日本がアメリカを赦す日 (文春文庫 き 14-7)

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  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (253ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167540081

感想・レビュー・書評

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  • 今年読んだ本の中で最も共感できる本だった。岸田秀のものぐさ精神分析よりも学術的でない分、読みやすかったのだと思う。ストックホルム症候群のところは秀逸。国と国との関係が個人の気持ちや行動と同じように語られるのはこの人ならでは、だと思う。インディアン・コンプレックスの説明も素晴らしい。

  • ――――――――――――――――――――――――――――――
    はっきり言って、勝ったのは英米のお陰でした。

    観点を変えれば、イギリスが、日本を援助し、日本を使って、ロシアと戦わせたと見ることもできます。

    イギリスはそう見ていたでしょうね。そして、アメリカも。12
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    イギリスとアメリカは資金的にも日本に協力してくれました。当時のお金で二十億円ぐらいかかった軍事費の半分以上がロンドンとニューヨークの公債で得たものです。

    日本側は、旗艦三笠を初め、戦艦はすべてイギリス製でした。13

    はるかに進歩していたイギリスからの情報は貴重でした。15
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    めったにいない者を標準とするような、このような非現実的、誇大妄想的神話に縋ったということは、当時の日本がどれほど惨めな状況に追い込まれていたかということを示しています。15

    いかなる場合でも、不愉快な現実を無視し、都合のいい神話を信じた代価は、本人の想像を絶するほど、高いものにつくのです。16
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    ベトナム人が多大の犠牲を払っても(大東亜戦争の日本人の死者数とほぼ同じ、三百万のベトナム人が死にました)プライドを守るために戦うという可能性を計算に入れなかったのでした。

    これは多くのアメリカ人の対人知覚の盲点ではないかと思われます。自分以外の人間の行動におけるプライドという動機が見えないのです。17
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    真珠湾攻撃には、アメリカに挑発された面もありますが、日本の側にも、こういうことは是非ともやってみたいという動機があったと思います。22

    そもそも日米戦争そのものがペリーに対する復讐だったかもしれないと思うんですよ。

    わざわざ本国から取り寄せてミズーリ号に掲げました。その意味するところは明らかです。23
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    原爆投下に収斂するアメリカの残忍な作戦は(…)もとの野蛮国に引き戻すことをめざしていたとの観点から考察すれば、いろいろ思い当たるところがあります。

    裏切り者を自分が引き上げてやる前の状態に引き戻したくなるものです。25
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    アメリカは、自由と民主主義を守るために、独裁国家日本をやっつけるということをスローガンにしていましたが(…)アメリカが味方に引き入れた蒋介石政権は独裁国家でしかありませんでしたし、ソ連はスターリンが独裁する共産主義国家でした。29
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    日本近代の百数十年の歴史は屈辱の歴史でした。何としてでもこの屈辱を雪ぎ、誇りを取り戻したいと近代日本は焦り、あがきつづけたのです。

    屈辱を決定的に克服するためには、アメリカに勝たねばならなかったのです。37
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    戦後日本人の不安定感、閉塞感、抑鬱、居心地の悪さなどの多くは、この自己欺瞞のせいではないかと思います。

    僕に言わせれば、被占領国なんだから被占領状態にあることを認識することがまず第一歩ですね。40
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    日本は、現実的次元での自衛のためとか、国益のためとか、アジア民族の解放のためとかをめざして戦ったのではなく、ひとえに空想的次元で日本の誇りを守る、または回復するために戦ったのです。

    日本軍の作戦行動は、支離滅裂どころではなく、真珠湾奇襲から第一次ソロモン海戦、太平洋の島々での玉砕、神風特攻隊を経て戦艦大和の特攻出撃に至るまで実に首尾一貫していたことがわかります。52
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    ヨーロッパでドイツ国民だけが戦意に燃えていたのは、戦争でもやらなければ打開できないような惨めな屈辱的状態におかれていたからです。57
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    内容が正しいのであれば、押しつけられたものだっていいではないかという議論がありますが(…)このおかしさに気づかないのは、誇りを失っているからではないでしょうか。

    この議論は、「目的は手段を正当化する」として暴力革命を正当化したかつての革命政党の議論と似ていないでしょうか。

    正しい目的は不正な手段を正当化するのではなく、不正な手段は正しい目的を腐らせるのです。71
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    日本は本音のところではあまりアメリカに協力したくなかったんですね。74

    いやいやながら出してくれた協力金に誰が感謝するでしょうか。それで、アメリカはますます日本を軽く見るようになったのではないでしょうか。

    言えば出す、言わねば出さない所信なき国として。75
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    やってる日本人も、動機は明らかに反米でした。しかし、反米という意識がありましたかねえ。独立のためとか平和のためとか民主主義のためとかのスローガンを掲げていましたから。騒動が終わってみると、津波が引いたように、あとに何も残りませんでした。78
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    言語化されていないものだから(…)相手が強い場合は、不満を内向させて、相手に服従し、相手が弱い場合はこちらの考えを説明もしないで押しつけるということになります。143
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    なぜかと言われても、困りますが……。たぶん、僕の自我の一部が日本という幻想のなかに入っているんでしょう。194

    ある日本人がどの程度、愛国心をもっているかは、彼が日本をどの程度、自我の支えにしているかによって決まります。203
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    それまでは、アメリカは日本人にインディアンの亡霊を見て、過敏な反応と的はずれの言動を繰り返し、日本は、隠された内的自己でアメリカを恨みながら、外的自己で愛想笑いをしてアメリカに屈従しつづけるでしょう。217
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    なぜ現状に甘んじないかは、実現の困難さを知らないからではない。第一の選択肢は、実は、新たな病理を招きよせやすいからである。251

    少しでも欺瞞があれば精神は腐るのだ。252

    現実には、日本人がかつてのフィリピンの砂糖業者のように、本当の独立は自殺だと思っているかぎり、アメリカが赦しを乞うことなどありえない。253
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  • 20060913
    日本はアメリカに強姦されて愛人にされて養われて頭がおかしい、とのこと。気持ち悪い文章でした。
    そもそも、国を一人の人間に例えて論じることが妥当なのでしょうか?
    岸田さんの方が頭がおかしいのでは?

  • 新角未

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著者プロフィール

精神分析者、エッセイスト。1933年生まれ。早稲田大学文学部心理学専修卒。和光大学名誉教授。『ものぐさ精神分析 正・続』のなかで、人間は本能の壊れた動物であり、「幻想」や「物語」に従って行動しているにすぎない、とする唯幻論を展開、注目を浴びる。著書に、『ものぐさ精神分析』(青土社)、「岸田秀コレクション」で全19冊(青土社)、『幻想の未来』(講談社学術文庫)、『二十世紀を精神分析する』(文藝春秋)など多数。

「2016年 『日本史を精神分析する』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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