都市の問診

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  • 鹿島出版会
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784306073593

作品紹介・あらすじ

私たちはどのような都市をめざすべきだろうか。都市計画にできることは何だろうか。現在の都市計画において、どのようなモチベーションを前提とするのか……。
空間の読み解き方、災害と復興にかかわる都市計画、都市開発、日常的な都市計画について、具体的な実践を交え、わかりやすく解き明かす。

「自然と人、農地と都市、ふたつの産業と住宅地、住宅と住宅と、私たちは国土を分けて使いこなしてきた。そしてその使いこなしのための制度を発達させてきた。その分け方を少し変えてみる、ひっくり返してみると、これまで使えないと思っていた制度を使うことができるようになるかもしれない。
私たちの社会がまだ、国土をすみずみまで使い切り、国民が抱える問題の総量をできるだけ減らす、ということをめざしているのであれば、さまざまなスケールで発達した制度を理解し、それを創造的に組み合わせて使いこなしていく、まだまだそんなことができるはずだ」

「大学では建築を勉強して、この仕事を続けてきて25年ほどになる。最初は住宅のことしかわからなかった。あちこちを見て、不十分ながら勉強を重ねてきて、ここに書いたような、大ざっぱな風呂敷を広げることができるようになった。その風呂敷は穴だらけのはずである。残りの仕事の時間は25年ほどだろうか。それほど勤勉ではないので、すべてを知ることはできないだろう。このアンソロジーは、そんな穴だらけの風呂敷を伝えるものである」――本文より

感想・レビュー・書評

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  • 前著『都市をたたむ』から7年

    スポンジ化していく日本の都市を問診し、未来に向けた処方箋を提示した一冊

    総合図書館ジュニア・スタッフ(工学部4年)

  • 都市計画の研究者である筆者が、変化しつつある都市や都市計画を取り巻く社会環境について書いた文章を集めた論考集。2006年から2020年にかけて書かれたもので、都市の構造的な変化に関する概念的なものから、都市マスタープラン改定や復興まちづくりなどの現場で活動をする中から析出された現状分析のような内容まで、幅広く収められている。

    全体の構成としては、都市計画の仕事について、都市を読み解くための方法論について、都市計画におけるコミュニケーションのあり方について、そして具体的な実践である復興まちづくり、復興ではない平時の都市計画、さらに都市開発の役割について、といった論点に沿ってそれぞれ3、4編の小文が集められている。また、最後に都市計画の未来に関する概念的な論考も収められている。


    都市計画は、都市空間(土地)という限られた資源を多くの人が集まって使うために、その相互の調整を図る技術・制度として構築されてきた。しかし、本書で筆者が述べているように、日本においては人口の減少、その後を追うように続く世帯数の減少などにより、都市空間はどちらかというと縮小する時代に移りつつある。さらに、その縮小の方法も、外から中へ縮んでいくのではなく、「スポンジ化」と言われるように、都市の中に空き家や空き店舗が徐々に出てくるという形で進んでいく。

    このような都市の構造変化の中で、都市計画はどう変わっていかなければいけないのかということが、本書の抱えている基本的な問題意識であると思う。


    縮小していく都市の時代においては、都市をつくる具体的な担い手である市民や開発事業者が、これまでとは異なるモチベーションを持って動くことになる。そして、それぞれが断片的に思い描いている生活像やビジネスを、スポンジ化した都市の中にどのように織り込んでいくのか、その道筋を作るのが都市計画の役割として期待されていると考えられる。

    本書では、そのような散在する都市空間へのニーズや課題を拾い上げていくためのコミュニケーションのあり方と、それを都市像へとまとめていくプランニングの方法について、いくつかの論考が収められている。

    高度成長期には、人口の増加や経済の成長を推計し、それに応じた都市空間を計画する科学的な手法が主流であった。その後、社会のニーズの多様化を受けて、市民参加と合意形成のための手法、さらにそれを計画へと結実させる都市マスタープランなどの制度が整えられてきた。しかし筆者は、これらの手法も、スポンジ化していく都市においては、うまく機能しない場合が多いのではないかと考えている。

    筆者も明確な方法論を展開しているわけではないが、都市の観察や実測から様々な情報を収集・整理するフィールドワークと、地域社会の課題を抽出し、それらを解決する空間像をまとめ上げていくプランニングの2つの手法について、それぞれ新たな視点やプロセスが求められていることが、本書では指摘されている。

    フィールドワークの手法については、都市空間を語るローカルな言語を導き出すことに、今日的な意義があると筆者は述べている。これは、その都市において実際に生活や事業を営む人たちが何を感じ、何を求めているのかを語ることができる言語を、その場その場で作り上げていくというローカルな作業である。そして、これは都市計画家とその都市の人たちを繋ぐコミュニケーションの回路の再構築でもあると思う。

    また、プランニングの世界においても、筆者は、プロセス型の都市計画を提唱している。これは、一つひとつの計画を作りながらそのテーマ、その場所を契機とした市民や行政とのコミュニティを作り、それがさらに次のテーマやより広い地域の計画へと連鎖していくようなプランニングのあり方である。交通の計画を作れば自治体とバス会社の間のコミュニティが形成され、それが住宅の計画へと波及することで住民と不動産事業者の間のコミュニティが形成されるといったプロセスである。

    上位計画から下位の計画へと順に作成されていくのではなく、下位の計画がつくられ、その計画の必要性に応じて他の領域の計画が修正、更新されていくといったプロセスが連鎖されていく。このような手法を取ることで、都市をつくる様々な主体のモチベーションに対応した都市計画が順次生み出されていく。

    このようなプランニングが可能になるのは、プランニングの前提が希少な資源をどう分配するかという課題から、すでにあるインフラや空き家のような空間を適切に活用しながら、いかにしてこれからの生活や事業の場を構築していくかという課題へと移り変わったためである。

    もちろん、高齢化やインフラ老朽化による移動弱者の問題、防災や災害復旧など、公共政策による取り組みが不可欠な領域もあるため、筆者はスピード感を持って全体的な計画を立てていくプロセスの必要性も否定はしていない。むしろプランナーが多様なプランニングの環境と必要性を認識しながら、適切な進め方を選択していけることが大切であると、筆者は考えているのではないかと感じた。


    筆者は、プランニングだけではなく、個々のプロジェクトによって作られる都市開発についても考察をしている。ここにおいても、上位計画に基づいてインフラを構築していくというより、その地区の必要性に応じて、その地区にあるインフラや空間を活用しながら進めていく方法が提示されている。

    また、「小さく混ぜ込まれたインフラ」や、空き家を活用した取組みを見ると、インフラとその上の建築という区分や、公共用途と民間用途といった境界線も柔軟に考え直していく必要があるということを感じさせられた。


    本書の最後に述べられている未来の都市計画については、都市計画の担い手としての地域社会と、その中の人々の紐帯の大切さについての筆者の見解が印象に残った。

    これまでの都市計画制度や都市開発が、都市空間の構築と提供を「商品交換」の形に置き換え、それゆえに担い手と使い手の関係性を切り離す方向に向かっていたという指摘が印象に残った。何とかしてこのような都市開発のあり方に「贈与交換」の形を取り込んでいくことができないかというのが、未来の都市計画に課されたチャレンジでもあると思う。

    このような当事者間の直接のコミュニケーションを大切にする都市計画は、地域社会の当事者が主体的に関与しなければ成立しないことは当然である。現代の都市計画はこの行政でも事業者でもない当事者たちを計画の主体として醸成することを、コミュニティに委ねる傾向があった。しかし、筆者は、大規模災害や開発への反対運動などのような外的な要因がない状態では、コミュニティが持続的に計画への熱量を保っていくことは難しいと考えている。

    そのような短期的に熱量が高まる主体に頼るのではなく、普段の地域社会の中に紐帯が築かれていることが、大切であると筆者は考えている。そして、太陽のように一時期明るく光るコミュニティではなく、夜空の星のように常に存在する紐帯を再生し、都市計画に求められるコミュニケーションを組み立て直していくことができないかというのが、本書の最後に投げかけられている問いとなっている。


    都市計画について、研究だけではなく、復興や計画づくりの現場をいくつも経験した筆者が、それらの成功体験だけではなく、より広い視野で何をどのように作り換えていけばよいのか再考した内容が綴られており、現時点ではまだ開かれた問いとして都市計画のあり方を考察した本であると感じた。

    都市の問診というタイトルも、そのような相手との関係性や相手の状況に関するコミュニケーションから方向性を見出していくという筆者の姿勢を表現しているように思う。

  • 東2法経図・6F開架:518.8A/A22t//K

  • 序章 都市計画の仕事
     都市の問診/急ぎ仕事と気長仕事
    第1章 都市の読み解き
     流体的近代と住まい/都市の恒久性と仮設性/都市縮小のレイヤーモデル
    第2章 フィールドワークと言葉
     都市計画の普遍語/フィールドワークとプランニング/フィールドワークの展望/言葉の組み立て方
    第3章 災害と復興の臨床
     波を読む技術/近代復興から非営利復興へ/創造的復興のジャッジ
    第4章 都市計画の役割
     縮小都市のデザイン原理/プランニングのエコロジー/市民が描く都市像/都市計画の立て方
    第5章 都市開発の役割
     拠点のつくり方/住宅地に混ぜ込まれたインフラストラクチャー/暮らしや仕事のスーパーストラクチャー/賢い都市計画
    第6章 未来の都市計画
     ふたつの交換と都市計画/中動態の設計/都市社会のつむぎ方

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著者プロフィール

1971年兵庫県生まれ。早稲田大学理工学部建築学科卒業。博士(工学)。東京都立大学都市環境学部都市政策科学科教授。専門は都市計画・まちづくり。主な著書に『都市をたたむ』(花伝社、2015)、『平成都市計画史』(花伝社、2021)『都市の問診』(鹿島出版会、2022)がある。

「2022年 『シティ・カスタマイズ 自分仕様にまちを変えよう』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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