ロゴスの市 (徳間文庫 お 42-2)

著者 :
  • 徳間書店
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本棚登録 : 142
感想 : 13
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  • Amazon.co.jp ・本 (331ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198944001

作品紹介・あらすじ

「肺がこんなきれいな空気で満たされた恋愛小説、初めて読んだ気がする」と書評家・温水ゆかりさんが絶賛した
傑作恋愛小説!
昭和55年、弘之と悠子は、大学のキャンバスで出会う。その後、翻訳家と同時通訳として、二人は闘い、愛し合い、そしてすれ違う。数十年の歳月をかけて、切なく通い合う男と女。運命は苛酷で、哀しくやさしい。異なる言語を翻訳するせめぎ合い、そして、男と女の意表をつく”ある愛のかたち”とは?

感想・レビュー・書評

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  • ロゴス愛に溢れた一冊。
    翻訳という仕事のことがよくわかりました。まるで異業種交流したような気分です。
    恋愛については…昭和感が味わえると思います!

    翻訳には明確なルールがなく、訳者のセンスに任されるところが大きいことから〈翻訳という作業も創作〉といえるそうです。

    そういった意味で、個人的に一番気になるのはタイトルのつけ方です。
    たとえば本書にもでてくる『若草物語』。
    原題は『Little Women』(直訳: 小さな婦人たち)だったそうですから、つけた人のセンスに脱帽です。

    有名な『レ・ミゼラブル』は黒岩涙香氏によって『ああ無情』となりますし、世の中には素晴らしい邦題がたくさんあることに気付きます。


    以下、蛇足ながら…映画の素晴らしい邦題(ネット情報より)
    『天使にラブソングを』
    (原題:「Sister Act」、直訳:「修道女の演目」)

    『スタンド・バイ・ミー』
    (原作原題:「THE BODY」、 直訳:「(死)体」)
    タイトルの訳し方一つで売り上げも変わるそうですから翻訳の世界は深い!

  • 昨年読んだ「太陽は気を失う」がなかなか良かったので買ってみたが、新年早々、良いお話を読んだ。
    学生時代に出会い、惹かれあって、しかし仕事と生活の狭間で苦悩し、すれ違う男女の切なくなるような愛情模様。
    結婚という枠から外れても、こういう事情の情事なら…。
    直截的な表現はなくても艶めかしく、互いの精神の中に巣食うような表現に情愛の深さを思う。
    とても端麗な文章で、初めて触れるような言葉の使い方もあり、作中、翻訳家が英語から日本語を絞り出すのに呻吟する様が描かれているが、日本語を紡ぐだけでもどれほどのことかと思い知る。
    向田邦子、芝木好子、ジュンパ・ラリヒも読んでみたいと思った。

  • 通訳者の悠子と翻訳家の弘之の恋愛を描いた作品。すれ違いを重ねながらも心の奥底でお互いの仕事や生き様を理解し合い、結局一番互いを必要としている数十年が描かれていた。使われている表現が綺麗で読んでいる中で心が洗われるような作品。御宿にもドイツのブックフェアーにもにも行ってみたくなる。
    なぜ通訳をすることは好きなのに翻訳が苦手なのかを悩んでいるときに読んだので、すごく腑に落ちた。
    全体的に切ないが、特に最後は切ない。しかし美しく、なんだか清々しくもある。
    私は悠子のように同時通訳を頑張ろうと思った。でも生き急ぐことなくたまには立ち止まることが大事。

  • 『ロゴスの市』‪ 乙川優三郎さん

    2年前に一度読み、再読。

    英語と日本語、翻訳家と通訳の対比表現、そしてそれらを弘之と悠子へ当てはめていく描写が素晴らしいです。‬
    ‪恋愛模様だけでなく、翻訳家事情についても非常に詳しく描かれていると思います。日本語は美しい、しかし用い方によっては醜くもなる…そう、母語は時に敵になるんですね。。
    ‪言葉を紡ぐことがどれだけ日常を豊かにするか、再度学びました。‬

    ドイツのブックフェアのシーンは、読書好きにはたまりません。会場で弘之が興奮している描写は、私の琴線に触れました。

    帯にある通り、切ないです。しかし、最後の一ページでぽっと明かりが灯ります。「読書の喜びがここにある」ーまさにその通り!

  • 小説を選ぶ際、主人公の年齢と読み手である自分自身の年齢が近いかどうかが、ひとつの基準になっている。10代の頃に読んだ小説は、明治に編まれた小説であっても青春小説であれば好んで読んだし、高校時代、あの「竜馬がゆく」でさえ幕末を舞台にした青春小説として読んだ。それが今や、10代の甘酸っぱい青春小説には手は伸びない。かつて通った道の話よりは、やがてゆく道の生々しく現実的な話に読書の関心は向かっている。

    さて、この小説は55歳の男性翻訳家が主人公。1980年大学で知り合った同級生。長年にわたる恋愛を縦軸に、「翻訳家」と「同時通訳」という外国語の海での互いの格闘ぶりを横軸にした大人のロマンス小説。恋愛小説にカテゴライズされる本作。僕は「職業小説」として読んだ。とりわけ翻訳家を志す人にとっては必読の書となるんではないかな。著者は純文学作家であって翻訳家ではない。にもかかわらず「翻訳家の生態-思索・思考・葛藤-」を見事に写し取る、小説家の凄みを否応なく知らされた。

    ストーリー自体には起伏は少なく、淡々と進行する。最後にドラマティックなラストシーンが用意されているが、その設定に無理矢理さは微塵も感じない。主人公は35年余りの長きにわたりひとりの女性を深く想い、これからもその想いと共に生きることは容易に想像できる。

    男の恋愛は「別名保存」と揶揄されるが、主人公の場合、別名どころではない唯一無二の存在と過ごした時間という思い出とともに生きることになる。はたして、それは幸せなことなのか。

    ストーリーテリングの巧さと、さらりと紡ぎ出された格調高い美文に綴られた小説に、暮れの慌たゞしさをしばし忘れ、愉しい時間を過ごせた一冊であった。

  • 男は翻訳家、女は通訳。二言語の間を取り持つという果てのない世界に、少しだけ違うアプローチで魅せられた二人の運命を、長い年月にわたるがほんの短い交流で描いている。
    とにかく暖かく重みがありながら、エッジを失わない文体で綴られている。翻訳という作業も、こういう選びぬかれた言葉でじわじわと積み上げていく苦行なのかと思わせる。

  • はじめて恋愛小説を読んだ。
    なかなか面白いもんだ。
    ストーリーを追うのが楽しくて、読めない漢字をそのままにしてしまったことが少し後悔。
    漢字が読めたらもっと楽しめたかも。

  • マチネの終わりに、に近いものを感じて。

    わたしは頭が悪いので、単純に恋愛小説を楽しもうと思えば親しみづらさみたいなものを感じた。けれど言葉をつきつめる2人は良かったな。そういう仕事につけている人がうらやましく感じるくらいには本がすきなんだなと。あと、表現の美しさを感じたり。綺麗な日本語を使いたいものです。

    恋愛小説として見れば、どうしてこうもお互いにとっての特別な相手とすれ違わねばならないのだろうか。どうにかならなかったんだろうか。もっといっしょにいられたはずだよ、と思ってしまうのはわたしがコドモすぎるのだろうか。

  • 【紙の本】金城学院大学図書館の検索はこちら↓
    https://opc.kinjo-u.ac.jp/

  • この作品で島清恋愛文学賞受賞
    本当に素敵な恋愛物語
    付箋
    ・有り余るはずの言葉は消えてしまった。暖かく腕に絡んでいた悠子の手が下りてきて、指と指が語りはじめたからであった。
    ・川端の「雪国」の冒頭の文章には主語がなく、あとを読まなければ英訳のトレインという主語は引き出せない。
    ・つまるところ自力で会得したものがその人の真骨頂ということになる。
    ・吉祥寺に着くまで~ 
    ・ギブソンタックといってアメリカの美容院で教えてもらった
    ・一人ひとりが多言語の実りを持ち帰り、やがてそれぞれの言葉で理性の世界をつなぐ ロゴスの市
    ・女が意地を通して自分の始末をつける。それによって結局は男が職業人として生かされる。
    ・時代小説と翻訳小説は似ているのかもしれない。「濡れた髪は案外な重さであった」

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著者プロフィール

1953年 東京都生れ。96年「藪燕」でオール讀物新人賞を受賞。97年「霧の橋」で時代小説大賞、2001年「五年の梅」で山本周五郎賞、02年「生きる」で直木三十五賞、04年「武家用心集」で中山義秀文学賞、13年「脊梁山脈」で大佛次郎賞、16年「太陽は気を失う」で芸術選奨文部科学大臣賞、17年「ロゴスの市」で島清恋愛文学賞を受賞。

「2022年 『地先』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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