石舟斎から江戸柳生、宗矩、十兵衛と尾張柳生・連也斎に至る四代の剣士の活躍を描いた作品。
「勝手に柳生伝」も筋が輻輳してきて、登場人物が和音として響くようになってきました。
石舟斎と宗矩の諸国流浪の日々は今まで知らなかった宗矩像。彼が大目付にまで上り詰める過程で、苛斂な判断をしていくことになる試練が描かれている。斬り合いでの生き残り技法に留まらず、流派が生き残るための戦略を、事も無げに実践に移す彼ら。
斬る理由、斬られる理由が背景に描かれているから、彼らの立ち会いが、単なるチャンバラではなく生き方、死に方を全うするための表現になっている。
だから格好いいチャンバラになっている場合もあれば、いかにも不恰好な勝ち方、或いは実は相手が負けるつもりだったという場面まで、実に泥臭く、生々しい。
さて、生きるにしても死ぬにしても彼らは己の信念や秘密を知りたいという欲望に殉じている。
だから、なんとなく明るいというと可笑しいけれど、納得ずくの生き死にがあるのだけれど、連也斎の下りは、それまでの三人とは様相を変えて、暗い影がずっと漂っている。
すでに政治は安定し、人を斬る剣法が無用となりつつある時代に、さらに高みに上り詰めようとする日本一の剣聖の孤独と悲壮感と虚無感が伝わる作品。
今までに無かったタイプの雰囲気なのでやや戸惑った。
あまりのことに、最後は「終わった」というイメージ。
ある意味、柳生新陰流が育ち、大樹となって、枯れていくまでの一生を感じてしまったのでした。
いや、読み応えのある一巻でした。