春日井建 (コレクション日本歌人選 73)

著者 :
  • 笠間書院
5.00
  • (1)
  • (0)
  • (0)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 15
感想 : 1
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (119ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784305709134

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 死などなにほどのこともなし新秋の正装をして夕餐につく
     春日井建

     笠間書院の「コレクション日本歌人選」が順調に刊行を重ねている。水原紫苑が、師の作品を解説した「春日井建」は、シリーズ73冊目。前衛短歌運動の一翼を担った歌人の生涯を鳥瞰できる好機でもある。

     春日井建は、1938年、愛知県生まれ。両親ともに歌人という環境で、若くして歌集「未青年」を上梓【じょうし】。三島由紀夫から、現代の藤原定家と激賞された。

     三島由紀夫の没後、しばらく作歌から離れていたが、40代で再開。歌誌の編集発行等にも骨身を惜しまなかった。

     近年、LGBTをテーマとした若手歌集が話題となったが、春日井建はそのさきがけと言えるだろう。たとえば掲出歌は、同性の〈友〉とのイタリア旅行での作。免疫の病を宣告された〈友〉に対し、「死などなにほどのこともなし」と言い切り、動じずにディナーの席に着いている。

     愛する人の身体を、病ごと引き受ける覚悟の中、運命は一転。自身の咽頭に腫瘍が見つかったのだ。「死」を意識し、春日井建の境涯詠の色彩はより濃厚となった。

     エロス―その弟的なる肉感のいつまでも地上にわれをとどめよ

     見染めるといふは劇【はげ】しきことならむ色の兆しを得ることなれば

     若々しい肉感で、エロスよ、私を地に止めてほしいという祈り。「見染める」とは、相手をとりこむほどの激しい動詞でもあること。晩年にこのような恋歌を残した歌人は稀少だ。2004年に没。享年65。
    (2019年10月27日掲載)

全1件中 1 - 1件を表示

著者プロフィール

1959年横浜市生まれ。

早稲田大学第一文学部仏文科修士課程修了。春日井建に師事。
90年『びあんか』で現代歌人協会賞受賞。
99年『くわんおん』で河野愛子賞受賞。
2005年『あかるたへ』で山本健吉文学賞・若山牧水賞受賞。
17年「極光」で短歌研究賞受賞。
18年『えぴすとれー』で紫式部文学賞受賞。
20年『如何なる花束にも無き花を』で毎日芸術賞受賞。
『女性が作る短歌研究』を責任編集。

「2023年 『天國泥棒 短歌日記2022』 で使われていた紹介文から引用しています。」

水原紫苑の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×