王の闇 (文春文庫 さ 2-9)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (282ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167209094

作品紹介・あらすじ

ライヴァルを倒し、記録に挑み、ひたすら戦いつづけることで王座を手にした男たちも、やがてはその頂点から降りざるをえない時がやってくる。彼らの呻き、喘ぎ、呟き、そして沈黙が、今ふたたび「敗れざる者たち」の世界に反響する。久方ぶりに沢木耕太郎が贈る、勝負にまつわる男たちを描いた五つの短篇。

感想・レビュー・書評

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  • 「沢木耕太郎」のスポーツノンフィクション作品『王の闇』を読みました。

    先日『敗れざる者たち』を読んで「沢木耕太郎」のスポーツノンフィクション作品を読みたくなったんですよねぇ。

    -----story-------------
    ライヴァルを倒し、記録に挑み、ひたすら戦いつづけることで王座を手にした男たちも、やがてはその頂点から降りざるをえない時がやってくる。
    彼らの呻き、喘ぎ、呟き、そして沈黙が、今ふたたび『敗れざる者たち』の世界に反響する。
    久方ぶりに「沢木耕太郎」が贈る、勝負にまつわる男たちを描いた五つの短篇。
    -----------------------

    『敗れざる者たち』と同様に「沢木耕太郎」が≪勝負の世界に何かを賭け、喪っていった者たち≫について綴った作品で、以下の五篇が収録されています。

     ■ジム (大場政夫)
     ■普通の一日 (瀬古利彦)
     ■コホーネス<肝っ玉> (輪島功一)
     ■ガリヴァー漂流 (前溝隆男)
     ■王であれ、道化であれ (ジョー・フレイジャー)


    『敗れざる者たち』に収録されていた『ドランカー<酔いどれ>』の続篇ともいえる『コホーネス<肝っ玉>』が最も印象に残りましたね。

    「輪島功一」が四度目の王座奪還に向けて対戦した、世界J・ミドル級チャンピオン「エディ・ガソ」との試合に惨めな敗北を喫してから三ヵ月後、その試合について語った言葉、、、

    「そう、ハッピーエンドさ。
     これからすぐ死んでも悔いはない。
     死にたくはないけどね」

    「俺はいつまでやったとしても、
     ああいう終わり方で終わる俺しか想像できなかった。
     メチャメチャ、ボロボロになるまでやりつづけ、
     堕ちるところまで堕ちて、
     そしてやっとひとつのことをおえられる。
     そうでなければどうして納得できる、
     どうして後悔せずにおえられるんだ……」

    「俺は二流だったけど、最後まで闘うことをやめないチャンピオンだった」

    「輪島功一」のボクシングに賭ける想いがストレートに伝わる言葉でしたね。

    三度目の王座を奪還した絶頂期に引退という選択肢を選ばず、最後まで闘うことをやめなかった、後悔せずにボクシングを終えたかった「輪島功一」の気持ちが、わかる気がします。

    その言葉も印象的なので紹介しておきます。
    (「輪島功一」語録みたいになっちゃいました・・・ )

    「俺はやめないよ。
     チャンピオンのまま引退するというのは確かに格好よく映る。
     でも、ほんとはちっとも格好よくないのさ。
     なぜ引退する?
     負けると思うからじゃないか、
     負けることを恐れるからじゃないか、
     臆病だからじゃないか。
     体が決定的に壊れてもいないのに引退するのは卑怯なんだ。
     格好を気にする奴は臆病なんだ。
     まだ闘える。
     だったらたとえ負けても闘うべきじゃないか、
     そうだろう?」

    「喪うことを恐れるのは未練なだけだ。
     正々堂々と闘って、負けたら相手にチャンピオン・ベルトをくれてやればいい。
     それが新しい男への礼儀っていうもんじゃないか。
     大事なことは闘うということだけだ。
     闘って、それで駄目だったら墜ちればいい。
     どこまでもどこまでも落ちればいい……」

    自分はどうなんだろう。
    これから、どうラグビーと付き合い、そして、どんな幕引きができるんだろう… どうすれば納得してラグビーをやめることができるんだろう… 考えずにはいられませんでしたね。


    その他の収録作、

    世界チャンピオンのまま二十三歳の若さで衝撃的な自動車事故で亡くなった「大場政夫」。
    彼のマネージャーで育ての親でもある「長野ハル」と「大場政夫」の実父の葛藤が巧みに描かれた『ジム』。

    知人の知人(ということで本人とは赤の他人)がヱスビー食品で「瀬古利彦」監督の下で走っていたので、気になって読んだ「瀬古利彦」を描いた『普通の一日』。

    トンガの血をひいていて南太平洋の気質を感じさせる「前溝隆男」を描いた異色作『ガリヴァー漂流』。

    機関車のような突進力とスタミナから「スモーキン・ジョー」と呼ばれた「ジョー・フレイジャー」。
    「モハメド・アリ」が保有していた世界ヘビー級王座に挑戦し、14回TKOで敗退した試合をマニラで観戦し感銘を受けた「沢木耕太郎」が、その引退後を描いた『王であれ、道化であれ』。

    それぞれ楽しめました。

    やはり「沢木耕太郎」のノンフィクション作品は読み応えがありますね。


    最後に「沢木耕太郎」があとがきに残した印象的な言葉を引用します。

    「たとえ、それが日本アルプスの三千メートル級の山であろうと、
     ヒマラヤの八千メートル級の山であろうと、
     ひとたび山の頂に登ったあとは
     誰しもそこから降りていかなければならない。
     そして、その降り方は、登り方と同じく多様である。
     滑るように降りていく者もあれば、
     ゆっくりと雪を踏みしめながら降りていく者もいる。
     頂から頂へ跳び移るように下降していく者もいれば、
     雪崩に巻き込まれて転落してしまう者もいるだろう。
     私が心を動かしたのは、頂からの、その降り方だった。」


    私も自分の≪頂からの降り方≫を考えながら、もう少しラグビーを続けてみようと思います。
    (数百メートル級の山ですけどね)

  • ボクシングを中心にした5篇のスポーツノンフィクション集。敗れざる者たち、一瞬の夏との繋がりが見れる文章も多くとても楽しめた。解説者も述べているが、沢木耕太郎の醍醐味は、一つ一つの作品の連動性であるのかもしれない、と思った。

  • 2020/04/01 読了

  • 沢木耕太郎のスポーツノンフィクション。「破れざる者たち」より知名度は低いと思う。
    表題と取り上げている選手は以下の通りで、マラソン選手の瀬古利彦の他は4人ともボクサー。
    ジムー大場政夫
    普通の一日ー瀬古利彦
    コホーネス<肝っ玉>ー輪島功一
    ガリバー漂流ー前溝隆男
    王であれ、道化であれージョー・フレイジャー

    刊行が1989年だが主に70年台に活躍した選手を取り上げているため、私は輪島とフレイジャーの名前が辛うじて分かるだけだった。

    ジム
    沢木耕太郎はエッセイでたまに「夭逝者について強く関心を持っていた時期があった」と述べている。「敗れざる者たち」の「長距離ランナーの遺書」の円谷幸吉と、「ジム」の大場政夫はこの着想の源になった人物だろう。23歳で夭逝した世界チャンピオンについて、帝拳ジムのマネージャーの長野ハルの一人称で描写する。

    ガリバー漂流
    相撲、野球、ボクシング、ボウリング、レスリングと職を変えていく前溝の生き方は、スポーツの世界でもこんな生き方が出来るのか(あるいは、出来るような時代だったのか)と驚かされる。

    王であれ、道化であれ
    モハメド・アリとレオン・スピンクスの試合を前にしたニューオーリンズ。かつてのチャンピオンであるフレイジャーへの取材を試みる沢木。フレイジャーはクラブのイベントで歌っていた。
    本題とは関係ないが「バーボン通り」はニューオーリンズにあるのねということをこの話で初めて知った。

  • 凄いですね。沢木耕太郎。
    なんだかズンズン胸に押し込まれるような言葉が随所に散りばめられている。
    沢木耕太郎さんは、時に主人公達を無情に切り刻み、批判する。しかし、週刊誌の無責任な暴露記事と(比較するのも失礼だが)その読後感が圧倒的に違うのは、綿密な取材(この人の場合、ほとんどが直接主人公に付き添って行う)による真実感と、やはりどこかに暖かい眼差しが存在するからだろう。
    コホーネスの輪島。格好良いですね・・・。ブラウン管でみるヘラヘラは一面に過ぎず、その裏にある、さすが世界チャンピオンと思わせる執念

  • ・ボクシング王者のまま事故死した大場政夫を描いた「ジム」
    ・マラソンランナー瀬古「普通の一日」
    ・ボクサー輪島功一「コホーネス<胆っ玉>」
    の3篇が特に面白かった。
    この作者の書くスポーツ物はハズレがない。

  •  ボクシングに限らずスポーツの世界で頂点を極め、そして陥落していった男たちの短編集です。
     日本で一番歴史のあるボクシングジムの女性マネジャーが、昭和48年に現役チャンピオンのまま交通事故で死亡した大場政夫について述懐する「ジム」を読みたくて買いました。そのマネジャー長野ハルさんは先に読んだ「一瞬の夏」にも少しだけ登場します。
     調べてみると、80歳を越えて未だ現役ということで驚きました。どんな人なのか会ってみたい。

  • 沢木耕太郎さんの本は初めて読みました。

    「深夜特急」を読みたいなとは思ってたのですが。

    本書を読んでみたきっかけはどこかで読んだ前溝 隆男さんのこと。

    国際プロレスのレフェリーだった人です。

    国際プロレスはかつて日本のプロレスが3つしか団体のなかったころのマイナー団体。

    あまりテレビがつかず、ほとんど観ることができませんでした。

    試合自体も近所に来た記憶がない。

    ただ、昭和のプロレスファンは馬場派猪木派に分かれてはいても、決してないがしろにできない団体であります。

    現在、ある意味プロレスラーの代表みたいに扱われているアニマル浜口も「国際」のレスラーでした。

    あと、有名どころではラッシャー木村やストロング小林(金剛)も。

    外国人では、カール・ゴッチ、アンドレ・ザ・ジャイアント、ビル・ロビンソンも国際のスター選手でした。

    レフェリーも非常に濃い人達を揃えていたと思います。揃えていたわけではないでしょうが、結果的に個性的だったと。

    その中にあっては、地味な存在として前溝隆夫さんの名前は記憶に残っていました。

    でも、ほとんど忘れられた存在で、今ググってもほとんど情報は出て来ません。

    ところが、実はスゴイ人なんですよね。

    この人に、ほぼ唯一スポットライトを当てたのが、この中編集に入っている「ガリヴァー漂流」という一編。

    もしかしたら、国際プロレスの中でも最もスゴイ経歴の持ち主かも知れません。

    戦争中のトンガ王国に日本人とのハーフに生まれたのですが、外見的には縄文人の見本のようで、どこから見ても日本人です。

    和歌山県で育ち、中学卒業と同時に大相撲に入門します。

    割りと順調な番付の上がり方をするのですが、大した理由もなく若くして引退。

    その後、ほとんど経験のないプロ野球に挑戦し、続いてプロボクサーになります。

    大相撲力士からプロボクサー。

    こんな経歴を持った人、日本のスポーツマンにいるでしょうか。

    しかも、ボクシングでもかなりの強さを誇り、ミドル級の日本王者に上り詰めます。

    「はじめの一歩」は前溝さんをモデルにしたのではないかと思うほど、気が優しかったようです。

    もっと貪欲であれば、その当時の日本ボクシング界に力があれば、竹原慎二以前に世界ミドル級のチャンピオンになれたのかも知れません。

    最終的には国際プロレスのレフェリーになるのですが、その時々のエピソードがかなり面白く描かれます。

    そして、今回ボクは前溝隆夫さんを描いた小説であることを知っていたのですが、その名前がでてくるのは物語の半分を過ぎてからです。

    ほとんど感情移入できないままここまで引っ張ってこれる力のある小説(モノローグ)ではあると思いました。

    その他の作品としては最後の表題作「王の闇」。

    ジョー・フレイジャーの没落した侘しさを彷彿とさせる佳作です。

    「深夜特急・ボクサー編」という感じです。

  • 増田係長のお薦め本。輪島の生き方、負けてもボロボロになっても挑戦し続けることこそ大切であると伝えたかった。綺麗じゃない辞め方も生き方としてもいい。

  • 小さい頃から、周りにヒーローがいた。

    チェンジマンとか、ドラゴンボールの悟空とか。

    それで、自分もヒーローになりたくて、変身ごっことかしてた。

    そんな風に、憧れの、絶対的な存在として
    ヒーローはいた。

    現実世界では、プロスポーツ界の選手が
    ヒーローとしてよく捉えられる。

    イチローとか。カズとか。

    彼らは同じ人間なのに、
    ヒーローとして存在してほしいという周りの願望故に
    彼らが持つ闇は考慮されないことが多い。

    それでも同じ人間だし。
    闇を見てもらえない分、彼らの孤独は強いんだ。

    っていうことで、
    この本は、プロスポーツ界のヒーロー=「王」の闇が、
    本人や周囲へのインタビューや沢木さんの目を通して
    描かれている本。

    面白い。

    人間って面白い。

    同じ人間だけど、持つ能力と環境と
    求められているコトのプレッシャーゆえに、
    彼らの闇は私が持つ闇とは全然違う。

    うん。
    沢木さんの切り口が、王を「王」として扱っていなくて面白い。

    さらっと読んでみてください。

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著者プロフィール

1947年東京生まれ。横浜国立大学卒業。73年『若き実力者たち』で、ルポライターとしてデビュー。79年『テロルの決算』で「大宅壮一ノンフィクション賞」、82年『一瞬の夏』で「新田次郎文学賞」、85年『バーボン・ストリート』で「講談社エッセイ賞」を受賞する。86年から刊行する『深夜特急』3部作では、93年に「JTB紀行文学賞」を受賞する。2000年、初の書き下ろし長編小説『血の味』を刊行し、06年『凍』で「講談社ノンフィクション賞」、14年『キャパの十字架』で「司馬遼太郎賞」、23年『天路の旅人』で「読売文学賞」を受賞する。

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