我、言挙げす (文春文庫 う 11-14)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (308ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167640149

感想・レビュー・書評

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  • 髪結い伊三次捕物余話、8作目。
    2011年には出ていたんですね。

    主人公はシリーズ名どおり、廻り髪結いの伊三次。
    町方同心不破友之進の手伝いもしているのですが、息子の龍之進の力になる機会も増えています。
    じつは‥若い世代の話ばかりで、伊三次以上にごひいきだった妻で芸者でもあるお文の出番が少ないのでちょっと飽きてきて、しばらく読むのを休んでいましたが。
    やっぱり、好きなシリーズです☆

    龍之進も番方若同心になり、進境を見せるところがすがすがしく、頼もしい。
    「委細かまわず」では、上役の小早川と対峙して成長していく。
    「黒い振袖」では、ある藩の姫が行方不明となった事件を若手で捜査することに。
    お家騒動の渦中にあり、喪服がわりに黒い振り袖を着た、かがり姫。
    ひととき危機を共にしたことで、忘れられない相手に。

    「明烏」は、久々にお文が主役。
    夢の中、異界へ迷い込んだような形で、生みの母のいる美濃屋に引き取られた場合の生活ぶりが描かれます。
    嬉しさと違和感と寂しさと。
    そして、今の幸福をかみしめる。
    いい味わいの話でした。

    「我、言挙げす」という題は、内容が想像できませんでしたが、いい言葉ですねえ。
    龍之進は、かって上司の不正を告発しようとして閑職に追いやられた人物・精右衛門へ、「言挙げなさった」という言葉で、共感を伝えるのです。

    ラストは火事で家が焼けてしまうという衝撃的な結末ですが、この続きで暮らしが立ち直っていく様子もちゃんと出版されているので、続けて読みつなぎましょう☆

  • 伊三次シリーズ第8弾。近作では、伊三次が脇役にまわり、不破の息子・龍之進を主役とする作品が増えてきた。志だけ高かった龍之進も段々と御役目が地に足が着いてきて、頼もしくなってきた。
    それでも、伊三次の登場シーンには安心感があるし、お文の心の揺れを描いた「明烏」は長期シリーズならではの名作である。
    「我、言挙げす」・・・。奥の深いいい言葉です。

  • 見習から同心になれた龍之進、すっかり彼の成長物語になってしまった気がする。

    人生のもう一つの分かれ道に迷い込んだお文さんの話や、
    流産のあと女の子が生まれたのにうまく行かない弥八とおみつの話もあるが、
    やはり、姫を救い出し、その心を慰めた一日を忘れたくないと思う龍之進の話が心に響く。

    と思っていたら、最後の最後に日本橋の大火事で、
    伊佐次とお文の家も燃えてしまう。
    伊与太と台箱だけが無事に残る。
    どうなることやら。

  •  髪結い伊三次捕物余話ももう8作目。ますます快調という感じ。伊三次の親分である町方同心不破友之進の息子で番方若同心になった不破龍之進が物語の主役格となって活躍する。その初々しい感性が作品の大きな魅力だ。なんていうのはこっちがトシとったということなのか(笑)。
     「委細かまわず」の謎の上役小早川への澄んだ眼と評価、「黒い振袖」の井川藩かがり姫への純心と淡い慕情、「我、言挙げす」の精右衛門の正義への共感、いずれをとっても清廉直情の若者ぶりが表れていて好もしい。
     前にwebmaster日記(2009.10.12)に書いたけど、シリーズ第6作「君を乗せる舟」の中の名セリフ、思いを寄せる娘あぐりが祝言に向かう舟を見送っての「私は舟になりたいと思いました」にはほんとに泣かされた。トシは取りたくない、いやトシはとってもずっとこういう感性を持ち続けていたい、とつくづく思う。
     あ、もちろん伊三次とお文の夫婦に一粒種伊与太は健在で、そっちが主体の物語もこれまで通り。中には「明烏」みたいな珍しい異界譚もあって、趣向が凝らされている。
     と、ほめておいて一つ苦言。著者による「文庫のためのあとがき」、これは蛇足以下だったね。web上の書評への感想なのだが、「アホかいな」はいくら筆が滑ったとはいえ、プロの書き手が読者に対する言葉としては不穏当だろう。思うのは自由だが印刷紙面に載ることの意味がわからぬトシでもなかろうに。

  •  下戸の亭主伊三次とうわばみ女房お文のカップル、今夜もなかよし(^-^) 言挙げとは、自分の意志をはっきり口に出して言うことだそうです。不破龍之進、男らしく成長しました。宇江佐真理「我、言挙げず」、髪結い伊三次捕物余話№8、2011.3発行。粉雪、委細かまわず、明烏、黒い振袖、雨後の月、我言挙げず の連作6話。神田須田町、呉服屋「美濃屋」のおりうが病に。お文は母親おりうに会いに美濃屋に。大店の暮しを少しした後、稼ぎの少ない伊三次のもとに。

  • 夢の話や某大名家の姫様やら、毛色の違う話がいくつか。多彩。

  • 目次
    ・粉雪
    ・委細かまわず
    ・明烏(あけがらす)
    ・黒い振袖
    ・雨後の月
    ・我、言挙(われ、ことあ)げす

    以前、伊三次にガセを掴ませ、龍之進に大いに恥をかかせた船頭は、実は尾張屋押し込みの際に一味を手伝った者だった。
    真犯人「薩摩へこ組」もまた、「本所無頼派」と同じ、武家の次男三男たちだった。
    幕末というにはまだ間のある文化文政期、既に武家の鬱屈は積もり始めていたのかもしれない。(粉雪)

    そう言った意味ではお家騒動というのもまた、飼い殺されるかどうかの生存競争なのだろう。
    自分の運命は自分だけのものではない。
    大勢の人たちの生活が、命がかかっているのだ。
    与えられた運命を自分の足で歩きだした姫の決意。
    そばで支えることも許されない龍之進との身分の壁が切ない。(黒い振袖)

    自分で選んだ人生だって、後悔する時はある。
    大店のお内儀になっている生母の元へ帰ったら、今とは違う理想の暮らしができたのではないかと思うお文。
    しかし、今のお文の幸せは、伊三次と伊与太の元にある。(明烏)

    お文が深川芸者だったころ、お文の女中をしていたおみつ。
    当時はしっかり者で、よくお文を助けていたが、最初の子を流産した時まだ子どもの居なかったお文にひどいことを言ってから疎遠になっていた。
    でも、いつの間にか付き合いが戻ったようで、安心した。
    だけどおみつ、失ったもののことばかりを思いわずらっても幸せにはなれないんだよ。
    幸せって、今、自分が持っているもののところにあるのだから。

    徐々に事件は龍之進が扱うものが多くなってきているが、伊三次はあくまでも友之進の小者。
    ただ、人の心の機微や、法や善意だけでは如何ともできない世の中のことなど、龍之進の経験だけでは測れない時に、セイフティーガードとして伊三次が付く。

    まだよく口が回らなくて、伊三次のことを「たん」としか呼べなかった伊与太が、いつの間にか「ちゃん」と呼べるようになっていてほっこり。
    お文のことは「おかしゃん」
    いつかは「おっかさん」などと呼ぶようになるのだろうか。うう…。
    不破家に行くと「おはよさんです」と頭を下げるところも可愛い。

    言挙げの最古の出典は古事記のヤマトタケルの項。
    神様に不遜なセリフを吐いたため、病気になって結局死んでしまう。
    つまり、ヤマトタケルの頃から、日本人は目上の人に物を申してはいけない文化があったということ。
    深いなあ。

  • 龍之進の出番が多くなった。シリーズとともに成長して、今後が楽しみ。

  • もし、あの時違う選択をしていたら別な人生があったのではないか…。誰もが一度は思ったことがあるのではないでしょうか。
    お文も生活に追われる忙しない日々の中、辻占いの女に声をかけられ、もし大店の娘という選択をしていたらと思ってしまいます。そして頭を打った拍子にお文は大店の娘という生き方を選んでいたことになっていました。果たして幸せな人生が待っていたのでしょうか…。
    そんな不思議な出来事の話『明烏』を始め、番方若同心となった不破龍之進の成長していく日々を描く『委細かまわず』『黒い振袖』等々、心に残る話が多かったです。
    そして何より表題作『我、言挙げす』。
    またまた火事に巻き込まれ、家を失った伊三次。気の毒すぎて声をかけられない父達を横目に、幼い時から自分を励ましてくれた伊三次にこれからも頑張って生きて欲しいと願い、声をかける龍之進。胸がつまります。表題作で終わったこの巻。次の巻ではどうなっているのか、すごく気になります。
     作者のあとがきもとても共感できました。
     宇江佐さんの作品、これからももっと読みたかったなぁ…。

  • 2018/3/16
    龍之進が成長してきてちょっと馴染んできた。
    「委細かまわず」がすごかった。
    最後で鳥肌がぶわっとなるやつやった。
    もうちょっと不破様見たいんだけどなぁ…

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著者プロフィール

1949年函館生まれ。95年、「幻の声」で第75回オール讀物新人賞を受賞しデビュー。2000年に『深川恋物語』で第21回吉川英治文学新人賞、翌01年には『余寒の雪』で第7回中山義秀文学賞を受賞。江戸の市井人情を細やかに描いて人気を博す。著書に『十日えびす』 『ほら吹き茂平』『高砂』(すべて祥伝社文庫)他多数。15年11月逝去。

「2023年 『おぅねぇすてぃ <新装版>』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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