砂時計 警視庁強行犯係捜査日誌

著者 :
  • 徳間書店
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感想 : 10
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198657284

作品紹介・あらすじ

切なさと救い溢れる3つのラスト。読者を半泣きさせる書下ろし警察小説。心揺さぶる哀切のミステリーロマン誕生!マンションの一室で三十八歳の女性が死亡。大量の睡眠薬をアルコールとともに服用したことで昏睡状態となり死に至ったようだ。テーブルには「疲れました。ごめんなさい」と印字された遺書らしきプリントも。自死と思われたが、所轄は警視庁捜査一課の大河内茂雄部長刑事に現場への臨場を依頼した。不自然なことが多かったのだ。部屋のパソコンからはここ数カ月のメールが消去されていたし、死の前日にスーパーの宅配サービスに注文を入れていることもわかった。マンション住人からの聞き込みから、複数の男の出入りが確認され、事件当夜には男女の言い争う声も聞かれていた。大河内刑事は、被害者が中学生のときに父親が殺人を犯していたことをつきとめる。また被害者は二年前にも大量の睡眠薬を服用し病院に搬送されたこともわかった。捜査を進めるうちに、被害者のまわりでうごめく黒い影に存在に気づく……事件の謎に挑む警視庁捜査一課強行犯係のベテラン刑事の活躍を描く3篇。切なさと救い溢れる3つのラスト。読者を半泣きさせる書下ろし警察小説。心揺さぶる哀切のミステリーロマン誕生!砂時計日和見係長の休日夢去りし街角

感想・レビュー・書評

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  • 表題作「砂時計」を含む3つの短編集。

    大河内部長刑事を中心に自殺を偽装したかのような女性の死亡事件の捜査から始まる。
    彼女の身辺を調査するたびに、犯人は誰なのか…と。
    激しさやスピード感などはなく、地道に捜査は進んでいく。
    人間の心の中に潜む暗い部分を炙り出して、犯人を追い詰める…というような感じだった。



  •  ほとんど国内小説を読まなくなってしまったのは、今の国内ミステリの作家が知らない人ばかりになってしまったからである。読者とともに作家も歳を取り、ぼくという読者より大抵年上であった作家たちの新しい作品が製造中止のような状態になってしまったからである。基本的には新しい作家の新しい作品に関する情報を自分が積極的に手に入れようとしていないこともあるが、かつて愛読していた既知の作家の名前が書店から消えてゆき、国産ミステリ作品の顔ぶれが相当に入れ替わってしまっている現状に相当面食らってしまっているのだ。

     本書の書き手である香納諒一は、ぼくという読者から見て最初から年下の方であったし、彼の作品はデビュー当初から全作読んでいるので、自分の心にはとても馴染む。作風も良い意味で個性を変えることなく、エンターテインメントの中に落ち着いた人間描写の陰影をきらりと見せる。人間だからこそ経験してしまう人生の光と影との交錯するドラマには、その上情感が漂う。バリエーションにも富んでいるため、飽きることなく全部読んで楽しめる貴重な作家の一人である。

     本書は、久々に長編作品ではなかった。そう言えばこの人は短編の切れ味も鋭い作家なのであった。本書では短編というよりも、中編小説集である。一作百ページ強の作品が、一冊で三作楽しめた。それも、どれも異なる妙味で味わえるから、多方向的にこの作家の作風のあれこれを楽しむことができた。

     本書のサブタイトルの通り、大河内部長刑事を軸に捜査活動を続ける警視庁強行犯係のお馴染みの刑事たちの捜査活動を通して人間と犯罪の綾を描いた作品である。

     個人的には、二つの捜査作品に挟まれた『日和見課長の休日』が、個性的でお気に入りだ。むしろ三作の中では番外編と言ってもよいかもしれない。比較的地味なキャラクターである小林係長が、浅草で妻と娘と家族三人で休日を楽しんでいたところ、若かりし頃の元寮長と渾名を冠せられていた懐かしいお婆さんに出会うことから、このストーリーは始まる。元同僚であった刑事の隅田川での不審な自死を伝えられ、事の真相を調べるように依頼されたのだ。小林係長は、家族との休日を楽しんでいたのだが、舟遊び・食事・買物などの最中に、ひょいと抜け出してはこの事件を調べてゆく。急に舞い込んだ私的捜査と家族との団らんという大切な行事の二つを同日にこなす、というアクロバティックな物語が見事に展開してゆく。通常捜査小説のフォーマットを少し外れたこのような番外編が、実はぼくは好きである。遊び心という、逆立ちした求心力のようなものだろうか。

     標題の『砂時計』と『夢去りし街角』は、それぞれに人間同士が綾なう弱さと複雑さのコンチェルトのようなミステリである。『砂時計』はその不思議なタイトルの理由がラストシーンで登場するところが読みどころ、かつ胸アツどころ。『夢去りし街角』は、音楽を志す者たちの夢と日常を背景に、目黒川の花見で賑わう時期の殺人という難事件が相まって、音楽を趣味とするぼくとしては個人的には親しみのわく作品であった。

     香納作品の特徴である地取り捜査の魅力が、本書の三作ではどの作品でも活きている。兼ねがね言っているように、この作家の特徴とも言える地理的舞台設定が秀逸で、本書では、東京の各所の特色や日本特有の季節感が活き活きと物語の背景を飾る。東京で生まれ、学び、働いていたかつての自分にとってもちろんのこと、東京を知らない人間が読んでも、具体的描写や東京の持つ独特の空気感はきっと読者の多くに伝わると思う。人間の愛憎劇をミステリの奥で描くにはこうした要素も必須のものであるようにぼくは感じる。映画でも小説でも、その土地という空気感があってこそ初めて、そこを行き交う人間たちが活写されるようにぼくは思う。無論知らない土地であれ、馴染みの土地であれ。

     昨今富みに作家としての円熟味を感じさせてくれるこれもまた最新の秀逸な作品集である。雑誌連載の作品集ではなく書き下ろしというところも、湯気が出ているようで、何となくほっとさせられる。

  • 刑事たちの捜査を描いた中編が3編、[砂時計][日和見係長の休日][夢去りし街角]全部好き。それぞれ別々の個性や捜査手法をもつ刑事達が地道にコツコツと捜査し真実に辿り着く。派手さはないが中身が濃い秀作揃い、読み応えあり!

  • 表題作のほか「日和見係長の休日」「夢去りし街角」警視庁強行犯係の一課長ながら戦力視されていない小林や、実質的に一課を取りまとめる刑事部長の大河内の捜査の道筋が綴られている。些細な違和感や関係者の証言の齟齬を見過ごさず、端から絡まった糸をほぐすように真実を明るみにしていく過程にわくわくさせられ通しである。

  • 読み終わってから、もう一度確認をしたくなる物語で、何故そうなるのかと言うと腑に落ちない感があるから。一つの事件に複雑な伏線が用意されているが、なんとなく腑に落ちない。

  • 警視庁強行犯係を主軸に生い立ち連作3編。どれも読みごたえがあった。それぞれの心情を描きながら犯人の予想も二転三転していく。良質の警察小説でした。

  • 警視庁捜査一課を舞台にした中編集。
    刑事の心象が投影されていて面白い。

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著者プロフィール

1963年、横浜市出身。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。91年「ハミングで二番まで」で第13回小説推理新人賞を受賞。翌年『時よ夜の海に瞑れ』(祥伝社)で長篇デビュー。99年『幻の女』(角川書店)で第52回日本推理作家協会賞を受賞。主にハードボイルド、ミステリー、警察小説のジャンルで旺盛な執筆活動をおこない、その実力を高く評価される。

「2023年 『孤独なき地 K・S・P 〈新装版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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