ファーストラヴ (文春文庫)

著者 :
  • 文藝春秋
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本棚登録 : 758
レビュー : 43
  • Amazon.co.jp ・本 (367ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167914356

作品紹介・あらすじ

夏の日の夕方、多摩川沿いを血まみれで歩いていた女子大生・聖山環菜が逮捕された。彼女は父親の勤務先である美術学校に立ち寄り、あらかじめ購入していた包丁で父親を刺殺した。環菜は就職活動の最中で、その面接の帰りに凶行に及んだのだった。環菜の美貌も相まって、この事件はマスコミで大きく取り上げられた。なぜ彼女は父親を殺さなければならなかったのか?臨床心理士の真壁由紀は、この事件を題材としたノンフィクションの執筆を依頼され、環菜やその周辺の人々と面会を重ねることになる。そこから浮かび上がってくる、環菜の過去とは? 「家族」という名の迷宮を描く傑作長篇。第159回直木賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 衝撃的で、圧倒的。
    いろんな感情が溢れ出して、ちょっと、というかすごくやばい読後感です。

    女子大生・聖山環菜は父親の勤務先で、父親を刺殺した疑いで逮捕された。
    なぜ彼女は父親を殺さなければならなかったのか?
    臨床心理士の真壁由紀は、この事件を題材にノンフィクションの執筆を依頼され、国選弁護人の庵野迦葉と共に、環菜の過去に迫るー

    第159回直木賞受賞作。
    「直木賞のすべて」で選考委員の意見を読むと、男性選定委員の評価が総じて高く、女性選考委員はそれほどでもないところがおもしろい。

    高村薫さんが「『文章がいい』という声が多かった」と言っているが、まさしくそうだと思った。淀みなく心に入っていく。スマートにスムーズに。だからこそ「全体的に薄味な印象」(桐野夏生さん)に感じる人もいるだろう。
    その一方で、「冷ややかな恐怖と閉塞感、作中で暴かれてゆく秘事への嫌悪感には忘れがたい」(宮部みゆきさん)ため、物語に浸ってしまうと、心の奥底が揺さぶられる。

    文庫版には朝井リョウさんの解説があって、それも非常に良い。
    朝井リョウさんはこの小説について言う。
    「自分とは異なる肉体が歩む道を想像するスイッチを授けてもらえる…。男性の読者の中には『このシチュエーションでこれほどの精神的ストレスが生まれ得るものなのか』…狐につままれるような気持ちになる人もいるかもしれない。」
    この小説は男性こそ、読むべき小説かもしれない。

    とにかく素晴らしい小説!

    なおこの小説、ドラマ化と映画化されるのだそうだ。
    ドラマは2月22日放送。映画公開は2021年。
    どちらも見なくては。

  • 「アナウンサー試験を途中で抜けて包丁を購入、父の勤務先を訪れて刺殺し、血まみれで歩いていたところを逮捕された女子大生」

    衝撃的な事件に、犯人の環菜の美しさも相まって、世間が高い関心を持つも、動機ははっきりしない。
    臨床心理士の真壁由紀は、事件を題材にしたノンフィクションの執筆を依頼され、事件の背景を探っていくが…。

    最初に描いた犯人像は、環菜との面会のたびにぼやけて揺らぎ、足元が覚束なくなってくる。
    娘の責任だ、あの子は嘘つきなのだと全く庇おうとしない母親、私が全部悪いんです、どうしてこうなったのかわからないという環菜。
    話は二転三転し、強い口調で否定したかと思えばぼんやり思考停止し、しばしば錯乱して不安定な状態に陥る。
    面会を重ね、パズルのピースを丹念に拾い集めるうち、霞がかった向こう側に、幼い少女が途方に暮れて立ちすくむ姿が見えて来る。
    自分をただの『対象物』として扱う大人に自己肯定感を摘み取られ、ぬくもりを求めては利用され、傷付けられても放置されるうちに傷は膿み、どんどん蝕まれていく。
    薄皮を剥ぐように浮かび上がってくる事件の真相には心揺さぶられる。

    読みながら思い出した出来事がある。忘れていた、忘れていたかった記憶。
    5、6歳くらいの頃、フリルのワンピースを着て、近所の公園で一人縄跳びをしていた。飛ぶとふんわりスカートが揺れて嬉しかった。
    ふと気づくと傍にしゃがみこんだ見知らぬおじさんがカメラを構えていて、目が合うと「気にしないで続けてー」とにたりと笑った。
    後ろを振り向かず、もつれるように走って帰った。

    それだけ?続きないの?と思われるであろう、ただそれだけの話。
    当時、得体のしれないモヤモヤの正体が自分でもよくわからず、この出来事は母にも誰にも言わなかった。
    でもお気に入りだったそのワンピースをそれ以来着ることができなくなった。母になんで?と聞かれても「嫌だから」としか答えられなかった。
    思い出して書きながら自分でも驚いた。『ただそれだけ』の出来事なのに、あの時感じたキモチワルイという嫌悪感、漠然とした違和感と不安感、足のすくむような恐怖心が蘇ってきたから。

    ファーストラヴというタイトル、読む前と読んだあとでは、全然違って見えてくる。どちらかといえば明るいイメージを想起させるこのタイトルにしては、不気味な表紙だなと思ったのに…。こんな底知れぬ闇に包まれたファーストラヴ、読む前は想像できなかった。
    俯き耐える環菜の姿に、小さな心を不安でいっぱいにしてポツンと佇む、多くの子供達の姿が重なる。たくさんの人に読んでもらい、考えて欲しい作品。

  • 殺人事件の物語だと思って躊躇しながら読み続けると、なんと純愛物語。
    家族の問題を取り上げながら自分自身の恋愛や家族の問題も。
    我聞さんがとっても素敵。
    一人一人の人物像がしっかりしていて、読み応えたっぷり。
    解説の朝井リョウさんも とっても良い感じ。
    複雑に絡み合うストーリーの構成も素晴らしく、最初は頭に素直に入らなくても、後半は素晴らしい展開に。
    是非読んでもらいたい一冊です。

  • フォロワーさんのレビューを読んでとても気になっていた作品。


    臨床心理士の由紀は、出版社から最近話題になっている
    美人女子大生 環菜が父親を刺殺した事件を本にしないかと持ち掛けられた。

    逮捕後の取り調べでは「動機はそちらで見つけてください」と警察に話したと伝えられ、
    ワイドショーなどで大きく報道されていた。

    この事件を担当する弁護士は、偶然にも夫の弟の迦葉だった。
    迦葉からも協力を請われ、由紀は環菜に接見するも、何故父親を殺したのか?
    簡単に動機には辿り着かせてもらえない。

    環菜から話しを聞き、母親から、親友から・・・と少しずつ
    環菜の周囲の人からの話を聞き集める由紀。



    物語の紡ぎ方が非常に興味深く、一気読み必至の本。

    「そんなの親に虐待されてたんじゃないの?」

    という私のありきたりの予想は当然しっかり裏切られ、
    もっともっと緻密なストーリーだった。

    たくさん本を読んでいるわけではないが、自分が読んだ本の中では
    こんな雰囲気の本は読んだことが無かったかなぁ??と思う。

    この作家さんの表現の仕方は私はとても好みだなぁ~と思う(*^-^*)

    また別の本も読んでみたい♪

  • なぜ自分が父親を殺害するに至ったのか解明してほしいという美しい女子大生環菜。自らも心に傷持つ臨床心理士、由紀が、環菜の複雑な家庭環境と心の闇を読み解き、環菜の心を解放していく。
    国選弁護人として共に奔走する迦葉。
    由紀と迦葉、そして我聞の心の移り変わりと、事件解明へのクライマックスとが相まって最終的にわだかまりが解消され、ひとつになる感が美しかった。

  • この物語は例えると、動物園で育った動物が子供を育てることができないということ。
    日本は戦争・内戦がなく平和でいいと言われるが、資本主義の波に飲み込まれ、貧富の経済格差が大きくなり、ストレスも増している。多忙の中での子育てはうまく行かなかったり、連れ子に虐待したり、援助交際、買春(国内・国外)が
    稀ではなくなってきている。
    これは日本だけのことではないが。
    そのような経験をした子供たちは大人になっても変わらず、子供に同じことをしてしまう。
    現代社会の闇を恋愛に絡めたもので、やはり直木賞に値する作品と感じた。過去の作品は女性向きに偏向が強い気がしたが、この作品は性別を問わず、考えさせられる。

  • 苦しいよ。苦しい。苦しいよ。とにかく、苦しかった。環菜も。由紀も。言葉にできない苦しさ、環菜が最後の最後で、自分の言葉で話せた。一筋希望が持てた。先日放送された、BSプレミアムのドラマも読了後に見ました。

  • 最後の方になってファーストラブというタイトルの意味に納得した。
    途中までの何か裏があるのを窺わせる所や、モヤモヤする所なども面白いと思う。
    中心のストーリーに絡めている過去の話や手紙の部分などが良いアクセントになっていたと思う。

  • タイトルの付け方が秀逸。島本理生さんでタイトルが「ファーストラヴ」とくれば当然のように恋愛小説だろう(少なくとも恋愛要素がキーになるストーリーなのだろう)と思って読み始めたが、これは家族の物語だった。子どもの幼少期の生育環境がその後の人生や価値観に与える影響の大きさについて考えさせられる。
    語り手の主人公と環菜の半生がシンクロした深みのあるストーリー展開で、4,5時間で一気読み。特に裁判のシーンはおそらく相当下調べ(裁判傍聴など含め)されたのだろうなあと思わされる臨場感で、読み始めたら止まらず。島本理生さんの小説は15年ほど前からよく拝読しているが、こんなに子どもをリアルに描かれるようになったのは、やはりご自身が母になられたからなのかな。
    映画化にあたり北川景子さんが長かった髪をばっさりカットされたというニュースを聞いてすごく気合が入ってるんだなと当時は思ったが、本を読んで彼女のショートカットという要素は外せないアイテムだとわかった。映像化が楽しみ。

  • 恋愛ものではないので少し疑いつつ読み始めた自分を大反省。直木賞納得の作品で一気読みだった。
    事件はなぜ起こったのか、環菜はほんとのことを話しているのか、環菜はどのような闇を抱えているのかを追いつつも、由紀や迦葉の抱えてきたものや、二人の関係、迦葉の恋愛?、親との確執など、普段なら話が多すぎるよと思いそうなのに、まったく無理なくそれより続きが気になって読み続けてしまうといった感じだった。
    環菜がどうしてこのような言動を取ってしまうのかについて、やはり男性よりは女性のほうが受け入れやすいかもしれない。
    最後には母親についても回収してしまうところが秀逸。
    そしてやはり、由紀と迦葉の人間的な結び付きと、それを理解している我聞さんに、何とも言えず救われたようなほっとしたような、とても良い余韻を残した終わりかただったかと思う。

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著者プロフィール

島本 理生(しまもと りお)
1983年東京都板橋区生まれ。都立新宿山吹高等学校に在学中の2001年に「シルエット」で、第44回群像新人文学賞の優秀作を受賞し、デビュー。06年立教大学文学部日本文学科中退。小学生のころから小説を書き始め、1998年15歳で「ヨル」が『鳩よ!』掌編小説コンクール第2期10月号に当選、年間MVPを受賞。2003年『リトル・バイ・リトル』で第128回芥川賞候補、第25回野間文芸新人賞受賞(同賞史上最年少受賞)。2004年『生まれる森』が第130回芥川賞候補。2005年『ナラタージュ』が第18回山本周五郎賞候補。同作品は2005年『この恋愛小説がすごい! 2006年版』第1位、「本の雑誌が選ぶ上半期ベスト10」第1位、本屋大賞第6位。2006年『大きな熊が来る前に、おやすみ。』が第135回芥川賞候補。2007年『Birthday』第33回川端康成文学賞候補。2011年『アンダスタンド・メイビー』第145回直木賞候補。2015年『Red』で第21回島清恋愛文学賞受賞、『夏の裁断』で第153回芥川賞候補。『ファーストラヴ』で2回目の直木賞ノミネート、受賞に至る。

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