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- Amazon.co.jp ・本 (119ページ)
- / ISBN・EAN: 9784305709134
感想・レビュー・書評
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死などなにほどのこともなし新秋の正装をして夕餐につく
春日井建
笠間書院の「コレクション日本歌人選」が順調に刊行を重ねている。水原紫苑が、師の作品を解説した「春日井建」は、シリーズ73冊目。前衛短歌運動の一翼を担った歌人の生涯を鳥瞰できる好機でもある。
春日井建は、1938年、愛知県生まれ。両親ともに歌人という環境で、若くして歌集「未青年」を上梓【じょうし】。三島由紀夫から、現代の藤原定家と激賞された。
三島由紀夫の没後、しばらく作歌から離れていたが、40代で再開。歌誌の編集発行等にも骨身を惜しまなかった。
近年、LGBTをテーマとした若手歌集が話題となったが、春日井建はそのさきがけと言えるだろう。たとえば掲出歌は、同性の〈友〉とのイタリア旅行での作。免疫の病を宣告された〈友〉に対し、「死などなにほどのこともなし」と言い切り、動じずにディナーの席に着いている。
愛する人の身体を、病ごと引き受ける覚悟の中、運命は一転。自身の咽頭に腫瘍が見つかったのだ。「死」を意識し、春日井建の境涯詠の色彩はより濃厚となった。
エロス―その弟的なる肉感のいつまでも地上にわれをとどめよ
見染めるといふは劇【はげ】しきことならむ色の兆しを得ることなれば
若々しい肉感で、エロスよ、私を地に止めてほしいという祈り。「見染める」とは、相手をとりこむほどの激しい動詞でもあること。晩年にこのような恋歌を残した歌人は稀少だ。2004年に没。享年65。
(2019年10月27日掲載)詳細をみるコメント0件をすべて表示
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