目からハム シモネッタのイタリア人間喜劇 (文春文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167801588

感想・レビュー・書評

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  • イタリアでは「目からうろこ」を「目からハム」と表現するそう。シモネッタこと田丸公美子さんの著書も三冊目となりました。今回もテンポよく展開するイタリア人間喜劇から、いろいろ勉強させていただきました。

    発言者は自分の本意が正確に通訳されているのか常に疑心暗鬼の状態です。その疑いをできるだけ早く晴らすのが、後の仕事をやりやすくするコツ。まずは、●メモとり。記憶力に絶対の自信があるとしても、メモは取るべき。「何一つ落とさず伝えますよ」というデモンストレーションは発言者を安心させます。そして、●細部の再現。発言者にもわかる単語、または列挙した部分などは落とさず、特に正確に訳すこと。

    「今シーズン多用したのは、モヘア、アルパカ、ピュアウール、コットンウール、ヴィスコース」と落とさず列挙してデザイナーの信頼を勝ち得た通訳が紹介されていましたし、著者自身も同様の経験をしています。デザイナーが「『ヴィア・ボルゴスペッソ21』にある私のアトリエで... 」と住所まで言ったのを、彼女のそばで『21』と素早く書き留めた田丸さん。通りの名前がはっきり発音されるのを聞いた彼女は「ブラーヴァ!」と呟きました。

    確かに、発言者には本筋のニュアンスを上手く訳していることをチェックするのは不可能です。無意味な細部もおろそかにしていないことを相手にも確認できる方法で見せるのが、最も手っ取り早いアピールになります。後にそのデザイナーは「今までと同じ質問が出たら、あなたが適当に答えて頂戴」とまで田丸さんを信頼するようになったのだそうです。

    「パーネ・アモーレ」で紹介されていた、●通訳は単語に対し常に複数の訳語のストックがある、を再確認したエピソードもありました。とあるデザイン・コンペの審査会。イタリア人建築家が審査員が選んだ作品に異議を申し立てます。「これは『形態をは機能に従う』を信条とする "vecchio razionalista" の私には到底容認できないデザインです。」以下引用。

    私が逡巡したのは "vecchio" の訳語だ。彼は六十八歳だが、年齢に関わらず「老いた」という訳語が禁句であるのは明白だ。... 彼は、古い教条主義の印象を与えるのを承知の上でこれを引用し、近代合理主義を堅持する意地と気骨を見せたのだ。私は一瞬「生粋の」にするか迷った。そして最終判断を下した。「筋金入りの」合理主義者を自負する私には... "vecchia" な (筋金入りの) 言葉職人を標榜する "vecchia" な (年老いた) 私は日々反射能力が衰える "vecchio" な (古い) 脳と毎日戦っているのだ。

  • イタリア語通訳の著者が語る、イタリアの言葉、人、文化。
    下ネタ含有率七割笑
    イタリアが好きな人、行ったことがある人、イタリア語を嗜んでいる人、言葉や異文化に興味がある人はぜひ。

    文化や考え方の違いを言葉の面から見ていて、
    批判的ではなく、かといってイタリア・日本どちらに肩入れすることもなくフラットに話しているのですんなり受け止められる。
    ただ視線は柔らかいけど切り口はシビア。
    女性が働くことや通訳という立場の難しさも書かれている。

    商業通訳としてビジネスの場面でのエピソード多め。
    そして仕事上の失敗談や成功談、素敵なビジネスマンや、もう二度とお断りという客の話などは職種を超えて理解できるものがある。
    学ぶ(自分の感性を高める)、働く(社会に自分の能力を還元する)とはこういう姿勢で臨むべきだと、そこはかとなく感じられる。
    特に『通訳は一日にして成らず』はとても示唆に富んでいて、
    下手なビジネス書を10冊読むより学べるかも。
    猿でもわかる表現に毒されている人は、国語の復習をした方がいいかもしれないけど…。

    声に出して読みたいイタリア語的要素あり。
    イタリア人とお話してみたくなりました。

  • イタリア語の通訳の田丸公美子さんによるエッセイ集。
    田丸さんの文章は、心にすーっと入ってきて、とても好き!本書も読み応えがあり、面白くて、数時間で読破。

    異文化を学ぶ学生だけでなく社会人にこそ読んでほしい一冊です。

    学生時代の観光ガイドの話など、その後の社会人生を示す最たるものに感じます。掴みが大事。要点を伝えつつ、ユーモアを交えて情報を伝えるとその後の進行がとーっても楽になる。イタリア人は女性好きとはいえ、日本社会でも同じことが言える気がします。

    また、外国語を学ぶには、外国語だけでなくそれより先に母国語を大切にしマスターしてこそ意味があるという点も至極納得しました。外国語でコミュニケーションをとっていると、「日本はどうなの?」「なぜそう思うのか?」など母国を知らずには会話できないレベルで日本のことを聞かれます。流暢に外国語を話せるひとはいるいると思いますが、母国語をマスターしていないと他国の人と深い話はできないだろうなーと思います。


  • 著者はイタリア語同時通訳をされている方。
    仕事で出会った様々なイタリア人たちのことを書いたエッセイ集。

    イタリア男性の女性への態度。
    もう、そういう文化で育ってきた方々なので、当たり前にやっているだけのことなんだろうなあ。
    「女性には優しく、褒め称える(それがどんな女性であっても)」

    日本人的にはつい勘違いしちゃいそうだな・・・。
    (いや、たまには本気のアプローチもあるでしょうが)

  •  米原万里さんによれば、筆者はイタリア語通訳の大横綱。この本で明かされているように、いまやイタリア語の翻訳が出来る人は多くいるのだけど、同時通訳が出来る人となるといまだに少ないままだという。つまり大関も関脇も居ないなか、長年横綱の地位で君臨し続けるのが、シモネッタ様ということになる。

     本書は、20年30年とイタリア語の通訳に携わってきた筆者による、現場からの比較文化論とでもいうべき内容になっている。cazzo(男性器)をはじめ感嘆詞が豊富な国イタリア。女性に優しい国イタリア。そんなイメージを裏付ける逸話も多いのだが、それとは違った一面も垣間見える。

     「懐かしい方々とのご歓談をお楽しみください」という日本らしい挨拶に「sono i fatti miei(いらんお世話だ)」と切り返すイタリア人。なぜあなたが私の行動を指図するのだということらしい(他人と同一であることをひどく嫌うイタリア人の考えに私が少なからず共感してしまうのは、私に日本人らしい心が欠けているということだろうか……)。

     じつは男性に対してはけっこう厳しい。筆者が旅行ガイドをしていた頃、男性のガイドとふたりでそれぞれバスを担当することになっていたのだが、ほとんどが筆者の方へ流れてしまったという。情け容赦もあったものではない。

     しかし筆者もイタリア語の通訳として後続の無いトップを走り続け、女性として見られていた自分への視線に変化を感じたという。前著「パーネ・アモーレ」に比べるとどうしても前著の「これぞシモネッタ様!」という感じが薄れているのは、そのあたりに理由があるのかもしれない。

     本書は下ネタが薄れた代わりに、また違った魅力がある。通訳としての経験は通訳を志す人に役立つものであろうし、その信頼の仕事術は通訳に限らず多くの社会人にとっても目指すべき姿勢に違いない。こんな実際的な部分を強調せずとも、そもそも通訳の経験は多くの人にはまったく無縁のものなのだから極めて面白い。さらに言語や文化に関する考察が増え、読んでいて考えさせられるという点でも筆者の変化を感じる。

     ただ、それでも、またシモネッタ節を……と願ってしまうのは、欲張りすぎなのかもしれない。

  • シモネッタことイタリア語通訳田丸久美子さんのエッセイ集。通訳/翻訳者のエッセイは深い教養と幅広い異文化体験の背景もあり、たいてい面白い。
    しかし、この人生を楽しみまくっているイタリア人より一人当たりGNPが低くなる日が来ようとは…

  • 彼女のストーリーには必ず最後に自虐的なオチがある。

  • こんな上司に認められる部下になりたい!

  •  面白いです。読んでもらえば 分かります。

  • 笑い有り、少しホロリくるイタリア・ワールド。気軽に好きなページから読んで笑えます。ヤマガッタン

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著者プロフィール

(たまる・くみこ)
広島県出身。東京外国語大学イタリア語学科卒業。イタリア語同時通訳の第一人者であり、エッセイスト。大学在学中から来日イタリア人のガイドを始めた。著書に『パーネ・アモーレ―イタリア語通訳奮闘記』『シモネッタのデカメロン イタリア的恋愛のススメ 』『シモネッタの本能三昧イタリア紀行』『 シモネッタのドラゴン姥桜』『シモネッタの男と女』イタリア語通訳狂想曲 シモネッタのアマルコルド』などがある。軽妙で味わい深いエッセイのファンは多い。

「2014年 『シモネッタのどこまでいっても男と女』 で使われていた紹介文から引用しています。」

田丸公美子の作品

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