有栖川有栖選 必読! Selection2 空白の起点 (徳間文庫)

著者 :
  • 徳間書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (354ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198947019

作品紹介・あらすじ

笹沢ミステリ史上、一二を争う大トリックに慄け!
空前絶後の〝不在証明〟

通過する急行列車の窓から父親の転落死を目撃した
小梶鮎子。被害者に多額の保険金が掛けられていた
ことから、保険調査員・新田純一は、詐取目的の殺
人を疑う。鉄壁のアリバイ崩しに挑む彼をあざ笑う
ように第二の死が……。ヒット作・木枯し紋次郎を
彷彿させるダークな主人公のキャラクター造形と、
大胆極まりない空前絶後のトリック。笹沢ミステリ
の真髄。

〈目次〉

Introduction 有栖川有栖

空白の起点

Closing 有栖川有栖

感想・レビュー・書評

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  • 笹沢さんの長編作品を読むのは二作目
    主人公のニヒルな感じも、女性への主観など
    時代を感じる。
    あえて今読めない部分ではあるためよさもあるのだけど、結構偏見が強めで少々引いた。

    事件には鉄壁のアリバイがあり、動機と犯行方法を解いていくテーマと犯行方法に繋がりがあり
    そこは良いが、こちらの方が古いのだろうけどなんかこの手の話しはどこかで読んだ気持ちになる。

  • 列車の窓から父親の転落死を目撃した小梶鮎子。父に多額の保険金がかかっていたことで、調査員・新田純一は詐取を疑う。だが、その場面に新田も居合わせていたという鉄壁のアリバイがあって──。

    有栖川有栖先生が選んだ必読セレクション第二弾!並走した列車内での殺人を目撃するアガサ・クリスティー『パディントン発4時50分』を思い出す冒頭で一気に引き込まれる。嘘の証言ではなく、その時間に父は死んだのだ。完璧なアリバイに食らいつく新田の執念と、小説に漂う哀愁がたまらない。

    「旅行が多いと、列車の窓の外には興味がなくなる。たしかに窓外には風景がある。しかしそれは、ただ目に映る光と影であった。それらは、印象の中で少しも生きて来なかった。網膜をかすめたとたんに、もう死んでいる」
    この冒頭が情感たっぷりで、なおかつ深い水底へと誘う文章になっているのが感慨深い。

    「ホームに降り立った瞬間に、人々は赤の他人になる。白けた顔で、それぞれの行くべき方向へ、さっさと散っていった」
    人は自分の空白を埋めるため、他人を求める。しかし、それは見かけだけで決して埋まらない空白なのだ。出会ったとしても、乗り合わせた列車から降りれば孤独が待っている。別れが運命づけられた生き物なのだ。それでも、出会ったことが後の行く先を決定づけてしまうこともある。なんて皮肉なものなんだろうと立ち尽くす読み味だった。

    トリック自体はやや強引ながら、偶然と必然というテーマには合っていて個人的には納得。ミステリという以上に味わい深い文章でまた読み返したくなる作品だった。

    p.112
    「志津はまだ孤独に足掻いている。それで一人きりになるのを恐れ、慰めの相手を欲するのだ。だが、その時期が過ぎれば、やがて相手を厭うようになる。人と接することを嫌って、自分の殻に閉じこもる。自分だけの意欲のために動くようになる。」

    p.239
    「人と人とは知り合うキッカケがない限り永久にまじわらないものなんですもの……」

  • 走行中の電車から、崖から落ちる人物を目撃。
    探偵役の新田が言うところの、四つの条件が交錯した、まさしく〈世にも奇なる犯罪の風景〉。

    ほぼ倒叙と言っても良い作品だが、とにかくトリックが大胆。いわゆるプロバビリティの犯罪ということになるが、柵がどれほど脆いのかによっては不可能ではないだろう。
    序盤で明かされる、「小梶さんが気にしていたこと」が三点全て事件に関係しているところや、水泳が上手い、赤と白のハンカチといった伏線も面白い。
    初めての笹沢作品だったが、哀愁漂う雰囲気も好きだな。

  • 著者 笹沢左保
    探偵役 新田純一 保険調査員
    犯人 小梶鮎子 OL
    被害者・トリック・動機
    被害者 小梶美智雄
     プロバビリティの犯罪。崖の木柵が腐食していたことを知らず,犯人が載っている列車の合図を見定めようとして転落死。殺害された動機は,娘として育てた犯人と血がつながっておらず,血のつながった娘が家を出たことをきっかけとして,関係を迫ったから。これまで父として育てられた人を男として見れないということで,保険金を掛け,殺害
    被害者 国分久平
     飛び降り自殺に偽装。被害者に代わって泳ぎの得意な犯人が崖から飛び降り,その場面を目撃させた。動機は,この男が犯人の実の父だったことから,口封じのために殺害
    紹介文
     通過する急行列車の窓から父親の転落死を目撃した小梶鮎子。被害者に多額の保険金が掛けられていたことから,保険調査員新田純一は,詐取目的の殺人を疑う。鉄壁のアリバイ崩しに挑む彼をあざ笑うように,第二の死が。ヒット作・木枯らし紋次郎を彷彿させるダークな主人公のキャラクター造形と,大胆極まりない空前絶後のトリック。笹沢ミステリの真髄
    メモ
     走る列車の中で,被害者が崖から飛び降りるのを目撃した人物が犯人。目撃者=犯人という構成のミステリ。この点ではかなりトリッキー。2人目の殺人のトリックは,被害者に成りすまして崖から飛び降り,その場面を目撃させることで他殺ではなく,自殺と誤認させるというトリック。これは,ややバカミスチックではある。
     1961年の作品。しかし,そこまで古さを感じさせない。「有栖川有栖選 必読!Selection」で読み,かなり期待して読んでしまい,期待が高すぎたので,期待に応えるほどではなかった。とはいえ,このような形で知らないと読んでいなかったわけだから,仕方がないともいえる。
     小説全体の雰囲気は悪くない。犯人が水泳が得意だとか,最初の被害者が課長の地位に執着していたとか,伏線はさりげなくちりばめられており,ミステリとしてのデキも悪くない。期待が高すぎたという印象
     得点としては★3。60点

  • 通過する急行列車の窓から父親の転落死を目撃した
    小梶鮎子。被害者に多額の保険金が掛けられていた
    ことから、保険調査員・新田純一は、詐取目的の殺
    人を疑う。鉄壁のアリバイ崩しに挑む彼をあざ笑う
    ように第二の死が……。

    こんなトリックを考えつくとは、と思ったが、先駆者はちゃんといらっしゃるのですね。
    映画化、ドラマ化作品では描かれていないようです。

  • なるほど、乱歩の「赤い部屋」ですね。
    有栖川先生の解説が読めるのが肝。

  • 明らかに犯行不可な状況だけど絶対に怪しい容疑者の謎を解き明かす話かと思いきや、犯行の動機というか、そこに至ってしまうまでのあまりの無情さに、それはしょうがないよ…と同情せずにはいられなかった。ただ被害者の醜さがあるからこそ、トリックやアリバイの伏線回収を含めたストーリー展開がすっきりと美しいことが際立って、読後は割と爽快感があったようにも感じた。登場人物たちにフォーカスを当てると悲劇の物語ではあるけれど、でも面白かった。

  • 有栖川有栖さんが推薦しているという理由のみで4冊ほどまとめ買いをしてしまったが、続けて読むのはつらかった。主観が過ぎる女性描写にこんなに困惑した作品はないというくらい、もうとにかくしんどかった。しかし有栖川さんがお勧めするということは、ミステリのトリックや真相には取り替えられないものがあるのだろうとがんばって読んだ次第だ。そのあたりにも、あくまでミステリとしての評価で選んだことがわかると言える。が! 正直に申し上げればレビューどころではない。有栖川さんとミステリに惹かれても、無理してまで読むものではない。
    (クロージングを読んでなるほどそういうジャンルに分類されるのか、確かにおもしろいとはおもった。おもったがまとめて読むものではない。まだ2冊あるが、あいだに他の作品を読んでから、間を置いてゆっくり読もう。)

  • 笹沢作品2作目。
    運行する列車の中から、崖からの人の転落が、その被害者の娘により目撃される。偶然居合わせた保険調査員新田は、不審に思い真相を探る。
    寡黙な新田と被害者の娘で神秘的な鮎子は、物語全体に暗い影を散りばめる。ラスト、ストイックとも言える展開と大胆なトリック。衝撃でした。

    個人的には、トクマの特選第1作の「招かれざる客」の方が本格ミステリ要素てんこ盛りで好みですが、トリックの大胆さ・シンプルさはこちらが上。

    日本ミステリは、この時代からすでに奥深い。

  • 使い古しのトリックを意外な組み合わせで再生させる式のことはよく聞くが、60年も前にこういうとんでもない組み合わせがとっくになされてたのね。トリックはともかく動機に意外感はなく、むしろそれを取り巻く人間関係に作者の手心を感じる。世の中が良い方に向かわなかった証拠のようで、やな話だが。裏表紙の惹句に言う、紋次郎を思わせる、クールでニヒルだが、ニヒルになりきれない主人公と如何にも薄幸なヒロインの組み合わせがロマンと言われるのだろうけど、確かにうまい。

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著者プロフィール

1930年生まれ。1960年、初長篇『招かれざる客』が第5回江戸川乱歩賞候補次席となり、本格的な小説家デビュー。 1961年『人喰い』で第14回日本探偵作家クラブ賞を受賞。 テレビドラマ化されて大ヒットした『木枯し紋次郎』シリーズの原作者として知られ、推理小説、サスペンス小説、恋愛論などのエッセイ他、歴史書等も著し、380冊近くもの著書がある。2002年、逝去。

「2023年 『有栖川有栖選 必読! Selection11 シェイクスピアの誘拐』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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