美しい距離 (文春文庫 や 51-2)

  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167914264

作品紹介・あらすじ

芥川賞候補作島清恋愛文学賞受賞作死ぬなら、がんがいいな。がん大国日本で、医者との付き合い方を考える病院小説!ある日、サンドウィッチ屋を営む妻が末期がんと診断された。夫は仕事をしながら、看護のため病院へ通い詰めている。病室を訪れるのは、妻の両親、仕事仲間、医療従事者たち。医者が用意した人生ではなく、妻自身の人生をまっとうしてほしい――がん患者が最期まで社会人でいられるのかを問う、新しい病院小説。解説・豊﨑由美

感想・レビュー・書評

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  • ガンと死についてではなく、死ぬまでは(病気じゃなくても)生きていて、人と関わることが書かれている。人と人との距離って難しいね。夫の心の狭さ、めちゃくちゃ共感。みんな自分が大好きだし、自分の価値観が正しくてそこから発生するストーリーに、他人のことを嵌め込める。悪意はない。それに、ん?と違和感を覚える感じ。で、いちいち争わず、飲み込んだりやり過ごす感じ、わかるわ〜と思いながら読む。

  • 夫婦の心の距離の取り方がまさに美しい距離

    “カウントダウンの始まった人にだけ余命という言葉を当てはめ、始まっていない人との間に線を引きたがる。医師から余命を宣告された人だけが死と向き合っていて、そうではない人は生と向き合っていきている”

  • タイトルがいいな。
    40代で癌を患って人生の終わりに向かっていく夫婦の物語。夫目線で、弱っていく妻を見ている。さらりとしていて、病室に「きたよ」「きたな」とやりとりしながら入っていく。妻がどう考えているか、胸の内で憶測しながら、もちろん会話も重ねながら日々が過ぎていく。
    主人公の男性は、自分で自分を「心が狭いからいらいらしてしまう」と分析している。医師の一言やしぐさ、介護認定員の職員のおせっかい、見舞いの人の態度にいちいち傷ついたり、怒りを覚えたりする。妻を気遣い、「ちょっと…いやな思いしただろ?」と聞くと「え?いい人だったよ?」と返ってきたりして、「あぁ、自分の心が狭いからいらいらしてしまうんだ…」と感じる。
    こういうところ、すごくすごく共感する。私も心が、というか、許容範囲が狭くて、そんな自分が嫌になることが多々ある。価値観が合わない、絶対に合いそうにない人たちと一緒に仕事しなくちゃいけないし、人を相手にする仕事だからどんな人も受け入れなきゃいけないんだけど、すごく拒否感感じたり、見下してしまったり(絶対ダメなのに)して、仕事に差しつかえることがある。
    色々葛藤を抱えながら日々が過ぎていく。妻はだんだん弱っていく。
    3つ病院を代わって、死に向かっていく。よくある闘病を描く小説やドラマなら、「一時帰宅しましょう」とか「思い出の場所に…」とかなることが多いけど、「家に帰りたいか?」と聞くにもすごく考えてしまってうまく聞けない。妻も家に帰りたいとか言わず、ただ静かに「今」を受け入れている。
    最期の看取りのシーンはとても…なんというか、静かで、切なくて、でも淡々としていて、あとで主人公の夫が振り返るように、決してその「瞬間」が特別なものではなかった。人生は、どの瞬間も特別だし、病気にならなくたって、癌じゃなくたって、人は生まれたときから死に向かっていっている。
    亡くなったあとの、妻の夢や、妻が遠くなっていくけど、その距離も美しいと感じる心持ちも、とても素敵だと思った。死をどうとらえるか、心に響きました。
    ナオコーラさん、また読みたいと思います。

  • サンドイッチ屋店主の妻がガンになり入院、夫は介護休暇制度使い業務量を減らし、妻との時間を多く取り死までの時間を描いた一冊。

    花田菜々子氏推薦、死について興味もあり手に取る。

    夫は妻が死ぬまでの時間を淡々と自分がやれることをや過ごし、妻も穏やかにその時を迎える。物語としては面白みがないが、私の場合はどうだろうや、実際には日々の時間がやはり淡々と流れていくのか等、話が大げさになっていない分、自分事としてシュミレーションできた感がある。

    読んだあと、これが「美しい距離」かと考える、そうだな。美しい距離か。

    私も同じ状況になった場合、再読しても良いかなと思った、人は「美しい距離」を取れるのか?書評を書いているうちに、ジワジワと良さが改めて分かった作品。

  • 旦那さんの視点からしか見えないからわからないけど、素敵な夫婦生活だったんだなと思った。

    常に奥さんがどうしたいか、を最優先に考えてる旦那さんは"愛"だな、と

  • 老いは穏やかだ。
    抑揚の無い日常の繰り返しも穏やかだ。
    だが、病気により、その繰り返しや日々の穏やかな積み重ねも急に歪み、加速し、取り戻せなくなる。美しい距離とは儚さの事か。手を伸ばしても次第に届かなくなる、過ぎ去りし幸せな思い出が、やがて遠い過去になる。

    この小説はそんな世界観を描いているような気がした。どこにでもありそうな平凡。日常を破る、また、どこにでもありそうな闘病。しかし、当事者にしか気付かない、不可逆的な穏やかな日々。

    心臓がドキドキするのは、その日がいつか来ることに気付いているから。人間は何度も、死を乗り越えて、再び穏やかさを取り戻して生きる。死を前にすれば弱くもあり、しかし、それを乗り越える強さもある。人と人の距離、過去と現在の距離、自分自身と未来への距離を測りながら。

  • 身近な人を看病して死を迎えるにあたって、どのように対するのか?
    その人らしいとは?死に向かうのも生きかたそのものであり、
    それは自分の死にかたであり、清ぎよしい死にかた、
    あるいは清ぎよし生きかたが浮かんでくる、著者の目線が新鮮。

  • 結婚に対するネガティブな感情(女としての役割を押し付けられる、自分の負担が増えるだけ等)を少し改めた。
    お互いを社会人として尊重し合う、2人の関係はとても素敵だ。
    愛する妻のために働き方を工夫しながら看病する主人公は、献身的とも言えるが多分違う。彼は好きな人と一緒にいたくて、少しでも力になりたい一心だけど、自分が属する社会、妻が属する社会両方を大事にしている。
    私もそんな人生のパートナーがいたらいいなと思った。

    妻の死の場面では号泣した。段々と呼吸の間隔が大きくなり、息をしなくなる描写がとてもリアルだった。
    死んだ途端に向こう側の住人として、神様のように扱われることに主人公は違和感を抱いていたけど、遺族がその先の人生を生きるために必要な儀式なんだと感じた。

  • 帯を見て、反射的に
    切ない感じを想像していたけど
    そうじゃなかった。

    がん患者と家族の心のうち、
    医師をはじめ、そこに関わってくる人たちとのやりとりで感じるさまざまな思いや葛藤、
    どう社会と関わっていけるのか…

    登場人物に名前がないぶん、
    彼らが着ている服の色や仕草を
    何度も描写しているのが印象的だった。
    それが、淡々と物語が進んでいくように感じた
    理由の1つかも。

    主人公が、
    がんを患った妻の入院先へ向かうところから
    物語は始まる。
    がん患者が考える仕事への思いと距離感。
    がん患者家族とそれ以外の人たちとの距離感。
    逝ってしまった大事な人との距離感。
    とても冷静に綴られているなぁ
    何度も思った。

    がんに対して明るいイメージを持てた、と
    主人公は言う。
    あたしは、正直そこまでの変化はなかったし
    最期の瞬間もあたしには大事なものだった。

    だけど、
    抱きがちながんへの悲観的なものは
    なんか違うんじゃないかって思う。
    がん患者だって可能な限り、
    社会と関わっていたい。
    仕事だってしたい。
    延命治療をしないからといって、
    全てを諦めているわけじゃない。

    病室のロッカー、テレビカード、
    横長の白いテーブル、
    仕切りのカーテン…
    自分もがんで父を亡くしているから
    ものすごくリアルでに感じられ、
    まるで自分の記録、のような一冊だった。

  • とてもリアリティがあり、
    悲しいしやるせないけれどどこか光も感じる。

    お義母さんがあまり好きではないというか
    けして嫌いではなく恐らく良い人なのに
    ちょっともやっとするところがある。

    そういった日常にありふれたことが、奥さんの闘病生活を支える中でもそこかしこに在る。
    会社の人が奥さんの余命を訊いてくるのも可笑しいし
    忌引きじゃなくて死ぬ前に休みが欲しいというのも
    本当は当たり前の感情だと思う。
    余命という物語を使わず納得してもらいたい
    という表現の仕方に共感する。

    主人公に対しても、「して『あげる』」という言い方を
    しなくても良いのになと思った。

    小林農園の人は良い人で、本人の前では泣かなかったのだろう。
    しかし泣くのを我慢して看病してる人の前でお前が泣くのかよという気もするというのも
    それはそうだろうなと思ってしまった。

    痛くても並行して幸せだと思うこともあるというのも
    分かる気がした。
    うつる病気ではないのに治療に専念して表舞台には出るなというのはおかしい。
    元気がないまま人に会ってもいいんじゃないか。
    そういう考え方と、それを言葉にしているところが
    素敵だなと思う。

    考え方が合わない、相手が思い込みで話している
    というようなことを
    ストーリーが始まるという表現の仕方をしているのが
    悪気のなさ、通じ合わなさなども感じられて
    興味深い。

    黄色一色にして欲しいと言ったのに
    いろんな色で飾られた葬儀場。

    「死ぬならがんが良い」
    自分には到底言えそうにない言葉ではあるが
    亡くなった奥さんも看取った旦那さんも
    精一杯日々を過ごせたことだけは間違いないと思えた。

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著者プロフィール

1978年生まれ。「人のセックスを笑うな」で2004年にデビュー。著書に『カツラ美容室別室』(河出書房新社)、『論理と感性は相反しない』(講談社)、『長い終わりが始まる』(講談社)、『この世は二人組ではできあがらない』(新潮社)、『昼田とハッコウ』(講談社)などがある。

「2019年 『ベランダ園芸で考えたこと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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