なぜ必敗の戦争を始めたのか 陸軍エリート将校反省会議 (文春新書 1204)

著者 :
  • 文藝春秋
3.58
  • (9)
  • (23)
  • (23)
  • (1)
  • (3)
本棚登録 : 306
感想 : 28
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (317ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166612048

作品紹介・あらすじ

果たして陸軍の何が間違っていたのか、そもそも陸軍だけが悪いのか――雑誌『偕行』に掲載された、陸軍将校による座談会「大東亜戦争の開戦経緯」が初の書籍化。あの戦争を戦った陸軍軍人たちの本音とは。・日独伊三国同盟の功罪・なぜ仏印進駐は行なわれたのか・海軍との壮絶な駆け引き・予想を超えたアメリカの経済制裁・独ソ開戦の影響・いつ対米開戦を決意したのか ほかこの座談会を昭和史研究の基礎資料として読み込んできた半藤一利氏による約4万字の書き下ろし解説を収録。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 陸軍佐官級エリートにより、1976〜1978年の足掛3年全15回にわたって「偕行社」の月刊機関誌に連載された座談会に、半藤さんが解説を加えたもの。

    所謂「海軍善玉論、陸軍悪玉論」が粉砕されるような内容。陸軍幹部(多くはその後陸上自衛隊幕僚へ)が、戦後30年を経て話す内容なので、当然、組織擁護、自分擁護、海軍への責任転嫁、の内容も多い。

    事後の後出しジャンケン的批判ではなく、「そのときその場所で、他にどういう決断が取り得たか」という観点で読むと、解説中に出てくるような「運命と思うほかはない」(木戸幸一内大臣)とまでは行かずとも、「このままジリ貧となるよりは、一丁暴れてみたい」、という時代の空気は大きかったのだろう。(簡単にいうと、ヤケッパチ、が実態に近そうだ。)

    景気のいい記事を書いた方が売れる新聞然り。1940年11月15日に出師準備をはじめた海軍しかり。

    海軍の場合、動員を掛けてから、戦争準備完了となるまで、5ヶ月を要し、一旦準備が整うと油を始め莫大なランニングコストがかかるため、そのまま戦争に突入するのか、動員解除するのか、の意思決定を急ぎたくなるものだそう。 ましてや、石油全面禁輸となっては、「戦うなら今しかない」、というマインドセットに流れ易いのは想像できる。

    1940年12月12日に、海軍国防政策委員会(略称、政策委員会)が設置され、その中で、国防政策や戦争指導の方針を担当する「第一委員会」が、海軍の急進化の元凶となったことは知らなかった。戦後も一種のタブーだったようで、この実態把握に半藤さんも苦労されたよう。


  • 必敗の戦争を始めてしまったのはなぜか。
    流されたのだと思う。

    ドイツに勝手に希望を託し、日本のために動いてくれると根拠なく想定し、それを前提に自分たちの行動を決める…。そりゃ見通しが甘すぎる。希望的観測、過度な楽観、リスクの過小評価。
    自分たちしか見えなくなり、「こうあってほしい」という願望が、「こうあるべき」という思い込みに変わっていく。その思い込みは決意と呼ばれ、準備に進み、最悪の場合を想定せずに、勝利は何かを決めずに始めてしまう。空気に流された。

    そして日本人の意思決定の方法は現在も変わっていない。必ず同じ過ちを犯す。

    軍は解体されたが戦争を始めたプロセスは温存されている。道具はなくなったろうが、なぜ日本人が戦争に突き進んだのか、その原動力はまったく処置されていない。
    政治的な右派も左派もまったく同じプロセスで意思決定している。誰も変わっていない。

    そうならないためには雰囲気で考えず、ファクトを積み重ねて考え抜くこと。最悪のことを想定して注意深く罠を避けること。相手を知ること、自分を知ること。自分自身に注意深くなること。

  • 読み終わり。なかなか読むのが難しいところもありますが。
    難しい内容も、解説も含めて何とか理解できた気がします。
    ただ。陸軍のエリート将校が反省会として、昔話のように
    戦争へ突き進んでいく内容が語られているのだが。
    すごく無責任というか、他人事のように、人の責にする
    ような言葉の羅列にちょっと、腹が立つような内容もありました。
    陸軍が悪いのか、海軍が悪いのかなんか、次元がちょっと
    違うかなと。
    あまりにもひどい内容がえがかれていて、却って面白い内容
    でした。

  • 明治維新から続く官軍と賊軍のせめぎ合い。今も。

  • テーマからして反省の色なし!

  • 大東亜戦争・大平洋戦争、呼び名はどちらでもいいんだけど、軍人のみならず民間人に多大な犠牲を強いたことを直視すれば、「大義」だけのために戦争に突入し、しかもその戦争に勝利することが現実的に困難であることを分かっていれば、絶対避けるべきだった。

    本書を読むと、どうも他人事のように戦争を進めた感じがして非常に悲しい。

  • 「海軍反省会」があったように陸軍にも同じような記録があったわけだ。当然、人の記憶なのでどこまで本当なのかは分からない。
    でも陸軍と海軍が協調していなかったことだけは分かる。もっとも事情はアメリカも同じで、陸海の反目は洋の東西を問わないようだ。
    となると、日米の差は軍を制御する政府の力の差ってことになる。そして国家は国民に見合った政府しか持ち得ない。やっぱり戦う前から負けてたんだよ。

  • 中枢に近い陸軍将校たちの言い分だが、他人事のように語っているのがどうも気にかかる。結局現実を注視しようとせず、願望が前提になって戦争に突き進むことになったことがよくわかる。

  • 太平洋戦争開戦に至る意思決定がどのようにされたのかに迫るため、当時の日本軍関係者との座談会により事実を掘り起こしていく。日中戦争の泥沼化と米国との経済格差を含む地政学的な不利を把握しながら、陸海軍の対立や外務省のナチスへの傾倒、文民の戦争への無理解が、無謀な対米開戦に導いたとし、単純な陸軍悪玉論を否定する。意思決定において事実を重視せず、個人の思い込みや組織間の関係が大きく影響する様は現代のあらゆる場面においても共通する病理ではないだろうか。

  • やるせない。ヒトラーのように信念や狂気で開戦を決意したのならまだ諦めもつくが、単に無能な指導者たちが流れや空気で何となく戦争を始めてしまうのは本当にやるせない。しかしここに出てくる旧参謀たちは、いくら戦後の回想とは言え、どうしてこうも他人事で無責任な言いようなのだろう。おまけに戦略眼が米軍に比べて子供レベル。なんだかもう一度戦争が始まってもおかしくないように思える。
    そうならないために半藤氏らが正確な歴史を紐解き、後世にこういうバカ者たちがいたことを残してくれた。半藤氏の反戦、平和への貢献は極めて大きい。心よりご冥福をお祈りいたします。

全28件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

半藤 一利(はんどう・かずとし):1930年生まれ。作家。東京大学文学部卒業後、文藝春秋社入社。「文藝春秋」「週刊文春」の編集長を経て専務取締役。同社を退社後、昭和史を中心とした歴史関係、夏目漱石関連の著書を多数出版。主な著書に『昭和史』(平凡社 毎日出版文化賞特別賞受賞)、『漱石先生ぞな、もし』(文春文庫新田次郎文学賞受賞)、『聖断』(PHP文庫)、『決定版 日本のいちばん長い日』(文春文庫)、『幕末史』(新潮文庫)、『それからの海舟』(ちくま文庫)等がある。2015年、菊池寛賞受賞。2021年没。

「2024年 『安吾さんの太平洋戦争』 で使われていた紹介文から引用しています。」

半藤一利の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×