有栖川有栖選 必読! Selection3 突然の明日 (徳間文庫)

著者 :
  • 徳間書店
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  • Amazon.co.jp ・本 (354ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198947163

作品紹介・あらすじ

華麗な消失トリック+家族再生への巡礼劇
いまだかつて無い異色サスペンス

白昼、銀座の交差点で女が消えた! ――元恋
人の奇妙な人間消失を語った翌日、食品衛生監
視員の兄はマンションの屋上から転落死した。
同じ建物内では調査中の人物が毒殺されており
、兄に疑惑が。職を辞した父と共に毒殺事件の
調査に乗り出す娘の行く手には〝消えた女〟の
影が。突然の嵐に見舞われた家族に、明日は訪
れるのか? 本格ミステリ作家として旬を迎え
た著者渾身の〈謎〉の剛速球! 切れ味鋭いサ
スペンスに家族再生の人間ドラマを融合させた
、ヒューマニズム溢れる佳作。有栖川有栖が選
ぶ、笹沢左保のベストミステリ第3弾。

イラスト たけもとあかる

〈目次〉
Introduction 有栖川有栖

突然の明日

Closing 有栖川有栖

感想・レビュー・書評

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  • 白昼、銀座の交差点で女が消えた!元恋人の人間消失を語った翌日、食品衛生監視員の兄はマンションの屋上から転落死した。しかも、その一室には調査対象の料亭経営者が毒殺されていて──。

    「どんな明日が来るかは分らない。だが、明日は必ず来る──。」
    昨日まで幸せな家族だった小山田家は一晩で一転。容疑者の家族となって人生は暗転。兄・晴光は本当に犯罪者なのか?銀行を退職した父・義久と共に次女・涼子は真実を追う。ミステリ×家族再生を描いた物語。

    白昼夢のような人間消失の謎を端緒に巻き起こる不可解な事件。それは幻ではなく現実なのだ。その苦さを噛みしめて手がかりを辿るほどに、消えた女の謎が恐ろしく近く、けれども鉄壁のアリバイとなって立ち塞がる。その犯人もまた、「突然の明日」から逃れるためにもがいていたというのが痛烈な皮肉だった。

    兄の汚名をすすぐため、変えられない過去に立ち向かった涼子たちと、その過去を塗りつぶして明日を生きようとした犯人の姿勢がまさに明暗を分けたのだと感じた。物語としては後ろ髪を引かれるところで終幕するが、あくまで家族再生の一歩目を描くという意味ではこれでよかったのだと思う。幻は現実へと返る。あの時から止まったままだった交差点の時間は動き出した。道を渡れば、明日はまた来るのだ。

  • ● メモ
     白昼の銀座の交差点で女性が消失するというトリックで有名なミステリ。食品衛生監視員がマンションの屋上から転落死するが、同じ建物で調査中の人物が毒殺。転落死をした人物が殺害容疑を受ける。
     家族から殺人犯が出るということから、家族が不幸に襲われる。その中で父と娘が捜査をするというあらすじ。
     突然の明日というタイトルが意味するのは、突然訪れた不幸という意味。
     まず、白昼の銀座の交差点で女性が消失するというトリックの真相。これは、単に横断歩道を渡って交番に入ったというもの。数十秒、大脳皮質でそれを知覚していなかった。近くを妨げたきっかけはアンモニアのにおい。仕事で見たアンモニアの臭気とひどい光景。その光景を思い出してしまった。
     マンションの中で、仕事で調査していた会社の社長が毒殺される。そのマンションから飛び降りる。これを、殺人をしてから自殺したと疑われ、身内から殺人犯を出したということで、その家族が不幸に見舞われる。
     ポイントなるのは、自殺をしたと思われる小山田晴光という男が、銀座の交差点で、かつての恋人である久米緋紗江を見かけたが、消えてしまったという経験をしたこと。このことを、家族に伝えていた。
     晴光に殺人容疑がかせられたことで、父は銀行を退職。姉の見合い結婚はなくなり、弟は退学し、知人のつてを頼って大阪へ。姉は自殺未遂までする。こういう、殺人容疑を受けた家族の不幸を生々しく書くのが笹沢左保らしいリアリティともいえるが、本格ミステリ的にはノイズだろう。
     父と姉は、独自に捜査をする。晴光の体験から、緋紗江が真犯人ではないかと疑う。緋紗江のアリバイを崩すために、九州に向かう。九州には、晴光の先輩でもあり、知人である瀬田という男と一緒に行く。
     この瀬田という男が黒幕的存在。瀬田と緋紗江は、たまたま出会い、九州旅行を一緒にする中で、瑞穂市という都市の大火事。瀬田と緋紗江が失火によりこの大火事を引き起こし、被害者(長谷部)はその失火の場面を目撃していた。そこで、長谷部を殺害し、晴光に罪をきせるために、晴光をも殺害した。
     有栖川有栖は絶賛しているが、本格ミステリ的な要素は、銀座での緋紗江の消失くらい。これも、アンモニアのにおいにごまかされ、交番に入った緋紗江を見失ったというもの。あとは、捜査側だと思っていた瀬田という男が、実は犯人だったという意外性。火傷等の伏線もある。
     被害者も九州出身だというミッシングリングなどもあり、本格ミステリ的な要素はあるが、被害者の家族の不幸を描いている点は社会派ミステリ的。その融合という感じだが、個人的な好みとしては、被害者の家族の不幸は好みでない。父と姉は、真相に気付くが、家族がどうなるのかなどは描かれず、警察が再捜査をするかも謎。このまま不幸なままかも。
     本格ミステリ的なうまさを認めつつ、好みでない点は減点。★3かな。

  • 人間消失から始まり、探索していく先に見えるグロテスクな光景。なかなか面白かったし、ロマンを感じました。笹沢佐保という作家の真骨頂ですね。

  • 銀座四丁目の交差点で、突然人が消えた。奇妙な言葉を発した翌日、小山田晴光はマンションビルから転落死し、同ビルで殺人事件が発生していた。家族の無実を信じる父と妹がそれぞれの方法で謎の解明に乗り出す。
    メインはアリバイ崩しで、やや古さは感じるものの全く無駄のないテンポよい展開と潔いラストを堪能しました。
    スマホの時代では成り立たない話ですが、ちょっとした古典作品として、十分に楽しみました。
    少しずつですが、このトクマの特選シリーズの笹沢左保作品をこれからも追っていこうと思っています。

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著者プロフィール

1930年生まれ。1960年、初長篇『招かれざる客』が第5回江戸川乱歩賞候補次席となり、本格的な小説家デビュー。 1961年『人喰い』で第14回日本探偵作家クラブ賞を受賞。 テレビドラマ化されて大ヒットした『木枯し紋次郎』シリーズの原作者として知られ、推理小説、サスペンス小説、恋愛論などのエッセイ他、歴史書等も著し、380冊近くもの著書がある。2002年、逝去。

「2023年 『有栖川有栖選 必読! Selection11 シェイクスピアの誘拐』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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