明日のことは知らず 髪結い伊三次捕物余話 (文春文庫 う 11-19 髪結い伊三次捕物余話)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (293ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167902728

作品紹介・あらすじ

デビュー二十年! 大人気シリーズ第十一弾伊与太が秘かに憧れて、絵にも描いていた女が死んだ。しかし葬式の直後、彼女の夫は別の女と遊んでいた……。江戸の人情を円熟の筆致で伝えてくれる大人気シリーズ第十一弾!

感想・レビュー・書評

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  • シリーズ11作め。
    作者はデビュー20周年だったそうです。

    廻り髪結いの伊三次は、町方同心の不破親子の手伝いもつとめているため、捕物にも関わっています。
    だんだん、若い世代の話が増えていましたが。
    今回は伊三次の出番が続き、女房で芸者のお文姐さんのいいシーンもあって、古くからのファンも満足する短編連作となっています。

    「あやめ供養」
    伊三次が髪結いに行ったことのある町医者の家族に事件が起こり、容疑者として直次郎の名が。
    久々の再会に驚く伊三次。
    直次郎はすっかり良い父親になっているようなのだが?

    「赤い花」
    魚問屋の末娘は、大柄な男勝りで店にも出て働いている。
    そんな娘に、縁談が‥?

    「赤のまんまに魚そえて」
    伊三次の弟子の九兵衛に、髪結いに持っていく台箱を誂えてもらうことに。祝いの席の準備が始まります。
    老舗の若旦那の髪を急に頼まれた伊三次だが‥

    「明日のことは知らず」
    伊三次の息子の伊代太が通りがかりに見かけ、ほのかに憧れていた女性の身に何が‥
    一方、大名家に奉公に出ている不破の娘・茜は、後継ぎの若様の世話をしていました。身体の弱い少年の覚悟と諦念と優しさ。
    離れている二人が、ふと互いを想う。

    人情味ある展開で、しみじみ。
    文庫化された2012年、作者は闘病中で、惜しくもその後亡くなられました。
    まだ読んでいない作品を少しずつ読んでいきます。

  •  宇江佐真理「明日のことは知らず」、2012.8刊行、2015.1文庫。刊行日から、髪結い伊三次捕物余話シリーズ№11と思います。6話が収録されてます。第2話「赤い花」での九兵衛26歳と男勝り魚屋のおてん18歳のやりとり、楽しいです。第4話「明日のことは知らず」では、離れ離れになった伊与太と茜のそれぞれの暮しと思いが。第5話「やぶ柑子」では、久々にお文の啖呵が(^-^) 文庫のあとがきで、宇江佐真理さん、デビュー20周年と。そして、体調はタイトルと同じ、「明日のことは知らず」だそうです。頑張って下さい!

  • この巻は伊三次の弟子の九兵衛の巻でした。
    『あやめ供養』で事件を解決した伊三次は、礼がしたいという町医者松浦桂庵に弟子の九兵衛のための台箱(道具箱)をねだります。
    そしてその九兵衛に縁談が舞い込む『赤い花』。
    その相手は魚問屋のおてんちゃん。男勝りどころか中身はほとんど男だという。
    おてんちゃんが娘らしくなるまで待ってやれという伊三次。
    九兵衛もいつの間にかお嫁さんの話がでるくらい大人になったのだなぁと、このシリーズの経てきた年月を思いました。
    そして悲しいことが一つ。不破龍之進の妻、きいが流産したのです。
    偶然きいと会った伊三次は慰めますが、きいの心はまだ癒えなそうです。

    九兵衛の台箱が出来上がり、伊三次は“道具開き”として祝いの席を設けることにします。その準備の間にも事件が起きる『赤のまんまに魚そえて』。
    道具開きの席で用意された赤飯と鯛を、若旦那のために罪を被ろうとしている女中のあさに差し入れした伊三次。
    それによってあさは…。
    人の情けが心を動かします。

    『やぶ柑子』は藩がお取り潰しになり浪人になった夫婦の話です。
    伊三次の家の女中おふさが住んでいる裏店に引っ越してきたその夫婦。伝手を頼ってどうにか士官の口を探しているのですが…・
    その旦那様が良い人で、後にお文が「まるで神さんみたいなお人さ」と言ったぐらいです。
    幸せになって良かったと思いました。
    この巻の中で一番印象に残った話でした。

  • 明日のことは誰にもわからない。思いもよらず幸せが訪れたり、突然の災難にあったり。そんな人生の機微を人情味たっぷりに描く人気シリーズ。
    四十の声を聞き、伊三次の性格も丸くなって涙脆くなってきた。自身の子供の成長に親ながら驚き、親しい人物の訃報に嘆く。時代は違うといえども、この年齢になると思うところは一緒なんだなあと思う。

  • 伊三次の弟子、九兵衛が中心なのか、
    梅床を飛び出しかけたり、
    嫁の話が来たり、
    伊三次の手柄で台箱をあつらえてもらったりと忙しい。

    娘のお吉が女髪結いになりたいと言ったり、
    懐かしい直次郎が登場したり、
    茜がお勤めを頑張っていて、
    伊与太も師匠の元に戻って絵師としての修業を続けていたりといろいろあったが、
    なにより、
    小者として伊三次がいろいろ活躍していて、良かった。
    やはり主人公は伊三次だから。

    龍之進の嫁きいが流産してしまったのは、可哀想だった。

  • あとがきにもあるように、作者は現在闘病中である。
    筆を折ることなく淡々と仕事をされているが、ほんの少しだけ作風が変わったように思える。
    たとえば、『やぶこうじ』。
    宇江佐さんの黄金パターンだと、理不尽にも浪人になってしまった主人公はさんざんひどい目にあったあげく、絶対奥方は姉のところに行くふりして浮気、もしくは身売りして、伊三次やお文の思いやりは裏切られ、最後は奥方を殺して町方にとらえられるんだろうなぁと思ったら、ものすごくハッピーエンドで目を疑った。
    宇江佐さんは高田さんと対照的に、世の中そんないいことばかりじゃござんせんぜ、とばかりにまずいものを胃薬なしに読者に飲み込ませる作風だ。
    それがこんなにハッピーエンドだなんて!
    実はこれは昭和の初期の名作映画のあまりの悲劇的結末に胸を痛めた作者が救いのあるおわりを主人公夫妻に与えたかったのが動機なので、この終わりはなるべくしてなったものだった。
    彼女はこの監督が自分の儚い人生を悟って(戦死)、こういうペシミストなものに美学を見出したのだろうと分析しているが、なら、彼女は儚く散ってなるもんですかい、という意気地がこの改変に現れたのだろうか。
    他の作品も久しぶりの直次郎が本当にまっとうに生きて、お得意先の老女を慕い、恋女房に悪態をつきながら子供をたくさん作り、姑と軽口をたたく仲良し家族を作っている現在を紹介したり、修行中の伊与太やお嬢がお互いに心の中で泣き言を言いながらも頑張っていたりと、今までの女史の毒が抜けすがすがしいものになっている。
    次の巻も髪結い伊三次シリーズはこの感じで書いてほしい。

  • 面白かったです。そんなつもりもなく、何となく、謎を解いていく伊三次さんの人柄がとても良いと思いました。

  • 1編1編はとても楽しい。やぶ柑子という1編が好き。

  • 目次
    ・あやめ供養
    ・赤い花
    ・赤のまんまに魚(とと)そえて
    ・明日のことは知らず
    ・やぶ柑子(こうじ)
    ・ヘイサラバサラ

    掏摸から足を洗い雑貨屋の親父として真っ当に生きている直次郎。
    意に添わぬ結婚話から逃れるために屋敷奉公に出た茜。
    絵師の修業中の伊与太。
    いつの間にか26歳、結婚話もある九兵衛。
    作中の時間も確実に流れている。

    さて、意味不明のタイトル「ヘイサラバサラ」とは、ポルトガル語で動物の腹の中に出来る石のことなんだそうだ。
    孤独死した元医師が、なぜそのようなものを持っていたのか。
    彼は、進んでいく時間を止めようとしていたのだろう。
    しかし、それは出来ないことであり、止められない時間をどう生きるかが大切なことなのだと思う。

    心を打ったのは「赤のまんまに魚そえて」。
    女たらしだが飽きっぽく、こらえ性のない大店の若旦那を慕う女中のあさ。
    ろくな食事も与えられず散々こき使われて、若旦那の罪をかぶって死罪を受け入れるあさ。
    九兵衛の台箱お披露目会で用意したお赤飯と鯛を伊三次は差し入れる。
    多分一度もこんな食事をしたことがないだろうあさを不憫に思って。
    初めて人の優しに触れたあさは…。

    伊三次とお文とお吉が一緒にでかけるシーンが結構あって、お金はなくてもいい家族だなあとしみじみ思う。

  • 伊三次が帰って来た。やっぱり主人公は伊三次とお文。

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著者プロフィール

1949年函館生まれ。95年、「幻の声」で第75回オール讀物新人賞を受賞しデビュー。2000年に『深川恋物語』で第21回吉川英治文学新人賞、翌01年には『余寒の雪』で第7回中山義秀文学賞を受賞。江戸の市井人情を細やかに描いて人気を博す。著書に『十日えびす』 『ほら吹き茂平』『高砂』(すべて祥伝社文庫)他多数。15年11月逝去。

「2023年 『おぅねぇすてぃ <新装版>』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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