通貨「円」の謎 (文春新書 923)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166609239

作品紹介・あらすじ

「円安」こそ、アベノミクス成功の鍵だ!「デフレ」以上に「円高」こそ長期不況の真の原因だ。危機に際して円高が進むメカニズムを解明し、日本経済復活への方途を呈示!

感想・レビュー・書評

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  • 筆者は「失われた10年」からアベノミクスに至る日本経済の長くて苦しい経験を理解するためには、価格メカニズム(為替レート、長期金利などのシグナル)が正常に作動しなかったからであると言う。であるならば、今後、強力な金融緩和を実施することによって、デフレ克服と円高是正を達成することの意義は、「誤った価格メカニズムを正常な状態に戻すこと」これである。

    第2章ではアベノミクス成功の条件を上記の観点から、輸出が重要、つまりはアメリカの経済政策が成功することが、非常に重要なポイントであることを指摘し、後半ではアメリカの政治と経済の複雑なリンケージに話が及ぶ。もちろん、それは日本経済の復活の鍵をも握っている。

    第3章は実際に通貨安から回復への道を辿った事例を検討しつつ、日本がどのような政策を採るべきかに実証的な分析が加えられる。1998年危機の際に日本はなぜ徹底的な金融緩和をおこない、円安に誘導して回復への道を辿れなかったのか……という反省を踏まえつつ、日銀は長期国債の買い切りオペを実施し、円安誘導をおこなうべきと結論づける。

    そして、第4章。「「デフレの克服」は、経済を普通の状態に戻し、健全な常識に基づいて経済政策がなされるようにするための必要な一歩である」は、まさにその通り。そしてこのことは日本経済の本当の「痛み」が何であるのか、それをどう克服していかなければならないのかの第一歩でもある。

  • 日本の景気回復のカギは輸出を伸ばすこと。そのためには円安であることが望ましいんだけど、結局アベノミクスの成功は世界経済の動向に依存してるんだよね、ってな話。

    日本が経済危機や災害などの困難な状況に陥ったとき、なぜ円が高くなるのか。危機のとき円高になる理由(日本企業が溜め込んだ海外資産の取り崩し)や日本の特殊性がよく分かったし、ここの件は面白かった。
    ただ、円安からの輸出主導で景気回復って、そんな単純にいくんですかね。。

    小泉構造改革の実態は輸出主導型成長(具体的にいうと大規模な為替介入作戦)で、それがうまくいったのは米国のバブル景気の波(グリーンスパン連銀元議長の金融緩和)にうまく乗っかることができたからだ、と著者はいう。

    だとしても、米国のバブル景気を生んだのは金融緩和とあとグローバル・インバランスという新興国の余剰資金が米国に還流したことが原因じゃなかったでしたっけ?これが弾けて08年の世界経済危機を迎える。そうご自身の著書「資本主義は嫌いですか それでもマネーは世界を動かす」にも書いてありましたが。
    そんな偶然の上に成り立ったかつての世界経済の好景気はまた再現されるのか。読む限り世界経済がうまくいかないと、結局アベノミクスはうまく行かないという話になってしまうんだけど・・。

  • もしFXを始めたい人がいるなら絶対に読まないとダメな本

  • 経済学者が、通過としての円の特異性を述べたもの。近年起きた通貨危機や不況時のデータを基に、バブル崩壊によって円安とならない日本の状況を説明している。通常、各国経済は、危機によって価格シグナルが働き、通貨安によりV字回復するはずであるが、日本のような債権国では危機による投資の海外逃避よりも、危機に対応するための海外投資の国内帰還が大きく、それに対する投機と相まって大幅な円高を招いた。これが危機による痛手をいっそう深め、回復を遅らせたと述べている。通貨の動きの一端を理解できた。
    「政府が日銀に国債を買ってもらって、国債金利の上昇を妨げるとともに、代金として受け取った「円」を公共事業に使う(国債のマネタイゼーション)」p20
    「2013年1月に、欧州などの一部の国々が、日本に「通貨戦争」という非難を浴びせて以来、「円安」を目標にすることは政治的にタブーになっているし、為替レートを直接に操作する政策が国際社会で黙認される可能性は非常に低くなっている」p23
    「多額の経常黒字と対外純資産こそが日本経済の置かれた特殊な状況なのだ」p42
    「「正しい価格シグナル」とはどのようなものか。経常赤字国で金融危機が発生した場合、国内の貸し出しがストップして、国内の投資需要も、耐久消費財需要も激減し、不況になる。ここまでは、経常黒字国も、赤字国も同じだ。ところが赤字国では、資本逃避の発生によって為替レートが大幅に自国通貨安になる。それで激減した国内需要の代わりに、海外の需要、すなわち輸出に依存したV字回復が可能になるのだ。これに対して、経常黒字国の場合はまったく違う。ここでも金融危機が起こり、国内需要が崩れると、国内企業は輸出に活路を求めようとする。ところが価格シグナル、つまり為替レートは「ここもダメだ。よそを探せ」という誤ったシグナル、つまり「円高」という情報を国内企業に伝達する。これでは不況が長期化して当然だ」p45
    「構造改革とは通貨安である」p219
    「政府が目指すべきなのは「輸出マイナス輸入」として定義される「外需」を成長させることではなく、単純に「輸出」を成長させることだと述べてきた」p245
    「(輸出の得よりも、輸入の損が大きいとしても)円安は日本経済にとってプラスである。なぜなら、日本は250兆円の対外純資産を持っているからだ。10%の円安で、対外純資産が25兆円増える。単純な数字の上では、これが「円安」の一番のプラス効果である」p246

  • ちょくちょく為になる考え方はあったものの、ちょっと難しい…為替を学ぶ本というより、マクロ経済の本に近いかも。

  • いつもの事ながらわかりやすく為替と金融緩和、財政政策のことが解説してある。
    著者の主張も適度に入っているところが良い。
    自分の資産運用にも役立てたいと思っている。

  • 竹森氏の著書はいつも今の複雑な金融経済の仕組みを明快に解き明かしてくれる。

  • 【「円安」こそ、アベノミクス成功の鍵だ!】「デフレ」以上に「円高」こそ長期不況の真の原因だ。危機に際して円高が進むメカニズムを解明し、日本経済復活への方途を呈示!

  •  「アベノミクス」の成否を語る本は現在数多い。
     本書もその一つだが、経済の全体像というよりは、ごく一部のみを強調しているように思えてしかたがない。
     確かに「輸出」は日本経済の死命を制する重要なアイテムだが、それがうまくいけば「アベノミクス」は成功するとはちょっと安直すぎはしないだろうか。
     「マクロ経済」と「直近の経済データ」をまぜこぜに並べたような構成や、「アメリカFRB」の動向。「ハイエク」などの経済学者の学理などがいきなり飛び出す内容もちょっと戸惑う。
     「輸出主導型経済への転換」などは、危機におちいったどの国でも語られることであり、現にアメリカや欧州などは金融をじゃぶじゃぶに緩めて通貨安をはかり、輸出を増やそうとして躍起である。
     世界の輸出入は合計すればゼロになるわけだから、日本のみが輸出を増やすことは困難なのではないか。
     本書は、経済学的には残念な本であると思う。

  • デフレ克服は国民に負担を強いる一方で財政の健全化につながる。

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著者プロフィール

慶應義塾大学経済学部教授
1956年東京生まれ。81年慶応義塾大学経済学部卒業。86年同大学院経済学研究科修了。同年同大学経済学部助手。86年7月米国ロチェスター大学に留学、89年同大学経済学博士号取得。2019年より、経済財政諮問会議民間議員

「2020年 『WEAK LINK』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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