陸軍二等兵比嘉真一 殉国 (文春文庫 よ 1-22)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (249ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167169220

作品紹介・あらすじ

中学三年生の小柄な少年は、ダブダブの軍服に身を包んで戦場へ出た……。凄惨な戦いとなった太平洋戦争末期の沖縄戦の実相を、少年の体験を通して描く長篇。(福田宏年)

感想・レビュー・書評

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  • 少年兵を通して想像を絶する戦争体験。
    この過酷な状況は現在を生きる
    私たちに耐えれるものなのか。
    祖国を守るため、自分たちの生まれ育った
    故郷と家族を守るために自らの
    生命を盾にする少年、少女。
    そこまで追い込めさせたのは何か?
    生命を投げ出して
    戦うことしか道が無かったのか?
    犠牲を強いる当時の状況を今を生きる
    私たちは分かる訳が無いが
    日本人が持つ自己犠牲の精神は
    今も変わってないんじゃないかと思う。

    戦争は男が死んで女が生きる。
    少年兵のこの言葉が印象に残った。

  • 吉村昭作品は、ノンフィクション系で『関東大震災』、『蚕と爆弾』と読み、小説で『星への旅』を読んで、こんなものも書くんだ、と乾いていながら美しい文体にときめいた作家。
    この『殉国』はノンフィクションとフィクションのあわいにある作品だった。

    1945年、3月、沖縄。
    主人公は旧制中学3年のまだ腋毛も生えていない少年だ。
    サイズの合わない軍服を着させられ、戦場となった故郷で”鉄血勤皇隊”となる。
    軍国教育を施され、軍人に憧れたこの時代の少年たちは、あまりにも惨い鉄の暴風のなか、どう生きたのか。
    これはいたかもしれない、いや、いた、少年の話である。
    吉村昭の文体はわかりやすく、そして美しいので、是非同世代の少年少女に読んでほしいと思う。
    今となりにいる友だちが無慈悲に死んでいく。町の人たちが恐怖のなか何か月も彷徨い、殺された。そんな時代があったのだと。
    そして、一方的に日本側からの視点だけではなく、戦った相手側からも見てほしい。
    映画だったら最近公開された『ハクソー・リッジ』がわかりやすい。
    誰も殺したくてきたわけではない。思想がふたつに分かれると、自分が感情移入するほうが自分にとって正義となるだけだ。

    ”鉄血勤皇隊”の悲劇はやましいところが大きく、看護に従事したから美しい話にしやすい”ひめゆり学徒隊”にくらべて知られていない。
    今と違って一方的な情報しか得られない時代、純粋無垢な少年たちの心がどういうふうに扱われたのか、そして今現在も同じような国でどういう風に人間が育ってしまうかも考えるきっかけになるかもしれない。

  •  中学(旧制)を繰上げ卒業し(ただし、本人の主観はともかく、客観的には卒業させられという印象が強い)、召集令状を受けた少年が、砲弾飛び交う沖縄戦のただ中で体験したことは何か。

     短いので読破にさほどの時間はかからないだろうが、戦時下、批判精神の欠片もない自己陶酔の中で始まる物語が、死体の腐敗臭に塗れつつ重苦しい雰囲気のまま終始する小説である。殊に戦傷者の模様が生々しい。
     正直、ここ数日、重い作品ばかり読んでいて、少し疲れ気味である。

  • 昭和二十年三月、中学三年生(14才) で召集令状を受け、鉄血勤皇隊に所属することになった比嘉真一という少年兵を通して見た沖縄戦の実態。
    私自身、吉村昭の著作は「熊撃ち」「炎熱隧道」に続いて3冊目だが、ある種の極限状況に立ち向かう人間を描いている点では共通している。感傷に流されないリアルな眼差しが好きだ。

  • 「吉村昭」の長篇小説『殉国 ―陸軍二等兵比嘉真一― 』を読みました。

    「蓮見圭一」の著作『八月十五日の夜会』に続き沖縄戦をテーマとした作品… 「吉村昭」作品は初読です。

    -----story-------------
    「郷土を渡すな。全員死ぬのだ」太平洋戦争末期、沖縄戦の直前、中学生にガリ版ずりの召集令状が出された。
    小柄な十四歳の「真一」はだぶだぶの軍服の袖口を折って、ズボンの裾にゲートルを巻き付け陸軍二等兵として絶望的な祖国の防衛戦に参加する。
    少年の体験を通して戦場の凄まじい実相を凝視した長篇小説。
    -----------------------

    70年前の沖縄では、本当にこんな時代があったんだ、、、

    一般常識としての知識はあるものの、住民として、その場に存在したらどのような状況に置かれたんだろう… ということをリアルに思い描いたことはなかったので、本書の主人公である十四歳の少年「比嘉真一」が、現地召集の少年兵(鉄血勤皇隊)として沖縄での凄惨な地上戦経験した日々が淡々と綴られている本書を読み、初めて当事者の立場として沖縄戦を考える機会になりました。

    そこには第三者として戦争を思い描く際の勇壮さ、壮烈さはなく、凄惨で悲壮な世界しか感じられませんでしたね。

    例えば、重傷者や死者に囲まれた壕での生活、、、、

    暑さ、湿気、臭気(死臭・腐臭・膿汁臭… )に満ち、足元が汚濁した環境の中で、排便、排尿の処理もままならず、膿んだ傷口からはおびただしい蛆が湧き出る… 戦局が悪化の一途を辿る戦場での実情なんでしょうね。

    米軍上陸後は転戦(退却)を重ね、夜間に行動し、昼間は腐敗しつつある死体の山に紛れて身を隠す… 死体が浸かり、その死体から発生した蛆の大群が水面を覆う小川の水を汲んで喉を癒す、、、

    凄惨な体験の一部ですが、そんな状況下でも士気は一向に衰えず、退却の列の中で「真一」のような少年兵にすがりついてくる負傷兵に対し憤懣を感じる等、純粋無垢で強固な忠誠心や一人でも多くの敵を倒したいという使命感は、平和な現代では、想像し難い精神状態ですね。

    それだけ、当時は軍国主義教育が日本国内隅々まで徹底的に浸透していたんだろうと思います。


    生きていればしんどいことがありますが、当時のことを考えれば不満なんて言えないですよねぇ。

    平和な日本… 護っていかなきゃいけないですね。

  • 沖縄本島での戦闘を一中学生の目で見た記録文学。戦争の生々しさが恐ろしい。吉村昭独特の文章

  • 20210429

  • 沖縄の少年兵のお話。戦争を知らない世代だからこそ、定期的に戦争関連の本を読んで、悲惨さを語り継がなければと思う。読書として読後感が爽快になる類の本ではないが、親たちに聞いていた話より、小説の方がより描写がリアルで悲惨であった。

  • 沖縄戦の短編。吉村昭らしい、淡々と述べてくスタイル。沖縄戦のことは詳しくないが、この本を読めば二等兵として沖縄戦を追体験できる。

    死んだら靖国で会おうね。という無邪気な女子学生のセリフは今持ってる靖国への先入観をガラッと変えないとダメなのだなと感じた。

  • 徴兵された十四歳の少年の沖縄戦の記録小説。
    祖国防衛のために純粋な忠誠心、女性や子供を問わず、死と蛆が隣り合わせる、本当の戦場を体験させてくれる。腐敗した死体の臭いがしてくるようだ。
    主人公の祖国を守る美しい意思を、単なる集団ヒステリーだったと単純に断言できない。沖縄戦は、県民の意思なのか?国家としての命令?で参加したのかどうかは読者が考えなけばいけない。

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著者プロフィール

一九二七(昭和二)年、東京・日暮里生まれ。学習院大学中退。五八年、短篇集『青い骨』を自費出版。六六年、『星への旅』で太宰治賞を受賞、本格的な作家活動に入る。七三年『戦艦武蔵』『関東大震災』で菊池寛賞、七九年『ふぉん・しいほるとの娘』で吉川英治文学賞、八四年『破獄』で読売文学賞を受賞。二〇〇六(平成一八)年没。そのほかの作品に『高熱隧道』『桜田門外ノ変』『黒船』『私の文学漂流』などがある。

「2021年 『花火 吉村昭後期短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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