- Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
- / ISBN・EAN: 9784296118021
作品紹介・あらすじ
2020年の新型コロナ禍による緊急事態宣言中に刊行し、大きな反響を呼んだ『小説伊勢物語 業平』。泉鏡花文学賞と毎日芸術賞をW受賞した「日本の美の源流をたどる」小説として、次に紡がれたのは、同じく平安時代の「六歌仙」のひとり、優れた歌の才に加えて、絶世の美女としても数々の伝説が残る小野小町の一代記である。本作も『業平』に続き、日本画家・大野俊明氏のカラー挿絵が「みやび」の世界に色を添える。
能楽の演目でも重くあつかわれる観阿弥作「卒塔婆小町」が元にしたとされる伝説「百夜(ももよ)通い」。小町を恋する男に、百夜通ってくれば共寝してもいいと無理難題をつきつける。男は通いつづけ、百夜目に悲劇的な死に見舞われる。思いが叶わなかった男の恨みはやがて小町の身の上に残され、惨めに老いさらばえる――小町はなぜこのような姿に描かれ後世に伝えられねばならなかったのか。古今和歌集と後撰集に残された数少ない小野小町の実作とされる和歌をより深く翫味すれば、そこに隠された本当の小町の姿が立ち現れてくる。
小町の歌の世界はけして甘美ではない。しかし、「日本の美の源流」が「もののあはれ」、哀れから来るとなぜ言われてきたのか。五感を研ぎ澄まして、この小説の音律に身を委ね、時に声に出して読んでいけば、読後にかつて経験したことのない深い感動が待っている。「もののあはれ」が体感できる小説と言っても過言ではないだろう。
感想・レビュー・書評
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小野小町の生涯を、古今和歌集と後撰集に残された数少ない彼女の和歌から、描いた物語。
有名な小野小町といえど、残されている史実はないに等しい。
悪名高い?「百夜通い」も伝説で、実際はどうであったか。
100日彼女に元に通ったら、共寝してもいいと言われたが、100日目の夜に悲劇的な死に見舞われ、その恨みが小町の降りかかる…
という、なんとも悲しい伝説。
こんな伝説があるほどに、彼女は美しく賢く、とても魅力的だったのでしょう。
この本は、小町の研究書等を参考に書かれたノンフィクションですが、彼女がどんな生涯を送ったのか想像しながら読むのは楽しくもあり、勉強にもなりました。
文体がやや難しいので慣れるまでは時間がかかりましたが、慣れると読むスピーも早くなり、頭にスラスラと入ってくるように。
「小説伊勢物語、業平」も読んでみたくなりました。 -
お正月らしく、年末年始にかけて読んだ。
その生涯が謎につつまれ、それこそ実在するのか?とさえ言われる小野小町を主人公に、著者が、残された歌を手掛かりに、豊かに想像の力を羽ばたかせ、現代から見た小町像を見事に描ききっている。
やはり、小町と言えば、絶世の美女。本書のタイトルに採られた「百夜」も、能の演目「卒塔婆小町」の深草少将の「百夜通い」にちなんだものだが、タカビーの美女の傲慢という風には描いてはいない。あとがきに著者が記す「千年を超す男中心の社会の中で造られた、美女零落の物語」という先入観の払拭が本書のテーマだろう(同あとがきに記された、マチ針のいわれも初めて知った)。
そもそも、小町の歌は、ただ美しいではなく、そこに悲しみを宿す。それを「もののあはれ」というのかどうかは分からないが、秘めた哀しみや、少女時代から保ち続けた矜持や、芯の強さの表れともとれ、それを巧みに物語に織り込んである。
「独特の雅文で綴った」とある文章も面白い。
「独断」という言葉に、さかしら、とルビを振ったり(我の独断にて、帝に御文のみ・・・)や、「粗相」には、ぶしつけ、とある(あのような粗相を、この方が・・・)。
そんな、粋な表現も含めて楽しめた。
本書には、前段として、『小説伊勢物語 業平』というのもあるらしい。そちらも読んでみなくては。
周防柳著で六歌仙を扱った『逢坂の六人』がある(https://booklog.jp/edit/1/4087754197)。そこでの、業平とも小町とも、本書のそれぞれの人物像はイメージがことなる。自由に解釈できる古代のおもしろさもそこにある。 特に、僧正遍昭が、全然ちがったかな。また、改めて『逢坂の~』のほうも読み返したくなった。 -
名前は知っているし、京都のあちこちに伝承が残る小野小町。この作品を読んで初めて人物像がおぼろげながらも形を成した。和歌の要約も分かりやすく心に響いた。所々で胸が熱くなる。
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前作「業平」を読んだら本作も読まざるを得ないであろう、何しろ遠い昔のことであり資料さえなく、業平以上に困難な作業だったと想像される、後の世に悪女のように扱い最後は乞食にまで身をやつしたと悪い評判を流したのは観阿弥であったのか、けしからん奴だ、この物語の大半は著者の創造であろうが、平安時代の雅な世界を映し出した著者に感謝したい、この頃西欧では醜い殺し合いをしていたと思えば、日本はなんと文化薫る国であったことかと誇りたくなる。
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平安初期、六歌仙の一人、絶世の美女とされた小野小町については、どのような人であったかは不明だという。この本は文字通り著者による「小説」以外の何物でもないと思う。
出羽国で中央貴族・文人の小野篁の庶子として産まれ、10歳で母と別れ、父の篁ともに宮廷に出入り、優秀な歌人として評判になり、幾人かの男性との深い関係も。当時の恋愛は和歌・文の交換だったと聞いているが、正にそのようなやり取りが…。僧正遍昭、在原業平、文屋康秀らが登場する。重要人物として篁の義弟・良実が、京への案内者、運命的な夜の当事者、そして笛を聴きつつ雪の中で最期を迎える人として登場する。そして後の日の僧正遍昭もまた…。独特の雅文調が美しく源氏物語を思わせるような夢の世界を現出させ、2度の男女の契りの場面の描写が幻想的、雅びでありながら、それが更に艶めかしさを増して印象に残る描写である。最後は年老いた小町の出羽国への旅路で締めくくり、壮大な一代記である。 -
小町と宗貞の恋物語は好きなのだけど、本作はいまいち響かず…
業平のときには気にならなかったが、独特な雅文が今回はあまり入り込めなかった。
<書評>小説小野小町 百夜:北海道新聞デジタル
https://www...
<書評>小説小野小町 百夜:北海道新聞デジタル
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/871622/