京都小町塚殺人事件 (徳間文庫 こ 15-38)

著者 :
  • 徳間書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (308ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198921514

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  • <ストーリー>

    串本が地元で、今は京都に住んでいる服部温奈。
    そんな温奈は友人の七海、玲子と3人で麩屋町通りにある店で食事をしようと通りを歩いている時、
    「胡蝶」という店に父親・博之に似た男と見知らぬ30代と思しき女が連れだって入って行くのを見た。

    串本で調味料会社を経営している父が、京都にいるはずがない、勘違いだと思い気に留めなかった温奈だが、翌日母親から「お父さんが京都で殺された」との電話が入る。

    博之は、京都の南・井手町にある小野小町塚の近くで遺体で発見された。
    温奈は恋人の津島季英を伴って警察署へ行く。松永と言う嫌味な刑事が言うには、どこか別のところで殺されて運ばれて来たようだ。
    死亡推定時刻を割り出すと、午後10時過ぎ、7時過ぎに店に入っていたので、それから食事をしたとなるとあの女性が第一容疑者になるはずだ。
    父が殺されたことと父に愛人がいたかもしれないことで、ショックを受ける温奈。

    そんな温奈に翌日、さらにショックなことが起こる。なんと、恋人の津島が殺人容疑で逮捕されたのだ。
    理由を話さない松永に食い下がると、理由は「胡蝶」で博之が「これから温奈の恋人に会う」と言っていたからだと言う。女将が聞いていたそうだ。
    博之の会社は、魚だけを材料にビーフ味の調味料を作っていて、BSE問題を背景に急成長していた。
    その会社を乗っ取る算段だったのだろう、松永は言った。確かに昨日、津島は温奈に、「串本に帰るなら一緒に行く」と結婚をほのめかしていた。
    しかし、温奈にはどうしても津島が父を殺すとは思えない。津島は、かつてアフガニスタンでNPO活動をしていた程、人権問題に興味関心があるような男なのだ。
    温奈は、父親殺しの容疑者・津島を救うため動き出す。

    七海の片思いの相手である相馬史朗が法律に詳しいと知り、相馬から百瀬という弁護士を紹介されるも、
    百瀬の秘書である三上素子は「百瀬弁護士は刑事事件は苦手だから、この人を頼りなさい」と言って宮之原という刑事を紹介される。
    宮之原は警視庁の刑事だが、広域捜査官と言って全国の事件を追っている特殊な刑事らしい。京都好きが高じて普段は京都に住んでいると言う。
    温奈は宮之原を訪ね、捜査を依頼することにする。
    宮之原は年齢は40代後半、クリーム色のセーターにジーンズ姿で手には紺色の煙草ケース、がっしりした体格にオシャレな出で立ち、町で会ったなら刑事だとは大よそ気づかないような風貌だった。
    松永には頼れないと懇願し、宮之原に捜査を依頼。宮之原の紹介で筑紫哲郎という弁護士を紹介してもらい、始めて津島に接見する。
    津島は「俺は無罪だ、温奈の父親になんか会ってもいない。取り調べではずっと黙秘を通している」と言ったそうだ。

    宮之原は、博之の会社が訴訟を抱えていたことに目を付けた。
    博之は14年前からビーフ味の調味料『山海一味』を販売していたが特許を申請していなかった。
    しかし、BSE後キッチン・ジャパンという大手食品メーカーが全く同じ成分の調味料『ミラクル・シーチキン』を発売、特許を申請、そして串本水産を特許侵害で訴えているのだ。
    傍から見れば、キッチン・ジャパンが『山海一味』の成分を解析したのは丸分かりだが、法律上は特許を申請したキッチン・ジャパンの方が有利だった。
    温奈の母親によれば、博之はキッチン・ジャパンの訴訟を受け持つ常盤という弁護士に会いに大阪に行っていたのだと言う。
    宮之原と温奈が常盤を尋ねると、常盤は多忙だったため、訴訟は知り合いの百瀬弁護士に任せたと言うではないか。

    こんなところで百瀬の名前が出て驚く2人は、早速百瀬に会いに行く。
    百瀬は元々常盤事務所の居候弁護士で恩義があったので今回の案件を引き受けたらしいが、どうも自信がない様子。
    百瀬のアリバイを聞くと、犯行時刻には中河原徳子という知人女性宅を訪ねていたという。中河原に話を聞くと、百瀬は当日急に今から渡したい物があるからと言って家に来たと言う。
    その物とは『小野小町のすべて』という本だった。「小野小町がお好きなんですか」と中河原に聞くと、中河原曰く百瀬が好きなのだと言う。
    王朝時代の歌人全般に詳しく、小野小町塚にも百瀬と一緒に行ったことがあると言うのだ。
    小野小町塚は大きくなく、あの場所まで車が入れると知っているのは土地勘がある人間しかいない。
    百瀬に土地勘があると分かり、いぶかしむ宮之原。

    法律上は有利とはいえ、マスコミが『大企業が小さな串本水産を潰しにかかった』と騒げば、裁判に勝てなくなる。
    博之は何か重要な、裁判に関わる証拠を持っていたのではないか。
    それが世に出ることを恐れた百瀬が、何らかの方法を使って博之を殺したのではないか、温奈は疑うが宮之原は首を縦に振らない。
    「百瀬は君と津島君の関係を知る由がなかった。犯人が津島君になりすまし、最終的に津島君に罪を着せようとしていたのなら、百瀬にはそれは出来ない」と言うのだ。
    そして、「もし百瀬が君たちの関係を知っていたとすれば、あり得るのは七海さんが相馬さんに話し、相馬さんが百瀬に話したということになるね」それを確かめるため、2人は相馬に会いに行く。

    相馬はそのことを「よく覚えていない」と言ったが、アリバイを聞かれると、
    「伏見で映画を観た帰り、国道24号線を戻って河原町十条の交差点で信号待ちをしていた時、対向車線に百瀬さんの車を見ました。丁度10時頃。イエローのルノーだから間違いないです」と言った。
    それでは、やはり中河原とグルになって嘘をついたということだろうか。百瀬を問い詰めると、中河原の家には駐車場がないので車は三上に持って帰ってもらったのだと百瀬は言った。
    時間も遅いので次の日、三上に事情を聞こうと思っていると、翌朝三上が鳥辺山で遺体で発見されたのだった。

    その後すぐ、百瀬が逮捕された。百瀬の車から博之の血痕が発見されたのだ。
    もし中河原が嘘をついていないとすれば、百瀬が津島の振りをして博之と接触し博之を殺害、その後百瀬は中河原の家に行き、三上が博之の遺体を小野小町塚まで運んだのだということか。
    昨日、相馬が言っていた。「百瀬弁護士は良く女性にモテる。三上さんとも、体の関係にあったようだ」と。
    そして口封じに三上を殺したと松永は踏んでいるのだろう。これで津島は釈放される、そう思うが温奈はどうも納得できない。
    百瀬にしても、とても人を殺せるような人間に見えなかったのだ。宮之原は言った。「相馬くんには、片思いをしている女性がいるって七海さんは言っていたけど、それが誰か聞いて欲しい」
    相馬の片思いの相手は、高塔千尋という経営コンサルタントをしている30代の女性だと七海は言った。
    アポイントを取り、今出川通りにある千尋の事務所を訪ねると、温奈は気づいた。千尋が、父と「胡蝶」に入って行った女性だと。
    千尋は、博之が14年前、京都水産大学で『山海一味』の研究をしていた時のアシスタントで、あの日もたまたま連絡があったから食事をしただけで、博之の愛人ではなかった。
    「なぜ名乗り出なかったのか」と問い詰めると、「自分の恋人が犯人だと思ったから…」そう千尋は言った。千尋の恋人とは百瀬だったのだ。
    「あの人、『裁判に勝てる自信がない』ってずっと言っていたから…」そう千尋は言った。それを聞いた宮之原は言った。「温奈さん行きましょう、犯人が分かりました」

    宮之原と温奈が会いに行った人物、それは七海の片思いの相手・相馬史朗だった。
    「あなたは、七海さんから聞いて津島君の存在を知っていた。さらには千尋さんと博之さんが『胡蝶』で会うことも知っていた。
    それで考えた。津島君のフリをして博之さんに接触、博之さんを殺害した後、自分の車で小野小道塚まで運び遺棄した。
    ちょうど犯行時間に合うように、あなたは三上さんに連絡を入れた。「百瀬弁護士がお探しの本が古本屋にありますよ」と。その古本屋までは車でないと行けない。
    百瀬弁護士の几帳面な性格を知っていたあなたは、本を手に入れた後、その足で中河原さんの家に行くであろうことを知っていた。そうなると車は三上さんが家まで運ぶ。
    三上さんの家は、井手町の方向だからね、あんな派手な車だ。誰かが覚えているだろうし、自分が証言すれば容疑は百瀬にかかる。
    自分が本の情報を教えたと知っている人物、三上素子を百瀬に罪を被せて殺せば、百瀬の犯行は疑いようがなくなる。車の血痕は、三上さんにキーを借りて付けておいたんだろう」
    「でも、どうして相馬さんが、父を殺す必要があるんですか…?」温奈は言う。
    「おそらくだが、君は博之さんには何の恨みもなかったんじゃないか。ただ、百瀬に罪を着せたい一心だった。そうまでして、君は千尋さんを手に入れたかったんだろう?」
    相馬は小さく頷いた。片思いが引き起こした、複雑な事件だった。

    温奈は釈放された津島と相談して、串本に一緒に帰ることにした。串本水産を守るため、手を合わせていくつもりだと宮之原に言う。
    宮之原は、言った。「時にぶつかるのが夫婦です。きっと君たちなら大丈夫だよ」そう言って、刑事らしからぬ顔で笑った。

    <感想>
    動機が微妙!
    好きな人を振り向かせたい…で人殺すか?(笑)
    もっと木谷さんが若い時の奴の方が面白いかなー。

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著者プロフィール

1927年、大阪生まれ。私立甲陽学園卒。浅草の劇団「新風俗」、「三木トリロー文芸部」などを経て、ルポライターとして活躍。1977年頃より風俗営業の女性を題材とした小説で一躍注目を浴び、その後『赤い霧の殺人行』で旅情ミステリーの分野に進出。近年は宮之原警部が活躍するシリーズが人気を得ている。2012年に逝去。(2013年7月18日現在)

「2013年 『京都呪い寺殺人事件』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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