革命前夜 (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
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レビュー : 89
  • Amazon.co.jp ・本 (467ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167910310

作品紹介・あらすじ

この国の人間関係は二つしかない。密告しないか、するか──。第18回大藪春彦賞受賞作!革命と音楽が紡ぎだす歴史エンターテイメントバブル期の日本を離れ、ピアノに打ち込むために東ドイツのドレスデンに留学した眞山柊史。留学先の音楽大学には、個性豊かな才能たちが溢れていた。中でも学内の誰もが認める二人の天才が──正確な解釈でどんな難曲でもやすやすと手なづける、イェンツ・シュトライヒ。奔放な演奏で、圧倒的な個性を見せつけるヴェンツェル・ラカトシュ。ヴェンツェルに見込まれ、学内の演奏会で彼の伴奏をすることになった眞山は、気まぐれで激しい気性をもつ彼に引きずり回されながらも、彼の音に魅せられていく。その一方で、自分の音を求めてあがく眞山は、ある日、教会で啓示のようなバッハに出会う。演奏者は、美貌のオルガン奏者・クリスタ。彼女は、国家保安省(シュタージ)の監視対象者だった……。冷戦下の東ドイツで、眞山は音楽に真摯に向き合いながらも、クリスタの存在を通じて、革命に巻き込まれていく。ベルリンの壁崩壊直前の冷戦下の東ドイツを舞台に一人の音楽家の成長を描いた歴史エンターテイメント。解説の朝井リョウ氏も絶賛!この人、〝書けないものない系〟の書き手だ──。圧巻の音楽描写も大きな魅力!本作を彩る音楽は……ラフマニノフ 絵画的練習曲『音の絵』バッハ『平均律クラヴィーア曲集』第1巻 『マタイ受難曲』リスト『前奏曲(レ・プレリュード)』ラインベルガー オルガンソナタ11番第2楽章カンティレーナ ショパン スケルツォ3番 ブロッホ『バール・シェム』より第2番「ニーグン」 フォーレ『エレジー』 ベートーヴェン 『フィデリオ』 ……etc.

感想・レビュー・書評

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  • 歴史と革命と音楽をテーマにした、大変、重厚な物語でした。

    主人公の眞山柊史はドレスデンの音楽大学で、ピアノを学ぶ23歳の日本人留学生で、バッハの平均律に深い思い入れを持っています。

    話は昭和の終わった日から始まります。
    柊史は教会で見かけた美貌のオルガン奏者のクリスタ・テートゲスに好意を持っています。
    ラカトシュ・ヴェンツェルは、ハンガリーからの留学生で、バイオリンの天才。
    パートナーであるピアニストをすぐに変えてしまうことで有名です。柊史も何度目かのパートナーに選ばれます。
    他にイェンツ・シュトライヒはやはりヴァイオリン科の逸材で、柊史とも友好関係にあります。
    スレイニットはベトナムからのピアノ科の留学生でラカトシュにのめり込むあまり、才能を潰されたという噂の女性です。
    柊史には、日本にいる父の友人の息子でヘルベルト・ダイメルという友人もいます。ヘルベルトの娘、ニナ・ダイメルが母親の亡命にショックを受けて柊史の元に駆け込んできて、柊史は彼女のために尽くします。

    そのころの東西ドイツはまさに革命前夜。
    誰が国家保安官(シュタージ)であるとか、スパイであるとか、又は亡命を目論んでいる、などとさまざまな憶測が飛び交います。

    柊史は、憧れのオルガニスト、クリスタがいつの間にか、ラカトシュと組んで、ヘルベルト・ダイメルより預かった、彼の父が作曲した曲を二人が大変息の合った演奏をするのを聴いて、ショックを受けます。
    そこらへんから、実に様々な東西ベルリン周辺の歴史と人間模様がからみあって展開していきます。

    あちらの大学生は皆、大人だと思いました。そうでなければ、激動の歴史の中で生きていけなかったのでしょう。
    そして、ベルリンの壁崩壊。
    彼らの青春も終わりを告げられます。

  • 図書館の予約で何週間か待ってやっと到着したが、すでに次の予約がたくさん入っているようで「延長不可」とのこと。人気の小説のようだ。

    主人公・眞山柊史は、音楽留学のため東ドイツへ向かうところからこの物語は始まる。彼が日本をたったのはちょうど時代が昭和から平成に変わるその日。そして、留学の先は、第二次世界大戦後、東西に分断されたドイツの東側、つまり西のドイツ連邦共和国に対するドイツ民主共和国(DDR)だ。

    彼の年齢は23歳、平成元年が1989年なので、1966年生まれということになろうか。従って、あの東西分断のためにベルリンの壁が築かれた1961年を知らない世代である。

    彼は留学の地で、ピアニストとして自身の技術の錬磨を目指すが、同じく様々な国から音楽を求めて来ている留学生たちと接する中で、自らの音楽の追求にスランプを感じたり、また当時のDDRならではの事件に巻き込まれていく。

    冒頭から、ラフマニノフやバッハなどの曲目が登場し、常に音楽が背景に物語が進んでいく。それらの曲をBGMに読み進めていけば、よりリアリティを感じながら物語を楽しむことができる。

    音楽留学の世界、至高の音楽を追究する世界は、これまで自分にとっては未知の世界であり、その点にも興味深かったが、そのドラマが分断中の東ドイツ、シュタージに監視され、隣人を心から信じることに規制されるような生活環境下で繰り広げられていく点で、スリリングな展開にどんどん物語の中に引きずり込まれていくようであった。

    現在も分断中の北朝鮮から来たピアニスト、ベトナム戦争という歴史を持つベトナムからきたピアニスト、そしてドイツと同じく敗戦国である日本から来た主人公、分断中の東ドイツで出会う美人オルガニスト、ベルリンの壁崩壊と突破口となるハンガリー出身のヴァイオリニスト等と、国家的な背景も様々で、しかも個性もそれぞれに特徴的なキャスティングだが、音楽といういわゆる共通語を通じてドラマが展開していく。

    ベルリンの壁崩壊の「革命前夜」までの物語。その劇的なエンディングは、その後に展開される新しいドラマを読者に想像させてくれる。

  • 丸善書店でゴリ押ししていた一冊。歴史×音楽×青春、圧倒的エンターテイメントの売れ込みでしたが、まさにそのとおり。ミステリー要素まであり。めちゃくちゃ面白かった。余韻から抜け出せない。

    昭和が終わったまさにその日に、東ドイツにピアノ留学したマヤマが直面するDDRの状況、圧倒的な才能と自分の音楽との対峙、そして革命。ぜひともスピンオフが読みたい。

  • 初読みの作家さんにして最高の当たりを引いた高揚感がすごい。面白い。とにかく終わりまで読み続けてしまうほど面白い。ついこの間『熱源』を読み終わった後のような興奮。歴史小説(と言っていいのか?)だから当然自分にとっては異世界の話だが、まるでその場にいるような臨場感が味わえる。長いけれど、気づいたら400ページ駆け抜けていた。

    ここまで絶賛してきたが、内容についても少し触れておく。物語は昭和が終わり、平成へと時代が変わった1989年の東ドイツ(作品の中ではDDR)から始まる。ピアノ留学に訪れた眞山柊史は、今まで自分が暮らしていた日本とDDRのあからさまな違いに戸惑い、スランプに陥っていた時に教会で見事なオルガンの演奏を耳にする。しかも弾いていたのが美しい金髪の女性、クリスタ。最初は避けられていた眞山だったが、次第にクリスタと関わることでDDRの闇に足を踏み入れることとなる。ナチスのゲシュタポのような秘密警察であるシュタージ、彼らの行う密告、そしてシュタージの目を盗み西への亡命を企てる人びと。
    この国の人間関係は二つしかない。密告するかしないか。というクリスタの恐ろしい言葉を聞き、眞山はそれでもDDRを覆う監視の眼に屈さず、彼女や避難所と称される教会の人びとと関わることを辞めない。

    物語は終始眞山視点で語られるため、誰が見方で誰が敵だかを勘ぐりながら読んでいくようだった。いざとなったら家族でさえも密告してしまうという世界は恐ろく、きっと同じ状況に置かれたら眞山のように精神が不安定になってしまうだろう。また留学しているのは眞山一人だけではなく、ハンガリーから来たヴァイオリニストのヴェンツェル(むかつくけどどこか嫌いになれない)、北朝鮮から来たピアニストの李、そしてベトナムからのピアニストスレイニェットも物語を構成する上で重要な役を演じる。そして何より演奏のシーンがどれも表現が立体的で、まるでピアノやヴァイオリンの音が本から聞こえてくるような気さえする。
    巻末の解説で朝井リョウさんがおっしゃっているが、この本を読むまでベルリンの壁の崩壊は自分にとって単なる歴史的事実でしかなかった。だけどこの物語があるおかげで壁の中にいた人々が確かにいたこと、そして暮らしていたことが分かり、壁が崩壊する過程や原因を深く内部に迫りながら考えることができるのだ。そしてその新しい視点を与え、考えさせてくれるのが、この小説の大きな魅力だと思う。
    しかし欲を言えば巻頭に町の位置関係などが分かるドイツの地図がほしかったなと思う。

  • すばらしかった。かつてわたしが「神の棘」に出会い、手を引いてもらったように、この作品に手を引いてもらい世界に向き合える若者が増えますようにと願わずにはいられない。本書で書かれたことがたった30年ほど前のことである事実にあらためて嘆息するし、戦いが長く長く続いていたことにも切なさが募る。自由を求める無数の小さな焔は忍耐によって守られ、情熱によってさらに燃え上がった。奇跡は、それを起こさんと行動するひとびとにもたらされるのだ。そして感情の別名でもある。「焔を守れ」。なんと力強いことばであろうか。壁は、崩れた。

  • 文庫の帯に踊らされて読んだ!
    最初の方は読むのめんどくさかった…
    後半読み進めるにつれて、もう、押し流されるようで止まらなかった。
    単純にベルリンの壁崩壊の話ではないし、音大生の苦悩の話でもない。
    ともすれば現実離れが過ぎる話にもなりそうだけど
    現実とは思えないけどこれが現実だったのだろうとも思わせられる…
    掴みどころがあるようでないような…
    でも、最後は、圧巻でした。

    音楽や曲に関する描写は、ほかにいくらでも上手い小説があるし
    作者はあんまり音楽に詳しくないのかな?と思ってしまったので
    そこに期待してたぶん星-1 _(:3」 ∠ )_

  • 活字を追っているはずなのに頭の中は音楽でいっぱいになる。クラシックの知識は全くない私ですら。読みながら脳の後ろの方がジリジリと痺れていくのが分かった。重厚かつ濃厚。そして、今、私たち世代が読むべき作品。

  • 1980年代後半、眞山柊史は東ドイツのドレスデンへピアノ留学へ赴いた。音楽の才能溢れる学生が世界中から集う学内で、柊史は圧倒的な音楽の才をまえに自分の音を見出せずにいた。ベルリンの壁崩壊直前の冷戦下の東ドイツを舞台に、一学生の柊史は歴史的革命の渦へと徐々に巻き込まれていく。

    ピアノ、ヴァイオリン、オルガン……本書には様々な楽曲が登場するので、折角なので実際の音楽を聴きながら読みました。
    序盤はドレスデンの音楽学校での人間模様が中心ですが、現地の人々との交流を通して徐々にその背景に渦巻いている東ドイツと西ドイツを隔てる大きな壁の存在が浮き彫りになっていきます。西ドイツへ想いを馳せる人々の心情、監視下に置かれる人々の存在、自由を手にするための奮闘・裏切り、ベルリンの壁崩壊直前の混乱の様子など、ストーリーを通してその土地と人の熱がありありと伝わってきました。
    「この国には密告するか、しないかの二通りの人間しかいない」――比較的序盤で登場人物の一人が口にするこの言葉は、終始引っかかるものがありました。柊史はもちろん読み手自身も登場人物への不信感が拭えずに終始読み進めることになります。

    数年前にベルリン~ドレスデンへ旅行へ行ったこともあり、実際に目にした地や建物が作中に多数登場していたのも個人的な魅力の一つでした。須賀しのぶさんは著者としても作品としても初見だったのですが、こんなにも重厚な作品を書かれるとは嬉しい発見です。他の作品もぜひ読んでみたい。

  • 1990年。
    遠い日本では予期せぬ出来事だったベルリンの壁崩壊。
    その前の年、日本では昭和の終わった日、30年前の東ドイツに音楽留学した日本人青年が見た、東ドイツの夜明け前。

    同じ頃、日本では熟しすぎた繁栄がそろそろ腐臭を放ち始めたバブル期。
    文字通りうたかたに浮かぶ泡に日本全体が酔いしれていた頃、ピアノを学ぶためにドレスデンに留学した眞山柊史(まやましゅうじ)にとって、憧れの音楽の都は驚くべき抑圧された世界だった。
    不自由と貧乏、監視と密告。
    彼も、周りの学生たちも、革命の波に巻き込まれて行く。

    極限状況の青春とは、どうしてこんなにもドラマチックなのだろう。
    そして、音楽と革命の不思議なマッチング。
    純粋に音楽を愛したかったのに、全うできなかった人、抑えつけられたがゆえに美しく花咲いたのかもしれない才能。
    絶望と希望の混じり合う、はらはらする物語だった。
    同じく引き裂かれた国から留学してきた、李の物語もいつか読んでみたいものだ。

  • 読後の充実感が凄い。
    冷戦下ドイツ、ベルリンの壁を隔てたDDRとBDR。
    ベルリンの壁崩壊直前を舞台に、ドレスデンへピアノ留学に来た日本人ピアニストを中心に描かれる音楽家達と歴史の変わる瞬間までの激動。

    漠然と歴史上の事実としてしか知らなかった事が、しっかりとした重みを持って入って来た。
    音楽をやる者達の苦悩、焦燥、羨望、憧憬。
    シュタージの監視下に置かれる生活。

    終盤の追い込み、ラストのズシンと染み渡る感動。
    音楽家が政治上の立場以外で音楽を愛し繋がる瞬間。
    音楽的描写も素晴らしく、時代背景と共に音楽がしっかりと歴史の一部である事を描いていて良い。

    蜜蜂と遠雷とはまた違った満足度。良質!

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著者プロフィール

須賀しのぶ(すが・しのぶ)
1972年11月生まれ。埼玉県出身、上智大学文学部史学科卒。
1994年『惑星童話』」でコバルト・ノベル大賞読者大賞を受賞し1995年デビュー。2010年『神の棘』で第13回大藪春彦賞候補。2012年『芙蓉千里』三部作によって第12回センス・オブ・ジェンダー大賞受賞。2015年『革命前夜』第18回大藪春彦賞受賞、第37回吉川英治文学新人賞候補。2017年、『また、桜の国で』で第156回直木賞候補、第4回高校生直木賞受賞。同年、『夏の祈りは』で「本の雑誌が選ぶ2017年度文庫ベストテン」1位、「2017オリジナル文庫大賞」受賞。
第100回高校野球記念大会が開催されるメモリアルイヤーの2018年、『夏空白花』が刊行された。

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