日暮れ竹河岸 (文春文庫 ふ 1-34)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (267ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167192341

感想・レビュー・書評

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  • 私は最近YouTubeを「聞いて」驚くように直ぐに眠りにつくことができている。ラジオ深夜便の朗読を聴いている。この前たまたま明け方に聞き直した。藤沢周平の『日暮れ竹河岸』の中の「江戸おんな12景」の掌編から2編のみ取り出した38分のしっとりとした女性の朗読で、ずっと虫の声が聞こえているのだけど、佳境に入った時だけ何かしらの音楽が流れる。

    『うぐいす』
    井戸端でのお喋りが大好きな若い女性は亭主から「どうしてそんなに何時迄も喋れる事があるのか」と呆れられるほどだった。いつも喋り倒してはコロコロと笑っていた。けれども、自分にはそれは当たり前のことであり、世界の様々なことがそれだけ新鮮で可笑しいのものに満ちていただけのことであった。お喋りの日々は、自分の長屋玄関から聞こえてきた2歳になる子供の泣き声で終わりを告げる。息子が火に触って火傷をして亡くなったのである。亭主は怒り、近所は冷たくなり、夫婦は長屋を去り、それでも一切会話のない陰気な夫婦が2年半続いた。春が来て亭主の「子供を作らないとな」との一言で、許されたような気になる。女は井戸端に近づき、とっておきの「うぐいす」の話を始める。

    女性のお喋りが生まれる世界の観方が目に見えたよう。だからこそ2年半の無音の時が、恐ろしい。けれども夫婦は別れなかった。其処にはきっと何かしらの「愛情」があったのだろう。


    『明烏』
    花魁の処で遊んでいた男が急に「今日はやはり帰る」と言い出す。花魁は慌てず訳を聞くと「明日は店が無くなるから、泊まるつもりだったけどその気になれなくなった」と平然という。聞けば、妻や子とも別れたという。聞けば分不相応な遊びをしたからだという。4年前花魁を見た時その美しさに、花魁に近づきたい、その為に湯水のように金を使ったと言う。実際に半年前に花魁と話をするためだけにも茶屋に払う金は100万両と尋常じゃなかった。男は平然と去っていった。勿論花魁に感謝こそすれ、非難の言葉は投げつけなかったし、花魁もそんなことは梅雨とも思いつかない。花魁は翌日男の店が取り壊されているのを見、男が夜逃げした噂を聞いた。

    この一編を発表した時にアイドルへのオタク文化は無かった。けれども、日本には長い長い花柳界への貢ぎの文化があった。男は、買春の為にだけ女に貢ぐわけではないのである。男の平然ととした様、そんな男を理解できない花魁の姿が印象的だった。

    この2編だけ切り取っても、長編にしてもいい様な話だった。藤沢周平の短編は総てがそうなのだが、男と女は江戸時代からこの現代まで、おそらくずっと同じことをしてきたのかもしれない。と思って仕舞うのである。

    • workmaさん
      ラジオ深夜便の朗読、落ち着いたトーンなので、眠れぬ夜のお供によいですよね。
      藤沢周平、ふつうの人びとを描いた作品が特に好みです。「橋...
      ラジオ深夜便の朗読、落ち着いたトーンなので、眠れぬ夜のお供によいですよね。
      藤沢周平、ふつうの人びとを描いた作品が特に好みです。「橋ものがたり」など…。どうしようもない状況にも、遠くから そっと見守っててくれるような…。そんな作者のまなざしが感じられます。
      2023/03/20
    • kuma0504さん
      workmaさん、コメントありがとうございます♪
      おけげで少し補足できます。
      「日暮れ竹河岸」や「橋ものがたり」、いずれも一度本では読んだ話...
      workmaさん、コメントありがとうございます♪
      おけげで少し補足できます。
      「日暮れ竹河岸」や「橋ものがたり」、いずれも一度本では読んだ話なのですが、いつもそうなのですが、初めて読んだ(聴いた)気になります。どれもセンセーショナルなあらすじは一切ない代わりに、どれも人生を感じさせ余韻が残ります。特に「日暮れ竹河岸」は、これを書いた後に知ったのですが、藤沢周平最後の短編集でした。
      それなのに、この薄い文庫本に19篇もの掌編を載せていて、おそらく全て長編にしても良いようなテーマがあったと記憶しています。38分なので、是非これだけでも聴いて欲しい気がします。あらすじ書いちゃいましたが、小説の醍醐味は文体であり細部だから問題ないと思います。
      「橋ものがたり」からは「泣くな、けい」が語られていました。約1時間、途中で寝てしまい、一度は読んでいるんですが、途中ですやすや寝入ったのでどう決着ついたのかどうしても思い出せません(^ ^;)。
      2023/03/20
  • 内容(「BOOK」データベースより)
    江戸の十二カ月を鮮やかに切りとった十二の掌篇と広重の「名所江戸百景」を舞台とした七つの短篇。それぞれに作者秘愛の浮世絵から発想を得て、つむぎだされた短篇名品集である。市井のひとびとの、陰翳ゆたかな人生絵図を掌の小品に仕上げた極上品、全十九篇を収録。これが作者生前最後の作品集となった。

    令和5年1月19日~23日

  • <江戸おんな絵姿十二景>
    夜の雪、うぐいす、おぼろ月、つばめ、梅雨の傘、朝顔、晩夏の光、十三夜、明烏、枯野、年の市、三日の暮色

    <広重「名所江戸百景」より>
    日暮れ竹河岸、飛鳥山、雪の比丘尼橋、大はし夕立ち少女、猿若町月あかり、桐畑に雨のふる日、品川洲崎の男

    からなる短編集。

    どの作品も藤沢さんらしい作品。江戸おんな絵姿十二景は、企画も面白く先が読みたくなる。

  • 『江戸おんな絵姿十二景』の括りで、江戸の十二カ月を12人の女と絡めての一風景が描かれている。
    『広重「名所江戸百景」より』の括りでは、著者が選んだ7枚の広重の絵から、藤沢氏が触発されて綴った物語7編が収められている。
    掌編小説は、ある意味藤沢氏の作家としての芸が最も端的に現れる分野かも知れないなと、僭越ながら私は勝手に思っている。
    ちょっと粋な江戸時代の人々の暮らしを切り取った小咄は、とても気持ちよく読み進む事ができた。

  •  藤沢周平「日暮れ竹河岸」、2000.9発行。江戸おんな絵姿十二景と広重江戸名所百景よりの2部構成。おんな絵姿の方は、とても短い12話。超短編でありながら12人の女性の心の内を見事に表現。江戸百景(7話)の方は、その後どうなるのかという「余韻」を味あわせるのが著者の狙いかw。

  • 流石に安定の内容だが、1作が余りに短いので感情移入する前に終わってしまう。 それでもすべての作品にピーンと張りつめた緊張感と言うか凛とした部分を感じるのは流石。 長編物を読みたくなった

  • 藤沢周平の最晩年の作品らしい。絵からショートストーリー風に、あるいは点景の解説風に、作家の創造力と想像力の凄みを感じてしまう。

  • 実際の人生は、小説のように結末なんてありません。
    日々の生活の中で、考え、悩み、試行錯誤することを延々、
    死を迎えるまで繰り返します。

    例えば、今、この瞬間に思い悩んでいることは、実は
    明日になればすっきりと解決してしまうことだったとします。
    けれど、そんなことは明日にならなければ分からないことです。
    だから、今はただ思い悩むしかありません。

    この本は、平凡な日々を営む人々が思考する「今」を
    描いた短編集です。

    本の中で「今」を生きる人々に自らを投影し
    奇妙な親近感を覚えてしまいました。

  • 2019.9.2(月)¥180(-20%)+税。
    2019.9.7(土)。

  • おぼろ月.つばめ.明烏.大はし夕立ち少女が好み。

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著者プロフィール

1927-1997。山形県生まれ。山形師範学校卒業後、教員となる。結核を発病、闘病生活の後、業界紙記者を経て、71年『溟い海』で「オール讀物新人賞」を受賞し、73年『暗殺の年輪』で「直木賞」を受賞する。時代小説作家として幅広く活躍し、今なお多くの読者を集める。主な著書に、『用心棒日月抄』シリーズ、『密謀』『白き瓶』『市塵』等がある。

藤沢周平の作品

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