ロベルトからの手紙 (文春文庫 う 30-2)

著者 :
  • 文藝春秋
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (205ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167912642

作品紹介・あらすじ

『ジーノの家 イタリア10景』で日本エッセイスト・クラブ賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞した内田洋子さんの著作。イタリア半島じゅうを回り、まだ知られていないこの地の暮らしを見つけてみんなに伝えていきたい――そう思いながら住みつづけて集めた〈イタリアの足元〉13の話。仕事で海外を飛び回る妻と離別した主夫。無職でひきこもりの息子と暮らす老母。弟を想う働きものの姉3人。表題作は、ミラノのバールで知り合った、いつも一人でスポーツ新聞を読んでいるくせ毛の少年・ロベルトの話。離婚した両親のあいだを行ったりきたり。実業家の父はロベルトを後継者と決め様々な課題を与えるが、休日を一緒に過ごしたりはしない。あるとき3番目の妻となる若い女性を連れてきて、彼女はやがて男の子を産む。一人息子でなくなったロベルトはようやく自由になり、一人アメリカに暮らすことを決意する。バールの店主のもとに届いた「ロベルトからの手紙」に同封してあったものとは……さまざまな家族の形とほろ苦い人生を端正に描いた、大人の随筆集。解説・平松洋子

感想・レビュー・書評

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  • いったいどれだけ沢山の人々と出会い、語り合い、そして耳を傾けてきたのでしょうか…イタリアという異国で、時には船に移り住みながら書き上げた、著者が実際に見聞きした13篇のエッセイ。

    それぞれが、表紙の彫刻のように、足や歩みに関するテーマでまとめられています。また、気負いのない自然な文章は、まるで短篇小説を読んでいるかのようで、登場人物の時にはほろ苦い人生の情景が目に浮かび、上質な読書体験を楽しむことができました。

    13のエッセイのうち『紐と踵』『シーズンオフ』『忘れられない夏』など、好きな話しがありましたが、特に気に入ったのは以下の2篇。読了後、また読み返してしまいました。

    『二十分の人生』
    たまたま交差点で一緒に渡って欲しいと願い出る、杖をつく老女。広い交差点を何本も横断歩道を一緒に渡る20分間に、老女は息子が無職で引き篭りであることを話し始めます。

    『いつもと違うクリスマス』
    それはど親しい仲でもない知り合いと、ヴェネツィアでのひっそりとしたクリスマス。常に姉と比べられて育った彼女の過去が語られます。

    余談ですが、表紙の彫刻は『あとがきに代えて』に触れられている通り、著者が彫刻家の田島享央己さんに、本のために「羽の生えた足」を彫っていただきたいと依頼してできたものだそうです。羽の部分がほのかに白い小ぶりな足は、まるで天使の足を表しているみたいです。木目といい、足首の彫りを残した断面といい、とても素晴らしい仕事です。ライティングも、羽に影がほのかに差している様子が、本の内容と同様に人生いいことばかりではないことを表しているようですね。

  • 内田洋子さんの本を読むのは、これで6冊目になる。読んだ本の多くは、まるで小説のようなエッセイを集めたエッセイ集。本書も、13の話を集めたエッセイ集だ。
    内田さんは、約40年間イタリアで仕事をされている。日本に向けて、イタリア・ヨーロッパのメディア向け情報を配信する仕事をされている。東京外大のイタリア語学科を卒業され、このような仕事をされているということは、もちろんイタリア語に堪能。イタリアの各地に住まわれた経験もおありで、イタリアのこと、イタリア人のことは知り尽くされているのだと思う。
    イタリアに居住経験を持たれている女性作家としては、塩野七生さんや、須賀敦子さんが思い浮かぶ、というか、日本人女性作家をこれだけ輩出した国は、イタリア以外には思いつかない。何かそういう土壌があるのだろうか。

    本書で一番好きだったのは、「曲がった指」というお話。ひょんなことから、内田さんが同じ家に住むことになった老婦人の、若い頃の、輝くような、かつ、切ない恋の話。その話を内田さんは、当の老婦人から聞く。恋の相手は既に亡くなっているが、その老婦人の中では、その恋はまだ続いている。

  • 37歳一冊目です。
    とても良かったです。
    イタリアの人々の暮らし。シビアな日常も状況もありますが、ちゃんと受け止めて力強く生きていく人々の姿に、わたしも生きていこうと思わされました。
    内田さんの冷静で、でも暖かな眼差しと文章も素敵でした。心が落ち着きます。
    年を重ねた日に丁度良いタイミングで読めました。足元がぐらぐらしたときに何度でも読みたいです。

  • いつもながら、情景が目に浮かぶ文章。遠い地の数多の人生に思いを馳せる。
    後書きまで読み終えて本を閉じて、ああ素敵な表紙だなあと。

  • 友人にプレゼントで買った本です。

    「図書館に住みたい」レベルで本が大好きな女性です。今月から念願叶って図書館司書になったので、その就職祝いにと、「折角だから本のプレゼントはどうか」と不遜なことを考えた訳です。もっとも、いざ書店で探してみると想像以上の難題でかなり悩みました。この本を買ってからも、正直既に読んだ本じゃないか、読んでないけど本棚にはある本じゃないかドキドキでした(結果的に初めて出会う本だったようで、ホッと胸をなでおろしましたが)。

    この本を買うことにした理由は、正直「最初に目に留まってピンと来たから」に尽きます。読んだこともない。まして、「内田洋子」と言う著者も知らない。決め手といったら、帯の「初めて会った人を知るときは、靴を観るものよ」(うろ覚え)という言葉、コレだけ。直感的に、この人は人生を解っていらっしゃる、と思いました。そして、購入。
    ただ、一応中身はどういう本か知っとくのも礼儀。彼女に会いに行く電車の中で駆け足ながらページをめくり、目的の駅に着くと同時に読了しました。

    この本でよかった、と思いました。
    この本に真っ先に引き寄せられる然るべき理由があると感じました。後付けでも、言い訳でもなしに、です。
    珠玉の作品集とはこのことを言うのだなと思います。随筆集というよりはほとんど短編小説集のようにも読めてしまうのですが、「フィクションではない」というから驚きです。そして内田さんの筆が紡ぐ人生の描き出し方の深さ。震えるほど感動いたしました。
    帯の言葉が出てくる「あとがきに代えて」も心に響きます。練熟した審美眼と人生に対する深い眼差しの邂逅を感じました。
    贈っておいて何ですがちょっと惜しいことをしたようにも思います(何のことはない、またもう一冊買えばいいんですが)。私自身も繰り返し味わいたい素晴らしい随筆集でございました。

    ただ、難しい本です。
    イタリアがどういう国なのか分からない人にはちょっと入り込めない、というか難しい内容かも分かりません。ただ、そこはそれこそ図書館で調べる等すればある程度カバーは効くと思います。
    何より難しいのは、言葉一つ一つに込められた想いの深み、人間の眼差し。私でもなかなか読み込み切れない上質さというか、奥行きがあります。

    贈った人の本当に勝手な思いですが、この本が読める司書さんって素敵だなと思いました。願わくば、挫けそうな時や、「あともう少し」が乗り越えられないという壁にぶち当たった時なんかに、紐解いて愛読していただけたらと思います。
    あぁ、足元見られちゃう足元見られちゃう。人のことは言えないわ。

  • イタリアの風景とイタリアの暮らし。
    でも人を書いているから良いんだな。

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著者プロフィール

ジャーナリスト

「2022年 『ベスト・エッセイ2022』 で使われていた紹介文から引用しています。」

内田洋子の作品

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