藤沢周平とっておき十話

著者 :
制作 : 沢田 勝雄 
  • 大月書店
3.63
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本棚登録 : 24
感想 : 4
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  • Amazon.co.jp ・本 (203ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784272612253

作品紹介・あらすじ

未公開原稿がつむぎ出す新たな藤沢周平像。和子夫人、長女・展子氏のエッセイも収録。

感想・レビュー・書評

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  • 藤沢周平の「とっておき十話」が、しんぶん赤旗に連載されたのは1990年のことである。それからなんと21年経ってこの本がまとめられた。「十話」自体は、既にエッセイなどに触れられている話が多いのだが、私が興味深かったのは、そのインタビューでのこぼれ話をこの本にまとめていることと、藤沢周平唯一の「選挙の応援演説」について書いた「雪のある風景」というエッセイが載っていることである。

    藤沢が後々肺結核療養時代を「私の大学」と呼んでいたが、単に療養所で文学修養が出来ただけではないことが、この本の「インタビューこぼれ話」で明らかにされる。また、幾つか業界編集部を転々した中で、後の藩内の力の駆け引きなども学んだ様子を赤裸に語っている。また、身内の借金踏み倒しで奔走したことも語っている。成る程、これはなかなか死後暫くしても公表できなかった訳だ。そして、藤沢の小説の秘密が少し明らかになるという意味でこれは「藤沢周平研究」には欠かせない本になっているだろう。

    「雪のある風景」(1977)は単行本にも「全集」にも収録されていない。それはおそらく、テーマが藤沢周平にしては珍しく「政治と文学」に関わっていたからではないだろう。そこに書いている初めての「衆議院選挙に立候補した郷里の友人O氏」が共産党の人間だったからだろう、と思う。私はこのエッセイを一読、改めて藤沢周平は「一貫して変わらない信頼できるものがある」と感じたのである。ホントに「誠実」その一言に尽きる人だった。以下少し抜粋する。

    そうは言っても、私は無政府主義者ではないので、よりよい政府が出来、いい政治をしてくれることを期待する気持ちは人後に落ちない。疑いながらも、いつかもっとよくなるだろうと期待しないわけにはいかない。
    そういう期待の支えになるのは、歴史の進歩ということである。複雑怪奇な軌跡を残しながらも、人間集団は少しずつ進歩して来た。もはや奴隷を首切る専制君主は現れないだろうし、封建制度の世の中に戻ることもないだろう。人間が人間らしいゆとりをもって生きられる時代がくるだろうと、それを政治に期待し、望むのは正しいのだと私は思う。昔からそういう望みが、少しずつ人間を解放し、歴史を進歩させてきたのである。こういう人間の望みを汲み上げ、現実に生かして行くのが、政治の原型だろうと思う。私が政治家としてO氏を尊敬するのは、そういうことである。(略)O氏は落選したが、新聞で読んだ彼の敗戦の言葉はいさぎよく、彼に対する私の考えが間違ってなかったことを示していた。彼の中には、彼を知ってから二十数年、一貫して変わらない信頼できるものがある。(145p)
    2012年10月29日読了

  • 藤沢周平さんの作品は何冊か読んだがこのとっておき十話を読んで改めて初期の作品から読んでみたいと思いました。
    インタビューアの澤田さんが親戚と言う所為もあるのでしょうか貴重なお話を聞き出せたのでは無いでしょうか。

  • 藤沢周平の人柄が伝わる作品
    結核で教職を離れ、雑誌関係の職場を経て
    作家となった人
    けっして驕らず、普通の人として
    家族を大切に生きた人
    時代物の作品が徐々に少なくなっていくのを
    愁えていた
    映画だってテレビだって時代物は減っている
    今の世代には理解が難しいかも

  • これも体調が悪く、前半だけ読み積ん読しておいたもの。後半を読む。
    編者はしんぶん赤旗記者。藤沢周平とは血筋にあたる。
    赤旗日曜版に連載された「とっておき十話」と、発表されてなかった講演などが収められている。
    藤沢周平の優しさが、よく伝わる内容。

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著者プロフィール

1927-1997。山形県生まれ。山形師範学校卒業後、教員となる。結核を発病、闘病生活の後、業界紙記者を経て、71年『溟い海』で「オール讀物新人賞」を受賞し、73年『暗殺の年輪』で「直木賞」を受賞する。時代小説作家として幅広く活躍し、今なお多くの読者を集める。主な著書に、『用心棒日月抄』シリーズ、『密謀』『白き瓶』『市塵』等がある。

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