- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784305707840
作品紹介・あらすじ
古事記から高村薫、伊藤計劃まで。
日本語の文学の流れを、言葉とはどういうものかから導き、各時代の名のある作品、作家を取り上げ、そのおもしろさを述べながら、それぞれの時代背景に迫る。そしてその作品が、なぜ書かれたか、なぜ要求されたかも考えていく、新しい日本文学史。
【(略)このようにして、文学がなぜ必要なのかを考えていきたい。
方法としては、言葉とはどういうものかという問いに向き合うことから文学を導き、各時代の名のある作品、作家を取り上げ、最初にその時代がどういうものかを述べ、時代によって文学が異なることを具体的にみて、そのおもしろさを述べながら、その時代にはどういうことが問題になっていたか、それぞれがなぜ書かれたか、なぜ要求されたかなどを考えていくことにしたい。そのように考えていくことで、日本語の文学の流れもわかるようにしたいと思っている。】…「序」より
感想・レビュー・書評
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うらうらに照れる春日にひばりあがり心悲しも独りし思へば
大伴家持
文学は、おもしろい。文学は、人生の伴侶にもなりうる。ではなぜ、文学は必要なのか?
素朴ながら深遠なその問いを考えようと、古代文学を専門とする古橋信孝の著書「文学はなぜ必要か」を手に取った。意外にも副題は、「日本文学&ミステリー案内」。「万葉集」「源氏物語」から、江戸川乱歩や現代ミステリーの佐々木譲まで、ジャンルが実に幅広く、圧倒されてしまった。
時代ごとの代表作が、「なぜこの作品が書かれたのか」という視点から分析され、日本文学史におけるその作品の意義も確認できる。
そして、なぜ文学に力があるのかについて。言葉は、心を必ずしも正確には伝えられない。そんな折、むしろ仮構した言葉、つまり物語など虚構の世界のほうが、真実を伝えることができるというのだ。
「竹取物語」が書かれた背景の説明も興味深い。かぐや姫に求婚した5人の男性は、思いが叶わず、恥をかいてこの世を去った。けれども、恋に命を懸けたという青春の輝きは、鮮やかに描かれているのだ。
物語文学は、辛いことの多いこの世に生きる人々の、一瞬の輝きを描写できる。「竹取物語」は、それを宣言するために書かれたのだという解説は、現代の若い世代にも響くのではないだろうか。
掲出歌は「万葉集」より。「独り」で思いにふけらず、うららかな春に高く飛ぶ「雲雀」の姿に文学の意味を重ねてみたい。
(2017年4月2日掲載)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
文学史として、なぜその作品は書かれたのか、にアプローチしていくことは面白い。
筆者の既刊を見ると、万葉〜平安について書かれたものが多いようで、中世辺りまでの言及はなるほど、そんな視点もあるのだな、と思わされる。
先日、『平家物語』の研究書を何冊か読んだのだけど、「鎮魂」だけでなく「教養」という視点は初めて読んだ。
ただ、だからこそ何故に近代以降、特化したのが推理小説、ミステリーなのか。
その結び付きの必要が、分からない。
そういう意味では、二つのあまり共通性のないテーマが無理矢理一冊になっている違和感があった。