驕れる白人と闘うための日本近代史 (文春文庫 ま 21-1)

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  • / ISBN・EAN: 9784167753054

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  • ヨーロッパ、アメリカ社会が契約、条約、マネーで世界を掌握していったのか。
    それに立ち向かうには日本の縦と横の糸を知る必要がある

    縦=鎖国時代の基調な経験
    横糸=西洋化
    物事を決めるのに時間がかかる。コンセンサスが基本。個人が職業を選ぶときも、一生を託す仕事と自覚して時間をかけて決める。なので、会社や組合単位でなかなか合理性を見出すことができない
    日本人は言葉で明確かつ簡潔に表現することが苦手。異なる意見を持っている者に対して、冷静に言葉で防衛するという能力を培っていない。
    日本人は「大勢追従主義」を手放し、日本人の均質的な行動を手放し、自我をもつこと。
    そのために今一度縦糸を見なす必要がある。

  •  江戸幕府時代に鎖国していた日本は、ヨーロッパよりも遅れており、開国し欧米諸国が入ってきて、援助したからこそ近代化した。西洋人が苦労して勝ち得た技術を、ポッと出の日本が横取りして世界の表舞台に出てきたことが気に食わない。というのがヨーロッパ人から見た日本。そもそも西洋人は自分達が世界の中心だと思っている。自分達と違う人は劣っている。だから未開の地に行って搾取するのは当然のこと。技術の供与やキリスト教の布教をしてあげた分感謝して欲しいと思っているくらい。
     しかし鎖国前から日本は識字率が高く、飛脚や寺子屋といった郵便や学校の元となる下地が既にあった。だからこそ技術を取り入れることができた。植民地化されて搾取されるだけの国にならず、独自の発展を遂げることができた。

     ヨーロッパは陸続き、貧富の差を解消するためには、隣国に打って出るのが常。日本は島国であり、打って出る相手がいなかった。内乱を防がないと自滅するため、国内で問題解決しなければならなかった。実際にヨーロッパでは戦乱が絶えなかったが、鎖国中の日本では戦乱や一揆などはほぼ皆無であった。自然災害による飢饉が引き金になることはあっても、人為的に起こる戦乱は無かったとされている。
     日本では開国して一気に内乱が増えた。ヨーロッパの考えに基づいた農地改革がされ、これまで士農工商で豊かだった農民が、富裕層に搾取されるだけの弱者になってしまった。

     ヨーロッパはインドや中国に進出してきた際に、貿易赤字に陥った。貿易黒字にするために、奴隷を輸出したりもした。最終的には徹底的にインドや中国を潰した。攻撃し、産業を破壊し、ヨーロッパへの原料産出国としてのみ活用する。自国で生産できないようにすれば、ヨーロッパで加工したものを植民地に売りつけられる、というシステムを編み出した。アヘン戦争などもヨーロッパの戦略である。
     江戸幕府はそれを見て恐れた、最初は友好的であっても、一度開国したら根こそぎやられる、という恐怖から開国を拒んだが、攻撃に耐えきれず開国する。平等だと言われた通商条約は全く平等ではなく、領事裁判権、関税、換金率などで日本は大きな痛手を受けた。日本人が殺されても裁けず、逆行して西洋人を殺害すると、街全体が砲撃される。人々の不満が募り幕府は崩壊する。新政府は天皇を中心とした明治政府になる。
     明治政府は今の苦しみは全て幕府のせい、と幕府をスケープゴートにした。西洋を見習うべきだ、日本は恥ずべきだから耐えて忍んで、いつか西洋に肩を並べるのだと言い聞かせた。西洋が優れていると叩き込まれた日本人は、日本を卑下するようになった。
     日本は第一次世界大戦、日露戦争で西洋諸国にその地位を認められ、朝鮮侵略で西洋と同じことをしてしまう。西洋人に習い植民地化する側に回った。第二次世界大戦で敗戦すると、逆に西洋人に諌められ、争わない誓いをすることになったのは皮肉でもある。そもそも植民地や戦乱を持ち込んだのは西洋人の風習であったのだが。

  • なんとなく欧米は進んでいて良いものだというイメージで語られがちであるが,まぁなんと残酷な歴史を持っているのだろう。弱肉強食,目的のためには手段を選ばず,生き残りと繁栄をかけてきた民族の子孫だ。繁栄するためには搾取する側に回り,搾取する対象を作る。こんな民族にヘラヘラ追従しているようなら力で屈服させられる。過去に日本は,力の圧倒的な差によって危険にさらされ,彼らの価値観(黄色人種の未開人の異教徒)ややり方(力にものを言わせて屈服させる,動物以下)を学び,戦争を経て,今のフワフワした,彼らの価値観に染まって自国の歴史に根付かない(根付けない)民になっている。もしかしたら,これは彼らの長期的な戦略なのかもしれないと思うと恐ろしい。
    読み進めていくうちに「がんばれ日本!」となってくる。欧米列強が平和に過ごしている日本に迫り,いいようにやられ,その後50年かけて状況を改善しようと欧米列強に追いつく。その先は帝国主義に陥り,戦争に負け,美辞麗句の下に拠って立つ歴史や文化の価値を自発的に失うよういいようにやられてしまう。歴史という縦糸が切れてしまえば,時代という横糸で模様は作れない。平和な時代だからこそ,歴史を謙虚に見つめ,次に伝えていく必要があるのだろう。

  • 幕末時代、帝国主義、植民地主義的な欧米列強から圧倒的な軍事力を背景とした圧力を受け、領事裁判権や関税自主権の放棄など不平等条約を結ばされ、国を蹂躙された日本。そしてそれを反面教師として欧米を猿真似し富国強兵に努め、逆に朝鮮に対しかつて日本がされたことと全く同じことをした日本。
    欧米では、キリスト教という一神教のもと、一つの教義を絶対的真理として強制されたヨーロッパにおいて、反論の精神が台頭し、言葉によって自分を防御し相手を攻撃する必要があった。日本人は言葉の使い方が不得手だがそもそもその必要がなかった。

    ・近代化を妨げる恐らく最大の問題は、富の不平等な分配である。一握りの上層階級が富の大部分を独占する限り、需要は偏ったものになる。そのような社会には希望と言うものが生まれない。経済的な豊かさと購買力が広く行き渡っていることが、工業化のための前提条件である。数世代にわたって、貧富の差が拡大することを食い止める効果的なメカニズムが、経済の仕組みの中に組み込まれていなければ、その社会はあっという間に、破局へと雪崩れ込んでいくだろう。無産階級が破滅の淵へと追い込まれ、生き延びる望みを失った時、彼らは暴力へと手を伸ばす。貧困、嫉妬、そして社会の不正に対する怒りが、常に革命の最大の温床であった。日本には革命がなかった。なぜか、という問いにはたくさんの答えが可能であるが、結局日本ほど、貧富の差、上層と下層の差が極端でない国は、世界のどこの国、どこの民族にもないと言うことである。

  • 暗澹たる気分 不平等条約の実態。
    正論だけに読むのが辛い。自分の無知、
    自国への輸入には高い関税で保護

  • ●「欧米人の『優越意識』に決然と闘いを挑んだ書」とのこと。開国以前の遅れた日本が一足飛びに近代化を成し遂げたのは、江戸時代にはそのための下地がすでにできていた。

  • 原作はドイツ語にて1989年に出版。
    時代背景が違うのでなんとも言えないが、”日本素晴らしい”のパイオニア的書物になるのか・・な。ところどころ説得力のあるロジックで白人に物申している一方、データに乏しい所為か、日本で日本の歴史を学んだ日本人にも時々?となる部分がある気がする。

    とはいえ、この時代や著者が生活していた環境を考えるとこのぐらい強く言い返したくなったのかもしれない。

  • <目次>
    訳者まえがき
    序章 「西洋の技術と東洋の魅力」
    第一章 世界の端で 「取るに足らない国」だった日本
    第二章 劣等民族か超人か 「五百年の遅れと奇跡の近代化」という思い込み
    第三章 草の根民主主義 江戸時代の農民は「農奴」ではなかった
    第四章 税のかからない商売 商人は独自の発展を遂げていた
    第五章 金と権力の分離 サムライは官僚だった
    第六章 一人の紳士 初代イギリス駐日公使・オールコックが見た日本
    第七章 誰のものでもない農地 欧米式の「農地改革」が日本に大地主を生んだ
    第八章 大砲とコークス 日本はなぜ「自発的に」近代化しなかったのか
    第九章 高潔な動機 「白人奴隷」を商品にしたヨーロッパの海外進出
    第十章 通商条約の恐ろしさ 日本はなぜ欧米との「通商関係」を恐れたか
    第十一章 茶の値段 アヘンは「中国古来の風習」だと信じている欧米人
    第十二章 ゴールドラッシュの外交官 不平等条約で日本は罠に陥った
    第十三章 狙った値上げ 関税自主権がなかったために
    第十四章 顎ひげとブーツ 欧米と対等になろうとした明治政府
    第十五章 猿の踊り 日本が欧米から学んだ「武力の政治」
    第十六章 たて糸とよこ糸 今なお生きる鎖国時代の心
    著者あとがき
    参考文献

    ***

    「我々の歴史こそ世界史であり、あらゆる民族は我々の文明の恩恵に浴することで後進性から救われてきた」――そんな欧米人の歴史観・世界観に対し、日本近代史に新たな角度から光を当てることで真っ向から闘いを挑む。刊行当時、ドイツで大きな物議を醸した本書は、同時に、自信を失った日本人への痛烈な叱咤にもなっている。
    (本書カバーより)

    ***

    著者の『日本の知恵 ヨーロッパの知恵』よりも、こちらのほうが読むにはいいかなと思いました。
    原著の出版が1989年であることを考えると、『日本の知恵 ヨーロッパの知恵』と同じく、当時の社会では斬新な切り口であったのかな、という気はしますが、翻訳版が2000年代の出版であることを考えると、もう少し補足があっても良かったのではないかと思います。

    前著で残念だな、と思った、海外生活が長いという著者の強みを多少活かしている(海外文献の参照、紹介など)と感じましたが、それでも日本のことについては随分具体的な数値(記載されている参考文献をみるに、ここからの引用であることは明らかですが)をあげられているのに、海外の件については抽象的な物言いに留まっているのが引っかかります。

    前著もそうですが、この書きっぷりでは文化史学という博士号までとっているという著者の肩書が逆に肩透かしな感じがして個人的に残念でした。個人的体験を通り越し、まるで妄想の感情論のようだと感じてしまう部分が多々あったからです。

    しかし、私がこう感じるのが1980年代からの総体的な人々の認識の変化だということであれば、ある意味で著者が訴えていた物事が社会に浸透したということなのかもしれません。

  • 如何に学校で教えられる歴史が事実に基づかないものかという事を嫌と言うほど知らされる本。事実は恐ろしい。

  • この著書が凄いのは、ドイツ語で出版されたのが日本での出版より、先だという事だ。日本の事を日本人向けに、いかに我々は優秀な民族か主張する書物は多い。しかし、身内で褒め合って、それが何だと言うのだ。確かに、自虐史観から頭を切り替えるのに、必要な事かも知れない。しかし、一方的な弁論に、偏った頭を真逆に偏らせるだけの結果になりはしないか。

    外国人と比べれば、日本人には明らかに特徴がある。良い所も、悪い所も。また、現代の普遍的価値感が確立する以前、人間はかなりの過ちを犯している。過ちの歴史において、日本人の特徴。なるべくして、紡がれた過去がある事を、自嘲せす、誇張せず、我々は認識すべきなのである。

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