- Amazon.co.jp ・本 (206ページ)
- / ISBN・EAN: 9784276200654
作品紹介・あらすじ
ロマン派の中のロマン派=シューマン。現代音楽の人気作曲家が、実験的で創意と遊び心いっぱいの天才作曲家の、生き物のような「音」の謎を解説します。少しだけ、クララとの恋愛にも触れながら。
感想・レビュー・書評
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『音符たち』はバッハ、モーツァルト、ブラームス、シューベルト、ベートーヴェンと続いてきたシリーズで、大作曲家の書いた音楽を伝記や文学的な記述などを顧みずに作曲家・池辺晋一郎が純粋に音符だけから読み取るというコンセプト。エッセイというには音楽のアナリーゼに入り込んでいるが、もともと雑誌の連載、ひとつひとつは短い文章で、曲の印象的なところをいくつかつまみ食いして終わってしまうとあって本格的なアナリーゼとはほど遠い、というのが絶妙なバランス。もっとも既刊書については私は本屋で立ち読みした程度で、きちんと読んだのはシューマンが初めて。
全体の半分近くが譜例で占められているが、譜例があるのは、文章では「あの曲のあのところ」と指示できないからに過ぎないという程度で、楽譜が読めないと手も足も出ないといった難物ではない。
広くいろんなジャンルからつまみ食いしているので、自分の好きな曲についてもどこかに書いてあるだろう。
さて、『シューマンの音符たち』は、音符だけからといいつつ、しばしば、というかほとんど毎回に近く、禁を破ってシューマンの伝記などに言及せざるを得ないというところがこの作曲家のひとつの特徴。紙幅は限られているからもちろん深入りはしないのだが。
池辺によって開示されるシューマンの秘密。ひとつはいかに彼が繊細な感覚で音を、あるいは和音を選んでいるかということ。ピアノの右手と歌がほとんど同じ旋律なのに、わずかにずらしてあるところがいかなる効果を上げているか。ためらいつつ進む旋律と、勢いよく疾走する旋律をどう書き分けているか。あるいは、抒情に身を任せて書いているようでいて、実は周到なプランで作曲されているということ、そして、シューマンは決して実験的な作曲家だったわけではないが、幾多の先進的な試みをしていること。
ディートリヒとブラームスと共作したF.A.E.ソナタに自作の楽章を書き足したヴァイオリン・ソナタ第3番をディートリヒとブラームスの書いた楽章と比べたり、ピアノと管弦楽のための幻想曲をどのようにピアノ協奏曲に書き直したのか比較したりといった話もなるほど面白い。
各章は短いのでもっと詳細なアナリーゼを読みたいと思いつつ、全曲の詳細なアナリーゼは門外漢には退屈なものになってしまうだろう。しかしながら、印象を語るだけの批評ではなく、しっかりと音符をもとに語られるシューマン論には説得力がある。
ところで、晩年のシューマンの作品を精神疾患に影響された価値の低いものとみなす先入見を払拭しようとする近年の研究を踏まえてなおかつ、『思想』誌2010年12月号のシューマン特集で椎名亮輔はヴァイオリン・ソナタ第3番における病的な側面を指摘している。そのあたり池辺の意見も聞きたいと思った。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
「音友」に掲載されていたエッセイをまとめたもの。 本当は全部読み切ってないけど、気になった曲を中心に7割ぐらい読破。興味深い内容だったけど、譜面がすらすら読めないとちょっと理解しにくいかなぁ。でも「春」の冒頭が「グレート」とよく似ているとか、あの珠玉のPコンのメロディがクララの作ったPコンに影響されてるとか、面白い発見がいろいろで楽しかった。
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シューマンの作曲した曲には、若々しさ・力強さ・大胆さが感じられます。その背景には、音符に隠されたマジックがあったのです。
シューマンの事を知らない方でも楽しく読める作品です。
(教育学部・国語専修:匿名希望)