猫の舌に釘をうて (徳間文庫)

著者 :
  • 徳間書店
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (290ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784198947187

作品紹介・あらすじ

一人三役の奇妙な殺人事件+非モテ男の残酷な


「私はこの事件の犯人であり、探偵であり、そ
してどうやら被害者にもなりそうだ」。非モテ
の三流物書きの私は、八年越しの失恋の腹いせ
に想い人の風邪薬を盗み〝毒殺ごっこ〟を仕組
むが、ゲームの犠牲者役が本当に毒死してしま
う。誰かが有紀子を殺そうとしている! 都筑
作品のなかでも、最もトリッキーで最もセンチ
メンタル。胸が締め付けられる残酷な恋模様+
破格の本格推理。史上初の文庫連載、幻の「ア
ダムと七人のイヴ」第2話も特別収録。

イラスト シマ・シンヤ

〈目次〉
猫の舌に釘をうて
アダムと七人のイヴ 第2話 SCUBA DO,OR DIE
解説 法月綸太郎

感想・レビュー・書評

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  • 「猫の舌に釘を打て」という小説の束見本(つかみほん)白紙の製本サンプルみたいなもの?に主人公が手記を書いてるという構成のミステリ作品!
    初っ端から主人公が犯人=探偵=被害者の三つともになる!!ってどういうこと??どうやってやるん??なんで束見本に書かれてるん??ってワクワクしながら読み進めていけた!!

    1961に刊行された作品を今読んでも楽しめるってほんまにすごいなぁ〜!!!何故か昔の作品の方が現代の作品よりもゴリゴリに尖ってるミステリIQ高めの作品が多いんなぁって毎回感心する!!(誰が言うてるねんって話やけど)

  • ● 感想
     都筑道夫の「猫の下に釘をうて」の束見本に淡路瑛一の殺人の告白と告発をしたという手記が掲載されているというメタミステリの構成の作品。この構成は面白い。こういう現実世界とリンクさせたメタ的な仕掛けのあるミステリは非常に好み。
     「私はこの事件の犯人であり、探偵であり、そしてどうやら、被害者にもなりそうだ。」という文章から始まり、ジャプリゾの「シンデレラの罠」を思わせる。筆者は、ジャプリゾが記憶喪失というイージーな手を使っていると知って、「それだけで勝った」と思ったということ。
     確かに、記憶喪失という安易な手を使わず、有紀子という女性の風邪薬を淹れたコーヒーを飲んだ「後藤」という男が死んだことから、自分が実行犯。そして、命を狙われている有紀子と、後藤殺害の真相を知るための探偵役となり、最後は、後藤殺害の真相を隠すために、後藤殺害の真犯人一派に殺害され、被害者になるというプロットそのものは面白い。
     そこに、1時代前、昭和風の恋愛小説風の味付けがされる。「あだち充」や「高橋留美子」を思わせるような、なんとも古臭いロマンスをブレンドしている。
     ミステリとして見ると、プロットは面白いがトリックはそうでもない。後藤殺害は、カップのすり替え。塚本有紀子殺害もトリックらしいトリックはない。塚本有紀子殺しの犯人を指定する決め手は、手記にはっきりと書かれていないことは何かという点。重要な事項が書かれていないからこそ、書き手の淡路が犯人だと分かるという部分は面白い。
     総合的に見るとどうか。とにかく、こういう構成の本が存在するというだけで嬉しくなってしまう。このような遊び心は好きだ。その他の部分は及第点ギリギリ程度のデキだと思う。★4で。

    ● メモ
     私はこの事件の犯人であり、探偵であり、そしてどうやら、被害者にもなりそうだ。という文章から始まる。推理小説その他を書いて生活している、主人公、淡路瑛一。
     淡路瑛一は、愛する塚本有紀子と結婚した塚本稔を殺害したかった。しかし、塚本稔を殺害すると有紀子が不幸になる。その殺意を満足させるために、新宿歌舞伎町の喫茶店、サンドリエの常連、塚本稔にどことなく似ている「後藤」という男をターゲットにする。
     淡路は、有紀子の風邪薬を後藤に飲ませた。すると、後藤が死んでしまった。誰かが、有紀子を殺そうとしていたのか。
     淡路は、後藤を殺害した犯人。そして、有紀子を殺害しようとした人物を探す探偵、そして、有紀子を殺害しようとした人物から殺害されるかもしれない、被害者になるかもしれない人物なのだ。
     淡路は、都筑道夫の「猫の下に釘を打て」の束見本に、行動を記録することにした。
     後藤の事件の捜査をするのは、村越警部補。後藤は偽名かもしれない謎の人物。出版社の編集長の中沢から、事件を調べてみろと言われる。
     淡路と有紀子は同人誌を作っている。気の知れた仲。淡路は有紀子を殺害しようとした人物を捜査する。
     貧しい作家の生活記録の上に、事件の進行を二重焼していって、その間に恋の回想を綯いまぜる。わたくし小説でもあり、本格推理小説でもあり、恋愛小説でもあるユニークな小説ができる。そうそぶいて、手記を記載する。
     淡路と有紀子との出会いは偶然。淡路は、後藤殺害の捜査も始める。
     淡路は、有紀子から恋愛、結婚の相談を頻繁に受けていた。そういう間柄。淡路は有紀子が好きだが有紀子からは恋愛対象とはみられていない。
     後藤の家に、謎の男が来て、何かを探していたという。淡路も後藤の家に行き、医学関係の専門書があることに気付く。
     淡路は、有紀子の護衛をしつつ、後藤の事件を捜査する。だんだんと疲れてくる。有紀子は、かつて、妻子がある男と心中しようとしたこともあった。
     後藤は、病院の習慣等に詳しかったという。後藤は、製薬会社と医者との間のブローカーの仕事をしていた。後藤の部屋を荒らした古川という男も事故死か他殺か分からない形で死亡。刑務所から出たばかりの男だった。ヒロポンの密売をしていた。
     村越は、淡路がリハーサルの意味で、後藤を殺害したのではないかと疑っていたと伝える。
     淡路の後藤の捜査も上手くいかず、有紀子の身に何も起こらない。淡路の手記はどんどん短くなる。
     淡路は、後藤の元妻から、後藤が、塚本の製薬会社の人気商品「ハッタリ」の名づけ親だと言っていたことを聞く。
     有紀子が殺害される。
     読者への挑戦が挟まれる。淡路は焦る。いったい、だれだ。だれが、こんな推理小説めかした読者への挑戦なんぞを、私の手記へ書き込んだのだろう。
     チャレンジャーはなにものだろう。
     チャレンジャーは大野木だった。読者への挑戦の筆者は大野木で、読者は淡路。手記の筆者は淡路。大野木は、手記を読み、淡路が信頼できない語り手で、書いていない部分があると見ぬき、有紀子殺害の犯人が淡路であることを見抜く。淡路は、有紀子が小早川と不倫をしていることを知り、殺害した。
     大野木は、後藤の殺害も淡路の仕業にし、自殺に見せかけて殺害しようとするが、淡路は後藤殺害の犯人ではない。大野木は小早川の兄で、後藤は塚本稔の兄だった。後藤は塚本稔と似ているとか、塚本稔の兄は死んだとされているとか、伏線はある。
     後藤を殺害したのは大野木。淡路が入れたのは単なる風邪薬で、大野木はカップごとすり替えた。
     最後、淡路は、束見本に仕掛けをほどこす。数頁白い頁を入れた後、中央部分に真相を書く。この猫の下に釘を打てそのものが、淡路の手記だったというオチ

  • 北村薫「ミステリ十二か月」で言及されていたので手に取った。やはり、この人のチョイスに間違いはない。

    「シンデレラの罠」の上を行く技巧ミステリ。読みどころは、主人公が犯人・探偵・被害者の3役というだけではない。ミステリで、恋愛小説で、私小説で、さらに懐かしの東京を描く「都市文学」でもあるのだ。

    作者あとがきによれば、恋愛小説をストレートに書くのはためらわれ、「てれ性」ゆえの技巧だという。数々の煙幕ゆえ、ミステリか恋愛か、どちらが本意なのかは分からないし、どっちでもいい。本作が名作であることに変わりはない。

    ややネタバレになるが、一人称ダメ男のイタい犯罪という点では、「ロートレック荘事件」「倒錯のロンド」に通じると感じた。ややずれるが「葉桜の季節に君を想うということ 」も思い浮かぶ。また、「仮題・中学殺人事件」を読まねば。

  • 「私はこの事件の犯人であり、探偵であり、どうやら被害者にもなりそうだ」なんと興味惹かれる物語の始まりだろう。設定が面白いだけにその後の内容に期待しすぎて、あまり楽しめなかった。仕掛けは面白かったが。

  • 今でも色褪せない魅力的なミステリー。素晴らしい作品。

  • ラストがとてもよかった
    面白い終わり方でどうなったんだろうと考えさせられる
    有紀子の魔性ぶりと人間臭いところも読んでて楽しかった

  • 【私はこの事件の犯人であり、探偵であり、そしてどうやら被害者にもなりそうだ】から始まっていく。
    盗んだ風邪薬をこっそりコーヒーに入れたら飲んだ人が死んでしまった。風邪薬を飲むはずだった有紀子が狙われているのでは、と調べていくうちに意外な展開に。
    ホントのラストに気づかなかったら真相は分からなかったな。名探偵だったんだな。最後の文言は役割の順番に変わってるんだな。
    時代設定が古くてちょっとにくかったな。

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著者プロフィール

(つづき・みちお)1929-2003。東京出身。10 代から時代ものを発表していた読物雑誌の衰退に伴って海外ミステリ翻訳家に転向、『E
QMM(エラリイ・クイーンズ・ミステリ・マガジン)』日本版編集長を経て、1961年『やぶにらみの時計』を刊行、推理作家となる。トリッキーな趣向を凝らした作品の一方、ユーモラスなアクション小説、捕物帳を含む本格推理、ハードボイルド、SFミステリなど多彩な作風をもつ。永く無冠でいたが晩年に日本推理作家協会賞、日本ミステリー文学大賞を受賞。

「2022年 『都筑道夫創訳ミステリ集成』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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