日本の都市から学ぶこと: 西洋から見た日本の都市デザイン

  • 鹿島出版会
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  • Amazon.co.jp ・本 (167ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784306045996

作品紹介・あらすじ

日本の都市は、言語表記と密接に関係付けられていることを明らかにし、歴史、地理、科学、文化、デザイン論から引かれた諸概念に知覚を対置させていると説く。日本の都市構造を知る新たな知見を提供する。

感想・レビュー・書評

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  • 東2法経図・6F指定:518.8A/Sh14n/CLIL

  • イギリス人都市デザイナーによる、西洋のそれと比較した日本の都市デザイン論です。いわゆる「出羽守」や「愛国ポルノ」に陥らない、極めてフェアで客観的に比較しています。

    日本の都市の特徴としては、非階層的でパッチワーク的、フレキシブルであり、これらのどの要素も西洋のそれと典型的には真逆であり、それが西洋の都市に慣れ親しんだ人には困惑させるものであるものの、ジェイン・ジェイコブズ等により20世紀後半から問題提起されている都市の複雑性について、日本の都市デザインは結果的に既に一つの答えを示していると言え、その点において、西洋の都市デザイナーにとっても、日本の都市デザインをプレーンに研究する意義がある事を指摘しています。

    第1版は上記の結論で終結しますが、第2版の書き下ろしとして名古屋市南東の御器所地区を分析しています。この御器所は、幹線道路から内部道路に至る複数のスケールがモジュールとして積層をなしているため、パッチワーク的な都市構造を持ちながら、自動車、自転車、歩行者のいずれもが適切なアクセスを利用できるという、日本の各地でよく見られる典型的で便利な都市の姿を示しています。

    本の中で日本の都市は西洋の都市のアンチテーゼになっていると指摘されていますが、翻ると、西洋の都市は日本の都市のアンチテーゼになっているとも言えます。そのため、この本で展開された都市デザインのフレームワーク(日本が既に実践しているもの)を前提にして、アンチテーゼとなっている西洋の都市から学ぶアプローチもまた有用であると思われます。

  • 都市デザインの研究家が、日本と西洋の建築・都市の違いと日本的なデザインの有利性について述べた本。西洋の建築家が日本の都市や建築をどう見ていたかがわかるのも面白い。空間を線(西洋)と面(日本)で区切るという思考法の違いは都市や家のみならず、絵画、漫画、庭園、インテリア等にも表れている、西洋と日本の根源的な違いであるような気がして、非常に興味深く読んだ。1F後

  • イギリス生まれでオーストラリアで教鞭をとる都市、建築の研究者が、日本の都市とヨーロッパの都市のデザインを比較している。

    例えば、西洋の都市は「線」に沿って物事を構成するが、日本人は面で受けるという指摘がなされている。

    西洋人の「線」に対する発想が、都市空間を軸線によって階層的かつ統一的に構成していくことや、内外を区分する壁の存在の重要性等に現れている。

    一方、日本では、領域を面で捉えるため、建築においても壁の存在は希薄で、畳によってその場所が平面として切り取られる。そして、それが都市スケールになったときには、明確な軸線ではなくいくつもの「町」がパッチワーク上につなぎ合わされている都市形態を産んでいる。逆に街路の方は、明確な軸線や「面」と「面」の階層性を示すものではなく、比較的存在感が希薄である。

    また、街路沿いの景観についても、ヨーロッパと日本は大きな違いを見せている。ヨーロッパでは各建物のファサードによって明確に切り取られた街路空間があり、それが都市のなかでの方向性や中心性を明確にしている。

    一方、日本の街路にはそのような物理的に明確な領域性や軸性はなく、店先にはみ出る商品の陳列やサイン、祭りや人だかりといった「コト」によって、街路の存在は認知されている。つまり、物理的な文脈よりも内容が重視される。

    このような都市の構成法は、「コラージュ」や「複雑系」といったポストモダンの建築や都市デザインの方法論と親和性がある。西洋のモダニズム建築は日本の伝統建築に空間構成の類似性を見つけたが、そこからさらに進み、ポストモダンの考え方の中に、日本の都市空間と非常に近い構成原理を見つけている。

    最後に加えられた、名古屋市内の御器所地区の空間構成に関する分析は、海外の研究者が分析したにも関わらず、都市の空間の構成と人びとの行動の関係性を非常に的確に分析しており、腑に落ちるものだった。

    幹線街路に四周を囲まれた1.5平方キロメートル程度の地区内で、グローバル道路、グローカル街路、ローカル街路、内部街路という階層構成の街路ネットワークや、コンビニ、自転車販売・修理店の立地を分析しており、それらが実際の人々の移動や空間認識とどのように関連しているかも、明らかにしている。

    このような都市構造が、単一の都市計画によって構想されたものではなく、一方で純粋に自然発生的に出てきたものでもないということは、日本のこれからの都市計画の在り方を考える上でも示唆に富んでいるのではないかと思う。

    それぞれのレイヤーはそれぞれ異なる都市計画のスケールや解像度をもって計画されているが、実際の都市空間の中ではそれらが共存しながらある程度相互依存的に機能をしている。そのことにより、この御器所街区は十分な利便性と安全性を得ている。

    複数の相異なるシステムの共存を可能にする都市の在り方について、考えてみるきっかけとなる本であると思う。

  • 日本の都市の歴史、特徴を良くまとめている。

    各評論家のまとめとしても良い

  • 広く世界の読者に向けて学んでほしいと紹介する日本の都市、名古屋の御器所について著者が与えた、訪れる際の注意点がふるっている。ロマンチックな期待は抱くな。そこは雑然として、みすぼらしく、不揃いで、醜い。しかしひとたびその都市構造を分析すれば、西洋の建築家がようやく開拓しつつある、新しい内外空間の関係やモジュールによる建設など、「日本の建設業者にとっては少なくとも数世紀にわたって慣れ親しんできたもの」がそこにあることに気づくはず。日本のどこにでもある平凡な都市が、伝統的建築や庭園に続いて礼賛を受ける日は近い。

    サマースケイルが『最初の刑事』で、イギリス人の家に対する考え方が、独立心やプライバシーとともに「聖域」を守るための「最初の刑事」を必要としたという論を展開していたが、本書でも「西洋人の壁に対する固執」と「日本人の床に対する愛着」が取りあげられ、日本では床が「内部」を限定する主要要素であると指摘している。

  • 日本-西洋;
    ・非集中化-集中化
    ・パッチワーク-ネットワーク
    ・水平的-垂直的
    ・変転する雲状の秩序-固定的で時計状の秩序
    ・仮説的-恒久的あるいは永久的
    ・フレキシブル-固定的
    ・内容-歴史的文脈
    ・対象(建築・都市)と周辺の境界の曖昧さ-明快さ(p117)

    日本の都市の特徴;
    ・線上で連続的な構成よりも「面的」な構成
    ・統合よりも「断片」
    ・静的で不変よりも「変容」と「変態」
    ・部分の相互依存よりも「自立」
    ・全体よりも「ディテールや部分への関心」
    ・固定的で有限よりも「フレキシブルで無限」
    ・調停と統合よりも「異質な部分の重合/並置と共存」(p117)

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著者プロフィール

バリー・シェルトン都市デザイナー、シドニー大学名誉教授

「2014年 『日本の都市から学ぶこと』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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