ビッグデータ・コネクト (文春文庫 ふ 40-1)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 93
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  • Amazon.co.jp ・本 (426ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167903282

感想・レビュー・書評

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  • サイバー犯罪捜査官とサイバー犯罪の元容疑者がタッグを組んで個人情報絡みの事件を追いかける警察小説。 元容疑者である武岱のキャラが立っていて、その存在感に本筋の話が絶妙にフックアップされている。

    「XPウィルス」の作成と配布の罪で逮捕された武岱は2年に渡る勾留の末に不起訴処分となるも、長期の勾留期間によって蝕まれた彼の身体は痩せこけ釈放された頃には骨と皮の亡者然に成り果ててしまう。しかし、その2年後には驚くべきことに彼は筋骨隆々・頭脳明晰というスーパマンへと変貌を遂げていた。 そんな武岱がかつて自分の取調べ担当だった捜査官とコンビを組むという「設定」を軸にして、主要登場人物達(主に警察関係者)のキャラが本筋の流れの中で自然に深掘りされていくのが良かった。

    手垢のついたような構成の話だとしてもキャラに魅力・奥行きがあると見える光景が全然変わってくる。

  • 三年前の小説ですが、ネット社会における個人情報の扱いや、それらに関する世間の認識の甘さだったり、IT企業のブラックぶりなどは、今の世も変わってないなぁと痛感。被害者の月岡、ならびに武岱や内藤といった現場の人たちには(自分も一時期プログラマやっていたので)共感しきり。

    著者も開発会社に勤務していたこともあるらしいので、このように現場が困窮している実態を知って欲しかったりもしたのでしょうか。

    お話的には……武岱が、ゲーム的に言うと武力も知力も高すぎるので、いざとなったらコイツが自分でなんとかするんだろうという安心感があって、緊張感が欠けていたところが残念ポイント。ありきたりかもですが、武岱は登場直後のヒョロガリのままで、足りない武力を綿貫あたりで補ったりした方がよかったんじゃないかなぁ。素人考えですが。

    とはいえ、久々に面白いと思いながら読んでた本な気がします。一番最後のページに書かれている「命を落とした人物」が誰なのか気になりますので、いつかこの続きがあるんじゃないかと、うっすい期待して待つことにします。

  • マイナンバー制度、冤罪事件、マスコミの偏向報道、警察の横暴捜査など、現実に今起きている、また今後起こりうる問題がてんこ盛り。

    その上で、物語としてエンターテイメント性抜群で一気読み。

  • マイナンバー制度、個人情報保護、PC遠隔操作事件、この辺りのキーワードに興味がある人ならば、興味を持って読めるはず。
    UNIXタイム、人月(にんげつ)、多重請負、ヒューリスティック、正規表現という言葉に反応する人ならば、さらに良いと思う。
    藤井さんはちょっとした近未来を、ああ確かにこういうのありそうだなあと思わせる書き方がホント上手いと思う。自分はとても楽しめた。

  • 丁寧に積み上げたディテールと強い物語でみっしりと組みたてられた警察小説だった。いますぐにでも起き得る事件の舞台は、2015年から見るとほんの少しだけ未来で、おそらく2010年代後半。

    われわれの世界とはちょっと違うコンピュータウイルスが猛威をふるった数年後。ウイルス作者の誤認逮捕と釈放。民間委託された行政サービスシステムの、開発責任者の誘拐。見えない動機。誤認逮捕されたエンジニアとの奇妙な協力関係。現代的なプロファイリング。「民間企業のエンジニアがときおり見せる座り方」。戸籍統一文字。多重下請け、8世代後。Nシステム。住基システム、マイナンバー。顔認識、顔紋。エンジニアの地獄。「バカのつける暗証番号」。上層部の腐敗。位置情報。トリプルSIM。Dvorakとショルダーハック。そして、ビッグデータと復讐譚。

  • 難しかった! でも面白かった!
    IT産業の下請け体質のひどさとか、いろいろ知れた。
    サイバーのことはほとんど解らないけど、私と同様に解らない人が沢山いて、そこに付け込んで、あわよくば気づかれないだろう、という犯罪が沢山あるんだろうな。マイナンバー制の犯罪は、本当にひどい。

  • 近未来というにはあまりに現在進行形な小説。それだけに、実務への示唆に富んでいる。

  • コンピュータウィルス/詐欺名簿事件の冒頭から、組織・行政・国ぐるみの大きな展開に。章を追うごとに高まる緊張感と徐々に炙りだされていく全容。警察モノという新題材だが変わらず理性的・解説的な記述が特徴。

    ・警察のフリーダイヤル負担も捜査コストに
    ・”生活反応”
    ・住基ネット/マイナンバー/セキュリティ会社監視カメラが収集する顔紋データ/キャリア位置情報/店舗での購買情報/全てがつながったら・・?
    ・個人情報保護法の誤認(プライバシーの保護が目的ではない。企業が保有する個人情報が破損したり盗まれないよう保護する、利用方法を定めただけ。)
    ・顔紋は”特徴点を結んだデータの固まりにすぎない”=条文のいう個人を特定する情報ではない。顔紋にフラグをつけてやりとりするだけ、という抜け道
    ・利用者官吏システムと見せかけた市民監視による防犯活用の二重構造

  • バディものを想定していたら、不仲でした。中盤まではアレですが、そこから終盤への追い込みは勢いがあって、良かったです。私の知っている限りだと、4次受けが最大ですが、再派遣は日常。忙しいくらいで、あの人はそこまで壊れるか?と思える人は幸せです。

  • 藤田太洋初めての警察モノ。当然ITがらみの話はどんどん出てくる。以前、ウィルス作成の疑惑で誤認逮捕された容疑者が犯罪を明かしていく。面白いキャラクタが揃ってるのでシリーズ化を期待したい。

著者プロフィール

藤井大洋:1971年鹿児島県奄美大島生まれ。小説家、SF作家。国際基督教大学中退。第18代日本SF作家クラブ会長。同クラブの社団法人化を牽引、SF振興に役立つ事業の実現に燃える。処女作『Gene Mapper』をセルフパブリッシングし、注目を集める。その後、早川書房より代表作『Gene Mapper -full build-』『オービタル・クラウド』(日本SF大賞受賞)等を出版。

「2019年 『AIが書いた小説は面白い?』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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