やぶにらみの時計 (徳間文庫)

著者 :
  • 徳間書店
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (322ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198946920

作品紹介・あらすじ

昨日までの『きみ』はもう居ない。
恋人、友人、知人に否定された男の奇妙な自分探し
の迷宮。

「あんた、どなた?」妻、友人、そして知人、これ
まで親しくしていた人が〝きみ〟の存在を否定し、
逆に見も知らぬ人が会社社長〈雨宮毅〉だと決めつ
ける──この不条理で不気味な状況は一体何なんだ
! 真の自分を求め大都市・東京を駆けずり回る、
孤独な〝自分探し〟の果てには、更に深い絶望が待
っていた……。都筑道夫の推理初長篇となったトリ
ッキーサスペンス。
幻の連載長篇『アダムと七人のイヴ』第一話も特別収録。

イラスト シマ・シンヤ


〈目次〉

やぶにらみの時計

アダムと七人のイヴ 第1話 酸っぱいりんご

解説 法月綸太郎

感想・レビュー・書評

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  • 酔って目覚めたら知らない家にいた“きみ”こと、浜崎誠治。妻、友人たちが“きみ”の存在を否定し、逆に見知らぬ人たちが会社社長“雨宮毅”だと決めつける。謎だらけで不条理すぎる自分探しの旅が始まった!

    朝起きたら他人扱いされる不気味さ。顔は間違いなく自分なのに、周りは頑なに他人だと言う。身分証明できる持ち物はなくなっている。すると、こんなにもあっけなく存在は失われてしまうのかと。さらに“きみ”という二人称で語られる文体が、読者にも存在消失の没入感を与え、きみはもがくようにページをめくることになる。

    頼る人が誰もいない東京で味わう孤独。希望の光を求めて、きみは失われた夜の記憶をたどっていく。時間に流されていく町の儚さを閉じ込めた琥珀色の読み味が印象深い。今までの存在を失っても、新たな出会いが未来を繋ぐ。同じような状況が描かれた実在の小説を例に挙げながら推理を進めるシーンが面白い。この会話に混ざりたい(笑)

    きみの喉元を絞め上げていくニヒルな現実。自分探しの旅──その最果てにあった真実の冷たさ。押しつけられた自己を否定し、間違いない存在証明として吠えた声ですら、旅の途中でしかない。夜空に溶けるタバコの煙をどこまでも目で追い続けるような余韻がある作品だった。

    途中、猫に厳しい描写があるので、猫好きな方にはお薦めできない。
    あと、石焼芋屋が「いも。いも。いも。いも。いも!」「買わないか、誰も。いもいもしいぞ。いも!」とやけっぱちになってるシーンがあったけど、あれって何か意味あるのか?!伏線かと思ったらそうじゃなさそうで気になる。

  • レジェンド作家の初期の作品らしい、復刊された文庫版をブックオフにて購入、読了。


    ある日突然の自分の存在を消されてしまった主人公、自分が自分である証拠、つまり真実を証言してくれる人物を求めての行程が本筋となっている。背景となる1960年代の東京の風景がとてもよい。時間旅行が可能ならば主人公の行く先々を覗いてみたい。メインのトリックは納得できるが、その原因となる、なんだか謎の組織やらがどうにも中途半端な気がした。

    戦後20年ころの日本、東京の街並み、人物、風俗、文化などなど、話の本筋とは離れた部分が妙に心に残った。

  • ● 感想
     妻、隣人、兄といったこれまで親しくしていた人が、「きみ」の存在を否定し、見も知らぬ人が「きみ」を会社の社長雨宮毅だと決めつける。極めて不可解で魅力的な謎である。この謎をテーマにしたミステリ
     一人称を「きみ」として語り掛ける文体となっている。筆者の都筑道夫自らが実況放送スタイルといった形式だが、この点は別段、いいとも悪いとも思わなかった。しかし、何の脈絡もなく場面転換をしたり、一人称が誰か分からなかったりするなど、短い作品ながら読みにくい部分がある。翻訳モノのミステリでもときおり感じた印象であり、都筑道夫が多くのミステリを翻訳していたことにも関係しているかもしれない。
     謎は魅力的だが、真相は組織の品物を金に変え着服した雨宮毅を、組織が処分しようとしているのを知った、浜崎紘太郎が、弟の浜崎誠治を身代わりにしようとしていたというもの。この真相は平凡と言わざるを得ない。仕掛けとしては、雨宮毅は関谷のふりをして浜崎誠治と行動することにより、一緒にいる浜崎が社長と社員から呼ばれているように見せかけた(読者+浜崎へのトリック)。スリッパに木天蓼(またたび)を塗り、まとわりつかせることで、猫のサミイがなついていると見せかけた(浜崎へのトリック)など。これらも平凡
     浜崎紘太郎を義理堅い人物と描いているなど、伏線もちらほらある。「幻の女」、「べラム氏の奇妙な事件」、「時間溶解機」等の古典ミステリのうんちくもあり、ナンセンスな登場人物が登場している。こういったミステリとしてのデキ以外の魅力はあるが、それほど好みではない。正直、それほど面白いと思わなかった。★3の低めの方かな。
    ● メモ
     主人公、浜崎誠治は、目が覚めると身に覚えのない家。侑子という女が、自分は、「きみ」の妻だという。きいは、浜崎誠治ではなく、雨宮毅だという。バスで家に帰り、内縁の妻である安藤雅子にあうが、「あんた、どなた」と言われる。
     妻だけでなく、隣人の鎌田夫婦も、「きみ」に会ったことがないという。「きみ」は、昨晩飲んだ酒屋に行く。「きみ」と一緒にいた男のことを聞くために、シャウトという喫茶店によくいる「殺し屋」と呼ばれる男に会いに行くことになった。
     シャウトでは、モヒカン頭の男から、「殺し屋」と呼ばれる鈴置という男の住処を聞く。「殺し屋」と呼ばれる男は、猫の殺し屋だった。鈴置は画家でもあり、「きみ」と一緒にいた男の似顔絵を書くが、書いた絵はアブストラクトの似顔絵。抽象芸術だった。
     「きみ」は浜松に行き、兄に会おうとする。東京駅で社長秘書の平野に会う。雨宮の会社に浜崎誠治の兄、浜崎紘太郎が来ているという。雨宮の会社に行くと、専務の関谷が出迎える。商談をした後、てんぷらの店へ。
     「きみ」は専務の関谷が持っていたマッチに書いてある「らぐたいむ」という店に行く。モヒカン頭の男、猪俣と再会。これも縁ということで、猪俣にこれまでのいきさつを話すことに。猪俣は、シャウトのウェイトレスである千沙子と一緒にいた。
     猪俣と千沙子は、「きみ」の話を聞いて推理。なぜ、目を覚ますと雨宮になっていたのか。「きみ」を浜崎誠治だと認識できるのは雅子、鎌田夫婦、兄に4人だけ。この4人を買収したと考えられる。雨宮が既に死んでいて、保険金を得るために偽装している説、兄や雅子等、浜崎誠治の性格を知り尽くしている人が、浜崎を雨宮に仕立て上げた説等を語る。
     雨宮の秘書の平野が写真が得意であることが分かる。合成写真を作る技術がある。推理をしてから、猪俣と「きみ」はらぐたいむへ行く。
     らぐたいむで「きみ」と一緒だったのは関谷専務だったことが分かる。
     「きみ」は雨宮の家に戻り、侑子が共犯かどうかを確かめようとする。そこで、庭に探偵がいることに気付く。探偵は、浜崎誠治という人物に頼まれ、「きみ」を尾行していたという。「きみ」と猪俣は、関谷の連絡先を調べ、関谷の家に行こうとする。そこに、本物の殺し屋から連絡がある。殺し屋は雨宮を殺害する。最後にやり残したことをしておけという。
     関谷の家に向かう。途中、交通事故を目撃。関谷宅の近くで殺し屋に会う。殺し屋に金を渡し、自分が雨宮でないことを証明すると伝える。
     浜崎の家に向かうタクシーの中で、猫のサミイがなついたのは、スリッパに木天蓼(またたび)が塗ってあったのではないかとひらめく。また、雨宮の会社で関谷と名乗っていた人物が、雨宮毅ではないかとひらめく。社員は、「きみ」ではなく、一緒にいた、「きみ」が関谷専務だと思っていた人物のことを「社長」と呼んでいたのだ。
     鎌田甚吉を脅し、最終的に、「きみ」が浜崎誠治であること、兄の浜崎紘太郎の頼みで、知らないふりをしていたことを伝える。そこに、千沙子が現れ、雨宮毅が交通事故で死んだと伝える。
     真相。シトロエンで「きみ」を監視していた女が雨宮侑子。関谷のふりをしていたのが雨宮毅。関谷宅にいた。雨宮の妻のふりをしていたのは、浜崎紘太郎が東京で世話をしていた女
     浜崎紘太郎は、世話になった雨宮毅が、組織の金を使い込み、処分されようとしているのを知り、浜崎誠治を身代わりにするため、この計画を実施した。
     殺し屋は、依頼を受けているからとして、「きみ」を殺害しようとする。雨宮紘太郎と殺し屋が双方を殺害し合う。警察に伝え、このことを知った者がどう思うかを考えている場面でエンド

  • とにかく細部まで洒落ていた。

  • 斬新、いまだにこんな顛末の小ミステリーを知らない。

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著者プロフィール

(つづき・みちお)1929-2003。東京出身。10 代から時代ものを発表していた読物雑誌の衰退に伴って海外ミステリ翻訳家に転向、『E
QMM(エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン)』日本版編集長を経て、1961年『やぶにらみの時計』を刊行、推理作家となる。トリッキーな趣向を凝らした作品の一方、ユーモラスなアクション小説、捕物帳を含む本格推理、ハードボイルド、SFミステリなど多彩な作風をもつ。永く無冠でいたが晩年に日本推理作家協会賞、日本ミステリー文学大賞を受賞。

「2022年 『都筑道夫創訳ミステリ集成』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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