中国減速の深層 「共同富裕」時代のリスクとチャンス

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  • 日経BP 日本経済新聞出版
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  • Amazon.co.jp ・本 (376ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784296113781

作品紹介・あらすじ

■世界が怯えるリスクの実像を捉える

●中国経済の減速が一段と進みつつある。世界経済を牽引してきた巨大経済圏の行方に世界が怯えている。また、格差是正を目指す「共同富裕」が経済の減速に拍車をかけるとの見方もある。本書は、さらなる中国減速の実態を探るとともに、内外への影響を中長期的な視点から明らかにする。

●不動産バブル、地方財政はどうなるのか――。経済格差を是正するため不動産価格を抑制する政策は、不動産会社の経営と地方政府の財政を圧迫し、金融リスクとなって跳ね返る懸念がかねて言われてきた。しかし、不良債権の水準は中央政府がコントロールできる水準に収まっており、金融のシステミックリスクには至らないと著者は見る。とはいえ、不動産投資が牽引した成長は抑制され、緩やかな経済の減速が進む。

●中国経済は成長要因と抑制要因が錯綜している。2000年代以降に急成長したテック企業と経済のデジタル化は依然として伸長し、経済を牽引している。対外的には、2060年のカーボンニュートラルを公言している中国は、太陽光発電や風力発電に関わる機器分野で世界最大の供給者となっている。エネルギー多消費型の工業が成長の抑制要因となる一方で、グリーン成長をはかる十分なポテンシャルがあり、脱炭素が成長を阻害するとばかりは言えない。人口減少や少子高齢化が進む一方で、都市化の余地は残されており、プラス面とマイナス面が微妙なバランスをとっている。

●日本では、政治的な対立に目を奪われ、中国経済のマイナス面ばかりを強調する議論が見られるが、冷静な評価が必要だ。米国では、政治的な対立が目に付くものの、現実の米中貿易は伸びている。半導体ですら、輸出禁止の例外として認可されているケースが多々あるという。さらなる経済の減速が見込まれるものの、限定されたリスクの中で勝機を見出すしたたかな米国企業を見習うことも重要だ。

●終章では、中国経済の近未来を3つのシナリオで検討する。ロシアのウクライナ侵攻の影響など、見通しにくいファクターが多いが、それらを加味して(1)良好シナリオ、(2)リスクシナリオ、(3)現実的なシナリオの3つに分けて中長期の中国経済を見通す。同時に、日本企業が考えるべき選択肢を提示する。

感想・レビュー・書評

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  • 中国経済の論評は、国の広大さ、地域および個々人の経済格差もあって「群盲象を撫でる」ことになりがち。
    しかも、脅威論やこんなにうまく行くはずがないとったバブル待望論のような希望と分析がない混ぜになってしまって、等身大で論じるのが難しい。
    その点、本書は昨今読んだ中国関連の書籍の中でベストであったように思う。
    日銀の出身者らしいマクロ経済のモデル分析から、著者自身の中国への赴任経験に根ざす分析までが織り交ぜられ、立体的に捉えることができた。
    改めて、このような難しい国を統治し、発展させてきた中国政府の統治能力には凄みと恐ろしさを感じる。本書は日中関係が主題ではないが、日本、日本政府、日本企業は大丈夫なのか、と何度も彼我の差を感じながら読んだ。

  • 中国バブルはいったいいつになったら弾けるのかと常々疑問を持っていたが、本書を読んでストンと腑に落ちた。やはり中国は中長期的視点に立ってしたたかに戦略を練っているのだ。中国経済の現状と展望を著者自身の中国駐在時の体験談も含め丁寧に偏らず解説している。しかし、今後は急速に進む高齢化と、習近平政権の長期化が最大のリスク要因になっていくと思う。

  • 東2法経図・6F開架:332.22A/F77c//K

  •  著者は元日銀で、本書の内容もほぼ経済。そのため自分には馴染みがないが、各章のまとめや政治社会と関係する部分を中心に読む。
     まず著者は、2010年代の中国経済の成長は鈍化したとし、その要因に改革開放の勢いの弱まり、人口動態の変化、経済のサービス化、環境問題の深刻化の4点を挙げる。
     そして今後の中国経済に影響を与える個別要素を見ていく。2020年秋頃から一部民営企業への規制強化が目立つようになったが、今後一方的に統制が進むことはなく、「権威的な政府と活発な民営経済の共犯関係」は続く。人口動態の影響は大きく、2035年以降にはより顕著に。デジタル化の急速成長は当分続くが、米中デカップリングや民営企業への規制強化といったリスクあり。カーボンニュートラルは成算のある現実的な目標。信用の急拡大により金融リスクが蓄積されているが、政府の統制力が強いことなど大規模な金融危機を回避し得る要素あり。
     国際政治の観点から関心を持ったのは米中デカップリングの分析。著者は、米中対立の構造化、長期化は不可避、ハイテク製品は今後デカップリングの可能性が高いとしつつも、経済貿易関係全体の完全デカップリングはないと指摘。その上で、日本企業にはサプライチェーン強靭化やロビイングと情報収集の強化が必要としている。
     結論部で著者は今後のシナリオを良好・リスク・両者の中間の基本、と3種類挙げ、基本が6割、良好とリスクが各2割ずつの可能性としている。

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著者プロフィール

大阪経済大学経済学部教授1989年日本銀行入行。2000年在中国大使館一等書記官、2010年日本銀行国際局総務課長、2011年国際局参事役(IMF世界銀行東京総会準備を担当)、2012年北京事務所長、2015年北九州支店長、2018年国際局審議役(アジア担当総括)、2020年国際局長を歴任、2021年日本銀行退職。同年4月より現職。経営共創基盤シニアフェロー、東京財団政策研究所研究員。1989年京都大学法学部卒業、1995年香港中文大学・1996年対外経済貿易大学留学、2008~2009年ハーバード大学ケネディ行政学院フェロー。

「2022年 『中国減速の深層』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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