ヌシ: 神か妖怪か

著者 :
  • 笠間書院
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感想 : 15
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  • Amazon.co.jp ・本 (270ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784305709431

作品紹介・あらすじ

ヌシ(主)とは長いあいだ一箇所に棲み続けて、巨体になった生物のことです。
本書は、川や湖、池、沼、深山幽谷、古城廃屋など、日本各地に棲む龍、大蛇、蜘蛛など様々なヌシを取り上げ、伝承や文献などの資料を交えて考察。人とヌシとのつきあい、ヌシの種類、ヌシの行動、ヌシの社会、ヌシと文芸、現代のヌシなど、多角的な視点から日本のヌシに迫ります。

【目 次】
序・ヌシと日本人
目次

第一章 英雄とヌシ
 英雄たちの怪物退治/神話の英雄、伝説の英雄/ヌシの条件/登場人物の横顔 
第二章 神・妖怪とヌシ
 夜刀神の領分/国津神の末裔/神でもあり、妖怪でもあり/水木妖怪とヌシ 
第三章 ヌシとのつきあい方
 ヌシとの約束/ヌシと雨乞い/椀貸し伝説/共同体と個人 
第四章 ヌシの種類
 水棲生物のヌシ−蛇、魚、蟹など/虫類のヌシ-蜘蛛/陸棲動物のヌシ-牛/ヌシへの供物−馬と、人間体のヌシ 
第五章 ヌシの行動学
 人を襲う・テリトリーを作る/人に祟る/毒を吐く・昇天する・修行する/人をさらう・子孫を残す 
第六章 ヌシの社会
 沼神の手紙/秘密の地下水脈/引っ越しをする理由/物言う魚 
第七章 ヌシVSヌシ
 戦場ヶ原の神話/縄張り争いをするヌシ/助けを求めるヌシ/異類合戦 
第八章 ヌシが人になる
 物食う魚/干拓事業とヌシ/ヌシと暮らす/タクシー幽霊とヌシ 
第九章 人がヌシになる
 ヌシになった人/ヌシになる方法/幽霊かヌシか/実話怪談のなかのヌシ 
第十章 文学のなかのヌシ
 『八郎』と八郎太郎伝説/『龍の子太郎』と小泉小太郎伝説/『夜叉ヶ池』と夜叉ヶ池伝説/沈鐘伝説 
第十一章 現代のヌシ
 未確認動物とヌシ/怪獣とヌシ/ダム湖にヌシは棲むか/里山とヌシ 

後書・ヌシの棲む国
注一覧
都道府県別ヌシ索引

感想・レビュー・書評

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  • 「本書はヌシ論の序説か覚書。」 ー本書後書より

    ヌシ。久々に聞くその単語に惹かれ、本書を手に取った。著者は他にヌシについて言及した本が他に見当たらなかったので自分で書いたとしている。
    感想として、とても読みやすく面白かった。
    参考文献も豊富。
    全国津々浦々のヌシにまつわる伝承の要約が豊富に紹介・その伝承を通じて考察を行っており、とても面白い。
    「ヌシ」に当てはまる外国語は、日本語以外に見当たらないそうな。その点も興味深かった。
    後に目次を掲載しているが、それを見るだけでも興味をそそられる人はそそられると思う。

    たくさん面白いと思うところはあったが、ヌシが人に変身して人に接触することがある点、また本書に挙げられるヌシの特徴を照らし合わせて、現代でも都市伝説でよくある、タクシーが墓地で拾った女を家まで送り到着して振り向いたら女はおらず座席が濡れていたという怪談、その正体は幽霊の可能性もあるしヌシの特徴に当てはまりヌシである可能性もある。という考察が新鮮で面白かった。
    他にもヌシ同士のテリトリー争いの、映像化したら絶対ど迫力だろといったところや、弱いヌシがテリトリーを他のヌシから守るため人間に接触することがあっても、人間が自発的にヌシのために動くことはないというところ、人間が死なずに生きたままヌシになる例などなど…も。
    海千山千という言葉は、ヌシのような霊力を持った強力な存在も、海で千年、山で千年修行しなければ昇天できないところから来ている(今は違う意味で使わ出れているとも指摘されていた)という話も目から鱗だった。
    語り出したらキリがないや。
    著者の他の著作も追っていきたい。

    以下備忘録がてら目次を載せます。


    ●序・ヌシと日本人
    ●第一章 英雄とヌシ
    英雄たちの怪物退治/神話の英雄、伝説の英雄/ヌシの条件/登場人物の横顔 
    ●第二章 神・妖怪とヌシ
    夜刀神の領分/国津神の末裔/神でもあり、妖怪でもあり/水木妖怪とヌシ 
    ●第三章 ヌシとのつきあい方
    ヌシとの約束/ヌシと雨乞い/椀貸し伝説/共同体と個人 
    ●第四章 ヌシの種類
    水棲生物のヌシ−蛇、魚、蟹など/虫類のヌシ-蜘蛛/陸棲動物のヌシ-牛/ヌシへの供物−馬と、人間体のヌシ 
    ●第五章 ヌシの行動学
    人を襲う・テリトリーを作る/人に祟る/毒を吐く・昇天する・修行する/人をさらう・子孫を残す 
    ●第六章 ヌシの社会
    沼神の手紙/秘密の地下水脈/引っ越しをする理由/物言う魚 
    ●第七章 ヌシVSヌシ
    戦場ヶ原の神話/縄張り争いをするヌシ/助けを求めるヌシ/異類合戦 
    ●第八章 ヌシが人になる
    物食う魚/干拓事業とヌシ/ヌシと暮らす/タクシー幽霊とヌシ 
    ●第九章 人がヌシになる
    ヌシになった人/ヌシになる方法/幽霊かヌシか/実話怪談のなかのヌシ 
    ●第十章 文学のなかのヌシ
    『八郎』と八郎太郎伝説/『龍の子太郎』と小泉小太郎伝説/『夜叉ヶ池』と夜叉ヶ池伝説/沈鐘伝説 
    ●第十一章 現代のヌシ
    未確認動物とヌシ/怪獣とヌシ/ダム湖にヌシは棲むか/里山とヌシ 
    ●後書・ヌシの棲む国
    ●注一覧
    ●都道府県別ヌシ索引

  • 神とも妖怪ともとれる日本固有の存在・ヌシについて軽快な文章で綴った本。
    文章が軽やかで読みやすい。現実的なギャグともとれる例えも面白かった。
    人とコミュニケーションをとるヌシや争うヌシがいるなどヌシの世界も多種多様だなぁと思った。
    私の地元には大きな鹿のヌシが暴れ回ったという伝説が伝わっているためヌシの存在を身近に感じることができた。
    民俗学・文化人類学に興味を持つ人におすすめ。

  • 「ヌシ」という存在に対しての入門書としてとても読みやすく、事例も多く載せているので分かりやすかった。
    11章で書かれているゴジラの神としての側面はヌシに通じるものがある、という論は非常に興味深かった。また、同じ章の中にある「ダムにはヌシが住むことはないと思う」という著者の考えも新鮮で面白い。

  • ヌシという概念は色んな作品に出てくるが、それはどういったものなのか?ということをわかりやすく説明してくれた。
    各地のエピソードが盛りだくさんでヌシと一口に言ってもさまざまなパターンがあるのだなと再認識した。

  • 日本人なら感覚的に理解できるであろう「ヌシ」という観念についての考察。読み物としても非常に興味深かった。

  •  日本人と古くから密接に関わってきた概念、ヌシについての研究本!ボリュームたっぷりでヌシのもつ魔力と深淵の一端に惹きつけられる一冊。
     
     自分は昔から日本にあるヌシという概念がとても好きなのだが、具体的にどのようなものなのかは考えれていなかった。今回読んでみてかなりその概念を言葉として具体化できたと思う。この本ではヌシの条件を、特定の場所に長く住んでいること、棲家が淀んでいること、そこから離れようとしないこと、特異な身体的特徴があること、尋常でない力を持つこと、などと上げており、とてもしっくりきた。これは人間界のヌシ(職場やクラブなとにずっといるひと)もそうであり身近なヌシの存在を感じられる。そして多くの主は水に住むことも話されていた。これは淀やすいからと説明されていた。ヌシは大抵水の中におり、日本という水の多い地に存在する概念として納得である。

     またヌシはテリトリーを大事にする(人間だけでなく他のヌシが勝手にナワバリに入ってきても惨殺する時がある)が引っ越したりすることもある。不思議だ。それにヌシ同士で争う話も多いが、ヌシ=自然同士が侵略し合うという点は日本人の自然観を感じさせる。さらにさらにヌシと人間は時折土地を奪い合ったりする。ヌシが負けるとそこは人間の田畑となる。ヌシ同士の土地の奪い合いのことを考えると、ある意味人間も田畑や里というテリトリーを支配するヌシと言えるのかもしれない。

     読み終わってみると、ヌシとは神のように敬われたり、妖怪のように畏怖されたり、なんとも独特な位置ある存在だ。ナワバリを重視し、人間のナワバリも尊重する様は野生動物のようでもある。人間とヌシのナワバリは明確に分たれていることも多く、ヌシがいるところに人は住めず、人が住めるところにヌシは住めない。棲み分けて共生する隣人でありながら対立する存在、それがヌシと人間なのだ。というと超常的なパワーを持つヌシが圧倒的に有利のように思えるが実際そうではないようである。というのも多くの説話でヌシ達は金属を苦手としており、人間は金属の力を使ってヌシを追い出したり殺したりするためバランスがある意味取れているのである。ヌシ同士の戦の際にヌシが人間に加勢を頼む時すらあり、場合によっては人間が加勢していると知っただけで相手方のヌシが降伏する時すらあるのだ。他にも人間の力を借りてヌシになった例もあり、意外と拮抗した持ちつ持たれつなのである。

     ヌシにも色々いるのが興味深い。元になった生物も、うなぎや鯰、蜘蛛や牛、大蛇や龍、人など様々。そして人を襲ったりする奴もいれば、人助けをする奴もいる。山を砕くほどの強大なヌシも入れば、人智を超えた力を持つもやろうと思えば人間でも倒せるヌシや単なる大きい動物でしかない弱々しいヌシもいる。山奥にいるヌシも入れば田んぼや井戸、家屋など人間に近いところにすむヌシもいる。中にはあまり強くないのにいい土地を持っていたために他のヌシ達から侵略の機会をうかがわれるちょっと可哀想なヌシもいる。現代に身を向けてみるとUMA(あくまでその一部、意外にも多くのUMAとヌシには関係性が見出せないようだ)怪獣、そして宇宙人などさまざまなヌシが存在しており、人がいる限りヌシは様々な姿で我々の近くにいるのだろう。

    日本人は昔からヌシと契約したり、ヌシと戦ったり、ヌシを脅したり、ヌシと結婚したり、ヌシになったり、ヌシを助けたり助けられたり、ヌシ同士の戦いの仲裁や後始末をしたり、ヌシになったりしてきたし、

    ヌシも昔から、色んな種類の生き物からヌシに成り上がったり、人を食ったり殺したり、簪や帯をエサに人を釣ったり、住処をめぐって人間といざこざを起こしたり、人に求婚したり、人間に変身したり、ヌシ同士で交流したり、侵略してきた他のヌシや人間に追い出されたり、濡れ衣を着せられたり、人間に裏切られたり、ヌシ同士で領土を奪い合ったり、同じヌシに失恋してストーカー殺人したり、もう一つの異界の住人である長者と交わったりしてきたのだ。

    親しみがあり、恐ろしく、恭しく、そして厄介な隣人として我々日本人の側にいたヌシという存在をもう一度思い出させてくれる本である。ヌシは金属の匂いを嫌うと言うが、金属の匂い溢れる今の日本で彼ら彼女ら一体どうしているのだろうか?雅な音を好む彼らに対して音楽サイトで音を流せば出てくるだろうか?もう一度我々はヌシに再会する日がくるかもしれない。否、おそらくヌシは伝説や信仰やゲームや本の中にもういて自分達が気づかないだけかもしれない。そういったヌシと我々の仲立ちをしてくれる本でもあったといえる。

  • 長い年月を生き続け、死というプロセスを経ずに別の何かになったものをヌシという。
    ヌシとは、どんなところに住んでいるのか、どんな種類がいろのか、どんな社会を形成しているのか、多くの伝承や民話などを集めた本。
    沢山のヌシの話に触れるにつれて、どんどん広がるヌシワールド。とても楽しい本でした。

  • とても面白かった!

  • Twitterでどなたかが薦めていらしたように思うが分からなくなってしまった。とても面白くて、しかも文章がすごく親しみやすく品があって読みやすかった。著者が比較的最近の方なのが良かったのかもしれない。
    「序」で語られている、『「ヌシ」という語は、翻訳困難である場合が多い』という話がまず面白かった。海外の民話など読んでいても、そこそこヌシっぽいやつが出てくることはあるのに。湖の女神とか、洞窟の竜とか。
    あと著者の感触では蛇と龍がヌシの「全体の七〜八割を占めると思われる」というのも意外だった。読む前は「ヌシ=でかい魚」のイメージが強かった。
    私が以前少し興味を持った「椀貸し伝説」に触れた部分もあり、終盤では怪獣映画や宮崎駿に関しても書いてあり、興味が尽きない内容だった。良い。
    参考文献一覧が充実しているだけではなく「都道府県別ヌシ索引」がついているのも嬉しい。

    ※薦めていらしたの、奇書が読みたいアライさん氏でした。

  • 3.8読みやすく面白かった。作者が「序章または覚え書き」と言ってるとおり、気軽に読めて、でもしっかりしてる。

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著者プロフィール

1972年、北海道生まれ。國學院大學文学部教授。専攻は伝承文学。著書に『江戸の俳諧説話』(翰林書房)、『ツチノコの民俗学――妖怪から未確認動物へ』『江戸幻獣博物誌――妖怪と未確認動物のはざまで』『ネットロア――ウェブ時代の「ハナシ」の伝承』『何かが後をついてくる――妖怪と身体感覚』(いずれも青弓社)、『怪談おくのほそ道――現代語訳『芭蕉翁行脚怪談袋』』(国書刊行会)、『ヌシ――神か妖怪か』(笠間書院)、共著に『現代台湾鬼譚――海を渡った「学校の怪談」』(青弓社)、『恋する赤い糸――日本と台湾の縁結び信仰』(三弥井書店)、編著に『福島県田村郡都路村説話集』(私家版)、共訳に尉天驄『棗と石榴』(国書刊行会)など。

「2023年 『怪談の仕掛け』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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