小さな場所 (文春文庫 ひ 27-3)

著者 :
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (269ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784167919887

感想・レビュー・書評

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  • 台湾は行ったことがないけれど、こんな雰囲気なんだろうな。狭い雑然とした通り、ガヤガヤとした日常、色々な事情を抱えた大人達が行き交う場所。
    人物描写が生き生きしていて、その喧騒までもが伝わってくるようでした。

    自分が生まれ育ったこの”小さな場所”がすべてと感じていた9歳の主人公はある日気づく。
    「いろんなことが重なって、ぼくは漠とした不安を抱えこむようになった。自分の人生をかたちづくるものが永劫不変なんかじゃなく、いつか消えてなくなるかもしれないということに気づいて戦慄した。」そういう瞬間って、そう確かにあった。

  • 主人公は台北の西門町に住む少年、景健武(通称《小武シャオウー》)。小学校3年生の頃を振り返った話のようだ。彼の語りによる6篇の短編はいずれも生々しくて、小学生の体験としてはあまりにもディープすぎる。

    食堂を営む両親は忙しく、小武は刺青店の店員やタピオカミルクティの店員らと一緒に過ごす時間が多い。すると自然に大人の話題を耳にすることになる。複雑な男女関係、犯罪、DV,そして紋身街に刺青を入れにくる人々の裏事情…。旅行者には分からない台北がつまった一冊である。

    ラストの「小さな場所」では、小武が一歩を踏み出す状況が、宿題の小説と共に語られる。「井の中の蛙」の「大冒険」には惹きつけられた。まるで自分が物語の中の蛙になったかのようだった。恐るべし小武!

    見開き、目次、タイトルページをめくると、『妻へ」と書かれたページがあることに気づいた。その意味を色々考えさせられた。

  • 台湾の実在の街が舞台。
    紋身街今風に言えばタトゥースタジオが点在する小さな街の群像劇。
    登場人物の名前がなかなか覚えづらかったので前半はなかなか進まずでしたが、それぞれのキャラクターが想像できるようになると、タイトルにもある小さな場所でおこる様々出来事を通して、なんとなくこんな感じかなーなどとイメージしながら読み進めた。
    台北の小さな場所で多感な時期の少年が成長していくんだけど、子供って大人が思ってるよりも実は色々考えたりしてるんだよなーなんて昔の自分と重ねたりしながら読んだ。

  • 台北の紋身街を舞台にした、9歳の「ぼく」目線の世界の物語

    かつては刺青のお店が立ち並んでいた紋身街も、今や3店のみ
    そんな街の入り口で食堂を営む家庭の「ぼく」景健武(ジンジェンウ)
    皆からは「小武(シャオウ)」と呼ばれている

    猥雑で少しアンダーグラウンドな一面を持つというと、日本でいうなら新宿歌舞伎町のような感じなのだろうか?
    または、読んでいて石田衣良のIWGPシリーズに通じる雰囲気を感じたので、渋谷の裏路地かもしれない

    主な登場人物
    タピオカミルクティー屋の阿華(アファ)
    確固たる信念を持った彫師のニン姐さん
    依頼に応じてどんな刺青でも彫るケニー
    ピッグボーイとシーシーの兄弟彫師
    探偵の孤独(グウドウ)

    ・黒い白猫
    ・神様が行方不明
    ・骨の詩
    ・あとは跳ぶだけ
    ・天使と氷砂糖
    ・小さな場所

    顔に刺青を彫ってほしいとニン姐さんに依頼した女
    家出した土地神を探すチンピラ
    副業でラッパーをしている小学校教師
    小武の紋身街の捉え方、そして将来


    小武にとっては、紋身街という街が自分の知る世界にほぼ等しい
    そんな小さな世界で、繰り広げられるしょうがない大人たちとの関わり


    ニン姐さんが語った、サッカー選手のクリスチアーノ・ロナウドが刺青を入れない理由は献血ができなくなるから
    心にタトゥーを入れているというのも納得

    ただ、私も定期的に献血しているけど、そんな強い信念があってやっているわけではないなぁ



    小学校の先生でラッパーのフオミンダオの言葉
    「自由とは孤独のことだよ。自由でいたいなら孤独を恐れちゃだめだ。理解されないことを恐れちゃだめだ」

    孤独というのは恐ろしいという思い込み
    大人はとかく友達の有無について心を配るけど、でも実際のところ独りでも十分な人はいるわけで
    その価値観が全てではないんだよね


    作文の宿題で書いたカエルの物語
    比喩のようだけど、これはこれで物語として完結している
    最後のクジラについては色々な意見がありそうですね

    これの答えとしては、「西の魔女が死んだ」の一節がふさわしいかな
    「サボテンは水の中に生える必要はないし、蓮の花は空中では咲かない。シロクマがハワイより北極で生きる方を選んだからといって、だれがシロクマを責めますか」

    カエルにしてもクジラにしても、それぞれ自分の生きるべき場所があるわけで
    どちらが幸せだとかは関係ないと思うんだよね

  • 日本以外の各地がそれぞれ持つ雑然さ、というものを日本語で上手く物語にするには、その地で幼少期を過ごすのが必要条件なのではないかと著者の本を読むとそう思えてくる。

    「流」よりも土着性溢れるこの本は日本語で書かれたのに翻訳本を読むような、快適なほんの少しの違和感を感じさせる。

    文教堂淀屋橋オドナ店にて購入。

  • 台湾にある少しアンダーグラウンドな通り、紋身街。
    その名の通り、入れ墨を入れる客とその彫師がいる通りだ。
    主人公はそんな通りで飲食店を営む家の子供。

    子どものころからアングラだが、嘘偽りのないある意味ピュアな世界で生きてきた。
    そんな子供の目線から紋身街で起きる日常的な様々な事件を描く。

    台湾は日本に地理的にも近いものがあるが、本書を読むとやはり全く異なる文化圏だと認識される。

    ここでの舞台は台湾の中でもカオスな方だろうけど、日本のアングラチックな場所でもここまでカオスではちゃめちゃではないと思う。
    なかなか面白かった。

  • まだ小さな世界しか知らないぼくに、大人たちはこの広い世界の秘密や真実を教えてくれた 台北の猥雑な街、紋身街。狡猾で強欲なだらしない大人たちに囲まれて、少年は世界の広さを知る。切なく心に沁み入る傑作連作短編集。(e-honより)

  • 少年の毎日と成長に不思議な切なさを覚える連作短編。異国なのにノスタルジーを感じる。
    こういう…新刊コーナーにあって表紙が良さげでなんとな〜く手に取った本が「当たり」だと得した気分になる。嬉しい。

    変わらないでいてほしいけど別の世界も見なくては勿体無い気がして、悩む間にもどうせ全ては変わって、過ぎていく。
    主人公の少年にまったく嫌みがないし彫師やタピオカ兄ちゃん達が魅力的です。少年、どんな大人になったかなあ…。優しい、泣きたくなる気持ちでこの時代を思い出すと良い。

  • 日本には無いシチュエーションで、なかなか面白い連作短編集。異国情緒に想いをはせる。

  • 現代の台北の少年が主人公の短編。流や僕が、殺した〜の頃に比べると、町の混沌さは薄くなってるけど著者にはこれからも台湾の市井を舞台にした小説を書いて欲しい。

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著者プロフィール

1968年台湾台北市生まれ。9歳の時に家族で福岡県に移住。 2003年第1回「このミステリーがすごい!」大賞銀賞・読者賞受賞の長編を改題した『逃亡作法TURD ON THE RUN』で、作家としてデビュー。 09年『路傍』で第11回大藪春彦賞を、15年『流』で第153回直木賞を、16年『罪の終わり』で中央公論文芸賞を受賞。 17年から18年にかけて『僕が殺した人と僕を殺した人』で第34回織田作之助賞、第69回読売文学賞、第3回渡辺淳一文学賞を受賞する。『Turn! Turn! Turn!』『夜汐』『越境』『小さな場所』『どの口が愛を語るんだ』『怪物』など著書多数。訳書に、『ブラック・デトロイト』(ドナルド・ゴインズ著)がある。

「2023年 『わたしはわたしで』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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