少女外道 (文春文庫 み 13-10)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (266ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167440107

作品紹介・あらすじ

この感覚は、決して悟られてはならない――人には言えない歪みを抱きながら戦前~戦後の日本をひとり生きた女性を描く表題作のほか、名手・皆川博子の傑作短篇七篇を収録。

感想・レビュー・書評

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  • 著者の本は戦争を境にして仄暗い世界観で統一されている。文学的で好きな文面だけど、明るさや希望といった類のものは無い。
    マイノリティな部分を内に秘めた少女たちの物語。生は暗く死は松明の灯りのようにぼんやりとだけど淡々と描かれている。最後の話は作者の話なのかな、と思うほど、他の話よりリアルだった。
    短編で読みやすい。

  • 面白かったです。
    日常を超えた世界に憧れ、まわりの決める結婚をしないだけで「少女」たちが「外道」とされる…黒田夏子さんの解説で、惹かれる書名の意味がやっと解りました。
    それならわたしも「外道」なので、久緒や苗子や倫に近しいものを勝手に感じてしまいます。でもこんなに凛と立ててない。。
    「隠り沼の」と「標本箱」がとても好きです。囚われ、壊れたり逝ってしまったり。
    戦争の影響も色濃く漂うお話たちでした。

    「そのあとにつづく躰が生きている私の時間を、私は思った。空無の中で、空無を包み隠す肉体は、しぶとく生きている。」

  • 物語の時代背景は、戦前から戦後。軍国主義の風が吹き荒れる風潮の中で、おそらく女性はその地位を不当に貶められたであろう。「少女」ともなればなおさらのこと。虐げられる存在たる少女は、一方で「女」としての独特の厳格な道徳性をも求められる。時代の波の中で、何気ない日常を送りながら、要求される「道」を少しばかり「外」れてしまう少女たちの物語が、本書には七篇収められている。
    少女が日常生活の中で、おのれの心と周囲との小さな齟齬に気づいたとき、彼女の心は道を外れ始める。皆川博子はそんな少女の心情とそれとは無関係に流れてゆく日常生活を静謐に描く。文体のせいか、行間からはほのかな官能性が漂う。道を外れた少女の心は恐ろしいが、美しい文章に乗せられてむしろ耽美な浪漫性さえ帯びてくる。
    少女たちは周囲の「道」から外れたおのが心に閉じこもりながら、しかし、心の隙間から冷徹な視線で日常を見ている。周囲の大人たちは、そんなことには気づきもしない。少女ゆえ、道を外れても凶暴になったりはしない。どこか狂った少女はむしろ甘やかさをまとっている。
    甘美な調べに乗って読み進むと、いつしか読み手の心には凪いでいた水面に風がさざ波を立てたようなざわめきが残る。
    収められた物語の多くは過去・現在・未来の時制を往還しながら進んでゆくが、少女の心はいつしか彼岸に跳んでおり、これらの物語は「死」を予感させる。究極の安寧としての「死」は、これらの物語に通底するモチーフのように思える。だからいずれの物語も、読後、不穏な安心感をもたらしてくれる。

  • 久々に文学っぽいものを読んだ気にさせられた。
    とはいえ、少女小説っぽいのかな。

    人とは違う性的嗜好あるいは、そこに至りそうな何らかの感情を秘めた人物や各短編の主人公。不思議と湿っぽさがないファンタジー。

  • 5:直接的な描写があるわけではない、だからこその密やかな、淫靡な、背徳的な感情の数々。戦時中〜終戦の頃を描いた作品も多く、その時代ゆえ……というのもあるかも。
    水が滴るような、艶めかしく美しい描写にうっとり。皆川先生好き……!(今さら)

  • 苦しみや痛みに惹かれる傾向を「外道」というのが 迫力がある。出征する恋人のために手まりの中に自らの小指を入れる。後年それが 手まりの中で からころと音を立て・・・
    そんな 血の匂いを感じながらも美しい世界。
    古風な言い回しがとても美しい幻想的な小説でした

  • 『少女』『外道』『敗戦』なんかが全体に共通して絡んでくる短編集。

    皆川さんの本はなんと感想を言っていいのか…言葉にするのが難しい。
    とにかくこの雰囲気と文章の美しさが好き。
    ラストのしめかたもいつもすごく素敵だと思う。

    今回特に好きだったのは、『少女外道』『有翼日輪』『標本箱』かな。

  • レールから外れた何かを抱える少女達の7つの物語。皆川先生が綴った美しい調べのような文章に酔いまくれますね!

  • いつもながら、読む手が止まらなくなる本。
    どんな内容なのか、全然説明できないのに、面白い。
    登場人物に感情移入もできない。
    作家が高齢だからか、戦時中の話が多いが、祖父が帝国陸軍だったため理解できる。
    哀しいけど、仕方がない現実。
    そして、狂ってるのか正気なのか、その境にいるのかわからない、つかみ所のない女性がよく出てくる。
    その目を通じて描かれる世界の奇妙さ。
    やはり、好きだ。

  • 久々に“純文学”を読んだ、と思った。
    著者が70代の後半頃に書いたという作品集。エンターテインメント性は感じないけれど、そういう枠とは別の意味でとても面白いというか、興味深い。
    戦中、そして戦争の前後の昭和の時代の物語が多くを占めていて、そこはかとなくエロスとタナトスが漂っている。

    物語の中身や流れというよりは読んだときの感覚を大事にしたくなるような作品ばかりで、だから今回は敢えて詳しい中身には触れないでおく。
    時系列の飛び方に特徴がある物語もあって、きちんと読んでいないとその繋がりを見落としてしまう可能性もあるのだけど、分かるとその繋がり方に感心してしまう。

    死というものが常に漂うから、不思議な色香を感じてしまうのかもしれない。
    その2つが表裏一体だなんて、こんなにも感じる小説はなかなか無い。

    少女の頃、他人が傷つき苦しみ血を流すのを見てうっすら興奮を感じてしまう、そういう種類の「外道」。

    「巻鶴トサカの一週間」「隠り沼の」「標本箱」とくにこの3篇が好みだった。

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著者プロフィール

皆川博子(みながわ・ひろこ)
1930年旧朝鮮京城市生まれ。東京女子大学英文科中退。73年に「アルカディアの夏」で小説現代新人賞を受賞し、その後は、ミステリ、幻想小説、歴史小説、時代小説を主に創作を続ける。『壁 旅芝居殺人事件』で第38回日本推理作家協会賞を、『恋紅』で第95回直木賞を、『薔薇忌』で第3回柴田錬三郎賞を、『死の泉』で第32回吉川英治文学賞を、『開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―』で第12回本格ミステリ大賞を受賞。2013年にはその功績を認められ、第16回日本ミステリー文学大賞に輝き、2015年には文化功労者に選出されるなど、第一線で活躍し続けている。

「2023年 『天涯図書館』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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