百年の孤独を歩く---ガルシア=マルケスとわたしの四半世紀

著者 :
  • 河出書房新社
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784309020358

作品紹介・あらすじ

長らくガルシア=マルケスとの友情を育んできた著者が、『百年の孤独』はじめ数々の作品の舞台となったコロンビアのカリブ海地方をつぶさに歩き、作品誕生の秘密に迫った驚異のマコンド目撃録。マルケス本人や彼の家族、友人たちの貴重な証言も多数収録。

感想・レビュー・書評

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  • (2011.06.21読了)(2011.06.08借入)
    ガルシア=マルケスの名前を知ったのは、NHKスペイン語講座のテキストに「大佐に手紙は来ない」が紹介されていた時だと思います。1970年代だったので、その翻訳を読みたくてもまだありませんでした。ガルシア=マルケスの本を読みだしたのは、1977年3月にパック旅行で、中南米へ行って来た後です。読んでもよく分からないのに、ずいぶんと読んできたようです。「誘拐」以後の作品は読んでいません。
    「百年の孤独を歩く」は、日経新聞の書評欄に紹介されていたので、知りました。ガルシア=マルケスの本を読むだけでは、理解しきれないところを補ってくれるかもしれないと思い、図書館から借りてきました。
    著者の田村さんは、詩人であるとともに、中南米の詩人の研究家でもあるようです。ガルシア=マルケスにかかわるきっかけは、幼なじみの中上健次がガルシア=マルケスに会いたいので仲介してくれないかと頼んできたことでした。
    中南米の知人に会えるように頼んだけど、肝心の中上健次の都合がつかず、自分だけ会うことになり、それ以来交流を続けている、とのことです。
    この本は、ガルシア=マルケスの物語の舞台となったところを訪ねたり、ガルシア=マルケスの身内を含めた関係者にインタビューしたりしてまとめたものです。
    実際にあった出来事が物語にした時どう変わっているかとか、その土地の伝承が作品の中にどのように取り上げられているかなどが、丹念に調べて書いてあります。
    コロンビアのいろんなところに足を踏み入れていますので、コロンビアの様子も分かります。ガルシア=マルケスに関心のある方とコロンビアという国に関心のある方にお勧めです。どちらにも関心がなければ、手を出すことは不要です。

    ●バジェナート(74頁)
    歌って聞かせる物語、バジェナートと呼ばれる旅芸人の文学の起源は、19世紀中ごろのセサル県とラ・グアヒラ県で、読み書きできない農民と牧者との通信手段としての歌であったと言われている。
    バジェナートの創作者や演奏者はいずれも田舎の人々であり、読み書きがかろうじてできる素朴な詩人たちだった。
    ●カリブの音楽(81頁)
    マルケスは作品と同様に実生活でも音楽が大きな位置を占めていることを認めている。「私は本よりももっとたくさんのレコードを持っている。多くの友人はアルファベット順に並べられたリストを見てVがヴィヴァルディで終わらないので驚く。その後にカリブの音楽コレクションが来るのを知ったときにその仰天ぶりは激しくなる」
    ●ユナイテッド・フルーツ・カンパニー(98頁)
    会社が労働者に対して行う搾取の仕方は巧妙だった。労働者と直接契約するのではなく、労働者の契約を請け負っているリーダーや親方と交渉するので、会社側にとって法的には数千人の労働者は存在していなくて、わずかな請負業者や人夫頭がいたにすぎない。労働者たちのほとんどは読み書きができず、政治的意識も皆無であった。仕事上の怪我に対しても何ら保証はなく、医療保険もなく、ストライキを打つ権利どころか、日曜も祭日もこき使われ、半月ごとの支払は人夫頭を通してユナイテッド・フルーツ・カンパニーの売店の品物と交換できる引換券だった。
    ●ゲリラ(168頁)
    コロンビアでは3パーセントの人が国の富の75パーセントを握っているので、食べられない人がゲリラになるのもやむを得ないのではないかと思うの。
    ●口承(172頁)
    ガルシア=マルケスの小説にカリブ沿岸地方の口承伝承が大きな影響を与えていることは多くの研究者によって指摘されている。ストーリーの時間を線的に繋がない構造、過去を反復しながら現在を歪曲する方法、合理性からの乖離、誇張した語り口、文化的未開性、カーニバル的どんちゃん騒ぎ、ポリフォニー、ユーモア、日常の具象的な側面のように語られる超自然性など。

    ☆ガルシア=マルケスの本(既読)
    「百年の狐独」G・ガルシア=マルケス著・鼓直訳、新潮社、1972.05.10
    「ママ・グランデの葬儀」G・ガルシア=マルケス著・桑名一博訳、国書刊行会、1979.04.30
    「短編集 落葉」G・ガルシア=マルケス著・高見英一訳、新潮社、1980.01.25
    「悪い時」G・ガルシア=マルケス著・高見英一訳、新潮社、1982.09.15
    「ママ・グランデの葬儀」G・ガルシア=マルケス著・桑名一博訳、集英社文庫、1982.12.10
    「ある遭難者の物語」G・ガルシア=マルケス著・堀内研二訳、風の薔薇、1982.12.15
    「予告された殺人の記録」G・ガルシア=マルケス著・野谷文昭訳、新潮社、1983.04.05
    「族長の秋」G・ガルシア=マルケス著・鼓直訳、集英社、1983.06.08
    「エレンディラ」G・ガルシア=マルケス著・鼓直訳、サンリオ文庫、1983.10.30
    「戒厳令下チリ潜入記」G・ガルシア=マルケス著・後藤政子訳、岩波新書、1986.12.19
    「青い犬の目」G・ガルシア=マルケス著・井上義一訳、福武書店、1990.10.25
    「幸福な無名時代」G・ガルシア=マルケス著・旦敬介訳、筑摩書房、1991.01.20
    「ジャーナリズム作品集」G・ガルシア=マルケス著・鼓直・柳沼孝一郎訳、現代企画室、1991.04.30
    「迷宮の将軍」G・ガルシア=マルケス著・木村栄一訳、新潮社、1991.08.25
    「十二の遍歴の物語」G・ガルシア=マルケス著・旦敬介訳、新潮社、1994.12.10
    「愛その他の悪霊について」G・ガルシア=マルケス著・旦敬介訳、新潮社、1996.05.30
    (2011年6月21日・記)

  • ラテンアメリカ文学研究者である著者によるガルシア・マルケスのルーツをたどるコロンビア縦断紀行文。表題の『百年の孤独』以外の作品も含め舞台を単に訪れただけでなく、ガボ(マルケスの愛称)の親族や友人とのちょっと危険な珍道中で、ブレンディア家真っ青のガボの人生が見え隠れする。かなり無鉄砲な著者だからこそ、ガボや周りの人たちの懐に入り込み知りえた事が沢山書かれていた。もっともっと他のガボの作品も読みたい。本の中でも紹介されているマルケス文学のルーツの一つにもなっているバジェナート(カリブ地方の吟遊詩人たちによる口承文学音楽)の動画を見つけた。http://www.youtube.com/watch?v=uvkMIrm0Gkg&list=PLB593DFECF91876EB

  • ノーベル賞作家ガルシア=マルケスと交流のある著者が、ガルシア=マルケスや彼の作品のゆかりの地や人々を訪ねた記録的書物。おそらく田村さんにとっては宝物のような一冊だろう。ガルシア=マルケスファンにとっても垂涎の内容である。

  • ねっとりと蒸し暑い時期に読むにはうってつけだ。巨匠の知遇を得た田村さんだから書けた、創作の源泉に迫る旅のエッセイ。マルケスがコロンビアという土地からなにを血肉化したのかを窺い知ることができる。

  • そうか、著者田村さと子さんと中上健次は、中学の同級生だったのか。熊野とガルシア=マルケスは、マジックリアリズムつながりであったか、と妙に腑に落ちる。

  • 文学
    ノンフィクション

  • 蜃気楼の中に浮かぶ幻想的な街並みの景色は、想像していた以上にコロンビアの土地に根差した現実的な風景だったのか―思わずそんな感想が口を付いて出そうになった。著者はガルシア=マルケスと四半世紀に渡る友情を結び、『百年の孤独』に限らず彼の小説に出てくるエピソードの数々が著者の家族や環境、コロンビアの実生活にいかに根差していたのかをゆかりの地を歩き辿りながら実感していく。本書を読んだ後では現実と幻想を取り違えた己の想像力の欠如を恥じてしまいたくなる。まさに、「私の書いていることは、みんな現実に根ざしている」のだ。

  • (2011/07/03購入)

    ボーナスが出たので購入。

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著者プロフィール

1947年、和歌山県新宮市生まれ。お茶の水女子大学卒業後、メキシコ国立自治大学でラテンアメリカ文学を、スペイン国立マドリード大学で詩論を学ぶ。帰国後、お茶の水女子大学大学院博士課程修了。1991年、同大学にて学術博士号(Ph.D)取得。著書に『百年の孤独を歩く──ガルシア= マルケスとわたしの四半世紀』(河出書房新社)など、訳書にマリオ・バルガス=リョサ『楽園への道』(河出文庫)、『つつましい英雄』(河出書房新社)などがある。

「2018年 『外の世界』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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