樹影譚 (文春文庫 ま 2-9)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (190ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167138097

感想・レビュー・書評

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  • 円熟のタッチで描かれた、三つの物語。
    何となく、樹影譚→夢を買ひます→鈍感な青年、の順で読みました。
    とても良い作品群で、まさに小説に浸っているな、という感覚に満たされました。ことさら、鈍感な青年の締めくくりにゾクゾクとして、鳥肌が立ちました。もちろん、戦慄の部類ではなく、芸術的感動のようなものからです。
    素晴らしかった。
    さらに丸谷作品を読みたいと感じます。
    シンプルな感想になってしまいますね、あまりに美味しいものを食べると、美味しいとしか言えないように。

  • 旧仮名遣いを敬遠していたけれどすんなり入ってきた

  • 何度よんでもわからず
     樹影譚はこれで三遍読んだことになるが、今まで一度もぴんとこなかった。

     今回、おなじく出生の秘密を扱った「横しぐれ」を読んで、何かわかるかも知れないと思ったが、やはりわからなかった。
     私は「横しぐれ」のほうがわかるし、おもしろいし、退屈しない。

     川端康成文学賞の選評も読んでみたが、納得させる評はなかった。
     おなじ賞では、ほかに筒井康隆の「ヨッパ谷への降下」が私にはわからない。

  • 表題作が不気味。旧仮名遣いが不気味さを増す。
    昭和後期の小説のような文体の硬さ。と思っていたら、どれも80年代末の作品。
    どれも旧仮名遣いなので、現代的なもの(CDなど)が出てくると不思議な感じがする。

    「鈍感な青年」「樹影譚」「夢を買います」の三篇。

  • よい。うまく言えないけどよい。
    たぶん純文学という分類にあてはまると思うのだけど、そんな長めの短編3編。

    1. 鈍感な青年
    図書館の職員が目撃したというある男女の話という枠物語風になっているが、職員が出てくるのは最初だけ。しかも職員には知り得ないような内容になっているのが不思議。
    歴史的仮名遣いのために明治文学風になっているが、おそらく現代の話。これがうぶな男女の純恋愛風でまたよい。

    2. 樹影譚
    なぜか最初に著者が登場して樹影にまつわる能書きを述べた上で本編が始まる。本編の主人公も小説家であり、樹影にひとかたならぬ思い入れがあり、樹影が取り上げられる作品をいくつも書いている。このように複数の階層にわたって同じテーマのものが登場するという構成にはなぜかわくわくする。先日読んだ「アラビアの夜の種族」もそうだった。ちょっと違うかもしれないが映画「インセプション」もそう。
    本人はなぜ自分がそこまで樹影に取り憑かれているのか、よく分かっていない。そんなところへ謎の老婆が登場して、本人も知らなかったような、幼少期の樹影にまつわる思い出を語り始めるが、これが正気か狂気か分からない。だんだん怪談めいてきたところで終わる。白眉。

    3. 夢を買ひます
    文庫本にして40ページすべてが一人の女性のセリフになっている。人からすでに聞いた夢の話など、対価を払わなくても自分のものにできるのに。そのあたりが不思議で、ふわふわとした雰囲気がある。

  • 御茶ノ水寄りに行ったところに文京堂書店というところがあった。そこで購入した。かなり前からあったはずだが全く気がつかなかった…。
    本書には表題作(中編)のほか、短編が2つ含まれている。
    「樹影譚」はたしか、別の色んな人や本の中で評価されている(紹介されている)一編だと思っていた。木々の作る影、それも地面にではなく、垂直の壁に投影されていないと、特に感興を覚えるものとはならないという。特定の種類のイメージが、頭を離れていかないというのはなぜか?それも、四六時中好きかというとおそらくそうでなく、ふとした時に頭をよぎって、不思議に心をとらえるのはなぜか。まず、著者自身がエッセイのような書き出しで、モチーフを小説にしようとする、その試みの過程を明らかにする。さらに、これからこのような小説を書きます、としたうえで始まる小説中にもまた、小説家が登場し、同様に樹影をモチーフに小説を書こうとし、モチーフの出自を自らの人生の中に探していく、そのような不思議な構造の小説だった。
    ただ、読後の率直な感想としては、この導入部分は必要だったのだろうか、と思った。樹が作る影のことを、なじみ深く感じる読者のほうがごくわずかだろうし、印象的な光景とか小説の中の視覚的なモチーフが、最初のほうこそ新鮮な発見とか興味深さを読者にもたらすが、繰り返し出てくると、どうだろうか。樹影に対しての興味が、モチーフそのものに対しての興味にすり替わっていく感じがある。
    いや、つまりそういうことなのかもしれない。ある作品の動機となったもの、モチーフとなったもの、それ自体にはあまり必然性はなく、樹影が別のものに置き換わっていても、小説は創造できる。つまり、どんなものに意味づけをするかは、(誰かの)任意であるということなのだろうか。
    「夢を買ひます」という短編も面白かった。整形したと相手に嘘をついたら、その男は整形前の写真を執拗に追い求める。この小説のポイントはそこではないのかもしれないが、過去のアルバムが手違いで失われたと知ってせいせいした気分になる語り手の女のもとに、冗談でと言いつつどこからかそれを入手してくる男が猟奇性を感じて恐ろしかった。
    「鈍感な青年」は、この本の中では、最も起こり得そうな話で、気楽に読み進めることができたが、その実、一番難しかったかもしれない…。。青年は鈍感ではあるが、素直で、悪意がない。過去に何かがあった(おそらく友人の死が)ようなことがほんの少しほのめかされているが、表向きそのことが何か影響しているようには見えない。お互いに気が付いていないのに、実は進行している何かがあるということなのかもしれない。

  • 種明かしを最初にしてから始まる小説、というのも珍しい。樹の影に惹かれる小説家がモチーフに取り込まれる様を入れ子構造に描いた標題作『樹影譚』がいい。また、生真面目でいながらエロティックなところもある『鈍感な青年』もなんともいい感じ。

  • 出来事が小説となるための技巧と要素を感じた。特に「樹影譚」、「夢かひます」においては「解釈」というモチーフが支配的であり、それぞれの物語を探り作り上げていた。自身の嗜好の「正体」や「根拠」は、存在する保証などないはずなのに捜索され、まるで自身を揺るがす決定的なものとして立ち現れる。夢と宗教を読み解くかのように見つめられる整形された顔への執着もまた、「解釈」への欲望、すなわち出来事に小説的な物語を付与する欲求を語っている。丸谷才一の小説論としても読むことができる。

  • 凝った作りの小説。
    言葉も選び抜かれている。

  • 丸谷才一 「 樹影譚 」短編集。主人公を小説家にすることで、小説の中に 小説を取り込み、主人公の深層心理と 作中人物をリンクさせて描いている。主人公の疑問(樹の影に固執する理由)がわかり、小説の中の小説とリンクしたとき 寒気を覚えた


    樹の影=樹から生まれた別の有機体→樹と影は表裏関係→小説と 「小説の中の小説」との関係

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著者プロフィール

大正14年8月27日、山形県生まれ。昭和25年東京大学文学部英文学科卒。作家。日本芸術院会員。大学卒業後、昭和40年まで國學院大學に勤務。小説・評論・随筆・翻訳・対談と幅広く活躍。43年芥川賞を、47年谷崎賞を、49年谷崎賞・読売文学賞を、60年野間文芸賞を、63年川端賞を、平成3年インデペンデント外国文学賞を受賞するなど受賞多数。平成23年、文化勲章受章。著書に『笹まくら』(昭41 河出書房)『丸谷才一批評集』全6巻(平7〜8 文藝春秋)『耀く日の宮』(平15 講談社)『持ち重りする薔薇の花』(平24 新潮社)など。

「2012年 『久保田淳座談集 暁の明星 歌の流れ、歌のひろがり』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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