人類はどれほど奇跡なのか 現代物理学に基づく創世記

著者 :
  • 技術評論社
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  • Amazon.co.jp ・本 (176ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784297133467

作品紹介・あらすじ

▼これは物理現象としての、人類の物語。
▼「人間とは何か」「我々はどこから来てどこに行くのか」__こうした問いに対し、本書は「人間は物理現象である」という立場から論を展開していく。人間の存在は、物理法則を超越した奇跡ではない。しかし、今ここに知性と意識を有する人間として生きていることは、無数の偶然が重なり合った結果として実現された、奇跡的な出来事なのである。
生命・知性・意識の3つの面から奇跡的な物理現象としての人類を語る、迫真のサイエンス読本。

感想・レビュー・書評

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  • 難しいがおもしろい!
    物理学には関心あるが苦手意識もあるわたしにとって最初から身構えて入った。単に物理学かと思ったらエントロピー増大(と減少)の話とミックスされた宇宙論などが来てムムムとなり、脳神経科学や心理学、哲学も混ざり混んでくる。最後の方には場の量子論が入ってきて、いよいよ迷路に入りかけた。でも脳味噌の中がグルグル回転して、過去に読んだあの話とつながるのか!とそれこそシナプス結合みたいなことが起きるのが楽しかった。

    筆者が目指したのは、あとがきによると
    「複雑に相互作用するそれぞれの要素に目を向けつつ錯綜しながらも明瞭な具体性を持つ全体像をつくり上げること」てあり、目指したのはマックス・ヴェーバーのアプローチだという。なるほど、と思った。自らの専門領域に籠りがちな現代の研究者の枠を越えようとしている。

    宇宙から人類が誕生したことは物理学として説明はできるようであり、それが知性を持った経緯やその意味、さらに意識の意味まで入っていく流れは読み応えあります。最終章の「心と物」は近代哲学の呪縛から解き放ってくれて心地よい。宇宙誕生と人類の誕生・進化の間の途方もない時間と格差があったからこそエントロピー減少が起き、今に至ったのだという。

    3回出てくるコラムも面白く、特に最初の道元の話しはストンと落ちた。ここで出会えたので難解なこの本を最後まで読めたともいえる。道元の考えは筆者のによれば、「自分という実体は存在せず、仏が自分という姿をとって現れている」「人間は実体ではなく現象だ」 という。科学とは最も遠いととらえられがちな宗教ではあるが道元の教えは極めて親和性が高いようだ。

    物理学を中心に様々な科学的アプローチをもってしても神秘性は感じる。そこは筆者の最後の言葉でも感じられる。
    「人間は、宇宙の片隅で生まれた。 とてつもなく巨大な宇宙と比べると、どうしようもないほどちっぽけな存在でしかない。 だが、別の見方もできる。人間というちっぽけな生き物を誕生させるにも、 宇宙の広さと長い長い歳月が必要なのである。
    人間とは、そうした存在である。」

    深いなあ。ということで、吉田伸夫さんの本はまたトライしてみたい。脳味噌が溶けかねないので少し時間は空けたいが。

  • 請求記号 464.9/Y 86

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著者プロフィール

1956年三重県生まれ。大阪大学理学部物理学科卒業、同大学院博士課程修了。理学博士。専攻は、素粒子論(量子色力学)。東海大学と明海大学での勤務を経て、現在、サイエンスライター。 著書に、『時間はどこから来て、なぜ流れるのか? 最新物理学が解く時空・宇宙・意識の「謎」』(講談社ブルーバックス、2020)、『量子論はなぜわかりにくいのか 「粒子と波動の二重性」の謎を解く』(技術評論社、2017)他。

「2020年 『談 no.117』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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