新装版 翔ぶが如く (10) (文春文庫) (文春文庫 し 1-103)

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  • Amazon.co.jp ・本 (383ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167663049

作品紹介・あらすじ

薩軍は各地を転戦の末、鹿児島へ帰った。城山に篭る薩兵は三百余人。包囲する七万の政府軍は九月二十四日早朝、総攻撃を開始する。西郷隆盛に続き、桐野利秋、村田新八、別府晋介ら薩軍幹部はそれぞれの生を閉じた。反乱士族を鎮圧した大久保利通もまた翌年、凶刃に斃れ、激動の時代は終熄したのだった。

感想・レビュー・書評

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  • 西南戦争によって、千年に渡る武士時代にピリオドが打たれた。
    桐野ら薩軍の命知らずの奮戦は、維新で散った志士を始め、鎌倉から続くすべての武士への鎮魂歌のようだった。
    武士の時代を終わらせまいと戦った彼らが、逆に武士の時代に完全に終止符をうつことになり、時勢というものの容赦のなさを感じた。

    かの大西郷の人生を追った全十巻の長編を読みきった感想が、切ないやるせないわからないなどとなるとは思いもよらなかった。
    司馬さんは快男児を書くほうが筆がのりそう。

    引き続き「坂の上」をすごく読み返したいけど、逆に「世に棲む」とか「竜馬」に戻りたい気分もある。

  • 西南戦争終結とともに、西郷、大久保と多くの登場人物が去って行った。司馬遼太郎の幕末ものが好きで、長編短編それぞれに度々登場してきたこれらの人物と再会できた喜びがあった。司馬作品と共に、幕末、明治を疾走した気分を今持っている。いい時間だった。

  • 西郷一行が宮崎に逃げ延びたところから西南戦争集結と大久保利通、川路利良の末路までの最終巻。
    新聞の連載物であるが故に繰り返されるキーエピソードや、作者が調べ上げた話の本筋とかけ離れた人物描写が多すぎて物語としてのテンポが非常に悪い。
    解説の方も述べているが、歴史書として扱うなら作者の類推と史実を区別した解説本がなければと思う。
    ただ、読者の殆どはやはり読み物として手に取るだろうし、自分もその類であるからもう少し簡素であって欲しい。

    ただ、維新後の真の革命である10年を描く本作は、近代日本を形作る重要な年月であり、西郷という虚像を取り巻く群像劇として見ることで人間の本質を垣間見ることもできる。

    本巻だけでも印象に残る人物を列挙する。
    人たらしの才能のみで君臨し、取り巻きに翻弄され続け、人を見る目がない西郷隆盛。
    西郷と城山で散る同士たち、すなわち
    桐野利秋
    村田新八
    別府晋介
    辺見十郎太
    西南戦争での薩摩側の良心で、生き延びて読み手のスクイとなる野村忍助。
    熊本の自由民権運動者、宮崎八郎

    官軍側では、
    内務卿大久保利通
    慎重過ぎる戦略により戦争を無用に長引かせた臆病な官軍総督、山県有朋
    西郷暗殺の刺客を送った大警視川路利良
    薩摩出身の海軍総師川村純義

    西南戦争の最中に病で没した木戸孝允

    西郷の人となりをここまで深く掘り下げた人はこれまでなかったようだが、そういう言う意味でも価値ある小説である。

    廃藩置県、地租改正などにより国民の新政府に対する不満が蔓延し、その暴発を薩摩藩が担い、その敗戦をもって革命が区切りを迎えるという激動の時代がよく理解出来た。

  • 明治維新から西南戦争までを描く長編小説。西郷隆盛の実像と虚像のギャップ。桐野のポジションと能力のギャップ。描かれる多くのギャップが切なさを感じさせる。集団と個人、文化と個人の関係性、担ぎ担がれる組織形態、など、読める切り口は多い。
    NHK大河『西郷どん』で感じた違和感を拭うために読む。が、、、長い、、、全編に閉塞感が漂い、読んでいて若干つらい、、、『翔ぶが如く』ってタイトルと違う、、、

  • これほど慕われ続ける人望と器量を備えているものの、ここに登場するやその厭世に虚しくなる。結果として成し得なかった征韓論には、極めて複雑な背景があり、どうあれ退いてくれたことに安堵するけれど、大久保、岩倉を追い詰め、三条を錯乱させた往時には、その威容を誇る。薩摩に帰郷して後は、何ら光彩を放つことなく、もちろんそのための遁世なのだから、そのまま不動でいて欲しかった。革命の象徴から、新たな革命の虚像へ。そして、演じたのか捨て鉢であったのか、木偶の最期を迎えた。敵味方を問わず西郷を担ぎ、共に逝った者たちの情緒は知れても、西南での西郷の機微に触れることはできなかった。

  • 結局、何の戦略も戦術もない薩軍は政府軍の袋叩きにあって悲惨な最期を遂げることになる。スポーツの世界だって戦略、戦術が大事なんだから気合だけで何とかしてやるぜなんて、今にしてみれば馬鹿じゃないのかと思ったりするんだが、逆に考えれば、今の日本にないものを薩摩藩は持っていたんだなとも思える。廃藩置県により、中央集権制が確立されたわけだが、今の大企業がその藩の代わりなんじゃないかと思うと江戸時代から何の進歩もなかったとも思える。つまり、日本最大の藩が政府で、各種大企業はなんとか藩といった具合。

  • 6ヶ月。本当に長かった。。。
    ようよう読了。

    たとえば竜馬がゆくなんかに比べると、大変な時間がかかった。
    ひとことで言えば、退屈だったからだ。

    本作の大きな筋立ては
    西郷と大久保という英傑同士の関係性の中に
    近世日本と近代日本の対立を見出しているところだ。

    その試み自体は非常に好みなのだが
    いかんせん、叙述的に過ぎて、情緒がいっさいない。
    まるでおかたいコラム集のようだ。
    そしてそれがひたすらに、延々と、続く。
    そこに大量の余談が入るから、本筋を見失う。
    また、解説にもあったが、同じ描写が繰り返し出てくるのも辟易する。
    以上を思うと、これは司馬遼太郎がついに西郷も大久保も、その時代精神も、核の部分をつかまえそこねたのではないかと思う。
    そして試行錯誤しているうちに、最終回を迎えてしまった。

    読後残ったのは、桐野の無能ぶりや山縣の陰湿さなど、かえって、周囲の人間の像である。
    あと、最初の方に出てきた女の意味のなさ。

    作品全体の評価はかくのとおりだが、
    本巻は、ようやくのところ情緒的な部分が見えた。
    というか、見えざるを得ない。
    最後の50Pで、西郷、桐野、大久保、川路が斃れていったのだから。
    悲劇的な結末自体は、史実ということもあるが、やはりカタルシスを感じた。

    しかし、それだけのために6ヶ月を投じてきたのかと思うと、やはりなんだかやるせない。

  • 「翔ぶが如く(10)」(司馬遼太郎)を読んだ。

    最後に死ぬためだけに走り出した彼の胸中を思うとき、虚しさだけが降り積もる砂のように私の胸の中を満たしていくのな。
    『鹿児島旧城下は桜島という光源があざやかでない日は、べつの街のように陰鬱な表情をみせるのである。』(翔ぶが如く(7)本文より)

    この長い物語を読み終わった今、
    「いつかきっと桜島をこの目で見に行こう。」
    私はそう強く心に誓った。

  • とにかく長く、特に原文表記の箇所などは流し読みしてしまった所も多い。それでも読み終わってみると、維新後10年の激動の余韻の一部に触れられた感がある。
    日本史の授業において、西郷隆盛や西南戦争については、その歴史的意義とは裏腹にそこまで大きくは取り上げられない。それは、当時の人々にとっての西郷隆盛という人物の持つ神話性や、薩摩藩固有の価値観、西郷と大久保の個人的感情など、幾多の事物が絡み合って勃発した西南戦争に至るまでの過程を語るのは困難の極みであることの表れなのだろう。
    武士の時代と近代国家の血生臭いぶつかり合いを丁寧に描き切った巨作。

  • 全十巻を読み終えた。
    実をいうと今回は初読ではなく再読である。
    日本の歴史の中でも最大の転換となった明治維新を成した傑人たち、そしてその当人たちが意識せずに起こした維新の幕引きとなる西南戦争を描いた、この「翔ぶが如く」。
    この作品は「小説」というだけではあらわし切れないものがあると感じている。史実、そして登場人物の機微、著者の所感と探究心。いってみれば「小説」でもあり「随筆」でもあり「歴史書」でもあるのではないかと感じてしまう。
    このあたりが司馬さんの描いた「翔ぶが如く」のスケール大きさ、また、ちょうど良い細やかさなのだろう。
    西郷隆盛、大久保利通、その他の登場人物の「己の正義」に心がつき動かされる思いがするが、それ以上に司馬さんの素晴らしさが感じられる。

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著者プロフィール

司馬遼太郎(1923-1996)小説家。作家。評論家。大阪市生れ。大阪外語学校蒙古語科卒。産経新聞文化部に勤めていた1960(昭和35)年、『梟の城』で直木賞受賞。以後、歴史小説を次々に発表。1966年に『竜馬がゆく』『国盗り物語』で菊池寛賞受賞。ほかの受賞作も多数。1993(平成5)年に文化勲章受章。“司馬史観”とよばれ独自の歴史の見方が大きな影響を及ぼした。『街道をゆく』の連載半ばで急逝。享年72。『司馬遼太郎全集』(全68巻)がある。

「2020年 『シベリア記 遙かなる旅の原点』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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