- Amazon.co.jp ・本 (174ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167564018
作品紹介・あらすじ
彼は涼しい面立ちをした「起こし名人」だった……。通信社の仮眠室を舞台に、眠りから文明の危機を鋭く抉り出した芥川賞受賞作他一篇。「自動起床装置」「迷い旅」収録。(村田喜代子)
感想・レビュー・書評
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よく、小説では、人間的根源の要素をテーマにする、といった事が多いが、その大概は、性欲であったり、広大な煩悩に対する欲望に焦点が当てられており、他が蔑ろにされている気がしていた。その点では、表題作は、人間の三大欲求に分類される、「睡眠」という分野の荒野をただ突き詰めた、という斬新さを得た。まだ未読だが、作者は他にも「食」について注目した、「もの食う人びと」という作品もあり、いずれ読んでみようと思う。
さて、本書についての感想だが、現代社会の睡眠に対する意識の低さというのが、注目されるべきだと主張だと思われたのだが、私生活を覗いて見ると、社会人であれば、時間に余裕が無い場合、その余裕をどこから作り出すかという点に対し、まず睡眠時間というのもが出てくる。そのことについて、疑問を呈した一冊では無いだろうかと感じた。人が人を起こすことと、時代に合わせ、機械が人を起こすこと。起きていることと、寝ることは、同じくらい注意するべきなのではないか、という本書の言葉は、とても自然的であると同時に、現代では生物として最も欠落した意識の要素だと思われた。そういう点を踏まえての、この物語の結末というのは、ある意味、それでも人間は愚かにもその自然を打破しようと、そうする意図を感じとてるものとなっているのは、面白い。
同時に収録されている「迷い旅」は、海外の戦場の、ジャーナリストとしての日常の一瞬を切り取った様な、ルポルタージュの雰囲気も持つ短編だった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「自動起床装置」、日常生活には珍しいように感じるが、私も毎日起こしてもらっているスマホのアラームも似たようなものなのかもしれない。そういえば何十年も人に起こしてもらっていない。
一日のかなりの時間眠っているけど、人から見たら私の眠りはどんな風だろう。自分の眠っているとき、自分の意思が及ばない(むしろむき出しと言えるかもしれない)状態のため、それはとてもプライベートな姿だと感じる。また、「眠り」については考えても「起きる/起こす」ことについてはあまり考えたことがなかったことに気づいて新鮮で面白かった。
聡は自動起床装置の導入に危機を感じるが、それは自分の仕事を奪われるからではない。装置によって人を起こすことに危機を感じているのだ。はたから見たら不思議なこだわりだが、私もそういう謎のこだわり、持っていると思う。
「起こし屋」は、今はもう存在していない職業だろうか?ちょっと変わったお仕事小説としても面白い。 -
眠りと覚醒のお話
常備灯の灯る暗がりと眠る人の発するガスとノイズのような音がこもる空間
眠ることは生と死の境目を漂うこと、生きている間は忘れようとしている死の気配に浸ること -
時間があれば
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◯◯。さーん。◯◯。さーん。
起こしの達人に1度起こされてみたい。
人と機械の関係性が睡眠をテーマに多様な角度から描かれている。時に神が現れ、時に樹木の図鑑を旅しながら眠りの世界に導いてくれる。
辺見庸さんの文章は、いつも日常では遠ざけている人間の根幹を描くというより語る。語る。語る。
読者を突き放すほどにあっさりしていた終わり方だけは何か寂しかった。 -
睡眠にも人間性が現れるものですな。起こされると殴る人とか勘弁してほしい。起こし屋の聡が囁くように呼びかけるシーンは何か異常な世界を垣間見てしまったような背徳感があった。聡の彼女が入眠を誘う側だったり、いかにも芥川賞らしい作品だった。私はもう長い事iPhoneのアラーム音で起きているが問題なし。
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人を起こすバイトという着眼点が面白い。そしてその役を装置に取って代わられたら?つきつめて考えると、これって最近世間を賑わせてる「AIが進化したら人間の出番は?」の問題と同じではないか?なんとも著者は20年以上も前に問題を予言していたというのか?っという深さを考えながら読むとなお面白い。
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不思議な小説。
安倍公房のような無機質で不条理な冷たさと、変に人間的な暖かさが同居する不思議さ。 -
宿直者を指定された時間に起こすことを仕事としているアルバイトたちの話。
入眠と覚醒は同じくらい大事という記述に同感。
あとは、大して何も感じなかった。
芥川賞受賞作。 -
併録されている「迷い旅」という作品に心を動かされた。
味気ないスルメが結論めいた味という表現。
グッドスメル。