 油断ならない法華経(消えない緊張―法華経に「内容」はあるのか?;依存と主体性 ほか)
    第4章 法華経のゆくえ(レトリックの種子;東へ、東へ ほか)

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    [ 関連図書 ]


    [ 参考となる書評 ]

  • 至高の名著。
    この本自体が、レトリックを少なくするように
    かなりの工夫がなされているのが読み取れる。
    法華経の信者も、そうでない人も、かなり面白く読める(と思う)
    法華経の行く先、その文章に込められた著者(集団)の真意を
    斬新な手法で穿りだしている。
    文体が法華経信仰方面に傾向していないところが、
    公平に読める

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著者プロフィール

1958年生まれ。北海道大学工学部建築工学科卒業、東京大学大学院人文科学研究科修了(宗教学専攻)。
著書に『信じない人のための〈宗教〉講義』(みすず書房)『信じない人のための〈法華経〉講座』(文藝春秋)『人はなぜ「神」を拝むのか?』(角川書店)『初めて学ぶ宗教――自分で考えたい人のために』(共著、有斐閣)『超訳 法華経』(中央公論新社)『宗教のレトリック』(トランスビュー)ほか。
訳書に『宗教の系譜――キリスト教とイスラムにおける権力の根拠と訓練』(T・アサド、岩波書店)『世俗の形成』(T・アサド、みすず書房)『心の習慣――アメリカ個人主義のゆくえ』(R・N・ベラー他、共訳、みすず書房)『ファンダメンタリズム』(M・リズン、岩波書店)
『科学と宗教』(T・ディクソン、丸善出版)ほか。

「2014年 『宗教で読み解く ファンタジーの秘密 Ⅱ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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