- 本 ・本 (624ページ)
- / ISBN・EAN: 9784167920913
作品紹介・あらすじ
『かがみの孤城』『傲慢と善良』の著者が描く、
瑞々しい子どもたちの日々。そして、痛みと成長。
かつて、カルトだと批判を浴びた<ミライの学校>の敷地跡から、
少女の白骨遺体が見つかった。
ニュースを知った弁護士の法子は、胸騒ぎを覚える。
埋められていたのは、ミカちゃんではないかーー。
小学生時代に参加した<ミライの学校>の夏合宿で出会ったふたり。
法子が最後に参加した夏、ミカは合宿に姿を見せなかった。
30年前の記憶の扉が開くとき、幼い日の友情と罪があふれ出す。
解説・桜庭一樹
感想・レビュー・書評
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ミカとノリコの話を中心に、彼女たちの子どもの頃と大人になった今の話を行ったり来たり。
「ミライの学校」跡地で発見された白骨遺体は誰のものなのか?真相が気になり、ページをめくる手が止まりませんでした。
子どもの頃に経験したような、きゅうっと胸が締め付けられるような気持ちの数々が丁寧に描かれていました。読了後の満足感の高い作品でした。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
読んでいる間も、読み終わってからも、不思議な、複雑な感情が、じわっと、存在している感じ。
もし仮に、この作品を数年後に読み返したとしても、この複雑さはそのまま存在し続けるだろう。
<ミライの学校>という団体の施設の跡地で、白骨遺体が発見される―
そんな事件から始まり、主人公の近藤法子は、弁護士としてこの事件に関わっていくことになる。
そして、弁護士として関わるずっとずっと前から、法子は、この団体を知っていたのだ。
辻村さんの子どもの感情の描き方は本当に丁寧で、今回は、「あなたのためを思って」という、大人がよく子どもに発するこの、良かれと思ってされた表現が、後々その子どもを、ひいては大人になったその人をどれほど苦しめるか、ということが608ページに渡って描かれている。
解説は、こちらも少女の心を丁寧に描くことに長けた、桜庭一樹さん。
解説にあった、愛と平等の話が印象的。
P614「わたしは、子どもには<愛>と<平等>の両方が必要だったのだな、と読後にしみじみ考えた。家庭などのプライベート空間には<愛>があり、学校などの学びの空間には<平等>がある、それが理想だといったら、理想を語りすぎだろうか?」
P614「残酷な現実ではあるけれど、学校であれ、家庭であれ、理想的とはいえない環境で生きのびるしかなかった子どもは、いびつな足場に合う独自の魂の形を作って成長し、その形に固まり、自分だけのバランスでかろうじて立っているような大人になるのではないかと思う。そうやって生き残り、大人になってから、『その足場、間違ってますよー』と誰かの手で正しいものに急に変えられたりしたら、逆にバランスが取れなくなって倒れてしまうかもしれない。」
(これはトー横とかの子どもがまさにそうだと思う)
仕事で出会う保護者や子どものことを思う。
例えば保護者は、子どもが学校に行かないことに、困り果てている。保護者と話していると、「子どものためを思って」いることが多い。だけど、子どもは保護者と同じ方向を向いていなかったり、保護者が、「子どものためを思って」用意した道が合わなくて苦しんでいたり、家庭環境が複雑だったり。
子どもの話を聞くと、「そんな風に思ってたんだー!」ということも多々。
解説にあるように、足場が急に倒れることは、誰にとっても苦しい。だから、保護者も子どもも、少しずつ別の価値観や選択肢を知って、いびつな足場を自分で調整したり、受け止めたりできるようになれたらいいなと思う。
「こうしたら楽なのに」と思うことや、大人が代わりにやってあげられることだってたくさんあるけれど、それを子どもが自分で選んだり決断することが大切で、その選択や決断が子どもにとって苦しいものであっても、いろんな感情と向き合って、「自分で選んだ」「自分で決めた」ことを尊重してエールを送りたい。
その大切な瞬間を「あなたのためを思って」奪って、代理で決めてしまうことは、結果として子どもを苦しめる。
遠回りをしてでも、不登校の期間が多少長くなっても、子どもがじっくり向き合う時間に、じっくり寄り添う。
あなたのためを思うのなら。 -
ちょっと期待しすぎた…
わたしは【ミライの学校】の存在がそんなに悪いことじゃないって思ってしまった
宗教ってなるとちょっと…ってなるけど、田舎に住んでるからか都会から1週間過ごす分にはいいんじゃない?って。
親元からずっと離れて子供たちだけで過ごして育つことには疑問もあるけど…
難しい。白黒つけられるような話じゃないと思う。
宗教だろうがなんだろうが、当人たちが良いと思えば良いんだろうし、それらを他人がどうこう決めることではないって思った。 -
ずっと「問答」をしているようだった。
子どもは親と一緒にいるほうがいいのか?
それはどんな親でもそうなのか?
親じゃなくても、愛情のある大人と一緒ならいいのか?
親が子どもと離れたいと思うのは悪いことなのか?
子どもと離れた親は子どもを愛していないのか?
いい親と悪い親、いい宗教と悪い宗教、いい教育と悪い教育、それは何?境目はどこ?
考え続け、答えをもっても、本当にそうですか?この場合はどうですか?と、ずっと問われ続ける。でも嫌じゃない。楽しくて、面白くて、ハマっていく。
幼少期の紀子の考えることのほとんどに身に覚えがある。一人になりたくない、あのかわいい子たちとは仲良くなれそうもない、でも友達として選ばれたい、選ばれたことを自慢したい。文を追えば追うほど紀子は自分だという気持ちになってくる。それゆえに、紀子が、ミライの学校に魅せられていく気持ちがよく分かる。紀子が考えること紀子に起こること全てが自分ごとのように感じられる。共感ともまた違うような、本当に何度も気持ちを揺さぶられ続ける。
ああ、本当になんて楽しい時間なんだろう。
読書は最高の娯楽!
ページ数はあるけれど、読みやすいし、大人はもちろん、中学生、高校生にもおすすめ。また読みたい! -
すべてとは言わないまでも、辻村深月さんの作品は結構読んでいるほうだと思う。一作ごとに趣向が凝らされ、特定のジャンルに固定されない。作品の幅が本当に広い作家さんである。
子どもを親元から離し、自然の中で共同生活を送らせる団体「ミライの学校」。弁護士の法子は小学校のときの3年間、この学校が主催する夏休み合宿に参加していた。関係者による不祥事が発覚し、カルトと糺弾されてから30年後、学校跡地から子どもの白骨死体が発見される。
宗教2世問題がクローズアップされる前に発表された作品だが、まるで時代を先取りしたかのようなテーマに注目が集まった。辻村さんは子どもの視点から社会を切り取っていくのが非常に上手い。本作も一気に引き込まれて読了した。 -
私も施設で育ったから気持ち分かるよ
余談,,,又吉直樹大先生は、「学生時代の友達なんて、なんの意味もない。家が近い、親が仲良い、習い事が同じ、とかそんなレベルの事。大人になれば価値観の合う友達が出来るから、そちらの方がよっぽど意味のある友達だ」と。 -
一貫して暗い内容だけど、嫌にはならない。
人は何を信じて生きていくかで大きく変わる。
宗教じみた学園も信じる人にとっては道標のような存在なんだろう。
だけど、思想や考え方を押し付ける事は罪のような気がする。
良い子であれと…いったい誰のための良い子なのか?
それによって大人から子供がミライの学校に翻弄されて生きていくことに悲しさや、憤り、底気味悪さを感じる。
なぜなら、誰も間違っていないから。
裁判後の法子と美夏の電話の内容で全てが救われた、そんな一冊だった。 -
この気持ちをなんと言い表せば良いのだろう。
辻村作品の真骨頂だなぁと感嘆する。
全てが対比で描き出されていく感覚。
過去の思い出と現在。
親と子。理想と現実。善悪や甲乙はつけられないまま、物事は一様に計れない事を教えてくれる。宗教団体「ミライの学校」という特殊な環境を舞台に描かれる登場人物の感情は、私たちのそれとどこまでもリアルで地続きだな、と。 -
ボリュームも内容も分厚い話でした。いくつかの親子の形と、子供の教育について大人はどうあるべきか、考えていくきっかけになるもの。若干カルトめいた表現も入るため、どう捉えるかは読者次第にはなるものの、恐らく捉え方は話中の一般的な人々と大差ない点は自戒。話は決して気持ちの良いものではないし、心理的な黒さの一方で、しっかりとした着地と救済が見えるのは良かった。けん先生にもうちょっと触れるかな?と思ってたが……少しサイドストーリー気味な扱いなのかな。
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暑さが次第に厳しくなってきた。「夏」と題名にあるものを冷房の効いた本屋さんで探していたら、見つけた。「琥珀」というのも気になる。琥珀は樹脂の化石だ。そこから登場人物の過去を夏とともに思い出されることを推測してしまう。まさか、ジブリに出てくる川の神様ではないだろう。
まるでタイムカプセルのように琥珀に閉じ込められた作者の気持ちが溶解していくように感じた。案外奥が深い作品だと思う。
ミカ(美夏)とノリコ(法子)の時間軸は子どものころと、現在の成人した時代が織り交ぜられる。ミカって「夏」の字が入っている。初めはカタカナだった。そこに意味がある。テーマとしては、カルト集団に限らず子育てのあり方が主題だと感じる。それを子どもの視点からも描くために、子ども時代を並行して描写されているように感じた。同時に本来の豊かさとはどうあるべきかという事も考えさせられた。
この作品は、さまざまな疑問点が少しずつ紐解かれていくストーリーにもなっていて、それも魅力だと感じる。また、主テーマに付随するテーマも現代日本の課題を浮き彫りにしている。
こうした事を考えさせられたことから、案外奥が深いと思ったのである。
著者プロフィール
辻村深月の作品





