ジブリの教科書7 紅の豚 (文春ジブリ文庫)

制作 : 文春文庫編集部 
  • 文藝春秋
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  • Amazon.co.jp ・本 (255ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784168120060

作品紹介・あらすじ

カッコイイとは、こういうことさ。万城目学を筆頭に、人気作家陣・学者たちが根強い人気の宮崎駿作品の魅力を読み解く。アニメーター達の貴重な当時の証言も多数収録。

感想・レビュー・書評

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  • 『紅の豚』の教科書。
    イメージボードや背景美術、夕刊ブタ、エンディングのイラストなど、絵の収録点数が多くて嬉しい。
    文章としては毎度楽しみにしている鈴木プロデューサーの「汗まみれジブリ史」と、「『紅の豚』解題」が良かった。
    特に「『紅の豚』解題」は、今までのストレスを吐露するような記述があり、「なんと!」と大興奮(←我ながら趣味悪いなぁ)。
    いや、まさかそんなことになっていたとは…と。
    これは今後も目が離せません。

    『紅の豚』は私にとって微妙な印象の映画だ。
    大好きな場面も、大好きな登場人物もいないけれど、絵の印象は強く、明るい空や(幼い私を魅力することのなかった)大人達のビジュアルも鮮明に思い出せる。
    『紅の豚』のイメージはとにかく明るかった。
    教科書に書かれているような時代背景なんて何にも感じ取れずただ明るい空の下で飛び回る爽快感だけが印象に残った。
    あの頃より大人になった私の目にはポルコとジーナがどう見えるんだろう。
    機会があればもう一度見て確かめたい(その前に『おもひでぽろぽろ』を見なきゃなのだが…)

  •  大人になってから初めて観たが、初見時の感想はまあまあ。特に心に残ることもなかったが、今になってポルコの魅力に取り憑かれている。疲れて脳細胞が豆腐になった中年男にはなってないつもりなんだけど。なぜ豚になったのか?観る前は疑問に思っていたが、観終わるとどうでもよくなっている。加藤登紀子さんと宮﨑監督の対談やお馴染みの大塚氏の解題、サン=テグジュペリから読み解く『紅の豚』が面白かった。主人公の成長譚ではなく、大人しか登場しないジブリ作品の魅力に気づいたのは、大人になった証だろうか。

  • ナビゲーター・万城目学豚(ポルコ)がのこしてくれた魔法Part1 映画『紅の豚』誕生
    スタジオジブリ物語『紅の豚』と新スタジオ建設★
    鈴木敏夫 「女性が作る飛行機の映画」宮崎駿の驚くべき決断★Part2 『紅の豚』の制作現場

    [監督] 宮崎駿
    「『紅の豚』は自分への現在形の手紙だった。」★
    宮崎駿監督による演出覚え書き★
    女性スタッフ七人座談会 今だから話したい『紅の豚』のこと★
    ART of PORCO ROSSO★
    宣材コレクション★
    加藤登紀子×宮崎駿 もう一度、時には昔の話を
    エンディング・イラスト選──飛行機 黎明期Part3 作品の背景を読み解く・viewpoint・佐藤多佳子 アドリア海の光と影
    from overseas イタロ・カプローニ 祖父ジャンニ・カプローニが生きた『紅の豚』の時代★
    村上龍 現実を「なぞらない」宮崎駿 『紅の豚』によせて
    稲垣直樹 サン=テグジュペリから読み解く『紅の豚』★
    青沼陽一郎 『紅の豚』とその時代──「変身譚」の系譜
    佐藤和歌子 トリプル・ラブは名画の香り?!★
    大塚英志 『紅の豚』解題★
    出典一覧
    宮崎 駿プロフィール
    映画クレジット

    ■万城目学。駿がなぜ豚なのかという疑問に費やした時間など5分に満たないのではない。感性と感覚を凝縮した一点があり、それを具現化する作業の方が大変だったのに、なぜ豚かと問われて困惑。逆にそれに答えるには己の来歴をすべて伝えなければ説明できない。
    ■「おもひでぽろぽろ」完成がずれたため、会議室の看板「紅の豚準備室 ただしひとりだけ」。そもそもは15分程度の短編という企画。だんだんスケールアップ。湾岸戦争やPKO黒海までの流れと無関係ではない。ユーゴスラビアの件も。新スタジオ建設。
    ■鈴木敏夫インタビュー。「今度はスタッフを一新して、すべての重要な仕事を女性に任せよう」それがピッコロ社の女作業員たち。JAL「えっ。豚ですか!?」「へえ、紅の「歌」ですか。いいタイトルですね」。スピルバーグ「フック」初日が終わったら突貫工事で入れかえ。全国キャンペーン。
    ■駿インタビュー。本作に出てくるのは自分を全部確立した人間だけ。フィオも。若者をまったく排除した映画。そうしないと1920年代を豚として生きたポルコに拮抗できない。豚はヨーロッパの現代史を背負っている。国のために犠牲にはならない。俺の魂の責任は俺自身で持つんだ。ラスト。ジーナは、豚のまま日差しの中に現れたら、それを愛そうと決めた。人間に戻ったら、じゃない。美女と野獣はずっとやりたかったテーマだが、やったとしても最後は野獣のまま。EDロールのイラストが豚なのは、くだらなさの自覚。「ナウシカ」「ラピュタ」「トトロ」は過去の自分への手紙。「豚」は現在形の手紙を書いてしまった。
    ■演出覚え書き。疲れて脳細胞が豆腐になった中年男のための、マンガ映画。
    ■女性スタッフ7人座談会。フィオが泳ぐ前に震える。ああいうところを見せたくなくて走っていく、というのが本当の女の子の弱みじゃないかな。ピッコロ工場の女性たちについては、感想さまざま。
    ■加藤登紀子との対談。安保デモのキラキラした騒ぎを横目にして、そうだ無関心であってはいけないと思い始めた時期に全部終わった。疑うこと、後ろめたさで生きてきたようなもの。映画のヒットがダメージになる。時代との波長。「魔女宅」はプロデューサーの娘を仮想敵に仕立てた。「僕ら」や「あの頃」はむしろ映画会社で労働組合。一瞬だけど満ち足りた瞬間があった。
    ■稲垣直樹。サン=テグジュペリからの影響が深層にまで食い込んでいる、と分析。EDロールの22葉の静止画はサン=テグジュペリがモチーフだし、絵と歌詞と絵のタイトルがリンクしている。
    ■佐藤和歌子。サイレントからトーキーへ。ヨーロッパからハリウッドへの映画人の大移動。
    ■大塚英志。高畑勲のいう時代をえぐりとる、時代を照らし返す、をスルーした、正面から降りた。堂々とモラトリアムを扱った。国家の外側に公共の場がかつてあった人類の歴史の最期の局面。歴史の流れを、ふまえるんじゃなくて、かわす。啓蒙的であることと批評的であることは違う。本作は俺はこう生きるというが、観客にこう生きろとは言わない、批評的。だから教養小説的構造を持たない。子供の成長が世界をよくする、ということがない。「おもひで」のタエ子の「帰農」による観客への啓蒙の在り方に、宮崎は違和感。90年代は歴史の終焉、大きな物語の失効。ジーナという母性(入江=子宮)が支配するアドリア海諸島でごっこ遊びを繰り広げる大人たちの物語。大人になれない大人ではなく、大人から降りてしまった大人。マンマユート団は幼児を守るし、ポルコはフィオを大人扱いする。いい子やごっこを演じながら、大人として子供や若者の世界を担保する。フィオの「大きなお尻」がポルコの戦闘機の武装を解除し、機関銃のレバーを折ってカーチスとの空中戦をやめさせる。アドリア海はアジール。ユートピアの捉え方が高畑と宮崎では異なる。アジールの終焉を、延命、最後の祝祭。ポルコがフィオのものにならないのは、半分死者で幽霊のようなものだから。

  • 他のジブリ作品、あるいは他の宮崎駿作品と何かが違う。この作品を好き、ということに後ろめたさを感じる。そのモヤモヤに答えをくれたのはまたしても大塚英志。

    「啓蒙的であることと批評的であることはやはり違うのであって、多くのジブリ作品が受け手に対し、この時代に人としてかくあれと望むのに対し、『紅の豚』は宮崎個人の時代への距離感だけで作られている。俺はこう生きる、と言っているが観客にこう生きろとは言っていない。批評的とはそういうことである。」(p.228)

    なるほど〜。
    スタジオジブリの作品が好きです、という時、ひねくれた人でない限り、「だから私はいい人です」を含んでいる。「ジブリを好きな私を好き」も含んでいる。現代文明批判とか偽善を持ち出さなくても、子供が好き、という一点だけをとっても、水戸黄門の印籠のように使える。
    ところが、この『紅の豚』だけは大きな顔して「好き」とは言いにくく、エロ本とまでは言わないが水着写真集くらいの恥ずかしさを感じていた。だから、実は『紅の豚』を全編通して見たこともない。

    私はオートバイが大好き。
    宮崎駿の飛行機への想いと、程度は違えど種類は同じ。メカであり、操縦している時に感じる風であり、暑さ寒さであり、スリルであり、死の影である。
    だから、素直に「『紅の豚』が好きです」と言ってもいいのに言えなかった。啓蒙抜きの批評、なるほど。私は自分がそれを受け入れるような人間だと認めたくなかったということか。

    あースッキリした。
    今度、堂々と見てみようっと。

  • 紅の豚は、テレビで放送されたのを見ました。大人の女性・ジーナさんの歌うシーンが印象的でした。

    それから、ずいぶん経って、何気なくこの本を手に取ってみました。
    次の大戦の予兆を感じる頃のアドリア海を舞台にしたお話だったのですね。そのことすら、あの頃には思い至りませんでした。あの頃の私には、かっこよく楽しいお話でしかありませんでした。

    空へのあこがれ、空を飛ぶことに命さえかけて・・・そして生み出されたはずの飛行機が、敵を殺すための道具になっていく。ついには、自分の命を捨てて敵を攻撃する手段として使われるようになっていく。その予感の中で、やっぱり空を愛した豚と人間たちの物語。

    この映画を一から見直してみたいと思いました。

  • カッコイイとは、こういうことさ。

    万城目学を筆頭に、人気作家陣・学者たちが根強い人気の宮崎駿作品の魅力を読み解く。アニメーター達の貴重な当時の証言も多数収録。

  • 通算4冊目の教科書。自分のジブリDVDコレクションに同期するように読み進めている。映画作品については、JAL国内線に搭乗した時に宣伝を見たことを未だに覚えている。オタクという言葉が人口に膾炙され、アニメ映画を劇場で観ることにためらいがあったのか、残念ながら自分はこの作品も映画館では見ていない。本書の掉尾を飾る解題。モラトリアム、大人しかいない、主人公の成長譚ではないという解説に唸らされた。そんな目線でDVDを見直そうかな。

  • 製作裏話。女性だけで主要スタッフを構成していたとは、びっくり。思い出ポロポロの製作が押したことが原因とのことだが、当時としては、物凄く画期的だったろうと思う。鈴木さんの裏話と女性スタッフ陣の話が面白かった。

  • やっぱりこの作品は好きだなと実感。BD欲しい…。私はポルコ幽霊説を支持しますが、その後のポルコの話も観てみたい。

  • 一応『紅の豚』の関係なのだが。
     イタリアで日本のアニメを紹介してゐるイタロ・カプロ-二といふ方が、えーと祖父殿がお国の代表的な飛行機の設計家で、孫はそのじい様の作品の博物館とか経営してて、そんでいろいろあって、あの、『紅の豚』で主人公とアニメ見る兄さんのモデルの人が、飛行機で日本へ(1920年代!!)行って持ってきた日の丸も保管してゐて、でもあれには、「CA.なんとか」が一機も出てこないので、アレだったとか書いてある。
     あ、ナニのそれ(「CA.なんとか」やほかの経緯)は『風立ちぬ』で確認ができる。

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