- Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167910310
作品紹介・あらすじ
この国の人間関係は二つしかない。密告しないか、するか──。第18回大藪春彦賞受賞作!革命と音楽が紡ぎだす歴史エンターテイメントバブル期の日本を離れ、ピアノに打ち込むために東ドイツのドレスデンに留学した眞山柊史。留学先の音楽大学には、個性豊かな才能たちが溢れていた。中でも学内の誰もが認める二人の天才が──正確な解釈でどんな難曲でもやすやすと手なづける、イェンツ・シュトライヒ。奔放な演奏で、圧倒的な個性を見せつけるヴェンツェル・ラカトシュ。ヴェンツェルに見込まれ、学内の演奏会で彼の伴奏をすることになった眞山は、気まぐれで激しい気性をもつ彼に引きずり回されながらも、彼の音に魅せられていく。その一方で、自分の音を求めてあがく眞山は、ある日、教会で啓示のようなバッハに出会う。演奏者は、美貌のオルガン奏者・クリスタ。彼女は、国家保安省(シュタージ)の監視対象者だった……。冷戦下の東ドイツで、眞山は音楽に真摯に向き合いながらも、クリスタの存在を通じて、革命に巻き込まれていく。ベルリンの壁崩壊直前の冷戦下の東ドイツを舞台に一人の音楽家の成長を描いた歴史エンターテイメント。解説の朝井リョウ氏も絶賛!この人、〝書けないものない系〟の書き手だ──。圧巻の音楽描写も大きな魅力!本作を彩る音楽は……ラフマニノフ 絵画的練習曲『音の絵』バッハ『平均律クラヴィーア曲集』第1巻 『マタイ受難曲』リスト『前奏曲(レ・プレリュード)』ラインベルガー オルガンソナタ11番第2楽章カンティレーナ ショパン スケルツォ3番 ブロッホ『バール・シェム』より第2番「ニーグン」 フォーレ『エレジー』 ベートーヴェン 『フィデリオ』 ……etc.
感想・レビュー・書評
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歴史と革命と音楽をテーマにした、大変、重厚な物語でした。
主人公の眞山柊史はドレスデンの音楽大学で、ピアノを学ぶ23歳の日本人留学生で、バッハの平均律に深い思い入れを持っています。
話は昭和の終わった日から始まります。
柊史は教会で見かけた美貌のオルガン奏者のクリスタ・テートゲスに好意を持っています。
ラカトシュ・ヴェンツェルは、ハンガリーからの留学生で、バイオリンの天才。
パートナーであるピアニストをすぐに変えてしまうことで有名です。柊史も何度目かのパートナーに選ばれます。
他にイェンツ・シュトライヒはやはりヴァイオリン科の逸材で、柊史とも友好関係にあります。
スレイニットはベトナムからのピアノ科の留学生でラカトシュにのめり込むあまり、才能を潰されたという噂の女性です。
柊史には、日本にいる父の友人の息子でヘルベルト・ダイメルという友人もいます。ヘルベルトの娘、ニナ・ダイメルが母親の亡命にショックを受けて柊史の元に駆け込んできて、柊史は彼女のために尽くします。
そのころの東西ドイツはまさに革命前夜。
誰が国家保安官(シュタージ)であるとか、スパイであるとか、又は亡命を目論んでいる、などとさまざまな憶測が飛び交います。
柊史は、憧れのオルガニスト、クリスタがいつの間にか、ラカトシュと組んで、ヘルベルト・ダイメルより預かった、彼の父が作曲した曲を二人が大変息の合った演奏をするのを聴いて、ショックを受けます。
そこらへんから、実に様々な東西ベルリン周辺の歴史と人間模様がからみあって展開していきます。
あちらの大学生は皆、大人だと思いました。そうでなければ、激動の歴史の中で生きていけなかったのでしょう。
そして、ベルリンの壁崩壊。
彼らの青春も終わりを告げられます。 -
バッハを愛する眞山柊史は長年の夢だった東ドイツへ音楽留学をする。自分のピアノの音をきわめるため。昭和が終わり平成へと時代が変わった運命的なその日に。
灰色の空、古建築が建ち並ぶ古典的な街ドレスデン。柊史がやってきた地は、輝かしいとは限らなかった。
ベルリンの壁崩壊のニュースをテレビで見た記憶があります。しかし・・実情は知らなかった。
当時の東ドイツと西ドイツ、社会主義と資本主義、経済力の違い。東では不満を抱える国民も多く、自由を求め西へと流出する人々が相次いだ。東は国民を移動できなくするため壁を建設。
密告するかしないか、という人と人とが(例え家族でも)信用ならない窮屈な監視社会の生活。そんな中でも音楽はひとつだった。街のあちらこちらから音楽の音色が聞こえてきそうな独特な雰囲気。そこに居るかのような没入感を得ることができた。須賀しのぶさんは、この小説を書かれるためにどれだけの取材をされたのだろう(解説で語られているが)。
朝井リョウさんの解説、とてもすばらしい!
歴史、音楽、青春(恋愛、サスペンス要素もあり)が絡み合う。自分にはとても勉強になる歴史小説だった。
歴史、クラシック(憧れています)に疎く、最初は難しいかなと思ったのにいつの間にか引き込まれていた。
各国からやってきた個性豊かな柊史の仲間との切磋琢磨する姿、葛藤。柊史の自分のピアノの音との向き合いかたは。後半は怒涛の展開、読む手が止まらなかった。国家に翻弄される若者。国家体制の怖さ、その中に見つける幸せ、本当の自由とは。
同時期、日本では…歴史上で起きていることが他所事だった自分が恥ずかしい。ドレスデンという街にとても魅力を感じました。
終わり方(ラスト)がとてもいいと思った。 -
昭和が終わったその日、眞山柊史は東ドイツでの音楽留学を開始した。
くせの強い天才たちに囲まれながら自分の音を探す大学生活。
出会った恋。
色のない寒々とした東ドイツでの閉塞感。
やがて彼らは否応なく歴史の転換点へと向かう大波に呑まれてゆく。
音楽のことはまったくわかりませんが、それでも楽しめました。
全体にいかにも現実らしい話ではあるが、少し迫力不足だったかな。
ある事件の動機にしても不確かなままで、勝手に想像するしかない。それが作品の余韻のようなものを生み出しているんだろうけど。
久しぶりの紙の本による読書です。
オーディブルの「聴く読書」は、30日間無料期間が切れたのを機に退会しました。
オーディブルのメリットもいろいろとあったんですが、やっぱり手に取れる本のほうがいいなぁ。
登場人物一覧もあるし、あとがきも解説もある。手触りも匂いもある。うん。やっぱりこれだな。
まあ、使い勝手が良い場面などもあるので登録しておいたままでも良かったんですが、毎月1500円は痛い。-
ポプラ並木さん、ありがとうございます。
ぜひ聴いてみますね。
最近は歌劇のカルメンのあの有名な曲や、ボレロやら、バッハのものなどを「ながら聴...ポプラ並木さん、ありがとうございます。
ぜひ聴いてみますね。
最近は歌劇のカルメンのあの有名な曲や、ボレロやら、バッハのものなどを「ながら聴き」しております。
もちろんなつメロも流行りのもアニソンも、ちゃらんぽらんになんでも聴く派です^^
2022/12/18 -
土瓶さんへ
ショパンの「革命のエチュード」もね!
読んでないけど、このお話にピッタリなんじゃないかと(笑)
昔キョンキョンのドラマ「少女に...土瓶さんへ
ショパンの「革命のエチュード」もね!
読んでないけど、このお話にピッタリなんじゃないかと(笑)
昔キョンキョンのドラマ「少女に何が起ったか」(←懐かしすぎる(;_;))で、キョンキョン演じる主人公がピアノコンクールの課題曲として弾くのよ〜。
ドラマで初めて聴いた時、激しくてカッコよくて痺れた。2022/12/18 -
ほうほう。
_φ(・_・
なおなおさん、ありがとうです。
「革命のエチュード」
エチュードをググッてみたら「練習曲」とあった。
うん。まさに...ほうほう。
_φ(・_・
なおなおさん、ありがとうです。
「革命のエチュード」
エチュードをググッてみたら「練習曲」とあった。
うん。まさにこの本にあっていそう。
そしてキョンキョンも良し!
とても良し!( /^ω^)/♪♪2022/12/18
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終盤の力強さは圧巻。
舞台はベルリンの壁崩壊直前の冷戦下の東ドイツ。
一人の日本人ピアニスト留学生の目線から描いた物語。
音楽部分には手こずったけれどこの時代のドイツ情勢は興味深いものがあった。
仲間かそうでないか=密告者しないかするかの二つしかない人間関係、国に残っても去ってもどちらにも残る逃れられない苦しみに心打たれる。
少女ニナの考え、この年齢で社会情勢の中での自分の確固とした意思にはこちらまで心揺さぶられたな。
人として自由に息をつけ生きられる、自分の音を奏でられることの尊さもまた胸を打つ。
終盤は圧巻。まさに力強いffフォルティッシモの連続。
誰もの関係、心情が複雑に絡み合い群衆の叫びと一体になって力強く響く、そんな時間を体験した。-
くるたんさん♪
少女ニナの行動力には、私も驚きました。
確か、平成になった日から始まりましたよね。
私も、存在していた、あの時間に...くるたんさん♪
少女ニナの行動力には、私も驚きました。
確か、平成になった日から始まりましたよね。
私も、存在していた、あの時間にあんな凄い歴史が存在していたなんてと思うと驚きでした。2020/07/02 -
まことさん♪こちらにもありがとうございます♪
そうですよね、平成になったあの年、ドイツでこのような時が流れていたとは…。
毎回思うけれど、あ...まことさん♪こちらにもありがとうございます♪
そうですよね、平成になったあの年、ドイツでこのような時が流れていたとは…。
毎回思うけれど、あの時代の欧州の社会情勢に左右される人生には言葉が出ません。2020/07/02
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舞台設定がズルい!
ベルリンの壁崩壊前(そう丁度「平成」に元号が切り変わる頃だ)、冷戦下の東ドイツへ音楽留学する日本人ピアニストが主人公
彼の目を通して、東ドイツ(この表現もいろいろ問題視されているのは承知の上、わかりやすいため使います)のこの時代を知ることができる
音大には個性あふれる留学生たちが、それぞれの思惑や野心を持って在籍
強い意志と目的を持つ彼らと、お前は簡単に日本へ帰れるだろう…と言われしまう主人公マヤマ
ベトナムや北朝鮮などの社会主義環境下の留学生らと比較すれば、恵まれた甘ちゃんの日本人…と言われても仕方ない
主人公マヤマのピアノの音色は、「水のような音…」と言われ、個性の無さを象徴するような表現をされることに劣等感を持っている
実際主人公にしては地味なキャラクターである
音楽にどっぷり浸る環境を求めてきたドレスデン
しかしながら、相当なホームシックに
強い意志だけでは太刀打ちできないような、環境が想像される
ドレスデン
そこはひとことで言えば、
東側の無機質、無彩色なイメージと
西側の溢れる光と多彩なコントラスト
でわかりやすく表現されている
その彼が時代に翻弄される東ドイツに身をおいて、成長していく
音楽だけしか知らない青年がその音楽を通して、世界を知り、徐々に逞しく自分の考えを持っていく様がありふれているものの、悪くない
日本にいるとなかなか知り得ないベルリン壁崩壊直前のドイツ情勢
彼らは何を思って、いかに暮らしていたのか
東ドイツの哀愁と、どうしようもない運命に翻弄されながらも、手段を選ばず自分を見つけていこうとする各キャラクターたち
しかし最後には皆愛しく感じる
初須賀しのぶさんだが…
各人物の掘り下げ方がいい!
人物像にとことん向き合っており、その描写が興味深い
それぞれの立場があり、それぞれの葛藤があり、それぞれの夢があり…
人は単純じゃない
100%悪人も100%善人もいないし、感情と相反する行動に出たり
何かのきっかけで揺れる
そんな心の振動みたいなものが言葉少ないながら、押しつけがましくなく伝わってくる
音楽を文字で表現できる馬力も相当だ
人々の高揚感が伝わり、しっかりその場所に連れていかれた
また音楽に関してこんな印象的な記述がある
~イデオロギーは言葉で形成される
しかし音楽が付随していたならば、そう簡単にはいかない
音は最も原始的なもので、人の本能から生まれ、本能に突き刺さるもの
否応なく人を動かすものであり、だからこそあらゆる場面で音楽は使われる
太鼓の昔から…
またナチスはそれを効果的に使った~
人間の五感のすごさが表現されている
誰もが大きくうなずく描写であろう
そして冷戦下の東ドイツについて…
~この国の人間関係は二つしかない。
密告しないか、するかー。~
冷戦下の東ドイツの厳しく閉鎖された現状が、たまらない
いつも人の目にさらされ、たとえ家族でさえも気を許せない息苦しい日常生活の緊迫感がどっと押し寄せる
食生活の貧しさ、閉鎖された情報量、ところどころ彼らの生活状況が露出され、灰色の張りつめた空気感が伝わる
面白くて当然!の舞台設定から、当初は落胆するかも…とおそるおそる読んでみたが
いやぁ、期待以上でなかなか満足だ
何かにつけバランス、塩梅が丁度良く、終始楽しめる
薄っぺら過ぎず、重厚過ぎず
難し過ぎず、しかし知的好奇心を上手にくすぐる
ややこしいミステリーではないものの、ドキドキ感はある
著者の真面目で緻密で好奇心が旺盛なお人柄が本書に表れている気がし、好感が持てる
歴史、ドイツ、トーマス・マン好きとの著者のようだ
そのため、ストーリーはフィクションであるものの、しっかりドイツの歴史が重厚に入っており深いところまで読ませてくれる
こういった題材により、改めてドイツの歴史を少しかじってみた
ベルリンの壁崩壊もあれほどニュースになったのに気づけば遠い昔の出来事になってしまっている
ベルリンは自分が思っていた以上に東にあり、舞台となっているドレスデンはチェコ国境近く、
いかにドイツに対する知識がないことがあたらめて認識されたので、改めてドイツ関係の本を読んでみたくなった
こういう広がりもまた醍醐味ですなぁ
もう少し知識を持って読むとまた深く読み込める気がするのでぜひ実行したい
とまぁいろいろ偉そうに言いましたが、要は面白かった!
というシンプルな結論であった -
ブクログで知った『革命前夜』
図書館で探してもらった司書さんに「これ、おもしろいですよね」と言われ、ますます読みたくなり、先が気になり一気に読んでしまいました。音楽が聞こえてくるような文章、東西ドイツ、冷戦、ウクライナ侵略の現在とも相まって…深い読書体験でした。おすすめです。
印象に残ったフレーズ
「焔(ほのお)を守れ」突然、彼女がつぶやいた。
「もし焔を守らねば、思いもよらぬうちに、いともたやすく風が灯を、吹き消してしまおう。そして、汝、憐れ極まる魂よ。痛苦に黙し、引き裂かれるがよい」 -
フォロワーのまことさんのレビューを読んで気になっていた作品。
書店で訴えかける何かを感じて購入。
ブクログで評価を調べてみたところ、かなりの高評価。
期待大で読み始めた。
読み始めは・・・蜜蜂と遠雷のような雰囲気の小説なのかなぁ?
自分の好みの小説とはちょっと違ったか!?と思ったが・・・。
音楽にはあまり詳しくない私は、小説に出てくる音楽のYouTubeをBGMにしながら、音楽のイメージを頭に思い浮かべながら読み始めた。
これは今から30年ほど前の時代。
ベルリンの壁が崩壊される前の東ドイツに音楽留学したマヤマの話。
美しい音楽と共に、当時の東ドイツの情勢がヒシヒシと伝わってくる。
ある程度は当時の状況は分かっていると思ったが、この小説は凄い。
映画を見ているかのように、当時の世界に読み手を連れ込んでしまう。
自分自身が東ドイツに迷い込んだような錯覚に陥る。
そうなってからの展開はとても早い。
最後は全身鳥肌が立っていた。
久々の感動。
超大作。誰にでも超絶オススメできる作品。
普段小説なんて読まない旦那にも、これは超絶オススメ!!と本を無理やり渡してしまった。
そのくらい素晴らしい作品!-
bmakiさん♪こんにちは!
お読みいただき、嬉しいです(*^^*)
重厚で、ドラマティックなストーリーでしたね。
須賀しのぶさん...bmakiさん♪こんにちは!
お読みいただき、嬉しいです(*^^*)
重厚で、ドラマティックなストーリーでしたね。
須賀しのぶさんの他の作品も読んでみようと思い、今、積読中です。2020/05/05 -
まことさんこんばんは。
素敵な小説のレビューありがとうございました。
これは凄い小説ですね!
最初読み始めるまで時間がかかりましたが、...まことさんこんばんは。
素敵な小説のレビューありがとうございました。
これは凄い小説ですね!
最初読み始めるまで時間がかかりましたが、物語にのめり込んでしまってからはあっという間でした!
素敵な小説のご紹介ありがとうございました!!2020/05/05
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友人が「ぜひ読んでね」と、有無を言わせず置いていった本。
自分で選んでないので、初めはページをめくる手に迷いがあった。
ところが、読んでみたら 劇的に素晴らしかった。
冷戦下の東ドイツに留学した日本人ピアニストの視点から
激動の時代に生きる人々を描いた歴史小説。
「音楽」と「東西ドイツの統合」という二つのテーマを軸に展開される 骨太な物語。
昭和から平成に変わる節目の1989年、東ドイツにピアノ留学をした青年。
イメージとしては灰色一色の印象の東ドイツ。
「バブル絶世期の日本からなぜ東ドイツに? 」と思ったら、
バッハ を敬愛していたから。
当時は、東ドイツの一部の地域にテレビのアンテナがなかったため
西側の情報が全く入ってこなかった時代。
そのことが東ドイツの民主化を遅らせたと言われている。
世界で何が起こっているのかを知らされないまま
近くにいる人が密告者かもしれないという疑念を抱きながら暮らす人々。
出会った人々はそれぞれ、自由な国でないがゆえの苦しい過去を抱えながらも
音楽をこよなく愛している。
ミステリー小説ではないが、最後に「え? もしかして?」と思わせる 粋な くだり が。
そしてその後は、それまでのすべての動揺や混乱が一気に収束するような
光に満ちた音で包まれる。
友人に感謝!です。-
2021/07/11
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2021/07/11
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2021/07/11
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昭和から平成に切り替わった日、憧れのバッハの音を求めて日本から東ドイツ(DDR:ドイツ民主共和国)に音楽留学したピアニストの眞山。学友たちの圧倒的な才能に打ちひしがれながら、自分の音を探す彼は、教会で美しいバッハを奏でるオルガン奏者、クリスタと出会う。彼女は西ドイツへの移民申請を行ったことで職を失い、国家保安省の監視対象となっていた。
空前のバブル景気に沸く日本から来た眞山にとって、物資不足による生活の不便はあるものの、静かにバッハの音楽と向き合えるDDRは当初それほど悪い環境ではなかった。しかしクリスタと出会い、父と旧知の仲だったダイメル家の「事件」に巻き込まれることで、DDRの闇に触れ、自分自身を見失いかけていく。
本書には、眞山の音楽性の追求と、第三者的立場である留学生から見たDDRの実情、という二つのテーマで話が進められる。おそらく著者の主眼は後者なのであろう、ピアニスト眞山としての葛藤がもう少し欲しかったような気がするが、お人好しで流されそうになりながら、誰に対しても真摯に向き合う眞山の存在は、密告するかしないか二種類の人間しかいない、と揶揄されるほど殺伐としたDDRの中で、彼の奏でる「水のような」音楽と同様の清涼さをもたらしている。
彼を取り巻く学友たちも時代を象徴する面々である。
天才肌のヴァイオリニスト、ヴェンツェルはハンガリー出身。ハンガリーはDDRに先駆けて国境を開放した。彼は新時代の人間らしく、体制に反逆し、純粋に音楽性を追求しようとする。
DDR出身のイエンツは、正確な技術で「端正」な演奏をするヴァイオリニスト。4年間軍隊で過ごした後に音大に入ったヴェンツェルとは別のタイプの天才だ。
北朝鮮出身の李は国家を背負って留学してきており、ことあるごとに眞山に突っかかる。ベトナム出身のニェットは、祖国の戦争中に紙のピアノを使って頭の中で演奏していたという。
彼らに囲まれながら、眞山は自分がいかに音楽以外のことを知らなさ過ぎたかを実感する。
しかしこれは音楽だけを追求してきた眞山だけではないだろう。当時の浮かれた日本社会の中で、世界情勢に目を向けている人が果たしてどれほどいたのだろうか。
次第に混迷を深めていくDDR。学友たちの関係もいつしか複雑に変化していく。そしてついにDDRにとって運命の日が訪れる。
物語の後半はその時代を生きているかのような臨場感で、手に汗を握る展開だ。一気に謎が解けるラストは、圧倒的な切なさと少しの安堵感で胸がいっぱいになる。
本書を読んで、改めて冷戦時代のヨーロッパについてもう少し知りたいと思った。 -
冷戦下の東ドイツの鬱屈した退廃的な世界が、これでもかと書き連ねられていた。面白いかと言われれば、正直首を傾げるだろう内容だったが、歴史エンターテイメントとして一定の価値はあると思った。それだけ歴史的背景と考察によって作り込まれた世界観が圧巻だった。
まことさんのレビューに惹かれて手にしました。
この時代のこの国で生きることの様々なしがらみにはやっぱり言葉が出ませ...
まことさんのレビューに惹かれて手にしました。
この時代のこの国で生きることの様々なしがらみにはやっぱり言葉が出ません。
終盤はものすごい力強いピアノの音を聴いた気分です。
圧巻でした。
ありがとうございました(*ˊᗜˋ*)/
今、タイムラインを見ていたら、発見してびっくりしました。
須賀しのぶさんの本は『また、桜の国で』も読まれ...
今、タイムラインを見ていたら、発見してびっくりしました。
須賀しのぶさんの本は『また、桜の国で』も読まれていますよね!
まさか、私のレビューでとは思わなかったです(*^^*)