心にナイフをしのばせて (文春文庫 お 28-3)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (325ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167753672

作品紹介・あらすじ

「あいつをめちゃめちゃにしてやりたい」-。40年近くの年月を経ても、被害者はあの事件を引きずっていた。歳月は遺族たちを癒さない。そのことを私たちは肝に銘じておくべきだと思う。『ナツコ 沖縄密貿易の女王』で大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した著者の、司法を大きく変えた執念のルポルタージュ。

感想・レビュー・書評

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  • 少年犯罪のフィクションかと思って読んでいたら、1969年に実際に起きた事件のルポで驚いた。
    28年前の酒鬼薔薇となる、高校生の同級生殺人事件。胸や背中、顔など全身を47ヶ所をめった刺しされた上に、首を切り落とした凄惨な事件が起きた。

    酒鬼薔薇事件をきっかけに、取材を進め被害者家族のその後を書き綴ったもの。
    当時15歳であった息子を殺された両親も、妹もあの日から心を殺されたままになっていた。
    精神的に不安定になった母親の世話、自分が兄の代わりに死ねば良かったとリストカットを繰り返した妹、誰よりも家族を支え涙を見せずに頑張り続けた父に癌が見つかる。
    父の最期の描写は涙がこらえきれなかった。
    フィクションではないからこその、被害者家族のやり場の無い怒りや悲しみがページをめくる手を止める。
    敢えて★マークを付けて感想を書くべきでは無いと思った。

    • NORAxxさん
      奏悟さん、こんばんは。
      「酒鬼薔薇事件」は様々な小説でもちらほら名前を見かけます。気になって調べた事もありますが当時の私は現実に目を向ける事...
      奏悟さん、こんばんは。
      「酒鬼薔薇事件」は様々な小説でもちらほら名前を見かけます。気になって調べた事もありますが当時の私は現実に目を向ける事が出来ず概要をざっくりとしか知りません。
      そしてこの作品も一時は積読本として本棚にいたはずなのに、やはりその事実に触れるのを恐れ手放してしまいました。
      今回、奏悟さんのレビューを見て大人になったあちしは意を決して手に取りたいと思います。素敵な感想で背中を押してくれてありがとうございます!!
      2022/04/21
    • 奏悟さん
      NORAさん

      今回この本を読むまで自分の生まれる前にも、このような凄惨な事件が既に起きていたことに衝撃を受けました。
      少年Aは、被害者だけ...
      NORAさん

      今回この本を読むまで自分の生まれる前にも、このような凄惨な事件が既に起きていたことに衝撃を受けました。
      少年Aは、被害者だけでは無く被害者家族の人生までもを奪っています。
      なかなか精神的に来る内容なので、心が元気な時に読むのをおすすめします~(;_;)
      私の拙いレビューが、NORAさんの背中を押せたのなら幸いです!
      2022/04/22
  • 1969年高校生首切り殺人事件という、実在する少年犯罪の被害者遺族にスポットを当てたルポタージュ。
    この本の出版後、犯罪被害者支援制度を変える契機になったとの事。

    欠陥だらけの法律である少年法を振りかざし、加害者の更正に力を注ぐよりも、命も未来も日常も奪われてしまった被害者遺族の人権を損なう事なく、心のケアに重きを置いてほしいと願う。
    本当に守られるべきものは何かを、今一度深く考えていきたい。

  • 1969年に起きた高校生首切り殺人事件を長年の追跡調査によって明らかにしたルポ。一部、著者への批判があるものの、犯罪被害者等の心情を赤裸々にする。いじめ、更生、レジリエンス...。言い切れない事の重大さ。少年Aはその後、弁護士として活躍するもこの著書によって消息不明に...。自身が当事者となった時に迫られる決断。そう簡単に答えなど出せないが、考え、行動し続けるしかない...。

  • 全体を通して、被害者側の家庭の中が描かれています。
    繰り返しも多くとても読みづらい。

    事件の詳細から現在に至る加害者側の読みものと勘違いして読み始めたので、間違えました。

    被害者家族の母親はちょっと問題ある。
    妹や父親が不憫。
    元々この家族はうちに秘めた問題点があったように思う。
    事件をきっかけに放出された感じ。
    個人的に何かに依存しなくては生きられない女性に嫌悪感あるので、この母親は個人的に人として好感持てない。

    また、加害者への苛めがあったかという点は、被害者側の守りに入っているため正確性がないように思う。
    ノンフィクションを謳うなら被害者側、加害者側両側面から取材してほしい。

    殺人はもちろん絶対ダメなのは前提で、加害者側が極限状態の中の殺意なのかが気になるところ。
    自分が死ぬか、相手を殺すか。
    それでなければこのイジメは終わらないと感じでいたのか…
    イジメなのかイジリなのかって、今でも課題になる難しいところ。

    それから酒鬼薔薇がなぜ?出てきたの?
    引き合いに出さなくてもいいのでは?
    全く共通点はありませんから。

    犯罪心理学などに興味がある場合、この本は全く参考にはなりません。

  • 大切な家族を、ある日突然誰かに殺されてしまったら。
    こういう想像を、軽くでなく真剣に我が事として考えてみるひとはいないだろうと思う。
    ひとは、殺人事件になど巻き込まれないと根拠もなく思い込んでいる。わたしを含めて。

    本書は、高校生になった少年が同級生に無残に殺された事件の被害者を丁寧に取材して書かれた一冊だ。
    こういった事件が起きると、わたしたちの関心は加害者の心情や背景にばかり行きがちだ。
    そういったものを知ることにより、自分や自分の関係者が加害者にならない術を見つけたい。わたしはそう思うことと、単純な好奇心から事件を扱うルポルタージュをよく読む。
    でも結局いつも、加害者の心情を知っても理解が出来たことなどまず無い。
    例えば誰かに絡まれて、振りほどいた手が強すぎたためか相手が転倒して頭を打って死んだ。
    こういった偶発的な殺人事件なら、どっちが被害者だかわからないということなどから加害者の気持ちも理解しやすい。
    しかし、はなから殺すつもり、それも恨みとかいったものでなく単に殺したいからという理由で殺人を犯せる人間の気持ちなど理解出来るわけがない。理解出来たときは、きっと自分も同じことをしているだろうから。

    本書で扱うのは加害者側でなく、被害者遺族だ。
    ここに本書を読んでおいたほうがいいと言える価値がある。
    殺された少年はとてもいい子で、といった被害者賛美で終わるのでなく、遺された家族の終わることのない苦しみが描かれていることが大切だ。
    事件を報道によって知った人間が、事件のことを忘れてしまっても被害者の苦しみは形を変えながらつづく。
    本書で扱うように、加害者が少年なら尚更悲惨なことだろう。
    僅か数年で加害者は何も無かった顔で社会に戻ってしまう。更生したということにされて。

    更生は、目に見えるものではないし、数値で表されるものでもない、試験もないのに何を基準に判断するのだろう。
    被害者遺族に、更生を認めますと決める権利もない。
    制度ありきの日本のやり方は、被害者遺族に皺がより過ぎている。

    本書は、司法にも一石を投じた一冊だ。
    ルポルタージュなら中立であることが前提だとは思うが、亡くなったひとは言い訳も出来ないのだから、どちらかに比重を置くなら被害者側だろうと思う。
    加害者の更生や社会復帰といった過剰な人権保護ばかりで、被害者遺族は置き去りという我が国の状況を僅かながらでも改善させるきっかけを作った。
    ひとを殺した人間には手厚く保護をするのに、殺された側の人間は勝手に乗り越えろということには憤りしかない。
    わたしは最近になって本書の存在を知ったのだが、ひとりでも多くのひとに読んでもらい、被害者遺族の気持ちを忖度することから始めてもらえたらと思う。

  • 被害者遺族の話で、思ったのとちょっと違うなと感じ、なかなか読み進められませんでした。もう少し迫力のある内容かと思いましたが被害者側の淡々とした内容が多すぎるし、つまらなかった。

  • ビブリオバトルで紹介があって読みました。

    つらい。つらいなぁ。

    神戸酒鬼薔薇事件の27年前に起きたサレジオ高校での少年による殺人事件を題材として、被害者遺族の思いを聞き取り綴っていったルポです。この本に書かれている事件も酒鬼薔薇事件も、どちらも殺人事件であること、犯人は少年法によって裁かれたこと、そしてその後「更生した」と認められた上で社会生活を送っているという点では共通しています。
    しかし、このルポを読むと「更生とは何か?」「罪を償うとはどういうことなのか?」について、大変考え込まされます。そして、かつての日本がいかに被害者遺族を置き去りにしてきた国だったかということを強く感じずにはいられなくなりました。

    「この本は司法を変えた本」だとあとがきにあります。出版されてから10年以上経った2016年の今、果たして被害者遺族をサポートする制度は整っているといえるのだろうか。司法は本当に被害者遺族の心の傷と向き合ってきたのだろうか。日本人一人ひとりが、「本当の意味で罪を償う」ということをどれだけ真剣に考えてきたのだろうか。しっかり確かめなければならない、現在進行形の問題として注視していきたいと思います。

  • ノンフィクション名乗ってる割には、筆者の気持ちが前面に出ていてうっとうしいです。加害者が異常な神経の持ち主で、全く反省していないと決め付けているのは問題。精神鑑定書を都合のいいように引用しているのも問題。加害者について少しでも言及するのであれば、被害者家族にしたように、丁寧に取材し考察を加えるべきだったと思う。無理だったとは思うけど。筆者の、被害者家族への接触の仕方も結構ひどい。インタビューの内容に筆者の取材内容を加えて構成し、独白形式にしたものがノンフィクションと呼べるのか、疑問。あと読みにくい。

  • いろんな人間関係(犯人と家族、両親と娘、記者と家族)が一つ一つすごく生々しく書かれている。
    犯人を恨みはじめたらおわりというような感覚は、分かるようできっと遺族の方にしか分からないんだろうな

  • まだまだ被害者保護意識の薄い時に、家族というものが崩壊寸前で持ちこたえたのは奇跡的ではないか。犯人 A についてはその実像が見えずフェアとは言えないものの、被害者家族の現実だけでもショッキング。「心のナイフ」を持ち続けているのが、被害者というのは気の毒でならない。

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著者プロフィール

奥野 修司(おくの しゅうじ)
大阪府出身。立命館大学経済学部卒業。
1978年より移民史研究者で評論家の藤崎康夫に師事して南米で日系移民調査を行う。
帰国後、フリージャーナリストとして女性誌などに執筆。
1998年「28年前の『酒鬼薔薇』は今」(文藝春秋1997年12月号)で、第4回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞受賞。
2006年『ナツコ 沖縄密貿易の女王』で、第27回講談社ノンフィクション賞・第37回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。
同年発行の『心にナイフをしのばせて』は高校生首切り殺人事件を取り上げ、8万部を超えるベストセラーとなった。
「ねじれた絆―赤ちゃん取り違え事件の十七年」は25年、「ナツコ 沖縄密貿易の女王」は12年と、長期間取材を行った作品が多い。
2011年3月11日の東北太平洋沖地震の取材過程で、被災児童のメンタルケアの必要性を感じ取り、支援金を募って、児童達の学期休みに
沖縄のホームステイへ招くティーダキッズプロジェクトを推進している。
2014年度より大宅壮一ノンフィクション賞選考委員(雑誌部門)。

「2023年 『102歳の医師が教えてくれた満足な生と死』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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