地経学とは何か (文春新書 1251)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784166612512

作品紹介・あらすじ

「地政学」は地理的条件、歴史、民族、宗教、資源、人口などをベースに、国際情勢を分析する。だが、もはや地政学では手遅れなのだ。地政学的課題を解決するために、経済を武器として使うこと――。それこそが「地経学」である!米中の貿易をはじめ、ジオエコノミクスの闘いは、すでに始まっている。両国の覇権争いは、かつての米ソ冷戦と何が違うのか?朝鮮半島、尖閣諸島、ロシア、EU、イラン……。日本を取り巻く脅威に、「地経学」でどう立ち向かうべきなのか?新しいグローバルマップが、ここにある。・ビッグデータで人民を管理する中国の「デジタルレーニン主義」・米NSAが仕掛けたファーウェイへの侵入計画・気候変動の「勝ち組」は北欧諸国、「負け組」はサウジアラビア・日本が原油を依存するホルムズ海峡という「チョークポイント」・CO2、海底ケーブル、レアアースという新たな戦場・トランプ政権で強まる「韓国は戦略的に不要」論・2022年、日本は経済規模でASEANに抜かれる

感想・レビュー・書評

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  • シンクタンク理事長である著者が、『文藝春秋』に毎月連載してきたコラム4年分をまとめたもの。安全保障や経済情勢、米中覇権争いが主なトピックとなっている。学術的とは言えないが、時宜を得た情報が多く、出展もはっきりしており説得力がある。視点にも共感でき、有益な内容が多かった。わかりやすい。
    「(アメリカのTPP脱退)世界の「自由で開かれた国際秩序(Liberal International Order)」の維持にとってはかり知れない戦略的損失を与えていることはいまや明らかである」p4
    「(トーマス・ライト)これからの時代、大国はどこも互いの大戦争は避けようとする。しかし、彼らは戦争一歩手前のところで優位に立とうと激烈な競争を繰り広げるだろう」p7
    「(グレアム・アリソン)かつては、勢力均衡は軍事力のことを指した。現代では、それは経済と軍事の組み合わせだ。それも、経済が軍事を凌駕していると思う」p8
    「(4つのメガ地経学)第四次産業革命を牽引する技術とイノベーション、グローバル・サプライ・チェーンを握るコネクティビティ構築のための戦略的インフラ投資、国際秩序を構築するためのルール・規範・標準の設定、そして気候変動による新たなパワー変動と脱炭素化の経済社会構築による国際競争力の変化」p16
    「(国際社会において)強化すべきはまず、国内の産業経済の国際競争力と生産性であり、研究開発とその事業化であり、インフラ投資であり、賢明な資産運用であり、そして何よりも教育と人材の育成である。そこでの強さがその国と社会の力となって世界で訴求力のある財とサービスを生み、市場をつくり、ベンチマークとなり標準となり、外貨を稼ぎ、経済パワーとなるのである」p25
    「インドネシアは2044年、インドは2060年まで人口ボーナス期を維持する。米国は今後も人口が増加していく。現在のG7で今後人口が増えるのは米国だけである」p32
    「北極の氷は2050年までにはほぼ溶けている。北極海は、世界の主要航路となる。ここは石油・ガス、希少ミネラルの宝庫である」p35
    「(今後の社会)コネクティビティ、情報、頭脳がパワーのカギとなる。乱反射する「攪乱」の中で、中道の政治と社会の多様性を維持できる国がソフト・パワーを手にする」p36
    「中国は、水が絶対的に不足している。水の量と質を確保できていない。中国北部の8省は「絶対的水不足」、11省は「水不足」にある」p43
    「(水資源)21世紀、そのドライブはヒンズークシ・ヒマラヤへと向かう。ここは、揚子江も黄河も、そしてインダスもガンジスも、そしてメコンも、アジアの大河川が水源とする世界の屋根であり、南極、北極に次ぐ大氷原である。中国、インド、パキスタン、ネパール、ブータンのヒマラヤ諸国に加えて下流のバングラデシュやミャンマー、タイ、ベトナムなどを巻き込んだ水資源の争奪とダムの建設競争が熾烈になるだろう」p46
    「北極海航路が世界の海運の大動脈になれば、それはゲーム・チェンジャー的な影響を世界に及ぼす。オホーツク海と日本海の交通量は爆発的に増える。日本海とオホーツク海のシーレーン防衛と海洋安全保障が世界の大きな関心事となっていくだろう。日本とロシアの関係の戦略性は増し、両者の安定がさらに求められるだろう」p51
    「英国の歴史家イアン・カーショーは、両大戦間期(1次大戦と2次大戦の間)の欧州の危機を、民族・人種ナショナリズム、領土回復運動、階級闘争、長引く資本主義危機、の4つの危機の共振だったと述べているが、それはいま恐ろしくも類似的に共振し始めている」p60
    「中国の「九段線」は、国民党政権が1947年に公表した「十一段線」に依拠している」p65
    「ASEANの国々を中国派と日米派に色分けし、彼らの忠誠心を試すような真似をしてはならない」p73
    「(マラッカ海峡からインド洋に出る付け根の海域)世界の石油海上輸送の2/3、世界のコンテナ輸送の半分がここを通る」p89
    「韓国には世界に雄飛する強大な財閥グループがひしめいているが、どこも金融部門は弱い。サムスンをはじめ有力財閥はメガ三行を頂点とする日本の銀行から兆単位の巨額の借り入れを行っている」p115
    「すでにシリコンバレーのベンチャー・キャピタルの10~15%に中国の企業が資金を提供している」p165
    「中国式イノベーションを引っ張るのは、アリババ、テンセント、バイドゥといった中国のプラットフォーマーである」p186
    「中国人は社会信用制度にそれほど抵抗感がない。便利だし、何といっても毎年、生活がよくなっているという実感がある。そもそも、人は見られることで社会人になるのだし、一人前になるのだ」p193
    「2013年、中国は50テラバイトのペンタゴンの軍事機密情報をサイバー攻撃で盗んだ。その中には、ステルス戦闘機、F-35のステルス・レーダーとエンジンのデザインの秘密も含まれていた。20年かけて米国が開発した史上もっとも高価な兵器システムの秘密が一瞬にして盗まれた。中国はこれを使ってステルス戦闘機、J-31を登場させた。キース・アレクサンダーNSA長官は「史上最大の富の移転」と形容した」p199
    「現在の中国のレアアース生産量は年間10.5万トンで世界全体の85%を占める。米国の対中依存度は90%を超える(日本の対中依存度は53%)」p213
    「(レアアースの対中依存体質)日本は政府の担当者が1~2年で代わる。危機が終わると、すぐ教訓を忘れてしまうのもそのためだ」p217
    「アジアの秩序形成にルールに基づく多角的な国際秩序を根付かせていくことが、日本の通商と安全保障と地域秩序の長期的な戦略を構築する上で、不可欠である。中国と張り合うのではなく、中国をも包み込む長期的なアジア太平洋構想を描くときである」p241
    「ブレトンウッズ体制:GATT→WTO・IMF・世銀・G7」p244
    「東南アジアとインドの新興企業のほとんどは創業者が経営をしており、意思決定もガバナンスもトップダウンで、スピードが速く、大胆にリスクを取る。日本は、「日本標準」のムラと空気のガバナンスと、スロースピード根回しを捨てなければ付き合えないことを知るべきだ。「日本から出て、彼らと付き合うと、いかに自分がサボっているかということに気づかされる」と日本の若い投資家が述懐していた」p262

  •  雑誌連載コラムのうち2016〜2019年分。連載タイトルも同じ連載をまとめた前著も「地政学」だが、本書では「地経学」だ。経済の影響がそれだけ無視できなくなっているということか。地経学を体系的に学ぶという本ではないが、本書で取り上げる内容は、4〜6章はほぼ、他の章でも散発的に経済絡みだ。データ主義、サイバーのように過去にはそもそも存在しなかった事象もある。
     米の経済制裁関係の内容は、最近読んだ『アメリカの制裁外交』とも共通する。日本関係でも、2010年の中国のレアアース対日輸出禁止や、2019年の韓国向け輸出管理(「経済」の武器化、と表現されている)が挙げられている。また「カエル飛び(leapfrog)戦略」という語が出てくるが、確かに中国のような新興発展国はより急速な技術発展が可能なのだろう。
     そして著者は巻末で、日本はなお大国、経済パワーであるとするも、同時に「小国として」の認識や戦略的アイデンティティーも必要だと述べている。

  • ふむ

  • ■■評価■■
    ★★☆☆☆

    ■■概要・感想■■
    ○米中貿易摩擦を中心に扱った本というイメージ。
    ○普段読まない本として手にとって見たが、あまり合わなかった。後半かなり読み飛ばしてなんとか完走した。返却期限もあったので。
    ○コロナ直前に書かれた本ということに注意して見る必要がある。
    ○某ゆっくりyoutuberが言っていたが、地政学というのは客観的ではない。特定の国からみたモノの見方であると。また科学的に実証された学問でもないので、ある国の行動を完全に予想できるものでもない。第二次世界大戦を後押しした悪魔の学問とか、ランドパワーともいわれる。全く知らないのも無知でまずいが、参考程度にしておけば良いのかなと思った。

  • 地政学と経済を交えた地経学という観点から世界を見た一冊。

    内容の信ぴょう性はさておき、勉強にはなった。

  • 地政学+経済。世界の中での国の立ち位置を考え、国を守り、他国を牽制する。これからの日本のための1冊。
    言葉は難しいけど、調べて理解していくと、考えも深まった1冊。

  • 国際政治の課題について、経済面から論じている。

  • 朝日新聞出身でアリながら、著者の現実的な考えに基づいた意見は一考の余地があると思います。
    ただし、反トランプの考えもやや強いかなと思いました。

  • 著者の船橋氏の本は、何冊か読んだことがあり、それなりに印象も悪くなかったので、その最新刊と言うことで手に取ってみました。
    ”地政学”と”経済学”を足し合わせた造語として「地経学」という言葉を用いておられ、その定義を「国家が地政学的な目的のために、経済を手段として使うこと」とされています。アメリカが韓国に在韓米軍の駐留費増額を交渉のネタに使ったり、中国が尖閣諸島問題の際に日本に対してレアアースの輸出規制を実施した事などが例に挙げられます。この視点を深堀するような内容を期待したのですが、ちょっと期待外れの印象はぬぐい切れませんでした。
    本書を手にとって初めて分かったのですが、文藝春秋への記事のオムニバスと、一部書下ろしという構成になっています。非常に幅広い項目を取り上げているのですが、もともとが連載記事という事情で紙面の制限をうけているためか各項目のボリュームが短めで、いまいち本書を読むことで新たな知識や視点が得られるというような印象がありませんでした。国際問題をざっとおさらいするぐらいの目的で読むなら丁度良いかもしれませんが、ただその目的で読むにしてもちょっと難解(先に述べた記事の長さの制限のために基本事項を丁寧に説明しているわけではないので、私自身の理解度不足もありますが)な部分も多いと感じました。書名から受ける印象と、その中身がちょっと乖離しているような気がしました。

  • 【新時代の脅威に備える】経済、情報にシフトした米中覇権競争を読み解く鍵、それが「地経学」。我々が知っておくべき新しいグローバル・マップがここにある。

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著者プロフィール

一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ理事長。1944年北京生まれ。法学博士。東京大学教養学部卒業後、朝日新聞社入社。同社北京特派員、ワシントン特派員、アメリカ総局長等を経て、2007年から2010年12月まで朝日新聞社主筆。2011年9月に独立系シンクタンク「日本再建イニシアティブ」(RJIF)設立。福島第一原発事故を独自に検証する「福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)」を設立。『カウントダウン・メルトダウン』(文藝春秋)では大宅壮一ノンフィクション賞受賞。

「2021年 『こども地政学 なぜ地政学が必要なのかがわかる本』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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