人事の組み立て~脱日本型雇用のトリセツ~欧米のモノマネをしようとして全く違うものになり続けた日本の人事制度

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  • 日経BP
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  • Amazon.co.jp ・本 (260ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784296109272

作品紹介・あらすじ

「日本式ジョブ型」に飛びつくのはちょっと待って!
成果主義、コンピテンシー評価、職責・役割給、ジョブグレード・・・。
過去60年の「脱日本型」失敗と同じ轍を踏まないために!
人事担当者はもちろん、全ビジネスパーソン必読の書。

新型コロナウイルスの流行によりリモートワークが普及し、従来の働き方が成り立たなくなった。そこで「ジョブ型」を導入して、成果重視の人事制度に作り替えようーー。
日本企業が狂騒する「ジョブ型祭り」を、雇用ジャーナリズムの第一人者である著者は
「欧米の仕組みを付け焼刃で取り入れる愚策」と切って捨てる。

生半可な理解で人事制度“改革”を行うことに警鐘を鳴らし、「本気で日本型を変えるために、雇用システム、そして人事というものを、隅々まで理解して、根治を目指さなければならない」と説く。本書では事例や統計などファクトをベースに、欧米各国や過去の日本の社会状況、人事実務を解説。

感想・レビュー・書評

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  • 最近、日本では「ジョブ型人事制度」に関しての議論が盛んである。欧米は「ジョブ型人事制度」であり、それに対しての日本型雇用制度は生産性が低くなるので、ぜひ、ジョブ型人事制度に転換すべきである、というような議論である。
    筆者は本書で、それに異論を唱えている。
    1)そもそも「ジョブ型人事制度」というのは何?という共通の理解・定義がないままに議論が行われていること。
    2)人事制度は、人事制度単独で成り立つわけではない。その国の雇用慣行や社会制度等のOSの上に成り立っているアプリのようなものである。「ジョブ型人事制度」はアプリであり、それを成立させているOSが欧米と日本では異なるのだから、アプリの良し悪しだけを議論しても意味がない(アンドロイド上でiPhoneのアプリは動かないが、どちらが良いかという議論ではない)。
    というようなことが骨子の異論である(もちろん、書中、もっと制度やOSのもっと具体的な内容に触れた議論がなされている)。

    私の理解したところの、ジョブ型人事制度の本質はジョブディスクリプションにあるのではないというのが、筆者の主要な主張の一つである。
    欧米、特に欧州では、人事制度は一部のエリート層向けのものと、その他大勢のためのものに分かれる。ジョブ型制度は、その他大勢のためのものであり、基本的にずっとその仕事、ずっとそのポジション、ずっとその報酬、を続けるものである。ポジション(管理職の役職以外の一般職のポジションを含め)に定員が設けられ、仕事の内容が決まり、それに合った人を外部市場から採用し、ずっとその仕事をしてもらう。仕事に対しての報酬水準は市場的に決まっているので、基本的にその報酬額を支払う、というようなものである。
    一方で、日本でイメージされているジョブ型人事制度とは、①職種コースを設け②ジョブディスクリプションを準備し③人につける(職務につけるのではなく)ジョブグレードを新設し④成果評価で給与を支払う、という内容のものであり、欧米でのジョブ型人事制度とは内容がかなり異なる。筆者は、「このような制度をとっている国はない」と断じている。

    私は人事部門で仕事をしているので、ジョブ型人事制度の議論とは無縁ではない。
    私自身は、「(精緻な)ジョブディスクリプションを作成する」ことがジョブ型人事制度の前提である(と言われている)ことに、最も大きな違和感を持っていた。こんなに変化の激しい時代に、特にホワイトカラーに対して、詳細な職務記述書を作成する意味が分からなかったということである。まぁ、普通の人はここでひっかかる訳で、幸いなことに(?)当社では、ジョブ型人事制度に変革すべきという議論は全く起こっていない(人事からも現場からも経営からも)。

    人事の業界では、今回のジョブ型人事制度的なムーブメント(筆者は「祭り」と呼んでいる)が、時々起こってきた歴史がある。コンピタンシーしかり、成果主義人事制度しかり。その都度、一部のコンサルタント会社が儲けてきたという以外に、何も起こらなかった。
    本書でもそのあたりのことを皮肉をこめて触れている。
    本書からの最も大きな教訓はそのあたりのところにある。
    「現場の実態をきちんとみて、自分の頭でものを考えよう」ということだ。

  • 年功型から職能型への移行問題は、所得倍増計画の時代からあった。
    欧米型との違いは、JDではない。JDは欧米でも抽象的。
    欧米の給与はポストによって決まる。ポストの数は決まっている。職務主義=やっている仕事が同じなら能力がある人であっても給料は同じ。
    日本は能力によって決める。ポストの数はきまっていない。都合によってつくる。職能主義。

    日本型は総人件費が上がる一方になりやすい。新卒一括採用と定年制の矛盾を非正規雇用で解決してきた。
    日本は賞与で業績給を調整した。
    成果主義は、管理職の給与を抑えるために生まれた。職能給の割合が多いので一般社員はさほど変わらない。

    欧米のジョブ型とは、ポスト限定雇用、の意味。=日本の非正規雇用と同じだが、給料は高い。
    日本では、ポストがあくと、内部で探す。その結果、平社員が空く。新卒が埋める。

    人事権と解雇権はトレードオフ=日本は転勤命令など人事権があるかわりに解雇権がない。

    欧米では、籠の鳥労働者=給料はさほど上がらず仕事も変わらない。エリートと一般ジョブワーカーが分かれている。
    移民に仕事を奪われている、のではなく籠の鳥から出られない労働者の不満がたまっている。

    欧米の評価は、ナインboxという優良可と行動と業績の2つの軸。
    ジョブ型のジョブとは、仕事ではなくポスト。

    一般社員はモチベーションが高くない。WLBが充実する。
    日本では、階段を下りる選択肢がない。降りたら非正規になる=待遇が極端に悪くなる。
    職種別組合だと最低時給より高くなる。

    日本型雇用の問題点5つ
    全員が階段を上がる前提=WLBの悪化。
    幹部候補という名のブラック企業化。
    高給な熟年、働かない管理職
    出産した女性のキャリアが途切れる問題。
    コースアウトすると待遇が低くなる非正規問題。

    日本の労働現場には二人の神さまがいる=顧客と上司。
    顧客第一でないほうが生産性は高い。
    階段を上がれる可能性がある以上、文句が言えない。
    欧米は、上司に対しては職種別組合が文句を言える。ブラック企業は生まれない。

    階段を下りる仕組みを作るべき。

    女性管理職は2030年になれば増えるはず。
    結婚出産を経てキャリアを上げるのは難しい=少子化になりやすい
    女性も高収入の男性と結婚したがる。そのほうが社会構造から暮らしやすい。その結果、女性が階段から先に脱落する。
    テレワークで育児は無理。

    老後は女性のほうが豊かな人生を送る=将来はいつでも階段から降りられる制度が必要。
    階段を下りるコースを作ることこそジョブ型雇用。

    日本は企業内労働組合のため、ストライキをしにくい。
    2020年の改正労働者派遣法が風穴を開ける可能性。平均給与から算出した時給を割り込むことはできない。

    どこの会社にいっても通用するキャリア、とは簡単にはない。OSは鍛えられるが、アプリ部分はその会社業界特有のもの。OSが大事な会社ならあり得るが、アプリが重要な会社では、難しい。リクルートはOSだけで活躍できる。しかし離職率が高い。
    OSだけで活躍できない会社は、年功序列になる。

    昇進が早いOS型、経験の積み上げが必要なアプリ型、どっちもそこそこの形もある。
    商社、メガバンクはアプリ型、メインでない職種は中途採用できる。日本は、この形の会社が多いので、人事制度がそれに倣っている。

    部下にNOを言えないのは、成長の階段ができていないから。
    コンピテンシーは、人の能力ではなく、ポストに必要な能力、のこと。
    35歳で階段を下りる道を作るべき。企業としてはずっと課長を目指してモチベーションをもって働いてほしいので、その宣言はしないことになっている。

  • これは読むべき ひとつの仮説

  • 人事制度における欧州と日本の差分や、ジョブ型、女性雇用など、雇用にまつわる内容を理論やデータ、実務と共に書いてくれている本。
    疑問に対して回答している構成であり、雇用周りで気になる事はほぼ網羅されている印象。過去の歴史にも触れてあるため、理解が進みやすいと思う。

  • 歴史の部分は読みやすく、入りやすいないようで学びになった。ただ後半は主観が強すぎないか。タイトルほどの内容には感じませんでした

  • 日本型雇用を知るってキャリアを降りる選択肢を。
    著者の別著作の簡易版。
    こっちの方が問題にフォーカスしていてわかりやすい。
    提案された案は確かにそういう時代になりそう。
    WLBってなんだろう。階段を降りるってなんだろというきっかけに。
    欧州と米国は明確に区別して考えること。その上で日本型を。
    結論、人からポストへができるか。

  • これからの人事の教科書と言ってもよいくらい、時系列的にも領域的にも網羅的に鋭い分析がされていて、とても刺激になった。

  • 著者つながりで読み始めた本。

    前半は別の著書にもあるように、欧米と日本の雇用システムの違いについて概観した内容。
    中盤以降は、欧米と日本とそれぞれのいいとこ取りはできないと言うものの、今の日本の仕組みを少しいじりながらどうすればみんなが比較的幸せに生きていけるのかについて、様々な提案をしている。

    印象に残ったのは、マミーに陥らないようにすること、また、会社のビジネスのスタイルに応じた、人事制度(年収や育成のあり方)、リーダーの抜擢及び育成のやり方など。

    16時に帰る日を作ることにより、後ろが切られている人(例えば育児がある社員)を体感できる、もいう側面はなるほどと思った。

    加えて日本の企業にありがちな、緻密に横一線で進めるのやり方には強く批判をしている。確かに前職においても、現職においても、思うところはあるが、うまく立場を利用して、一石を投じるような働き方をしてみたいものだ。

  • 今話題のジョブ型雇用というものの問題点などを理解するための入り口で読むと良い本だと感じた。
    特に後半のキャリアに関する部分は自社の抱える課題と全く同じで非常に読み応えがあった。一通り読み終えたが、後半部分は再度読み直して、自身の理解を深め、業務に活かしていきたい。

  • 上司からのお薦め、元リクとのこと。
    二信教の分析が面白く、確かにと思ってしまった

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著者プロフィール

雇用ジャーナリスト、経済産業研究所コア研究員、人材・経営誌『HRmics』編集長、ニッチモ代表取締役、リクルートキャリア社フェロー(特別研究員)。
1964年、東京生まれ、大手メーカーを経て、リクルート人材センター(リクルートエージェント→リクルートキャリアに社名変更)入社。新規事業の企画・推進、人事制度設計などに携わる。その後、リクルートワークス研究所にて「Works」編集長に。2008年、人事コンサルティング会社「ニッチモ」を立ち上げる。『エンゼルバンク─ドラゴン桜外伝』(「モーニング」連載)の主人公、海老沢康生のモデル。
主な著書に、『「AIで仕事がなくなる」論のウソ』(イースト・プレス)、『雇用の常識「本当に見えるウソ」』(ちくま文庫)、『面接の10分前、1日前、1週間前にやるべきこと』(小学館文庫)、『仕事をしたつもり』(星海社新書)、『女子のキャリア』(ちくまプリマー新書)、『無理・無意味から職場を救うマネジメントの基礎理論』『経済ってこうなってるんだ教室』(ともにプレジデント社)など。

「2018年 『名著17冊の著者との往復書簡で読み解く 人事の成り立ち』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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