- Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
- / ISBN・EAN: 9784296101627
作品紹介・あらすじ
デジタル化する世界の本質を解説
LINE舛田淳さん、小山薫堂さん推薦!
現在、多くの日本企業は「デジタルテクノロジー」に取り組んでいますが、そのアプローチは「オフラインを軸にしてオンラインを活用する」ではないでしょうか。
世界的なトップランナーは、そのようなアプローチを採っていません。
まず、来るべき未来を考えたとき、「すべてがオンラインになる」と捉えています。考えて見れば、モバイル決済などが主流となれば、すべての購買行動はオンライン化され、個人を特定するIDにひも付きます。IoTやカメラをはじめとする様々なセンサーが実世界に置かれると、人のあらゆる行動がオンラインデータ化します。つまり、オフラインはもう存在しなくなるとさえ言えるのです。
そう考えると、「オフラインを軸にオンラインをアドオンするというアプローチは間違っている」とさえ言えるでしょう。筆者らはオフラインがなくなる世界を「アフターデジタル」と呼んでいます。その世界を理解し、その世界で生き残る術を本書で解説しています。
デジタル担当者はもちろんのこと、未来を拓く、すべてのビジネスパーソンに読んでほしい1冊です。
感想・レビュー・書評
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著者の藤井さんはビービット東アジア営業責任者/エクスペリエンスデザイナーという肩書で中国に在住していて、彼の国のデジタル化の速度と広さを目の当たりにし、その知識と経験をもって日本企業にコンサルティングをしている。そういった理由から2019年春に書かれたこの本には中国の事例、特にアリババ、テンセント(WeChat)、平安保険の紹介がメインとなっている。本書は、それらについて表層的な紹介ではなく、現地企業との議論を通して得られた情報も含めて「アフターデジタルという社会システムのアップデート」として伝えるというものである。アフターデジタルとは『オフラインがなくなる世界の到来』であり、その意味を日本の多くの人は理解をしていないという一種の焦りがある。
さて、自分が中国上海に行ったのは2018年5月のこと。すでにそのときここに書かれていたようなことはほとんどすべての中国在住の人は当たり前のように体験をしていた。いわく、財布を使うことはめったにない、昼食はほとんどデリバリー、物乞いもQRコードを持っている、信用スコアを気にして人々が親切になった。
中でももっとも感心したのは、ほとんどのレストランでテーブルにQRコードが貼ってあり、店員が案内することなく空いている席に座り、おもむろにWeChatを立ち上げてQRコードを読み取るとスマホにメニューが出てきて、そのメニューからオーダーする。店ではどの席からのオーダーが分かるので、店員は出来上がった料理をその席に運ぶだけ。食べ終わったら精算はすでに済んでいるので、何も言わずさっさと出ていくだけ。超効率的だと思ったけれども、さらに上があって、何をどれだけ頼んでどれだけの頻度で食べにきているのかが正確にわかるため、ピンポイントでクーポンを流して来店を促したり接点強化にも即つながるというのだ。それは明かに新しいUXの体験であったし、そこからメニューの改善にもつながっているはずだし、今までもつことが顧客接点を持つことにつながっている。すべて、この本にアフターデジタルの世界で重要になるというエッセンスが詰まっているように思えた。
この体験のフレームは、新幹線の中でもコピーされていた。つまり、席の肘掛に付いているQRコードを同じように読み取ると、車内販売メニューが出てきて、そこからオーダーするとオーダーした食事や飲み物を席まで持ってきてくれるという仕組みになっていたのだ。日本の新幹線のようにワゴンを待つ必要もなく、小銭のやりとりも必要ない。これを体感することで、QRコード決済はここまで行って初めて便利だと思ってもらえるのだろうなと感じたし、ある程度の閾値を越えると自然に利便性が向上するものだと確信することができた。これが、将来の辿り着くひとつの形だろうと。
そういう感覚からすると、日本ではそこから一歩も進んでいないし、アフターデジタルについてやはり理解されていないことが多いのだと感じるのだ。
また同じく上海に行ったときには、本書で大きく取り上げられているフーマーにも実際に足を運んだ。そこでは、生きた魚・貝・エビ・ザリガニなどの新鮮な魚介類は目を楽しませてくれた。基本はセルフレジ。頭上を動くコンベアも配達に勤しむバイク乗りの人も、ある種のエンターテイメントにもなっていた。フードコートも立派(当然すべてQRコード決済)で家族連れでも楽しめそうな場所になっていた。著者は、「チャネルの自由な行き来」をアフターデジタルのOMOの特長と位置付けているが、正しくそれが体現されている場であると感じることができる。そこで得られたデータをUXに反映して、その改善を高速に実行していくというのがアフターデジタルの世界ということなので、実際に利用をしているとどんどんと改善されているのだろうと想像する。それだけのユーザとの深い接点ができあがっているように思うのだ。
巷間よく言われる「デジタルトランスフォーメーション」という言葉は企業のためにあるのではなく、まずは社会インフラの基盤が変容するということを指すという。フーマーで注文可能な3km圏内は住宅価値が上がるということなので、まさしく社会インフラである。ホリスティックなユーザ体験に対する捉え方を変えていかないといけないということだ。
アリババの担当者が「データは資源であり、水や電気と同じ大切なインフラです」と考えているのは非常に示唆に富むところである。中国という国家体制だからこそ、それが可能となっているところはあるが、都市の効率化とそこに住む人の社会行動の最適化を実現するにあたって、法や道徳、市場ではなく、データドリブンな解決法を模索することはおそらくはより最適化された解決を産むことにつながるかもしれず、それが新しい社会となる可能性もあると考えるべきなのだ。
もちろん、そこには個人情報収集の問題などが横たわるのであるが、日本においてはそれ以前の問題としてデータやデジタル化に対する理解が根本的に不足している状態にある。本書はその不足を補うべく書かれたものでもあるのだが、この本は届いてほしい人には届かず、すでに十分にその意義を知っている人の手から届いていくのだろう。この本に限らず、それはデジタル格差を拡げる方向に進むということであるし、また社会のアフターデジタルに向けての準備が遅れたままであるということに他ならないのである。
本書の最後には、日本企業がいかに行動すると変わることができるのかが語られている。企業においては、まずはトップ主導での改革の必要性が強調される。そして、中国企業も認める日本ならではの強みは個別の「体験」を提供する上でプラスになると語りかけるのである。多くの企業トップにメッセージが届くことを期待する。
事例が中国に寄っており、それは著者も意識の上書かれているのだけれど、気をつけないと誤解するところもあるかもしれない。それでも、先行する中国のデジタル化とその背景を知る上で読みやすく優れた本。
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なお、この後続編の『アフターデジタル2』も上梓されている。
『アフターデジタル2 UXと自由』(藤井保文)のレビュー
https://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4296106317詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
日本がいかにデジタル化が遅れている国かということが如実にわかる1冊。
ぜひみなさんも一読を。 -
2冊同時投稿「DXの思考法」「アフターデジタル」
必ずしもテーマが綺麗に重なっているわけではないが、私の中で一つのトピックなのでお許し頂きたい。
で、まあデジタルトランスフォーメーションであるが、平たく言うとなんなのか。
前者「DX」はその構造的理解を、後者「アフター」はその先端的実装事例を解説してくれる。
「DX」の肝は、データは階層構造で把握すべき、というもの(本書の例えでいうなら、ミルフィーユ)。「アフター」の肝は、もうリアルの世界でデジタルをどう使うかの時代ではない、両者に境はなくユーザーはそれを意識していない、企業に求められるのは最適なジャーニーの提供だというもの。
前者は概念中心で使用実例はコマツやダイセルなどごく一部。後者はデータの構造よりは、そこにある何かしらのデータを分析することでユーザーはここまで満足感を味わってくれる、という事例がエキサイティング。一方、そもそもデータとは、という抽象論には立ち入らない。
どちらが良いということはないが、私個人の関心には「アフター」がよりフィットした。
ちなみにどちらもデータ分析そのものの指南書ではない。これを読んでも、自社の基幹システムに吐き出させた生データを前にして勝手に手が動き出すということはない。
何が起きているのかをコンセプチュアルに把握できれば、あとはデータサイエンティストなどプロフェッショナルや人工知能を有効活用すれば良い、という割り切りだろう。
うむ。
その通りだろうが、なにかものすごくわかった気はするが、畳の上の水練でシステム予算を溶かしてしまったらどうしよう、そんな不安に駆られる経営層もいるのではないだろうか。 -
デジタルの未来について語った素晴らしい本。
最近読んだ中では一番良かった!
中国が日本を抜いたと言われ始めていますが、
その様子がありありと理解できる本です。
そして中国で今起こっていることから、
今後、日本で(そして世界で)起こるだろう世の中の変化を
「アフターデジタル」という分かりやすい表現を用いて、
説明してくれています。
まだまだ様々なところで問題を抱える中国ではありますが、
日本もどんどん中国の良いところを真似て、
世界から遅れないようにしていかねいといけないと改めて感じた一冊です。 -
2年ちょっと前の刊行にもかかわらず、本著の考え方をちゃんと取り込んで実践できている企業は少ないのでは。非常に刺激を受けた1冊です。
☆4.5があればつけたいくらい。DX(デジタルトランスフォーメーション)という単語は本著では使われていませんが、内容的にはドンズバだと思います。デジタルを学ぶための良著です。
さて、本著は中国で日系企業のデジタル化を支援している藤井氏と、IT批評家の小原氏の共著。
主に中国で進んでいる社会システムの変化の事例を解説し、その裏にある考え方までを紐解き、新しい考え方の思考訓練と、日本企業においてどう取り込むかまで、短いページ数ながらフルコースで用意されていて、特に後半は結構歯ごたえがあって考えさせられます。
最先端の中国の事例と、中国企業がそう考えた背景を読むと、素直に「凄い…」と思わされるのと同時に、日本は大丈夫か?と焦りも感じます。コロナ禍はある意味デジタル化のチャンスだったと思うのですが、日本の社会はあまり変わっていない感もあり、どんどん差がついているのかも。。
言えるのは、企業と顧客の接する時間が、買う前~購入時のいっときではなく、買ったあとも含めて長期化しているということ。
(今までは物理的に無理だったコトが、デジタル化で簡単かつ低コストで実現できるようになったのは間違いないかと)
ただ、個人的には、中国企業がやっているオンラインマーケティングは、「すぐ売上が上がる」ものではないように見えるので、余裕があるからこそできるように思えます。
見えない未来を信じてサイコロを投げる行為は、(たとえ効果が出るにしても)定量的に予測不能なので、今のままの日本企業には意思決定できないんじゃないか。発想の転換が求められるんですが、それできるの?という印象を受けました。
これからの日本でも、デジタル化自体の流れは止まらないはず。どういう心持ちで取り組むかが大事だなと感じました。(日本ではどこかでデジタル化の揺り戻しもありそうですが、最終的にはデジタル化せざるを得ないはず)
おそらくはUIとかそういうものの先にある、デジタルに心地好く誘引する仕組みから考えないといけないと思うんですが…、骨が折れそうですね。でも、「その先にしか未来はない」くらいの気持ちで取り組まないといけないのかも。 -
『アフターデジタル』
1.再読目的
カスタマーサクセスの現状、課題、解決にあたってのベースとなる考え方の整理のため。
2.解約率改善&クライアントから紹介をもらうために必要なこととは?
①目標
クライアントから「wow!」をもらえる状況をつくること。
wow!とは、シンプルにいえば、感動。
②感動をつくるために必要なこととは?
ユーザー別記録の
1)整理
2)活用
本書ではモーメント 時間別記録の整理の有効性を解いている。
たしかに、色々な帳票類で観察するよりも、時間別でどの画面を利用しているのか?の把握するだけでも、ユーザーを理解するには有効である。
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海外赴任前に購入して、1年ほど積読になっていましたが、ようやく読了。
全てのサービスがオンライン化することで、オフライン、オンラインの区別がなくなり、ユーザーは常にサービスに触れることができる。従来のマーケティングでいわれていたチャネル戦略は根本から変わります。提供者からすると、ユーザーの利用データを大量に取得し、それを高速でまたサービスの磨きこみに使う。特に、決済プラットフォームを持つ企業が強く、大量のデータを取得することができます。
ユーザーからすると、データを提供することさえ了承すれば、自分に適した便利なサービスを使い続けることができる。ただ、このデータの扱いに社会的なコンセンサスが得られるかどうかが、未来に向けて進む社会と、従来型で留まる社内を分けるカギになるでしょう。
本書ではそういう考え方は否定されていますが、現時点ではこのような取り組みを進めやすいのは、エストニアのような小国、そして中国のような中央集権的な大国であることは、やはり認めざるを得ないと思います。これらの国に続くのか、従来型の社会に留まるのか、それにより得られるもの、失うものを冷静に検討し、各々が早急に判断をしなければならない時期にあると思います。 -
インターネットとスマホ、その上に乗っかるモバイルペイメント等のアプリケーション、リアル空間におけるIOTなどが完備された後の世界の価値観、サービス、ビジネスなどがどうなっていくのか、どうすべきなのかについて書かれた本。
通常、こういう本を見ると私は「それ、知っているよ。だって、5年前にジャックマーから直接聞いたもん」と言った嫌な反応と嫌な奴になりがちなのですが、これについてはなかなかどうして、OMO(Online Merge Offline)のコンセプトとその価値観、それが訪れた世界の付加価値や手法について極めて俯瞰的、構造的、実際的に書かれていて、改めて自分の中でも整理と成すべきことの確認ができたような気がしました。爽やかだ。
中身は本を読んでのお楽しみだが、「[アフターデジタル]デジタルで絶えず接点があり、たまにデジタルにを活用したリアル(店や人)にも来てくれる」という個所に尽きるかと思う。あとはデータドリブンでバリュージャーニーを作っていくということ。
これから自社のサービスをここに書かれているようなものに、主体的にしていけるかと思うと楽しみでならなくなる一冊なのであります。 -
日本では「DX」や「デジタルテクノロジー」が取り上げられ、各企業が積極的に取り組んでいます。しかし、そのスタンスは「オフラインを軸にしてオンラインを活用する」がほとんどです。世界の先進的な企業では「オフラインとオンラインが混在する」もっと言えば「すべてがオンラインに取り込まれ、オンラインを軸にして、オフラインを活用する」というスタンスです。筆者はオフラインが取り込まれた世界を「アフターデジタル」と呼んでいます。
まず、圧倒的なユーザー視点で物事を考えています。ユーザーは状況ごとに一番便利な方法を選びたいだけで、オンラインやオフラインを区別して考えていないでしょう。今すぐビールが飲みたければコンビニで買うし、週末に飲みたいのであればネットで注文します。モバイル決済が普及し、全ての行動データが1つのIDに紐づけられるようになれば、コンビニのビールも、ネット上のビールも誰が買ったか把握できるようになります。
そうすると、データをUXとプロダクトに還元することが可能になります。あらゆるタイミング、チャネルでの行動データを収集できれば、一人一人に対して細やかなサービスを提供できるようになります。中国では、行動データをフル活用し、ユーザーに長く滞在してもらおうと全力で取り組んでいます。
UXというと、日本では「デジタルマーケティングの一部」ぐらいの認識ですが、中国では「経営者レベル」が重視して取り組んでいるのが現状です。「行動データ×エクスペリエンス」の時代であると言われています。顧客体験を重視しないCEOは即座に解雇され、UX業務経験のある人材が据えられています。
サービスを育てるグロースチームは「エンジニア」「データサイエンティスト」「UXデザイナー」の3つの機能を持ち、「行動データ×エクスペリエンス」を掲げて、とにかくゴールに向かって高速で改善していきます。
ちなみに中国のタクシー配車サービス、ディディでは「UXを専門にやる人はいない。なぜなら全員がUXデザイナーの視点を持っているスペシャリストだからだ」と話しています。「体験の重要性が高まっている時代において、UXという概念は全員が持っていて当たり前」という領域に達しています。
経産省の「デザイン経営宣言」をはじめ、日本でもようやく「顧客体験」を経営に取り込む活動が始まりましたが、すでに周回遅れという印象を持ちました。
では、これからどうすればよいか。著者は最後にこのように述べています。
日本におけるこの活動の肝は、「グロースチームによってUXグロースハックとUXイノベーションを行うというボトムアップ型アプローチである」というのが私たちの主張です。 -
既存のビジネスモデルに如何にデジタルを持ち込むか、というビフォーデジタルの考え方を変える必要がある。
ユーザーはその時一番便利だと思う方法でサービスを使い、ものを買う時代。
UI改善などに留まらない、実現したい状態をイメージできる、ペインポイントを解消できるUX起因でバリュージャーニーを設計することがOMO的思考
効率性・スピーディーさが求められる部分は徹底的にデジタル化し、人の温かみやロイヤリティ向上に繋がる部分にハイタッチとしてリアルを使う。
ニューリテールを実現するフーマーや、平安保険などの事例をそのまま日本に持ち込むのはナンセンス。
タイムラインやペルソナ、その他付加情報など膨大な行動データを元に作られた賜物である。
まずはリアル店舗のオンライン化、的な考え方でUXを再構築するのが良いだろう