復興・陸前高田:ゼロからのまちづくり

制作 : 中井 検裕  長坂 泰之  阿部 勝  永山 悟 
  • 鹿島出版会
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784306073616

作品紹介・あらすじ

東日本大震災で最悪とも言える津波被害を受けた岩手県陸前高田市にあって、前代未聞の復興事業に取り組んだ「チームたかた」の記録

「本書は、最悪とも言える津波被害を受けた岩手県陸前高田市にあって、前代未聞の復興事業に取り組んだ「チームたかた」の記録である。防潮堤の建設や土地の嵩上げ、土地区画整理事業。いずれも前代未聞の規模である。そうした果ての見えない業務に、彼らは同時並行的に取り組むことを迫られた。
「チームたかた」は、自らも被災者である市職員をはじめ、学識経験者や技術者、地元の商業者らによる官民の連合体である。震災復興計画の策定に始まるチームの苦難は、彼らの結束を強めることともなった。チームワークは軌道に乗り、大規模嵩上げ工事や高台移転といったハードの部分から、居心地の良い「まちなか」を構想するソフトの部分へと、仕事の重心は移っていく。その過程は、彼らがまちづくりの核心に迫る貴重な行程でもあった。
本書は、災害から逃れることのできない日本にあって、復興とは何かを考える超一級の資料である……」推薦・大越健介(キャスター/ジャーナリスト)

感想・レビュー・書評

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  • 岩手県陸前高田市は、東日本大震災により市街地の9割が津波により全壊し、岩手県内の市町村で最大の死者・行方不明者を出した。

    この本では、この陸前高田の復興を、市の職員、各地から派遣された自治体職員、都市計画や土木、商業開発に関する専門家や民間のコンサルタント、そして商工会のメンバーなど、様々な当事者が振り返る。

    復興事業がどのようなプロセスを経て進められたのか、またその過程での葛藤や困難、そして事業を通じて得られたものや当事者としての反省など、貴重な生の声が綴られている。

    復興事業は、都市の基盤や防災施設などのハードウェアと、日々の生活を支える商業の再開などのソフトウェアの両面がある。この本では、前半は主にハードウェアの復興を描き、後半はソフトウェアの復興を描いている。


    ハードウェアの復興に関しては、陸前高田市は防災集団移転促進事業による高台への移動と、浸水区域における大規模な嵩上げ事業の両面が実施された。復興関連の基盤整備事業としても最大級の取組みであったと言えるだろう。

    これらの事業は土地区画整理事業の仕組みをベースとして進められた。土地区画整理事業という事業が本来持っている換地照応の原則など、震災による移転という実態とマッチしない部分の解決や、全体として宅地が増えることによる未利用の土地の増加といった課題について、短期間で答えを出しながら計画をまとめていくことは、制度運用を熟知した上であるべき姿の実現に向けた柔軟な発想が求められる。また、震災から1年前後の時期に多くの権利者への説明や調整を進めるためには、市の職員を中心に多大な努力があった。

    この本では、支援に入った学識経験者やコンサルタントが国や自治体とともに議論し、これらの課題に現実的な回答を出していくプロセスがよく分かった。また、自治体の職員も、もともとの陸前高田の市職員の多くが犠牲となる中で、全国各地から支援に入っており、それらの人々がともに取り組む姿には、非常に感銘を受けた。

    また、施工のプロセスにおけるCM方式の導入や、起工承認を取ることで仮換地確定前に基盤の工事を開始するといった工夫は、大規模かつスピードが求められる復興事業において、今後のために参考になる経験であったと言えるのではないか。


    後半で取り上げられるソフトウェアとしての商業事業の復興に関しては、商業事業者の声を出来得る限り取り込みながら計画を進めていったこと、そしてイベントに頼らない地域のニーズに見合った商業を再生しようとしていったことが印象に残った。

    市街地の9割が津波の被害を受けた中で、震災直後は商業活動がほぼ皆無と言えるところまで失われた。しかし、比較的短い期間で郊外部を中心に仮設店舗での営業を再開した商店があり、それらが復興に向けた灯火のような役割を果たしていた。

    そのような中で商工会が2011年11月という早い段階で復興ビジョンを提示し、その後も支援に入った商業コンサルタントや市の職員も参加しながら、何度も計画検討のための会議が開かれている。これらの取り組みが、地元のニーズを捉え、また地元の商業事業者が参加した中心市街地の再生に繋がっていたのであろうと思う。

    また、外部の大規模ショッピングモールの立地や、観光施設の整備による外来の客の売上に期待するのではなく、地元の商店を中心に生活の場を再建するという方針が強い再建計画になっているように感じた。この点も陸前高田の取組みが今後の復興の取組みに対して、参考になる経験を残してくれているのではないか。

    嵩上げ地である旧市街地に再建されるということもあり、仮設店舗の開業まで約1年半、「アバッセたかた」や「まちなかテラス」の開業まで約5年という期間は、事業者にとっては非常に長い時間であったであろうと思う。

    そのような中でも、廃業した事業者が震災直後から復興期間を通じて大きく増えず、市外への移転も比較的少なかったというのは、個々の事業者と対話しながら進めていくプロセスが、有効に機能したということの証左なのではないかと感じた。


    震災から10年を経て振り返る復興のプロセスは、必ずしも上手くいったことや全員が異存なく同意して進められたことばかりではなく、その中に多くの議論や葛藤があった。本書では、各章の間に関係者の対談やコラムも設けられており、「ここはもっとできたのではないか」、「ここは少し反省がある」といった声も、率直に述べられている。これは、公的な報告書や学術的な分析研究ではなかなか出てこない、当事者ならではの気持ちであると思う。

    そして、当時としては出来得る限りのことをやったものの、振り返ってみることで感じられた反省点を記録に残すということは、今後の復興がより良い形になってほしいという、この復興に関わった人たちの強い思いであると感じた。

    このような思いも含めて復興の過程が詳しく書かれている本書は、災害からの復興のみならず、今後のまちづくり全体に対する貴重な資料であり、また多くのことを考えさせてくれるきっかけになる本であると思う。

  • ふむ

  • 女子栄養大学図書館OPAC▼ https://opac.eiyo.ac.jp/detail?bbid=2000058282

  • 東2法経図・6F開架:518.8A/N34f//K

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著者プロフィール

中井検裕(なかい・のりひろ)
東京工業大学環境・社会理工学院教授
1958年生まれ。1986年東京工業大学大学院理工学研究科博士課程単位取得退学後、東京大学助手、東京工業大学助教授等を経て、2002年より同大学教授。博士(工学)。専門は都市計画。国土交通省社会資本整備審議会都市計画・歴史的風土分科会長、住宅宅地分科会長などを歴任。2014〜15年度公益社団法人日本都市計画学会会長。著書に『都市計画の挑戦』(共著、学芸出版社)、『都市計画の構造転換』(共著、鹿島出版会)など多数。

「2022年 『復興・陸前高田 ゼロからのまちづくり』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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