- Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
- / ISBN・EAN: 9784255007502
作品紹介・あらすじ
母親のダイナマイト心中から約60年――衝撃の半生と自殺者への想い、「悼む」ということ。伝説の編集者がひょうひょうと丸裸で綴る。笑って脱力して、きっと死ぬのがバカらしくなります。
「キレイゴトじゃない言葉が足元から響いて、おなかを下から支えてくれる。また明日もうちょっと先まで読もうときっと思う」――いとうせいこうさん
「優しい末井さんが優しく語る自殺の本」――西原理恵子さん
大人気連載、ついに書籍化!
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世の中、自殺について醒めているような気がします。
おおかたの人は自分とは関係ない話だと思ってるんでしょう。もしくは自殺の話題なんか、縁起悪いし、嫌だと目を背けてる。
結局ね、自殺する人のこと、競争社会の「負け組」として片づけてるんですよ。
死者を心から悼んで、見て見ぬふりをしないで欲しいと思います。
どうしても死にたいと思う人は、まじめで優しい人たちなんです。(「まえがき」より)
感想・レビュー・書評
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少年の頃、母親がダイナマイトで隣の家の青年と心中したという過去を持つ編集者の末井昭氏が、自身の生い立ち、自殺に関して思うこと、自殺に対して取り組んでいる人たちへのインタビューなどを、ユーモアを交えて書いた本。
末井さんの人生は、母親のダイナマイト心中に始まり、貧困、いじめ、借金、不倫、離婚、鬱、と大変なことてんこ盛りで、しかもはたから見て決してかっこいい生き方ではない。
若い愛人とのエピソードなんか、愛人の立場で考えると胸が痛み怒りさえ覚えるほどだ。
それでも、読んでいて嫌な気持ちにならないのは、かっこ悪さを自覚しながらユーモアたっぷりにさらけ出すことで、自殺を考えている人に「こんなやつでも生きているんだから、逃げ道はあるんだよ」と伝えようとしているんだな、と感じるからである。
富士山の樹海をパトロールしていた早野梓さんという方へのインタビューの中で、首つりに失敗して別の方法で死のうと考えていた若者が、富士山はいずれ噴火してなくなる、と言ったら興味を示し、「なんとなく死にたくなくなっちゃった」と言った、というエピソードがあって、自殺しようとする人はこんなちょっとしたきっかけで針がぐっと生の方向に動くのか、と印象的だった。
私の身近な人で自殺した人はいないし、自分も自殺しようと思ったことはない。
苦しい思いがいっぱいあってふと生と死の境を越えてしまう人のことを、たぶん私は本当には理解できないと思う。それでも、誰にも自殺を選んでほしくないし、そのためにできることはしたい。
自殺を考えている人が本書を読んで、それで自殺を思いとどまってくれればいいと思う。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「朝日出版社第二編集部ブログ」連載中から評判を呼んでいたエッセイの単行本化。
『素敵なダイナマイトスキャンダル』などの過去の著作でも明かされているが、著者は小学生時代に母親を自殺によって喪っている。それも、隣家の息子である青年と不倫の末にダイナマイト心中を遂げるという壮絶なものであった。
そんな経験から、著者は2009年に、『朝日新聞』から自殺防止をテーマにインタビューを受けた。そのインタビュー記事を読んだ朝日出版社(ちなみに、朝日新聞社とは無関係な会社)の編集者が、「自殺についての本を書いてほしい」と著者に依頼。そして生まれたのが本書である。
自殺がテーマの本ではあっても、半分くらいは自伝的エッセイであり、自殺のことばかりが書かれているわけではない。
また、末井昭のことだから、「死んじゃいけないよ!」と熱く訴えるような文章はただの一つもない。もっと飄々と、自殺を考えている人の傍らに座って静かに語り合うような内容だ。
たとえば、最後の一編にはこんな一節がある。
《この連載を始めて、自殺した人たちのことをあれこれ想像するようになりましたが、いつも母親のことを重ね合わせていたように思います。母親のことを想うように、自殺していく人がいとおしく可哀想でなりません。僕は自殺する人が好きなんじゃないかと思います。
自殺する人は真面目で優しい人です。真面目だから考え込んでしまって、深い悩みにはまり込んでしまうのです。感性が鋭くて、それゆえに生きづらい人です。生きづらいから世の中から身を引くという謙虚な人です。そういう人が少なくなっていくと、厚かましい人ばかりが残ってしまいます。
(中略)
本当は、生きづらさを感じている人こそ、社会にとって必要な人です。そういう人たちが感じている生きづらさの要因が少しずつ取り除かれていけば、社会は良くなります》
『素敵なダイナマイトスキャンダル』では母親のダイナマイト心中をあえて笑いにくるんで語っていた末井だが(※)、本書の語り口はもっとしんみりしていて、静謐な私小説のよう。
※なにしろ書き出しが、「芸術は爆発だったりすることもあるのだが、僕の場合、お母さんが爆発だった」である。
エッセイの合間に入れられた著者によるインタビュー(相手は、両親を自殺で一度に喪った女性、長年青木ヶ原樹海をパトロールしていた作家の早野梓など)も、味わい深い。
また、現在の妻である写真家・神蔵美子との関係についても、くり返し触れられている。
それらの文章には、以前読んだ神蔵の『たまもの』を末井側から上書きしたような趣がある。2冊を併読するといっそう面白いと思う。 -
自殺したいと思った事が無いかと言われれば「ある」という答えになります。脳天気と思われている私でもあるので、世の中沢山沢山いると思います。人間関係や社会との関わりが複雑化した現代ではあらゆる事に憂鬱の種があります。昨日まで円満でも今日は死にたいとか、ありえない話ではないです。
本書は末井氏の母親がダイナマイトで心中した壮絶な経歴を生かしたエッセイです。不謹慎ではありますが、そのエピソードを一つの売りとして語る末井氏の柔らかい語り口は妙に心地よかったです。
お金で億の失敗をした筆者の言葉で「お金位の事で死ぬなんて馬鹿馬鹿しい」と言われると説得力抜群です。今後自分が大きな借金を負っても(負わないけど)強く生きて行こうと思えました。どんなに借金が有っても結局命までは取られないんですね。 -
タイトルが強烈過ぎる。末井さんの職歴や経歴を知らないでタイトルだけ見ると、重たすぎそうで読めないと思います。
朝日新聞で連載していたエッセイ本。
なので、テーマは【自殺】ですが10代から年配の方まで、意外と読みやすいです。何より、テーマの割に表現も、選ぶ感情も明るいんです。
ちゃんとエッセイとして楽しめます。
とはいえ、80年代生まれの私には想像できません。母親がダイナマイトで心中自殺って、現代だったら大事件ですよ。何より一般家庭の主婦がダイナマイトは持ち出せないですからね、普通。
50〜60年代は大人がみんな戦争の記憶も新しく、壮絶な死が身近にあったので、こんな亡くなり方も珍しくなかったのかもしれません。
周りの方が残された子供を見守ってくれる時代でもあったんですね。今ならいつまでも腫れ物扱いだと思います。。。
生きる事の方が辛い、を自身や身内で実感している年代の方は、自殺しなければ救われないと思う人の気持ちを汲めるのだと思います。
私はまだ幸いにも知らずに生きてきたので、きっと死ぬな、と止めてしまいますが。
普段はあまりエッセイを読まないのですが、今回は人に勧められて読んでみました。
自殺の捉え方も様々で、どうしても重たいテーマではありますが、作家さんの配慮か性質か、、蓮っ葉で少々乱暴な表現がかえって、とても読みやすくて、読み物として面白かったです。
ニュースや世論だけを鵜呑みにせずに、自分の考えをちゃんと持つ為にも、読んでみてよかったと思います。 -
【生きづらい人】
生きづらい人ほど自分を追い込んでしまうのかもしれませんね。
でもそういう人ほど世の中には必要なのでしょう。
厚かましい人ばかりになったら、人間は戦争でもして滅ぶのではないか。
生きづらさの原因を無くしていくことが、世の中を良くすることなんだろうな。
沢山の普段接しないような人達の生き方を知ることができた。明日も生きていく勇気がもらえます。 -
大好きな末井昭さん。
大傑作です。
各章、すべて自殺をテーマに末井さんの経験や
考えを具体的に、そして優しい視点で語ってくれています。
主張は一つ。「死なないでください」
自殺の原因第二位のお金について。
末井さんの散々な先物取引、そして土地取引。
最後は8500万円の借金残ったけど、交渉してもらって
その額が減って今、毎月5万円の返済をしているところなどは、
お金で死んではいけません、がリアルにわかるかな。
また、末井さんが悩んでいるときにブログでその気持ちを
書いていたとき、悟ったことは
内向した文章は人に見せるのが恥ずかしい。
でも、自分にとって恥ずかしいことや深刻なことほど
人にとっては面白い、ということ。これは我々が表現するときの
ポイントにもなるかなと。
同僚と不倫関係となって、彼女が病んでいくお話「眠れない夜」。
小説のようで、そして最後の1行にしびれてしまいます。 -
自殺を否定も肯定もしない、静かで穏やかなエッセイ。
著者の生い立ちや人生は壮絶の一言なんだけど、それを突き放して書いているから、心をざわめかせずに読んでいられる。
書かれている遍歴はかなりとんがっていて、ずいぶん生きづらい人生なんだなと思う。淡々と書いているけど、けっこうすさまじい人だ。
いちばん心に残ったのは、青木ヶ原樹海の話。いかに「樹海」のイメージが作られたものかっていうのが伝わってくる。
「自殺」ってやっぱりセンセーショナルな出来事で、いろんなことを突きつけてくるから、何か言ったり思ったりせざるを得なくなるんだろう。
やたら感傷的に扱ったり、怖いもののように思ったり、腫れ物に触るように扱ったり。特別視して、自分の世界から遠ざけておきたいと思うのも無理はない。
でも、ある種の人たちにとってはとても近しいもので、気がつくと自分のすぐそばに「自殺」がある。
いいとか悪いとかって判断してみても、だからってどうなるものでもなく、死んでしまう人はどうやっても死んでしまうんだろうし、そんなことをかけらも思わない人には理解できないままのものなのだ。
年間3万人もの人が自殺してるという統計があったり、秋田県は自殺者が多いという統計があったりして、一応自殺予防の考えは出てきてはいるけど、それでもまだ、「自殺」ってどこか別の世界の、自分とは無縁の出来事だと思われてる。どうかしたら、「死ぬ奴はだめなやつ」と切り捨てられてたりもする。
「病気で、生きたくても生きられない人もいるのに、自殺するなんて傲慢だ」と非難する人もいる。
でも、誰も、誰かの代わりに生きたり死んだりはできないのだから、自殺を止めるための理屈としては不完全だといつも思う。
この本には、そんな酷い言い方はなかった。
ただ、淡々と、「やっぱり死なない方がいいんじゃないかな」と微笑んでる著者がいる。(微笑んでるっていうのは私の勝手な想像だけど)
私も、死んでしまいたいなと思うような時があったけど、たぶん「死にたい」は「生きたい」なんだろうなとこのごろ思う。
生きたいのに、楽に生きていられないから、死にたいと思うんだ。
自分が楽になれるように、いつの間にか身にまとっていたいろんな柵や鎖を取り払えばいいんじゃないかな。
読み終わってそんなふうに思った。 -
友人が数年前の2月に自殺しました。
鬱でした。
今でも友人のことを考えると「なぜ?」ということしか頭に浮かびません。
鬱なんだからと思ってもやはり「なぜ?」と涙が出ます。
母親がダイナマイト自殺した作者の末井さんが書いた「自殺」
とてもやさしい文章で書かれています。
色々な経験をしてきて、悲しさも苦しさも知った人が、自殺しようとする人を止まらせるために書いているやさしい文章だということが伝わります。
「誰かのためになる、誰かのことを真剣に思うことで、人は孤独ということから逃れられ、気持ちが豊かになるのかもしれません」
「人は自分のことしか考えないということが絶望だとしたら、人のことを真剣に考えることは希望です。だから世界は希望に溢れていると、僕は驚きながら思ったのです。」
印象に残っている文章です。
「なぜ?」の答えを見つけたくて選んだ「自殺」でした。
しかし友人は失ったけれど、「なぜ?」と友人のことを真剣に考えている私は孤独ではない。
そんなことを気づかせてくれた本でした。