- Amazon.co.jp ・本 (261ページ)
- / ISBN・EAN: 9784309020570
作品紹介・あらすじ
きつねのつきはきつねつき、いつか落ちるよすととおおおん。人に化けた者たちが徘徊するこの町で、私と、天井に貼りついた妻と、娘の春子と、三人で静かに暮らす。正しいのか間違っているのかはわからない。私がそう決めたのだ-3・11後の世に贈る、切ない感動に満ちた書き下ろし長編。
感想・レビュー・書評
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北野 勇作さんの本は初めてですが
西島大介さんが表紙だったので買いました。
河出文庫なのですがノリは角川ホラー。
生首が飛び交う、日本の下町に似た、仄暗い世界。
擬音が多くて一文が長くて癖になる文章です。
SFかというと、想像していたSFではないのですが、
周りがうるさい場所で読んでも没頭できるほどのしっかりした世界観が好きです。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
2019.8.31市立図書館
哲学的に深いながらも一見ほんわかとしたかめシリーズで入門して、ひととおりよみおえて進んだこの作品はやさしげなタイトル&装丁とは裏腹に意外とハードというかおそろしげな内容になってきておどろきつつもひきこまれ、深刻ななにかが逸らかされごまかされ隠蔽された夢と現実が入り混じったような世界で、変わり果てた姿になってしまったらしい妻(かあ)と忘れ形見の幼い娘・春子というささやかな家庭を守りつつ、日々成長するかわいらしい娘の姿と言動に慰め励まされながら生き延びる主人公(とお)に気持ちを重ね、最後は切ないようなやるせないような複雑な気持ちで読み終えた。読み終えてまた冒頭に戻って、「後ろめたい幸せを抱えて、私はここに立っている」の意味を考えてしまう。 -
生物学的に汚染されている世界で維持されている日常を生きる父と幼い娘の物語。この世界の成り立ちと背景は明示されず、親子を取り巻く出来事から、少しずつ状況がわかるようになっていますが、最後まで全体像は明らかにはされません。と書くと本書の雰囲気は伝わりません。北野版、バイオ風味のジブリ。女の子の可愛さと親の愛情がしんみりと伝わってきます。子供教室や保育園の描写は作者の実体験が活かされているように感じられ、これに不条理な被災を結びつける構想が素晴らしい。傑作です。
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p.9「どうやら女の子というのは、子供のうちから自分より小さな子供の面倒をみたがるものらしい。じつに助かる。」
そんなわけねーだろ?! -
北野勇作の中では異色と思ってしまったのは、家族関係の強さなのかもしれない。
今まで読んだ北野勇作作品の中で、ダントツに家族愛が強い作品だと思う。
物語で印象に残る春子ととおの会話。どろどろとしていい加減な世界の構造。それに振り回されながら、すでに歪んでしまったけれども大事なものを守ろうとするとおはやっぱり父なのだなと思った。
ラストがこれまでの北野勇作作品の中で一番美しい。 -
震災後の世界では、被害の少なかった人にとっても失われたものがあって、それが「今こうしてあることの自明性」だったのではないかと。今日と同じ明日はこないかもしれないってことだけじゃなくて。今こうしてあるけど、ホントにある?みたいな。これが何だか分かってる?みたいな。
自明性が失われてもなお、家族が生きるよりどころとなっているところがちょっとほろっと来ました。 -
今はもう成人した子どもたちとのかつての暮らしを反芻しながら読む。ちっともファンタジーではない、リアルな物語だと感じる。まいってしまう〜(-"-;)
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うおおこれは…SFだったのか…!?
すべてを描き切らず、ほんわかした父娘の日常のなかにほんのり不穏がある。
全容が掴みきれない、想像を掻き立てる不気味さがあって面白かった。 -
浮かぶビジュアルはなかなか面白く、エンタメとして時間は潰せるけど、特に残るものはなかった
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文章としてはっきりと書かれてはいませんでしたが色々な象徴されているものを私の少ない知識をフル動員してなんとなく世界をつかみ始めてみると、3.11以降のいろいろなことを考えずにはいられませんでした。どのような状況でも普通に子供を育てたい。父親の愛情が痛いほど伝わってきます。母親の瞳が見えるラストシーンでは家族それぞれの愛情に衝撃を受けました。3人の行く澄んだ水と花びらの先に希望の光があることを信じたいと思います。